整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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彼女はサラトガ、股間に来る

 

 警備府のラウンジ。

 

 燻らせるコーヒーの風味はなんて香ばしいんだろう。

 満点の空、美しき仲間たちとの談笑、そしてテーブルに並べられたクッソ多い菓子類。これらがあれば大抵の休日は過ごせる。とは言っても、さっきやったリアルスマッシュブラザーズの残傷のせいで、俺の体はもうボロッボロで、体を休めないとイケないだけだ。

 つまり、俺は強い子。

 

「ふんふふーんふふーん! あー素晴らしいねっ! 宍戸くんのオゴリで、僕のお腹は満タン!」

 

 ふんふふーんふふーん。あー悲しいねっ、時雨のせいで、俺の財布はスッカラカン!

 

「ひぐっ……えっぐ……! 時雨姉さんに……コブラツイストで負けちゃいましたぁ……!」

 

「春雨ちゃんがあんな凶悪な技を繰り出すなんて……そして、まさかコブラツイストをかけられている最中に脱出する必殺技があったなんて……いや、あれはただの力技か。ゴリラにしかできないぜあんなの」

 

「ん? いま僕の事をゴリラって言った?」

 

「時雨、よく考えてみてくれ。ゴリラってのは体脂肪率が5%ぐらいしかなくて、一日何回も体を整える綺麗好きであり、男を立てようとする超絶優秀な女性なんだ。ゴリラってさ……女性にとっては褒め言葉の代名詞的なナニかになってもおかしくないと思うんだけど、どう思う?」

 

「宍戸くん……も、もうやだよっ、褒めすぎっ」

 

 時雨のヤツ本当に照れてやがるぜ、ちょろいったらありゃしねぇ、ヒャッハッハッハッハ!!!

 

「あ、あの、警備府への滞在の件なのですが……」

 

「あぁごめんサラトガさん、もちろん俺としては許可したいんだけど、生憎ここの司令官じゃないんだ。着任してきた参謀長のオッサンのアドバイザーとかはたまにしているけど、一応待命の身だから特定の職についているワケじゃないんだ。通信で学校の勉強をしている分、学生であると自称しているけど……俺はこれだけでも手一杯なのに、君みたいに士官と艦娘を両立させようなんて、俺がやったら何日保つか……人として尊敬せざるを得ない、そのうえ美人ときた。ニュースに載せていい?」

 

「あ、あははっ、あ、ありがとうございますっ」

 

 照れくさそうに両手で口を隠すサラトガさん。ベリングハムホモ少佐の知り合いである事もあり、正規空母サラトガさんはこの警備府に滞在したいと願い出てきた彼女は、現在白露さんや夕立ちゃんと彼女を含めた計6人でお茶を楽しんでいる。

 

 本当は佐世保鎮守府付の海外士官として来ているのだが、沖縄作戦中ということもあり、ピリピリした雰囲気であるのと、強い言葉で、外国人を排他的に扱っている提督の下では何かと居づらい……だから、ここに来た、というわけなんだろう。

 

 おい、ここは外国人の観光旅行先じゃねぇんだぞ。

 あの少佐のせいで何かと海外の連中が出入りしてる。その数、顔覚えられねぇぐらい多すぎィ! ゲイパブにでも行ってきなさい!

 と一喝してやりたかったが、サラトガさんのあどけない笑顔を見てその気も失せた。つか、このさぁ……あどけなさのある顔と髪型なのに胸デッカ、今ふわってロングスカートが捲れた時に見えたガーターストッキングとかただの性癖じゃん。こんなのが鎮守府みたいなエリート意識だけ高い肉欲汚職に塗れた無法地帯(ド偏見)にいたら、絶対に机バックでやられるじゃん。

 想像したらすげーエロいじゃん。俺もやりたいじゃん。そしてその気があるみたいにコッチをジット見てるじゃん。エロ、うわ、エロ……アメリ艦エロッ。

 

 ムスッとした顔をした白露さん達が、俺の体の隅々を攻撃してきた。

 

「痛い、え、時雨って俺に痛覚がないと思ってる? 知ってる? 弁慶の泣き所って、骨に直撃なの、カカト蹴りしたら痛いの。もっと直球に言うとね? 折れるッッ」

 

「いやだなぁ~宍戸くん! 宍戸くんがそんなひ弱なわけないじゃん! ……さっき、あんなに白露たちと激しいコトして、いっぱい補給してくれたのにっ」

 

 ん?

 

「うん……僕も、宍戸くんの補給、嬉しい、かなっ……」

 

 は? あ、このテーブルの上のお菓子のことかぁ……サラトガさんは別の意味で受け取ったらしく、頬を染めている。ハッハッハ、日本に駐在する時間が長いのも考えものだなぁ。必要のない日本語の揶揄にまで精通なされているようで。

 

「言っておきますけど激しい運動ってのは組手の事であって、補給ってのはこのお菓子のことですからね?」

 

「し、知ってますっ! 見てましたから……」

 

「でも宍戸さん、あのあと夕立といっぱい運動して、いっぱい出して、すごく気持ち良さそうにしてたっぽい!」

 

「「「っ!?」」」

 

 いっぱい運動(スマ○ラROUND2)して、(疲れ切った体に僅かながら残った力のすべてを)いっぱい出して、(一定時間あの世を見ていたので)気持ち良さそうにしていたんだ。同じ言語で話してる中なのに、なんでこんなにネジ曲がった方向に解釈されるんだろう?

 

「よし、一旦落ち着こうかみんな。夕立ちゃんの言葉足らずで口下手なセリフに一々惑わされて、抜けている言葉の情報を補強しようとすると奇跡的にエロいセリフに聞こるのは、君たちが普段からそういう発想を生み出しているスケベニンゲンであると自ら言っていることと変わりないんだよ?」

 

「誰がスケベニンゲンなの!? 白露、そんなエッチじゃないもん!」

 

 むにゅ。

 豊満で柔らかい球体が俺の頭にのしかかり、これまた肌触りのいい二の腕が、俺の首周りを独占するように絡みついてくる。春雨ちゃんはそれに対抗するように腕を引っ張り、時雨は俺の足を蹴り、夕立ちゃんは……まさかのドン引き。こんな男の何処がいいんだ? みたいな顔してる。クソ……俺に催眠アプリがあれば……この艦娘たち全員、俺の思い通りになるのにィ……! ボディータッチだけしておいて、その気がないとは言わせねぇぞこのエロ艦娘共ガァ!!

 

「それでサラトガさん、これからどうするの? 俺の方からサラトガさんの滞在の警備府滞在の件は話しておくし、理解ある現司令官様なら多分承知してくれるだろうから、行き当たった悩みは解決しているし、次にどうやって暇を過ごすか悩んでいるはずだ」

 

「そ、そうですね……警備府に来たはいいものの、ここには海軍関連の学校と呼べるものはないですし、執務や任務をお手伝いするのもいいですが、部外者の私がお手伝いするのは色々と問題があると思うので……」

 

 俺は後学のためを思って時雨たち艦娘や、一兵卒の兵士たちには暇な時に、士官の業務内容や、デスクワークなどを見せる事がある。実際にやっている事をチラホラ見せるのは、学校で勉強して覚えるより100倍効果的な教育だと思っている。海軍という巨大組織の構造をまた一歩理解できるし、早い段階で色々なことを覚えるのはいい教育だと思っている。かくいうサラトガさんも、行く先々で色々と自分が学んだことを教えていたりしていたらしい。

 

「有能な部外者はむしろこの警備府では歓迎されてるんだよね。少なくても俺が司令官してた時は、色々な人たちが出入りして執務とか業務を手伝ってくれていたんだ。色々な人と関わって、その人の知識と知恵を無償で分け与えてくれるって言うんだから、かなり得なことだと思うんだよね」

 

「私もそう思います。色々な人と出会って、色々な人の経験を語り合い、人は成長していくと思うんです。前に一度、ハシラジマで出会ったプリンス・ユージンなどは、私にとって大きな成長を与えてくれた恩人だと思っています」

 

「ユージン? EUGEN……え、オイゲンさんに会ったの?」

 

「はい、結構前のことですが……」

 

 アッチに戻ってるって聞いたから何してるのか聞きたかったんだけど、サラトガさんがオイゲンさんに会ったのって多分参謀長解任される前だと思うから今現在どうしてるのかは分からないか……クッ! あんなひ弱な提督の下に戻りたいなんて……ッ! クソ……! クソ……! 俺の魅力があの提督に劣るとでも言うのかァ……ッ!?

 時雨は俺の悔しそうな顔を見て、頭を縦に振っている。まるで”そうだよ”とでも言いたげな顔で。そしていい加減蹴るのやめて、いい加減白露さんと春雨ちゃん俺から離れて。

 

「提督……少しお聞きしたいのですが、この作戦の事を、どうお思いですか?」

 

「サラトガさんも心配なんだねこの作戦。まぁ戦術的には成功するんじゃないかな。膨大な数の動員数で勝てなかったら、日本海軍終わるナリ」

 

「あははっ、確かにそうですねっ。戦術的な勝利は揺るぎない……でしょうね」

 

 少し歯切れの悪そうな口ぶりのサラトガさんが、コーヒーに口を付けた。動作気品風格は、正に名家のご令嬢を思わせる。アメリカ生まれだと侮っているが、アメリカでは稀にこういう何でもできる完璧超人が平然と居たりする。艦娘として文武両道。現在ティータイムを優雅に過ごす彼女を記憶と照らし合わせても、ティーマナーだけは完璧なウォースパイトさんに匹敵する礼儀正しさである。

 

「……しかし、時には失敗もありえます。何事も、作戦計画内容書の中身と同一の結果をもたらすとは限りません」

 

「そうだね……だから俺も、最低限みんなが無事でいてくれて、ある程度の成功だけを期待しているんだ」

 

「随分と謙虚なんですね……」

 

「おりゃいつも謙虚だよ? ほら、こんなにイケメンで超がつくほど優しい漢ってそうそういなくない?」

 

「宍戸くんの自分から矛盾していくスタイル、今日も健在だねっ!」

 

「は? 俺がいつ矛盾したって言うんだよ? 俺が謙虚じゃなかったら、イケメンで優しいだけじゃ済まないぞ」

 

「そうですよ時雨姉さん! お兄さんは世界一なんですから! そんな褒め方じゃ足りないほどです!」

 

「なんでも肯定してくれる春雨ちゃんしゅき……」

 

「キモいっぽい……」

 

 ボソっと呟かれるほど突き刺さる事ってなくない?

 

「じゃあ時雨、俺とサラトガさんは斎藤大佐に滞在の件、話しつけてくるからゆっくりしててくれ」

 

「うん、分かった……あ、宍戸くん! 戻ってくる時にコーラお願い!」

 

「クッ……分かった。例え俺の財布に残された最後の五百円玉を犠牲にしてでも、勝者である貴様を労うため、買ってきてやろう……」

 

「じゃあ白露はアメリカーノのホイップ増々のヤツ!」

 

「夕立はフラッペのエクスプレッソ入りが良いっぽい!」

 

「スタバ行ってこい」

 

 

 

 

 人気のない廊下をテクテクと歩いている元部下たちの横を通り過ぎながら執務室に向かう。

 少し遠回りになるルートを通っているが、みんなが行き混じってるスクランブル交差点ばりの渋滞を見せる近道ルートを見て、俺の判断は正しかったと思った。とは言っても流石に人がいるので、会釈をしながら突き進む。

 

「本当に慕われているんですね……あの駆逐艦の皆さんといい、すれ違う皆さんが貴方を見る時の顔といい、その秘訣はなんでしょうか?」

 

「あはは、サラトガさん。ビジネス成功の秘訣は、誰も知らないことを知っている事にある……だよ? でも、サラトガさんには特別に教えちゃおう……実は俺、洗脳能力もっててさ、瞬時に俺への好印象を持たせてハーレム状態にするのが、警備府支配への第一歩なんだ」

 

「あ、あははっ、持っていないSaraには、あまり役に立ちそうにありませんねっ」

 

 このサラトガさん、出会ってから少しだけ違和感を感じる接し方をしてくるのだが、それは彼女の特色なのだろうか? なにか妙なんだが、奥めかしさのあるエロスと、リズミカルに鳴る耳触りの良いヒール音で、微かに億劫をもたらしていたナニかが吹き飛んだ。

 彼女は勉学に精通しているだけあって、俺との会話はだいたい世間話に交えたスケールの大きい国家間の話や、理論や理念の話になる。これも知識の共有を図ろうとする本能が、二人の会話を弾ませる。こりゃ俺の人種が違えば即交尾だったな、理性的な人種に生まれてきた事に感謝するがいいぞサラトガさん。

 

 司令室までは長道だと思っていたんだが、体感時間でもせいぜい5分程度でついてしまった。後味スムーズに、艦娘の編成理論についての話を切り上げて、司令室へとノックをする。

 

 すると、呼ばれてもいない司令官殿が突然ドアを開けて来た。

 

「し、しし、シシシ……」

 

「ど、どうしたんっすか大佐? 口の動きがバグってますけど大丈夫っすか?」

 

「し、ししし、ししし司令……」

 

 斎藤大佐ならまだしも親潮までバグってる。

 

「現警備府司令官のサイトー……提督と、サウジアラビアからの留学生と共に男子根性龍……と呼ばれた、あの……」

 

 一人でブツブツとつぶやいているサラトガさんは、日本を回っている途中で様々な人々と出会い、無数の噂を耳にし、俺の噂も良いモノから、発信源を抹殺したいと思うぐらいヤバイモノまである程度は聞いたことがあると言っていた。

 また一人誤解を説かなければいけない人物が増えたということか……いやぁ、噂って怖いな。

 

「あの、口を陸に上がった魚みたいに痙攣させながら見つめてくるのやめてくれませんか? 怖いんですけど……」

 

「た、大変なんだ……さ、作戦が……」

 

「作戦ってあのターバンヘッドが王朝殺った奴っすか? もうその話なら聞きましたけど……」

 

「ち、ちがうんです……司令、た、助けて……」

 

 ……ん?

 

 


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