勧誘仕事
ー舞鶴市内。
「か、海軍ッ!今を輝く海軍に入りませんかァ!?」
「やりがいのある重労働!罵倒する毎日!最高に素敵な職場があなたを待っていますよォォ!」
舞鶴にある商店街。そこには海軍勧誘を呼びかける二人の男が居た。それは執務室に呼ばれ、提督候補生として正式に育成プログラムに参加する事を表明した、第二鎮守府俺と、第一鎮守府の結城だった。
「全然集まんねー!どういう事なの!?」
「重労働と罵倒し合う毎日とか絶対欲しくないよな?そういう事だ馬鹿野郎。あと女の子だけに話しかけるのやめろ」
「だって欲しいの!女の子欲しいの!艦娘にならなくてもいいから海軍入隊して欲しいし少しでもチャンス作れればって思うじゃん!?」
最初の任務はなんと、海軍への勧誘仕事だった。ノルマは一週間以内に最低3人の有望な人材を自分の鎮守府に招き入れる……まぁそのついでとして海軍入隊の勧誘もやってくれ、と言われた。
舞鶴第一、第二鎮守府に配属される新人は次舞鶴に来たとき荒木大将から呼び出されて、何故この鎮守府に配属されたかを聞かれるからその時に俺の名前を出せばオッケーらしい。いつ戻ってくるか分からないけど。
『有望な人材』とはなんの事か聞いたら、自分で考えろと言われた。
まぁプログラムの発表前から、その任務をヘッドスタート出来たのは幸運中の幸運だ。これで誰よりも先に終わらせれる。
なんでぇ〜海軍の勧誘仕事がプログラムに入ってるの〜?
知るかよ、大将に聞け。
「そこの麗しのお嬢さん!海軍に入りませんか!」
「い、いや、私はもう転職先決まっているので……」
「そんなこと言わずに!ほら!お安くしときますから!」
「は、はぁ……?」
何を安くするんだよ、商売じゃねぇんだぞ?
結城は軽くあしらわれ肩を落す。この動作を今日何回見ただろうか?
後ろには占い師が使うようなテーブルがあり、そこには海軍への入隊応募書が積まれている。
これは用意してもらったものではなく自前である。海軍の勧誘をしているかどうかなんてどうやって確かめるんだと思うけど、これ絶対見ている人居るよね?ポケットティッシュ渡す人が本当に渡してるか見張る係みたいに。少し妄想しすぎかも知れないけど。
応募書以外は全部自前で、手書きのポスターを掲げながら、海軍への入隊する為の簡単な3ステップメモを渡していく。
「今なら優先的に採用されますよォォ!」
「あ、あの!それ本当ですか!?今はまだ学生なんですけど……」
「学生上等!近いうちに採用試験が行われるから、そこで海軍に入るための簡単な身体検査をクリアすれば学生でも大丈夫だ!卒業してからでも大丈夫!」
「ほ、本当ッスか!?ありがとうございます!」
多分ね、兵学校卒業したから高卒入隊となると詳しい事は分からないんだ。ただ、正式採用の訓練は三ヶ月掛かるのは知ってる。そこで落ちないよう祈るよ。
「試験場では小さなアンケートが募集されるから、海軍に誘ったのは俺だって書いてね……重要だから、忘レナイデネッッッ」
「わ、わわわわかりましたァ!!」
やり方自由で、兎に角3人もってこいとの事だ。俺たちの鑑識眼を試しているのか、近いうちに行われる身体試験でアンケートがあって、俺に誘われてって名前を書いてくれてもオッケーなんだそうだ。
だから入隊希望者に徹底的に話し掛けて、見つけたら俺の名前入れてくれって頼めば任務達成!
今を時めく海軍だしカバレッジとかの条件もいいから難しくはないし、こんなんで提督になれるとか、簡単過ぎて顔がニヤけてくるぜぇ!
なんて思えない。また休日を潰されてる。
入りませんかーしか言ってなかったら、流石に通りすがりの人達はマンネリするだろうし、正直俺がなる。
たまに趣向を変えたりするが、それで引っかかっているのかは分からないが効果はある。
「海軍!海軍は今未曾有の危機に晒されているッ!!大和魂を胸に秘め、大いなる敵と戦う時は今だァ!!海軍ンンは……キミを待っているぞォォォ!!」
「そうなんですか?でもうちらはもう海軍所属なんで入隊書要らないっスよ、副班長」
「って、お前等かよ……」
三人で群がっていたのは第二鎮守府所属の整備工作員だ。
「なんでこんな事やってるんスか?」
「んと……大本営本部から、直属の命を賜ってな……ッ」
「はははッ!何っすかそれ!」
「でも副班長と結城中尉も居るとすると……ガチですか?」
「んーまぁ合ってるっちゃ合ってるな!」
「マジっすか」
いや合ってるだろうが。俺は何も違う事言ってないし。
どうやら彼らは買い物に来ていただけのようだ。数回ほどまた茶化されながらこの場を後にする部下達。
「ハァ……お前ももうちょっと仕事しろよ、俺ばっかだぞ順調に勧誘できてるの」
「仕方ねぇじゃん!!そもそも本当にこんなんでプログラム達成できるのかよ!?」
「お前斎藤中将に誘われたって言われたよな?どうやって誘われたんだよ……」
「提督になれる奴は俺しか居ねぇ!!モテモテになれるのは俺だけェ!あ、そこのお嬢さん!俺と言う将来の提督から、海軍入隊の勧めは如何ですか!?」
「間に合ってるよ、僕達も舞鶴鎮守府所属だからね」
「最近よく会うな俺たち」
「こんにちわ宍戸さんっ、結城さん」
時雨と村雨ちゃんだ。私服だ。右手にソフトクリームだ。
俺が汗を流している時に自分達はのうのうと休日の商店街を楽しんでるなんて……と、一瞬だけ思った。
「時雨ちゃんに村雨ちゃんじゃないか!こんな美少女達と遭遇できるなんて俺はなんてついているんだ!良かったらこれからお茶でも……」
「まだ勧誘の仕事あるんですよ〜お前は。さっさと持ち場に戻って一人ぐらい勧誘成功してこいよッ」
「これって宍戸くんの提督になる発言となにか関係あるの?」
「あー……後で説明する。今は海軍に入ってくれる人を集めなくちゃいけないんだ」
「そうなんですかぁ……」
レストランのお茶会で最初は冗談だと思われていたが、その後舞鶴鎮守府に顔を出し、迅速に行動に移る様も我ながら軍人らしいと思う。
ともあれ時雨達はまだ知らない。結城と俺だけが今知っている事だ。
「それで、あのパフェの次はソフトクリームかよ?姉妹だからって村雨ちゃんみたくボンッキュッボォォン!になれる訳じゃないんだから、カロリー制限はしとけよ?いつも俺の食事に健康食品ぶち込んでくるくせに」
「ソフトクリームみたいなクリーミィな肌になるにはクリーミィな物を食べないと駄目なんだよ?」
肥満のアメリカン見たことある?あれはお前の言うクリーミィなボディを目指した結果なんだぞ。
「まぁまぁ!ソフトクリームを頬張る時雨ちゃんも、かわいいぜ!」
「ありがとう結城くん。これが模範解答って言うんだよ宍戸くん?」
「皮下脂肪をクリーミィ増しましにするって教えるのが優しさなんじゃないか普通?」
「ふふっ」
時雨は残っていたコーンも一口で平らげ、指を舐める。ソフトクリーム自体小さかったものの、パフェ食ったあとバニラアイスを食べるのは流石に夕飯の食事でカロリーオーバーする。
太った時雨とか見たくない。
「女の子の扱いが成ってないな〜だからモテないんだぞッ」
「お前にだけは言われたくない」
「じゃあ見とけみとけよ〜!時雨ちゃんと村雨ちゃんの前で、俺様が軽〜く女の子を勧誘してみせるからよォ!」
そう言いながら結城は通り過ぎようとした二人組の女子学生へと近づいて行った。
『ねぇ君たち!海軍に興味はないかな?』
『え、興味はないですけど、艦娘とかマジヤバそうでヤバイ!』
『そうそう、そのヤバイ艦娘達ってさ、君たちみたいな可愛い娘にしかなれないんだ!君達ならマジヤバって感じ?』
(※美人じゃなきゃ駄目と言うルールはありません)
『うわイケメンのイケメンセリフマジヤバい!確かに海軍とかカッコイイと思ってたけど!』
『俺の名前は結城真司って言って、海軍じゃそこそこ偉いだ。俺が教官を務めると、新人の女の子とかに精神混入棒を振り回したりするんだよ』
『せ、セーシン……?』
『俺の黒くて太くて逞しい棒で、ホラホラもうおしまいなの?僕の棒はまだ物足りないよ〜ってね。あ、言っておくけど全然いやらしい事じゃないから』
「やべぇぞアイツ、勧誘から最低なナンパに移行したぞ?」
「ネタに走らなかったらポイント高いはずなんだけどね結城くん……」
『なんだい君達?まさか海軍に逆らうつもりじゃないだろうね!?海軍将校の俺がどんな権限を持ってるかその身体に教え込むのも俺の仕事なんだぜ!?』
『…………』
『その瑞々しい身体を使うのは今だぞ二人共!俺と言う暴れん坊ロデオマシーンに乗って、俺の主砲の清掃任務に取り掛かりなさい!』
『キモイ、通報しよッ』
『NOOOOOOOOOOOO!!!』
阿鼻叫喚。結城がこちらにハンドシグナルで救援のジェスチャーを送ってくる。『当然だ』と返したら『救い料一万円』と帰ってくる。凄く必死そうに。
その瞬間、正直助けてもメリットは諭吉だけ……とも思ったが、助けなかったら通報、海軍将校セクハラ事件、リツイート数四万超え、舞鶴の株が暴落下がるという事でデメリットが非常に大きい。提督の監督不足で辞任とか、連帯責任で俺も切られるとか。
「た、多分助けてって意味だと思いますけど、宍戸さん……」
「宍戸くん行ってあげなよ、友達でしょ?」
「自ら地雷原を作っておいて自分でそこに突っ込む馬鹿ほど呆れる物ってないよね?ハァ……じゃあ行くか」
スマホを取り出し、カメラを回しながら前進する。少し髪の毛もアホみたいにしながらイアホンをマイクみたいにして近づく。
「どうもどうもちわちわデ〜スゥ!ウチ、海軍兼チューバーのシシキンでぇぇぇぇす!うぇいうぇい(笑)」
「え?な、なにこれ?」
「実はー、海軍へ勧誘する時ー、女の子がー、どれだけ入るかー、実験してたんですよー(笑)。可愛い女の子君達ぐらいしかいないからー、ついチョーシに乗っちゃったらしくてー(笑)あ、これウチのチャンネル」
「わ〜そうだったの〜マジヤバ!ホントに海軍のヒト?」
「そうそう!実は今本当にカンユーしてるスよー、だからーもしよかったら艦娘じゃなくてもいいんでよろしくお願いしまーす」
「マジヤバッ!」
ちょっとチャラく見せて、社会舐めてます的な感じでカメラ回せばチューバーの出来上がり。便利な世の中になったな。
暫く女の子達をおだてながら海軍への入隊もちゃっかりして、俺の名前を渡してアンケートに協力するよう指示する。
まだセクハラへの感情が強く、悪い噂を流させないように出来るだけ、君達可愛いからとか超美人だからとかおだてておく。
「君達みたいな可愛い女の子を見る機会とか無いからさ!俺なんて仕事がなかったら今でも君達を食事にでも誘いたい気分だよ〜。勿論、俺が全部モってね……ははは」
「え~そうなんですか〜?……顔の偏差値的にどうこの人たち?」
「んん……右が5で〜、左が……ぐふふ!」
ヒソヒソしているところ悪いけど、聞こえてんだよなぁ……右って俺の事だよね?俺から見て右が俺だから左は結城だよな?
俺のこと見て笑うとか殺すぞこのクソアマ共。
「じゃあ誤解も解けたことだし!一緒に写メでも取る!?」
「イイじゃんイイじゃん!じゃーはい、チョイヤバ〜!」
意味不明でクソみたいな合図がフラッシュを呼んで写メを取った後、その勢いでまたね〜と手を振っていく。
上からのフレームショットじゃないと取らせてくれないのは、クソみたいな容姿に自身が無いのかなッッッ?
最近のJKなんてこんなクソアマ揃いなんだぞと自分に言い聞かせながら時雨たちの所へ戻っていく。
「ハァ……最近のJKクソヤバイな……ん?どうしたの?」
「むぅ……」
「ゴホンッ……宍戸くんはあぁいうのが良いんだ?」
「は?何言って……」
「ふんっ!!」
「痛ェ!何すんだクソがァ!」
足のスネを蹴ってくる時雨は顔をふんっ!と横に振り、村雨ちゃんも同様に首を振る。
時雨はともかく、村雨ちゃんが怒っているのは珍しい。怒らせるような事はしていないはずだ、ただあのJK共の礼儀がクソなってない事を嘆いただけ、ただそれだけなのに。
「普段あんなに褒めないくせに……」
「それで心から喜ぶようなタイプじゃないだろお前。他人からの賞賛は本能的に嬉しくなるものが人間だから、あぁ言っとけば全部丸くおさまるんだ。そう思うよね村雨ちゃんは!?」
「ふんっ!」
俺の方を向いてくれない。
「まったく……そんなんだから、いつまで経っても駄目なんだよ宍戸くんは!そんなんじゃ春雨もいつかは嫌いになるに決まって……」
「はるさめ……ちゃん?」
「宍戸くん聞いてるのっ?」
「……その手があったのか」