整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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何言ってるか分からないけどこれでようやく解放される

 さーて、と……どうしよう。

 

 ガチでヤバイ状況になったかも。と、トイレで思考を巡らせている。

 

 来る途中でエロエロな要件としてエロDVD貸してほしいと部下に頼まれたんだが、こんなに悩んでるのにクソみたいな要求する部下は左遷してやろうかと思ったわ。

 

 とりあえず俺は優しいので、GAIJINにもらった近親相姦もののDVDを渡す事にした。

 

 

 

 

 

 昨日の午後。

 陸軍駐屯地周辺、の路地裏。

 

 話しやすい場所に移動したが、そこはまさにアウトロー的な路地裏だった。見るところ、明石次官のように警備隊を連れているのか、路地裏には誰も来れないようになっている。

 

 コートと帽子を深く被る提督はスパイそのものだが、この際、容姿なんてどうでもいい。

 陸軍連隊長との一件があったばかりだというのに、俺への当てつけみたいに偶然、蒲生提督に会ってしまった俺は、彼から衝撃的な命令を受けた。

 

「少し落ち着きました。まさか妖怪のように生き続ける小官の祖父と、ハードな事をさせる願いだとばかり思っていました……それで、小官は何をすれば」

 

「謹慎だ」

 

「謹慎とは……どういう事ですか?」

 

「そのままの意味だ。君には、作戦が終わるまで謹慎して欲しいと言っているんだ」

 

 つまり、沖縄作戦には参加するなと言うことだろう。明確になんの作戦なのかを聞いておきたかったのだが、司令長官自らが足を運んで頼む折入りの令は、明らかに超大規模作戦レベルーー沖縄作戦の話をしているのだと理解した。

 

「小官に何か不都合な点がお有りだったのですか? もしよければ、無知なる身にお教えいただければと……」

 

「あまり言いたくないが……君の事を調べさせてもらったんだ。君の経歴を、とある人物の一言を聞き入れてからね……アダムという記者を知っているかね?」

 

「は、はい……しかし、小官はこの作戦を不利にさせるような疚しい経歴はなにもないはずです。なのになぜ……ま、まさか……!」

 

「……理解してくれたかね?」

 

 そう、俺は……八丈島の作戦の時に散々言われた事がある。忍法セ○クス、孕まセ○クス、笑顔セ○クス。それだけじゃない、ゲイ三人衆が俺の執務室に忍び込ませたバディーとか、サムソンとかのゲイ雑誌の事も含めて……俺、傍から見たらただの淫獣やないか。 

 

 俺の存在が性欲まみれ、淫欲の塊で、邪淫である。

 そういう解釈をされ、それが司令長官のお耳に入るほど露見しているとなれば……俺の人生、ついに終わるか。

 

「た、確かに小官がれっきとした海軍軍人としての気品風格に泥を塗ってしまった事は否めません。むしろ、然るべき処罰を受けるべきだと思います……」

 

「いや、貴官は素行も素晴らしいと聞く。部下の評判もよく、その歳であれば申し分ない程だろうと思ってる……だから惜しいのだ」

 

「閣下にそのようなお言葉を賜るなど武人としての至りにございます。しかし、日本文化の妊法孕まセ○クスが流出したのは、多少の痛手でしたが、元々この国は近親相姦で出来たようなものであり」

 

「ちょっと待て、何だと? なんだその、孕まセ○クスとは? まさか貴様、そのようなモノを保持していたのか!?」

 

 チッ……その事じゃねぇのかよ?

 

「と! 小官の同胞が自らの過ちを嘆いていましたのを思い出し、いついかなる時でも、現在では海軍軍人としての行動を厳守しております。しかし、国を憂いる者としては、少子化防止の為と思い部下、更には学校に出向いては子作りの素晴らしさを啓蒙している所存。これらの日頃の行いは御国の為を思えばこそでありますが、司令長官直々の批難を賜われるのなら、それは武人の本懐として受け入れる覚悟です」

 

「な、なるほど、あぁいや、君を叱ったりはしない、流石は私が見込んだ男だ……しかし、それでも君を作戦に参加させるわけにはいかない。君がこの国の生まれであれば話は別だったのだが……」

 

「……へ?」

 

「よりにもよって君が……と、我ながら落胆したものだよ」

 

 一瞬理解できなかったが、その詳細について問いただす。

 

「ま、待ってください! 確かに小官は生まれはこの国ではないかもしれませんが、国籍は日本としているのは言われなくても分かっているはずです! 日本軍の威光を損なうようなことは無いはず!! なのに何故!?」

 

「政治宣伝ではどのような手段も使われるんだ。将軍や提督の出身というのは後世にまで記録される。君もそうだが、米国を中心とした海外艦及び士官を作戦に同行させる事を見かねて、奴らが用意している文句を君は知らないだろう……作戦発令と同時に”我々の国民であった宍戸司令官を使うのならば、作戦に協力する義務がある”という感じの、烏滸がましいプロパガンダをね。ハハハ」

 

「そ、そのようなことが……」

 

 中国ならともかくアメリカならやりそうだな……これは例え情報参謀や通信班みたいな管制塔にいる人たちの中に一人だけ紛れ込んでても、その事実で釣り上げそう。中国は事実がなくても強引に捻じ曲げそうで怖い。

 

「君の近くをうろつく海外士官の件もあるしね……」

 

 俺は一応、従順な方である。

 だから、上司にその有意義性を説いた上で行動する。

 

 海外士官との交流は、今後の彼らとの関係を友好なものにして、かつ扱いやすくする為の算段である……という俺の方便を認めた上で、司令長官殿には彼らに近づく了承を得た。本当は仲良くなるためというなの人脈構成なんだが、近づいた事実も利用して俺を作戦から除外しようとしている。

 これは最初からそう言うためだけに了承したのか……あるいは、ただ危険分子に見えてしまっているほど、パラノイアにかかっているのか。

 

「出身……そして血統もだ。それを利用され、他国が君に甘い誘惑を持って迫ってきたらどうする? それを跳ね除けられるかどうかなど、実際に迫られてこなければ分からない。だがもしも君が元々、彼らが送った寄生虫であったらどうする? 我々は自由の国ではない、多民族国家でもない、それ故に外国の血が入ってきた事で起こった数々の問題は説明する必要もないだろう?」

 

 ……え? 俺、日本人なんですけど。

 え? 俺って日本人じゃなかったの?

 つかパラノイアの方だったか。

 

「単純に海外の援助を持ってこられては困るんだ、我々の力のみで達成する事にこそ、真価を見いだせる。そしてそれを成せば、海外の勢力が狙う沖縄の利権とやらも問題なくなるんだ……それに、君のお父上もご健在だしね」

 

「な!? で、ですがそれは政治家の分野であり、いくら司令長官殿といえど、そのような事にまで気にかける必要は……」

 

「私はね宍戸大佐、この国を愛しているんだよ。その為には、どのような算段、どのような手段を用いても、そしてできる限り、この国が進むベき最善の方向へと導く義務があるのだ」

 

 ウソ……この人、こんな右翼的な人だったの?

 絶対提督になっちゃいけない人じゃん。

 

「でも、君は嫌いじゃない。君のように生まれ育ちは違っても同じ志を持つ提督がいるのは、私としても心強いんだ」

 

 ん? いつ俺がこの人と同じ志になったのか言ってみろ。

 

「でも、だからこそ分かって欲しい。君が休職中は警備府に居てもいいし、それに作戦が終わったら司令官職への復帰にはなるべく協力するから。だから、君はただ休職願いを出して、ただジッとしてくれればいいんだ……君だけならともかく、対立するような事があれば、君の近くの人たちも意図せず巻き込んでしまう可能性があることを、十分に考慮してほしい。ここは、ぐっと堪えて、暫くの休暇だと思ってくれ……それではな」

 

「な……」

 

「面倒事はすべてこちらで済ませるから……斎藤長官にも、私から言っておくよ」

 

 あまりに衝撃的、あまりに呆然とさせる話の内容に、膝をついたままそれ以上言葉がでなかった。

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

 長崎警備府のトイレ内。

 

 俺は、そもそもこの警備府を任せると言った張本人である斎藤長官に話す義務があった。昨日は忙しかったようで話せなかったが、今日なら大丈夫だろうと腹を括り、プライベート空間が侵されている俺の部屋よりよっぽどプライベートを確保できるトイレを貸し切りにして電話をかける。

 

 新品だが、簡易なトイレの内装はキレイで、一応ウォッシュレットが備えられているので、外部から入る冷たい風を帯びて、キンキンに冷えた便座が俺をショック死させるようなことはなかった。

 

「カクカクシカジカばっかばかボッコボコのフルボッコでそういうことなんです」

 

『そうなんですか……困りましたね』

 

「え……」

 

 電話の相手は明らかに聞いたことがある女性の声。

 

「お、大淀……総長……? な、なぜ……? ま、まさか斎藤長官はもうし、し、しししし死んで……!?」

 

『……あのですね、確かに私は多少噂される気質である自覚はありますけど、流石にそんな直接的な事はしませんよ?』

 

 じ、自分の手を汚さないということか……?

 

『電話を拾ったのだって、この部屋に偶々用事があったからで、現在長官は留守です。私を死神や悪魔みたいに見るのはやめていただけませんか?』

 

「わ、分かりました! で、では今度からは大魔王様として崇め奉りますッ!!」

 

『人の話を聞いてください、私の個人的な感情で粛清される人第一号になりたいんですか?』

 

 プシャ〜〜……ンギモヂイイイイ!

 

 ここがトイレで良かった。

 

「申し訳ありません大淀総長、取り乱してしまいました。しかし説明の通り、沖縄作戦中の小官の立ち居地が危ぶまれている状況であり、この作戦に参加しなかったとなっては今後の作戦参加にも影響が出ることは必然です。斎藤長官への嘆願を果たすこと叶わないのであれば、沖縄作戦での小官の重要性を蒲生提督に、ご迷惑ながら軍令部総長である大淀総長から直々にお言葉をかけていただきたく存じます」

 

『別にいいんじゃないでしょうか?』

 

「は? 今なんと!? 自分が参加できないのは斎藤長官にもご迷惑となる可能性が……」

 

『そもそも貴方自身、作戦に参加したいと思っているのですか?』

 

「……へ?」

 

『斎藤海軍長官は、この大淀が知る中でも特に貴方を気にかけている事はよく知っています。海外遠征など諸外国への外交官としても、深海棲艦を駆逐する現場指揮官としても期待されているのも承知です。しかし、海外遠征ならまだしも、沖縄作戦には態々参加しなくてはならない理由はないと思います。斎藤長官から直々に申し出があったのですが?』

 

「あ」

 

 ……俺はこの時感謝していたのかも知れない。

 とても重要な事に気づいたんだ。

 

 長崎警備府という、大都市を守る防衛司令官としての役割を持っている俺は、その周辺海域の鎮圧を任されているのであって、沖縄を奪還するために働いていたわけじゃない。いずれ海外へと進む道が出来れば繰り出されるかも知れないけど、よく考えたら出しゃばる理由なんてなかったんだ。

 

 つまり、別に俺が作戦に参加しなくても……いいってこと?

 

 俺は軍人人生、度重なる色々上から重大な任務、という名の無茶振りは有名な事件だけでなく、数々仰せつかった経験がある俺。

 いつの間にか、海軍全体があをアパート。数々ⅵ+7 やらなきゃと錯覚していたのかもしれない。

 

 つまり

 

 俺

 

 やっと

 

 ようやく

 

 Finally

 

 解放

 

 されるって

 

 ことオオオオオォォ!!?

 

 ヤッホオオオオオオオ!!!

 

「すいませんでした! いやぁ~自分が馬鹿でありましたぁ! 沖縄作戦にワザワザ俺が参加する必要なかったんですね~あはは! ありがとうございます!」

 

『栄えある作戦に参加しなくてもいいと言われてそれほど喜ぶのもどうかと思いますが……作戦の参加は任意ではないですし、明確な理由がない限りは、作戦参加を拒否することはできませんし、蒲生佐世保司令長官が休職願いを出せば了承してくれると言うのであれば、むしろ貴方にとっては好都合だったんじゃないですか?』

 

「そうッスねぇ! 最高ッス!」

 

 自分の顔の筋肉の形状を感じ、屈折のない笑顔をしていたことは、鏡を見ないでも分かった。

 俺は面倒事から一気に開放された気がした。海外士官をボイコットするとか、保守派がまだ生き残ってるとか、コンビニの底に陸軍埋蔵金が埋まってるとか、色々と問題が起こっていてその対処のすべてに責任を感じていた辺り、自分で言うのもなんだが責任感が強いのだろうか?

 

『しかし、もしも不鮮明な点があれば長官の個人メールへ送ってもらえれば見てくれると思います。アドレスを送りますね』

 

 なんでそんなの知ってるんですかね?

 

「ありがとうございます。しかし海外士官の話は別です。多くの海外士官が蒲生提督の急進的な政治思想により作戦から排除される流れは看過し得難く思います。異分子を排除するかの如く……特に、関係のない我らがプリンツ・オイゲン参謀長、並びに貴重な戦力として柱島泊地を中心とした艦隊を起用できないとあっては、流石に戦力的な問題が生じるのは火を見るより明らかでしょう」

 

『確かに強力ですが、それを補う以上の戦力を集結させているので、その点は問題ありません。更に言えば、佐世保港湾基地からはイージス艦、護衛艦が随行する予定なので、心配はいらないと私は思います……が、確かに海外士官の件は私の方でなんとかしておきます。では電話を切る前に2つ、貴方に言っておくことがあります』

 

「は、はい!」

 

『1つ目は言う……というより、お願いに近いです。斎藤長官が送られたサプライズはどうであったか、あとでちゃんと連絡を入れるように』

 

「え? さ、サプライズ?」

 

『知らないということは、まだ届いていないのですか。まぁいいでしょう。あとで斎藤長官にメールを送ってください。それから……明石次官を陸軍の隠していた資本の件に引っ張り出したのは貴方ですね? 私が処理しようとしていた案件を片付けてくれたのは有り難いことですが、次に明石の手を煩わせたら、どうなるか分かっていますよね? では』

 

 プツー、ツー、ツー、と耳元で鳴り響く通話の終了音。

 

 プシュー……そして再びケツの下で鳴り響くオシッコ音。

 

 大淀総長とは二度と関わらない。

 

 つかさっきからトイレの外のコンコン音が五月蝿いんですけど。

 

「……うるせぇぞ! 今入ってるんだよォ!? それとも俺のオシッコかけられたいのカァ!? アアァ!?」

 

 そして、次の瞬間。

 

「フン!!」

 

「グアアアアアアア!!!」

 

 座り込んでいたトイレの個室に突然、冷水が降り注いだ。

 まるで中高生の激化したイジメのような図であり、服はズボンとTシャツだけだったので、更に寒い。

 誰だよ? 風邪でも引いたらどうするんだ? 殺すぞ。と威圧を含んだ正論を吐きながら外に出る。

 

「誰っすか? なんか狼藉っぽいんですけど~俺マジそういうの卍なんでぇ~……男だったら殺す、女だったら犯す、お前の正体を……って、へ?」

 

「むぅ〜〜……宍戸っち、鈴谷に気づくの遅すぎ! ふん! もう知らないっ!」

 

「す……ず……や……?」

 

 俺の部下であった鈴谷が、俺の目の前でプンスカと腕を組んでいた。

 鈴谷の後ろには、俺の元部下、及び元同僚が、列をなして突っ立ってた。

 

 ……どういう、こと……?

 

 


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