「は?」
「いきなりですまないね。本当は週が明けてから話そうと思ったのだが」
「い、いいえ!こちらこそ無礼な物言いを」
うちらの提督とのデジャブを感じる。提督たちの間でサプライズが流行ってるのか?
それにしても今度は提督か、俺も偉くなったもんだな!
「て、提督……い、いやこれまた何故……」
「君は、提督育成プログラムを知っているかね?」
提督育成プログラム……って、全然聞いたことないです。なんだそれ?
「東京の荒木大将が立案なされた育成プログラムでね。各鎮守府から一人、提督になる素質のある人材を見つけて教育しよう!と言うものなんだ」
「聞いたことありませんでした……」
「まぁ、この事はまだ発表していないからね」
じゃあ知ってるわけねぇじゃん。なんだよ提督育成プログラムって。育成ゲームかと思ったぞ?
「それで、そのプログラムとやらに自分を?畏れ多くも自分以外に多くの適合者が居ると思いますが……」
「何を言うんだ!大規模作戦の作戦立案に協力し、しかもそれが成功した。補佐官の時には艦隊運用に必要な判断力を見せ、功を焦らず艦娘達を休ませる機会を作り、初めての大規模作戦を海外との連携で円滑に進める程の技量を持っている。これほど提督に相応しい者は居ないと思うが?」
んんーそんなこと言われたらやるしか……って、その手には乗らないぞ。蘇我提督もそうやって褒めてきて、俺を補佐官に任命したんだ。それに作戦立案は完全に斎藤中将の技量だと思う。
「……実は、数を増やしている鎮守府、港湾、基地の数に対応すべく提督になってくれる人が必要なのだよ」
海外にも鎮守府作ろうとしてるもんな、ブルネイ鎮守府みたいに。北方領土まだ取り返せてないのに何処取ってるんだって感じだけど(※侵略ではなくあくまで保護です)。
「確かに数は増えているらしいですね……ですが尚更、その育成プログラムとやらに参加する事はできません。自分より上位階級の面子もあるので」
「ふむ……」
大尉より上の階級なんていくらでも居るし、その中から提督になりたがっている人をすっ飛ばして俺が提督になるなんて畏れ多すぎて刺されそう。
提督、その職業は敬われ、モテモテになる代わりにかなりハードである。鎮守府同士のコミュニケーションは勿論、部下の統率、大本営のノルマをこなし、それをスムーズにこなす必要がある。その上、常に冷静沈着でいなくちゃいけなくて、殆どの責任を背負わなきゃいけない。
上に立つ者はみんなそうだけど、それが深海棲艦との最前線ってなるとこれがまた厳しい。常に変動する戦況に対応し続けるのだから、ストレスはマックスアウト状態になってもおかしくない。戦況に対応するのは俺達整備工作員もだけど。
着任する鎮守府は上層部が決めるから海外とか行った日には、最低一年は帰ってこれねぇし、提督やってそれ以降はやらないって人も多い。
大人になれば俺みたく整備工作を目指す人も居て、舞鶴港湾基地のように従来の艦船の乗組員を目指す人も居れば、提督のような立場を目指す人もいる。
子供達のなりたい職業ランキングが、大人のなりたい職業ランキングと比例するとは限らないのと同じだ。すげー立場だからって大人の視点で見てみると、やっぱり整備工作員の方が良いと思う事も沢山ある。
提督になりたいやつは減少してるらしいけど、なりたいって人は絶対居るし。
「提督になりたい者が居ればその者達がなればいいのだが……元帥や荒木大将がその者達を提督にしたがらないのだよ」
そうやって落とすくせに人材不足とか言ってるのは、現代の会社と全く同じッスね。でも会社みたく倒産とかできないッスから、そんなことしてると海軍やべーッスよ?
「確かに提督となるには相当な人材でなければいけないですが、劣った人物が志願してくるとは思えなく……」
「荒木大将は慧眼の持ち主ゆえ、本質を見抜く。案の定当たるから困るが、だからこそ今の日本海軍がある訳なんだ」
「なるほど」
他は知らないけど、たしかに提督になる人って良い人ばかりな気がする。
相手が下っ端の二等兵だろうと心配したりするような心を持っていて、国と部下を第一に考えられる思考を持ち、それでいて優秀な人たちだから説得力がある。
人選を誤らないとか超能力者かよその大将は、すげー人もいるもんだ。
一度だけガリ勉で学歴だけの将校さんが鎮守府に着任した事あるけど、アイツホント使えねぇから。傲慢な性格もあって、二ヶ月で辞めて頂いたよ。
「この提督育成プログラムはお試しのようなものでね。各鎮守府から一人提督候補生となる人物を、各現役の提督が直接選んで、大将が指示したミッションをこなしていくと言うものだ」
海軍大学校の教育を受けて、大将の任務をクリアしていくのが基本的な流れなんだそうだ。
それは、鎮守府の資材管理とか艦隊運用とか提督の代わりにやったりする任務らしい。任務というより試験みたいな?
なにをするかは分からないけど、集中的に提督の仕事とその心構えを叩き込まれるらしい。
心構えか……何をするか非常に気になる。
「と、最終的に認められれば一艦隊を指揮する司令官、延いては提督となれる訳だ。君にとっても悪い話ではないだろう?」
「そう思います」
「包み隠さず話せば、君みたいな有力な提督候補生が参加してくれれば私と蘇我提督の顔が立つのだよ。勿論、今すぐに決めなければいけないことじゃない。時間はたっぷりあるから、君のお爺さんとでも相談して、ゆっくり考えてくれていい」
「んん……分かりました」
「話を聞いてくれてありがとう。では、私はこれで失礼するよ」
数々の疑問が残るも、中将が下へ続く扉に手を掛け、そのまま扉の下へと消えていく。
少し温かい風を全身で受けながら余暇に浸る。
「……提督、ね」
何故だろう、鎮守府の提督と言う大きなポストが、比較的楽に手に入るチャンスが今目の前にある。この歳でこれほどのチャンスが巡ってきた。
だけどそれと同時に、恐怖があった。
今の鎮守府での生活が変わろうとしている。人間は変化を嫌う生き物だ、自分が満足している状態が変わるのを嫌う。
それに伴うリスク、そして必要な努力を考えたらこのままの方がいいと考えてしまう。
下で俺とお茶をしてくれるみんなの顔が過り、その一歩が踏み出せない。失いたくないと、このままがいいと、本能的に思ってしまうのだ。
だから、俺の本心が分からなくなる。
今の満足してる生活を続けたいのか?
提督になりたいのか?
仲間は、俺の背中を押してくれるのか?
「……俺は」
ーレストラン
「あ、帰ってきた、遅かったじゃないか」
「もうコーヒー冷めちゃってるよ〜?」
「…………」
「……ん?どうしたの宍戸くんそんな顔して?」
神妙な顔立ちで帰ってきた俺を気にしているみんなに、俺は質問をぶつける。
「……なぁ、もし俺が提督になったら、どう思う?」
「……は?なに言い出すのいきなり?」
「えぇっと……村雨は、宍戸提督かっこいいと思います!!」
「えーっと……ゴーヤもそう思うでち!副班長が補佐官の時の大規模作戦はスムーズにいったでち!」
「提督になったら鈴谷たち宍戸っちのトコロ行っちゃうかも!!熊野んもそうだよね?」
「わ、わたくしは……まぁどうしてもって言うのでしたら、行って差し上げなくもないですわよ?」
「面白い事言うね。まぁ宍戸くんが提督になったら、僕の妹たちと村雨はゾッコンだろうね……まぁ、提督になれればの話だけど?」
「ちょ、ちょっと姉さん!ゾッコンとまでは言って……」
ゾッコン……村雨ちゃん……ゾッコン……モテモテ……ゾッコン……村雨ちゃん……みんなから……モテモテ……時雨の妹たちで……ハーレム作れる……モテモテ。
「みんな、俺提督になるよ」
ー舞鶴第一鎮守府
つーわけで来ました、この第一鎮守府に。いや、別に女の子達がゾッコンするからなる訳じゃないよ?ただほら、提督達の顔を立てる漢?にならなきゃだし?
あれだけ言われたやるしかないッ。デメリットも無さそうだしこりゃやりるしかないっショ!
「よく決断してくれたね君達。寧ろもう少し考えた方がとも思ったぐらい早いのだが……まぁ、活躍を期待しているよ」
「「ハっ!」」
返事と敬礼をより強固にさせるのは、斎藤中将が言っていた荒木大将であり、提督育成プログラムを立案した人でもある。
大規模作戦の立案をモニター越しに見ていたそうせい侯とは、彼の事だ。
舞鶴第一鎮守府の執務室はかなり広い。第二の1.5倍ぐらい広く、設備もより整っている。そこの中心であり玉座に座っているのは斎藤中将……と言うのが本来の流れだが、今は荒木大将が座っていて、中将は横に立っている。
顔の傷が深くて、とにかく軍人って感じの人だ。横でじっと見ている上にさっきから何も喋ってないんスけど大丈夫ッスか?
俺と、出会い系女に散々金毟り取られてそのまま連絡取ってなかった友人の結城は、ビクビクしながら荒木大将の前に立つ。
正直、舞鶴では俺だけかと思ってたけど、第一と第二で提督候補生がそれぞれ別なのね、納得。
「……結城真司」
「は、はい!!」
「……期待している」
「あ、ありがとうございます!」
斎藤中将が言うには慧眼の持ち主らしいけど、話しているだけで本質を見抜かれるとか言われていた人だ。
第三の目を持っている訳じゃないんだから心までは読めないと思うけど、提督になる人の身辺情報や過去の履歴とか色々調べるんだろう……と言うか調べてるんだろうな。じゃなかったら俺や結城を候補生にしないし。
でも出会い系で金溶かすような奴を提督にするなんて、案外目が節穴なのか?
「……宍戸龍城」
「ハッ!」
「……大いに、期待している」
「ご期待に添えるよう、尽力致します!」
かなり無口な人のようだ。野獣の眼光とは正にこの事。
「良い返事を貰った事で、荒木大将はとてもお喜びだ。だから君達達には特別、他の候補生よりも早く最初の試験をしてもらいたいのだが、良いかね?」
「「ハ!」」
「いい返事だ。では、してほしい試験の内容を説明する……それは」
「「そ、それは……」」