整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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そして現代へ

 

「実は俺、長崎警備府に着任する予定なんだけど、初霜さえ良ければ。初霜の事情も聞けたことだし、俺も警備府の司令官として全力で協力させてもらえると思うんだけど、どうかな? もちろん、姉妹たちを一緒に異動してほしいだろうから、そこもなるべく調整する」

 

 事実上のスカウトだった。

 有能な艦娘だが、少しフォローを求めているタイプの彼女は、俺が構想する理想の警備府像を作るための構成要員としてぴったりな艦娘だ。

 仲間を守る方法を探したい。その、非常に仲間想いな初霜の秘めた心内を知り、俺は彼女に協力したいとも思った。初霜にとっても、彼女の要港部内にいるよりかは遥かに過ごしやすく、そして戦いやすくなるはずだ。少なくても俺がそうしてみせる。

 

「ま、待って待って! 警備府の司令官って、貴方がなる保証なんて……」

 

「実はあるんだよね、海軍省直々の内定だから。あの八号作戦の功績のおかげかな?」

 

 驚きを隠せずに呆けてた顔でこちらを見上げる初霜は、今度こそペットボトルのお茶を落としそうになったので軽く俺が手を添えた。

 

「危ないじゃないか……初霜」

 

「す、すいません! で、でも、たとえ警備府司令官でも指揮する艦娘は選べないんじゃ……」

 

「俺、ある程度コネがあるから人事部に問い合わせられるよ」

 

 とは言っても、元教官とかの三人程度しか直接知らないが、その中のひとりが俺の元上司であるカマホモ班長なので、多分この程度の人事をコネるのは難しいことじゃないはずだ。なんなら海軍長官に直談判してもいいんだぞ。

 

 その事を聞いた初霜は、今自分がどんな人物に話しをしているのかようやく理解したような面立ちで、小さい身体を更に小さく縮ませる。

 滅多に見せないスキをさらけ出してしまってる姿は小動物のようで愛らしくもあったが、そこまでさせるのは申し訳ない、と思ってそうな表情で口を開こうとした唇を指で塞いだ。

 

「初霜、仲間を頼るんだったら、まずは俺を頼ることから始めてみてくれ。一番難しいキックスタートを、今ここで済ませても良いんじゃないかな?」

 

「んっ……宍戸中佐……」

 

 誰かを頼るのにまだ抵抗がある、だがそれを破ろうとしている。

 

 俯きながら沈黙した数十秒が終わった頃、俺の目に映る初霜は、そのこころの曇天を軽く吹っ切ったような表情を浮かべながら立ち上がり、一言だけ発した。

 

 頭を下げながら、シンプルな一言。

 

「お願いしますっ!!」

 

「おう! 任されたぞ!」

 

『……フフ』

 

 

 

 ベンチの後ろにそびえ立つ樹木。

 その後ろで微笑んだ天龍の「フフ」という声が聞こえたが、見つめ合う二人を邪魔する者はいない。

 

 「初霜……」

 

 「提督……」

 

 熱を帯びた視線は、血色の良い頬から来ている。

 輪郭の柔らかな、あどけなさが残る少女のような真白の肌に、ゴツゴツとした手が乗る。容姿からは想像もつかない大人びた艶声が漏れた。

 

 「んっ……」

 

 「初霜って……結構オトナな声してるよね」

 

 「いやっ……聞かないで……」

 

 「かわいいよ」

 

 パッチリと開いていた目を細め、漢の手の甲に自分の手を添え、ぬくもりを堪能している。自分が生来からの甘え上手だとは、彼女自身も知らなかっただろう。漢の手に頬を擦り、たおやかな微笑みが妖艶な眼差しを乗せて理性を逆撫でする。

 

 「そんなにイヤイヤ言ってると、俺、やめちゃうよ?」

 

 「あっ……うぅ、いじわるっ……」

 

 上目遣いをされる。

 漢にとって、この初霜とかいう艦娘を抱くにはもう十分すぎるほどのエロスだったァ……サイッコウ。

 

 そして通りかかる誰もが思った、この二人は理想的なカップルで、艦娘の方は凄く可愛くて、漢の方はこれでもかってぐらいの超絶スーパーイケメンの将来有望系カッコイイアルティメット美男ーー。

 

 

 

 

 という妄想話を繰り広げていた、一年後の長崎警備府、時雨たちの部屋。

 

「うんうん……! ひっぐ! 初霜、すごい仲間想いなんだね……! 白露感動しちゃった……!」

 

「鈴谷もカンドーした! スーッごくナミダ! うえええええん!!!」

 

「そうだろ? 感動したんなら俺の拘束解いて痛い痛いイタイィ! おいッ、現行犯でもこんな拘束のされ方されねェぞッ!?」

 

 白露ボストンクラブと鈴谷ゲイ♂バーホールドによる四肢コアドリプルロックをかけられている俺は、いま一番ホットでグレートな話題の種となっている元提督である。とは言っても、ここ数ヶ月間は勉強と遊びまくりな日々を過ごしている。

 

 隅っこの天井にあるモニターにパソコン繋げてみんなで恋愛映画を鑑賞しましょう! と言った五月雨ちゃんの提案で、みんなで映画鑑賞をしていたこの頃。初霜、そして他の艦娘も映画鑑賞に参加していて、俺との馴れ初めの話題になったから素直に話したらコレだよ。

 

 確かにちょっと恋愛要素入れた感じで話したけど、だいたい合ってるから。

 

「なんか宍戸くんが初霜とイイ感じになったみたいにほざいてたけど、本当なの? まさか付き合ってたり……」

 

「い、いい雰囲気かはわからないけど、付き合っていないわ。そもそも私、今は恋愛に興味がないの」

 

「「「ホっ……」」」

 

「私はむしろ、そういう時雨さんが提督と付き合ってるのかと……」

 

「いや、違う……あぁなんかお見合いの時の僕思い出しそう。殴っていい宍戸くん?」

 

「らめぇええぇぇぇっぇええぇぇ〜〜〜っ!」

 

「うわ、キモい……」

 

 ホッとする艦娘と当然だろみたいな態度を取る艦娘の二者択一とはたまげたなぁ。初霜は硬派なタイプだから端から期待できないけど、妄想だけはノーリスクかつ無料かつ無害だからさせてもらった結果がさ、酷くない? 鈴谷と白露さんのぬくもり……とか言ってる場合じゃない、単純に力強いからやめてほしい。

 

「分かっただろ!? 俺は何もしていないんだ! だから村雨ちゃん! 春雨ちゃん! やめさせてよ二人ともォ!」

 

「「つーんっ」」

 

 唯一の頼みの綱に無視された。

 鈴谷と白露さんが更に力を強める。

 

「そんな……いやだよ……こんなの嫌だよォ! やめてよ! ねぇ! やめさせてよォ!! 時雨ェ! 夕立ちゃんッ! 五月雨ちゃんッ! 初霜ォ! 熊野ォ! 親潮ォ! 菊月ィ! 三日月ィ! ゴーヤァ! 綾波ちゃんッ! 夕張ィ! 父さんッ!! やめてよォ! ねぇこんなの嫌だよォ────ッ!」

 

 ────ッ。

 

「……落ちたな」

 

 菊月がもぐもぐとトレールミックスクッキーを食べながら呟いた。

 

「あれ、やりすぎちゃった? だ、大丈夫宍戸くん!? ご、ごめんね~よーしよしっ、白露お姉ちゃんのおっぱいでちゅよ~っ」

 

「あ、ずるい! それ鈴谷の役なのに!!」

 

「司令を抱きしめるのは私の約目でしょう!?」

 

「いや私のよッ!! 落ちた宍戸さんの気分が落ち込んでるのを見て村雨がよちよちして墜とすのが定番なの! 散々ネックロックとかコブラツイストとか胸押し付ける口実作れて不公平でしょ!?」

 

「村雨姉さんに皆さん、それは春雨の役目ですッ……」

 

 頭上で俺というモテモテハーレム系漢を取り合う可愛い天使たちと、丁度終わった恋愛映画のスタッフロールを見ている二派。

 

「ひっぐ……最後……二人が、いっしょになれて……よかったですぅ……! 五月雨……すっごく感動しちゃいましたぁ……えっぐ……っ! グスン……皆さん、どうでしたかぁ……?」

 

「これ見るぐらいだったらボリウッド系の映画見てるほうがマシ、僕の時間返して」

 

「夕立は面白かったっぽい! ヒロイン追いかける男の転び方とか、絡まれてる時に不良殴るシーンとか爆笑っぽい! 一発殴ったら気絶するとかありえない、っていうかそんなに強かったら就職するよりプロボクサー目指したほうがいいっぽい」

 

「そもそも男性と女性が一目合っただけで惚れて、いきなり話しかけるのはあまりにも不純ではなくて? 目があっただけで電話番号を交換するような文化なんですの? 熊野でしたら、一目惚れでも聞いてきたその時点で酔が覚めますわ」

 

「桜が咲いてないのに、桜が舞うシーンが頭からずっと離れなかったわ…‥あ、みんなもそう?」

 

「「「分かる~!」」」

 

「お前たち辛辣スギィ! 五月雨ちゃんの純粋すぎる涙を悲しみの涙に変えたいのかボケカス共ッ!!」

 

 五月雨ちゃんは辛辣すぎる皆の暴言をこらえた。よしよし、よくやった。これ以上の無用な涙は、彼女には似合わない。

 

「それにしても、いまだに警備府の司令官みたいに、今の司令官に助言したりしてますよね? 三日月がとやかく言える事じゃないと思うんですけど……いいんですか? 一時的とはいえ、三日月には宍戸司令官の方が権限を持っているように見えますっ」

 

「いいんだよ三日月。日本文化ではね? ポジションを譲った方が偉くなる場合が多いんだよ。 関白を譲った太閤しかり、社長を譲った会長しかり、天皇陛下が譲位あそばされた後の上皇陛下しかり、一番権力持ってるポジ譲っても終身、元老院みたいに老人が権力持ち続ける年功序列を根本から変えるのは難しい、儒教の呪いだよなぁ……」

 

「そこまで言わなくても……第一、そんな事を言ったら司令がその老人になってしまいますよ?」

 

「俺? あははっ、ただの例えだよ親潮。たかがいち警備府の司令官職を降りてそこの帝王になったところで、面白くもなんともないぜ?」

 

「そうですよねっ! 司令に帝王なんて似合いません! 似合うのはポジポジの実を食べて男色という名の大航海へ乗り出すGAYの意志ーー」

 

「真っ黒そうな海だなァ綾波ちゃん!? いい加減にしねぇと俺の権限でここの警備府だけBL禁止にすンぞオラァ!?」

 

「ひ、ひぃぃぃぃ!!! そ、それだけはぁ……! そ、それだけはご勘弁をぉぉ!!!」

 

 見事な三つ指で土下座する綾波ちゃんを見て軽く引いた俺。そもそもどんな経由で本を買っているのか分からないので止めようがないんだけど……つか、土下座するほどのことじゃないでしょ。

 

「そうだなァ……綾波ちゃん、そろそろ改二改装される頃でしょ?」

 

「ふぇ……? は、はい……」 

 

「白露さんとか村雨ちゃんとか見てると、やっぱり改二になるとクッソエロくなるんだなぁ~って分かったから、改二になったら真っ先に俺の部屋に来なさい……この俺が、直々に整備してあげるから……いやぁ~エッチな娘が多すぎてたまりませんなぁこの世の中はアハハッハハァ!!!」

 

「「「…………」」」

 

「あ、ちょ、みんな、なんで精神混入棒なんて持って……え、俺のお尻は違うよ? そうやって使いもんじゃないよ? 野球のバットぐらいある極悪棒が工事現場のドリルのようにフル回転させればキッツキツに締まったケツも開いちゃうとかそんな事ないから俺はまだヴァージンロードを歩きたい乙女のままでいたいか──ッ」

 


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