整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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緊急会議

 

 三週間後、東京、海軍省会議室。

 

 緊急会議。

 海軍大臣のもとに招集をかけられた海軍士官は、海軍内外から名前を轟かせるビッグネーム揃いだ。

 

 海軍大臣、斎藤大将。

 海軍次官兼軍需部長、明石中将。

 軍令部総長、大淀中将。

 連合艦隊司令長官、荒木大将。

 佐世保第一鎮守府司令長官代行、赤城中将。

 大湊警備府、加賀少将。

 横須賀第二鎮守府、蘇我中将。

 

 その他、秋津洲中佐などの軍令部職員や彼ら提督等の副官、並びに『信頼』されている司令官クラスの士官数名、そして長崎駐屯地の陸軍連隊長が同席している。

 総勢合わせると30人以上になり、俺にとっては、ほぼ顔見知りだが、生憎この壮大すぎる会議に出席できるのは重臣の幕僚たちだけ。

 ほぼ専属副官状態の俺の村雨ちゃんは、長崎でおかえりのちゅーを全裸待機しているはずだ。

 司令官クラスの人を挙げれば、俺と斎藤大佐、そして外国艦鎮守府と呼ばれた柱島泊地の王ーー荒木連龍大佐がいる。

 こんな会議に参加させてもらえるなんて光栄だぁ……と、一部の人間は唾を飲み込んでほしがる席だろう。でも考えてみてほしい、俺を含めたこの人たちは後に全員、チョー危険な最前線を取り仕切る事となるのだ。出席できて当然。

 

 ともあれ、こんな海軍を斡旋……というより、事実上支配している偉大なる幹部連中を集めたのには、さぞかし面白くて素敵な理由があるんだろう……と思われるだろう。

 そうそうたる方々の目の前で、最初に口火を切るのは一番偉い海軍大臣である。そして彼と言葉を交わす事になったのは、副官でも副司令官でもなく、陸軍の連隊長だ。

 

「聞かせてくれないかな? 君が集めた情報を」

 

「はい」

 

 連隊長が言っていることは俺たちが三週間前に聞いたこととあまり変わりなかったが、作戦の結果と補足を交えた会話により、事件の全貌が明らかとなる。

 

「あ、あの……ノート取ったほうがいいよね?」

 

「荒木大佐、お静かに。お勉強会じゃないんですよ? 後で掻い摘んで話しますから」

 

「う、うん……」

 

 今回ばかりは静粛を保つ……というより、極めて上流階級の海軍士官達が頭を悩ませるこの出来事。ボソボソ喋ってる荒木大佐と俺が一番五月蝿いという始末。

 

 連隊長は、結論から話す。

 

 蒲生大将は深海棲艦教だった。

 

 それが何だ、と聞かれれば説明は難しくなる。

 一般的に深海棲艦教は、敵対する勢力に加担するオカルト集団だという認識が強い。密輸、選挙操作などに関わっていると噂されていた過激派集団の資金源は政府内部でも物議を呼んでいた課題だったが、その素性そのものは謎に包まれていた。反日本主義的な発言も度々見られていた。

 

 隠し財産を探られた陸軍でも潰そうと目論んでいた組織だが、上層部がいる事を突き止めた。

 それは下部が認知できないほど巨大な存在であり、ほぼ上位組織としての機能していた彼らには名前はない。その深海棲艦教の親玉たる組織の一人……あるいは、リーダーであり可能性が高いのが、あの蒲生提督らしい。

 

 作戦失敗と、彼が深海棲艦教の主格である事の関係性は現在突き止めているところだが、不自然な失態を晒した彼らへの調査を本格的に始めたい……と、連隊長は結果を報告してくれた。

 

 一連の提督の素性は今の所世間には伏せてあるが、大本営の失敗というよりかは、提督本人の力量不足である風潮……そして何より、ここ最近で深海棲艦教という言葉がトレンドに乗せられるなど、昔ならとっくに総辞職しているメンツがこの場に居座り続けている。

 この人達のせいじゃないし、やめられたら悪影響しかないからいいんだけど。

 最早それを気にしていられるほど事態は楽観視できない状況まで来ている。

 

 蒲生提督が何故、深海棲艦教徒だったのか、依然として不明だが、理由と責任の追求を本格的に考え始めたのか、頭が痛くなる内容を聞かされた提督たちは額に手を携えた。

 甚大な被害、これで何回目だと囁かれてるが、艦船も沈められ、既に艦娘主義化していた海軍も更に艦娘技術に手を入れるだろう。艦船派は多分、時流によって排除されるだろうから問題ないとして、沖縄作戦の失敗は相当ヤバイ。

 

 肝心の蒲生提督は奇跡的に救い出せたものの、意識不明の状態で佐世保の総合病院にいる。意識が戻り次第尋問と、それを使って軍事法廷を開くために、彼の隣には常に憲兵隊、及び海兵団を含めた警護隊がいる。

 

 後に、深海棲艦教は共産党政府……あるいは、合衆国政府の息がかかっていた事が少し分かるが、それを裏付ける確証を得るのはかなり先の未来になり、また彼の幕僚たちからの証言は得られない。彼らからの情報は、奈落の底で眠り続ける事となる。

 

 一時作戦は中断する形だが、諸外国がこの失敗を大々的に報じた上、日本本国、本州を守るために、これ以上の侵攻を防ぐ名目で”同盟国への支援”を名乗り出たアメリカと中国を主体とした国際連合艦隊が結成されつつある。

 彼らは、最初からこれを予想していたのか準備していたようで、早ければ一週間、猶予を持って二週間ほどで反抗作戦が開始できる……これは、海軍と空軍のサイバー軍の予想なので、これ以上に信頼できる情報は今の所ない。

 

 作戦が失敗するのは本当に痛手だし、成功を前提としていたものを、まさかこんな形でしてやられるとは誰も思わなかっただろう。

 

 色々は人が頭を抱え続けている。

 

「我々駐屯地連隊……いいえ陸軍は、本格的な深海棲艦教の摘発に乗り込もうと計画を立てております。それは私が担当する県境を越え、全国に広まっている根を潰さねばならないという共通の認識があればこそ、迅速な行動が成るものです。陸海が協力し合えばこそ大義を……いや、双方の仕事が楽になるのは、言わずともご理解頂けるものと思います」

 

「酷いですね……許せません。私は宗教に疎いんですけど、自分から命を落とそうとするなんて……増しては周りを巻き込もうとするなんて、許せません!」

 

 うん、現在の海軍の成り立ちが半分ぐらい宗教じみてるのはさておき、訳のわからない理由でこんな状況に追い込まれるのはただのファ○ク。今すぐ責任者である”治療中”の提督殺しに行きたいっ。これは時雨たちの本音でもある。

 

 久しぶりにゲイ三人衆へと連絡を取ったところ、「あぁ狂いそう……!」と静かな怒りを表しながら穴無限拡大の刑を執行したいと言ってた。今回ばかりはそれを止める気はない。

 

「アカシタン……ッッ! ……私の方からも、空軍にも協力を要請します。これは軍部だけの問題ではなく、国全体を脅かす問題となり得ます。敵を賛美する反発分子に対しての人権云々を口実とされて動けませんでしたが、実害が出たとなれば話は別です。即刻な対応をさせていただくため、陸海空軍の協力を強める方針で行きます」

 

 連隊長は「なんでアンタが仕切ってんだ……?」みたいな顔してる。

 おい、ここおわすのは大淀軍令部総長ーー海軍全体の作戦命令を出す総本山であるぞ。しかも立場そのものを通り越してどこまでの影響力を持っているのか未知数な部分が多い人だぞ。怖いんだぞ。

 

「……状況は整理できてきたようですが、問題は今後どうするかです……斎藤長官、そして荒木提督。即決とまでは行きませんが、今後の方針について何かお考えは」

 

「赤城提督が言った通り、私が緊急招集をかけた理由は、今後の方針についてだ。今後の課題となるのは、海外の連合艦隊に対しての対応、オ号作戦の処理ーーそして深海棲艦教なんだが、それはもう决めたから、前者の2つを決めよう。異存はありませんね?」

 

「……ウム」

 

 荒木連合艦隊司令長官の頷きに続くように、全員が頷く。

 

「私と赤城さん……赤城提督は、海外への進出には反対ですので、作戦の撤回を提案します。そうすれば2つの問題は解決します」

 

「なに言ってるかも!? 秋津洲たちの作戦は完璧だったかも! あの二式大艇ちゃんのプロペラに絡まって跡形も残らずただの誇り汚れかと思ったらハエの胴体だったバッチいゴミ以下の提督が、その深海なんちゃらじゃなかったら成功してたかも!!」

 

「かも? それは多分ということですか? 軍令部はもう少し人選に配慮したほうが良いと思います」

 

「頭にきましたァ鎧袖一触かもォ!!!」

 

「私の真似ですか? 頭にきました」

 

 やめてくれよ秋津洲さん、加賀提督って確か凄く強い艦娘だから鎧袖一触だぞ。

 会議室はその雰囲気に乗せられて、副官や秘書艦たちがわんさかわんさか喋り始めた。斎藤長官は頭を抱えているが、多分会議に対してじゃなくて、自分の同期を憂いているんだろう。

 

「久しぶりだな宍戸……できれば、もっと良い再会の仕方をしたかったものだ」

 

「俺もそう思います、蘇我提督。総司令官が不在で、その副司令もまたいない……代理としてなんとか赤城提督を立てたのは良いものの、状況そのものは正に最悪。多少のことではビビらない俺でも、今は不安と恐怖を感じています」

 

「ハハハ、誰だってこんな状況にいれば恐怖を感じるさ、現に私も怖い……だが、二人だと怖くない」

 

 隣に座る提督の上腕二頭筋が、俺を包んだ。

 

「あっ……」

 

「二人で恐怖を受け止めれば、怖さが半分になる。それだけでも、だいぶ楽になるんだぞ? 皆で抱き合えば、怖さは……言わずとも分かるな?」

 

「は、はい……!」

 

 隣に座る荒木大佐が、蘇我提督の乱交宣言(※違う)に居心地悪そうにしているのが、逸した目の泳ぎ方で分かる。

 なんですか大佐? やましいことじゃないですよ?

 

「お前には古鷹と結婚してもらう必要があるんだ……しっかりさせる為に、私はなんだって協力するぞ?」

 

「な、なんでもスル……!?」

 

「あぁ……私たちの家族は、いつでもお前を歓迎する」

 

「て、提督は……タチ……!」

 

「ん? 私はタチ……? どういうことだ?」

 

 知らなくても良いことだと思います。

 というか、古鷹との縁談は断ったはずなのに、まだ強引に結婚させようとしているぅ!? 結婚相手に困らない俺って、案外モテてる……? いや、俺はハーレムを築くことに全力を上げてきたんだ。でも古鷹に限ったことじゃないけど、人の本心ってのは建前と区別がしにくいから、場の雰囲気で流されていたのか不明なんだよなぁ……加古はたしか「古鷹はアンタのこと好きだと思うよ~」とか言って適当っぽいし。

 

「父上、羽黒、そろそろ意見が纏まってきた所だと思いますので、聞いてみてはいかがでしょうか?」

 

「そうだね、では静粛に。今後の方針として一番飛び交った意見が”連合国と合同作戦を提案する”というものだったのだけれど、それは散々、独りよがりに一国で戦おうとしていた我々が恥知らずにも申し出るの承知で、ということかな?」

 

「無理を言ってしまえば、我々がなんとかせねば、沖縄の上で人民元とドル紙幣が飛び交うことになります」

 

「蘇我中将に賛同する人は多いようだね……もう一方は、作戦そのものを撤回して沖縄を捨てろ、という意見なんだが……分かっているとは思うけど、この国全体のイメージを壊すだけに留まらないと思うんだ。その点を、加賀提督や赤城提督は考慮しているんだね?」

 

「二択にまで選択を絞り、一方を取ればもう一方を失う所まで来てます。しかし、既に一度失った領土を無理に取り返しに行く理由なんてありません。資源云々は置いておき、戦略的な重要拠点として着目するべきではないと思います。この国は、思っている以上に大きいのですから」

 

「……賛同する」

 

 おいおい、ここで革新派と保守派の争い繰り広げるのやめて、もう終わったことでしょ。

 

「なるほど……では、若い子たちにも聞いておくべきかな。宍戸大佐、斎藤大佐、荒木大佐、秋津洲中佐。君たちの意見を聞かせてくれないかな?」

 

 今の海軍長官のいいところその一、年齢別け隔てなく意見を聞こうとする。

 

「戦争かも! 未来に向けた攻勢をかけるために準備するかも!」

「最も重視するべきは未来。内部に遺恨を残す物の少ない秋津洲中佐の意見に賛同します」

「ぼ、僕もみんなと同じで……」

 

 あれ? この部屋クーラー効いてる? もうちょっと温度下げないと熱と血が昇って諸外国を侵攻しようなんて言いかねないぞコイツら。

 

「宍戸大佐の意見はどうかな?」

 

「えぇ~っと……そもそも連合軍が領土を占領しても、沖縄という領土そのものの利権は日本国に帰します。たとえ国際的には放棄した国土として認定を受けていても、完全な支配権を置くなどできることでは無いと考えます。どれほど資源がほしいからと言っても、国際法の範囲で行動するはず……」

 

「甘いぞ宍戸大佐!? 領土だと尖閣諸島を奪おうと画策し、レーダーを照射され、過去には空母を建造しただけで侵略準備などと揶揄され、いいように言われ続けた長年の過去を、我々は覚えているはずだ! 奴らは国家間の戦争さえなければ国際法など無視してもいいと考えているゲスだぞ! 鬼畜無常のハイエナ共を駆逐し、今こそ我々の国を、世界の第一軍へと昇華させる時! その、いつまた訪れるか分からない絶好の好機を、みすみす逃そうというのか!?」

 

 そうだそうだ! と、誰が過激派で、誰が穏健派なのか分かりやすすぎる図は流石にどうかと。

 

 もっとも、沖縄に近づくに連れ、深海棲艦の数が増え、エリートやフラッグ湿布など強くなって行ったのを見て、戦術的にまず勝てるか疑問に思っていた。だからこその大戦力……まぁ、首脳部がクソだったり、意図的な失敗を目論めばそれで負けるのは簡単だ。だけど、それ以上に、あの島に何かある予感がする。目に見えない存在としてじゃなく、実在する何か……みたいな。

 そうでなくても、近くの島に拠点設置を行おうとした矢先、深海棲艦が突然現れた……という、奇襲には絶好のタイミングで来た深海棲艦に疑問を覚えている。

 固定概念に囚われる事なく、少しの勘と、論理的な推理を入れる場合ーー深海棲艦には、前線で指揮を取る何者かがいるような感じがする。記録通りに動いたんだったらの話だが、今までの深海棲艦とは統制力の面で違う。

 

 一部の軍令部職員も俺と同じくそんな事を考えていたが、妄想と一蹴されたらしい。

 

「小官如きの具申が功を奏するとは思いませんが、このような状況になった以上は順当な対応をする事が最善です。かの国々にはこのまま支援を断り続ける一方で、反攻作戦の準備をするべきであると進言します。しかし今回は、佐世保第一鎮守府司令長官殿が毛嫌いしていた、外国艦や海外士官、並びに柱島泊地の荒木司令官にも参加をしていただくのが最良かと」

 

「若い子たちも反攻作戦を提案か……荒木大将、どう思われますか?」

 

「ウム……パパは、期待しているッ」

 

「あ、は、はいパパ!」

 

 初めて聞いた荒木親子の会話である。

 うわ、キモ、え、なに? え、おっさんが、おっさんに、パパって呼ばせてるの、え、新事実、え、キモ、本当の親子でもキモ。司令官クラスになると更にキモ。

 

「分かった。宍戸大佐には申し訳ないけど、待命を返上してもらうよ。長崎警備府には斎藤司令官がいるから、君には副司令官……並びに、長崎駐留艦隊司令官として再着任してもらう事になるけど、いいかな?」

 

「ハ!」

 

 駐留艦隊司令官……? そ、そんな役職あったっけ? 

 

「みんな、方針は決まった。我々は先立って反攻作戦の準備に取り掛かる。外交上の問題、及び作戦の最終的な許可は政府に任せよう。我々が決した意は、ある程度は汲み取ってもらえるように努力するから」

 

 こうして、海軍緊急会議は幕を下ろした。

 

 俺たちの警備府も、後に誰もが想像していなかった、誰もが困惑するだろう試練を跳ね除ける為の準備をする。

 

 


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