整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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九州防衛作戦

 

 ほぼ全ての士官が呆け顔を晒す。

 俺も驚いている。村雨ちゃんを含めて数人の秘書艦がメモ帳を落とした。隼鷹が一瞬理解できなかった様子を見せ、タイムラグで驚き、その後固まってる飛鷹を叩いて、逃げるか? と提案している。

 

 俺の予想は正しかったのかもしれない。

 あの島には何かある……いや、今進軍している深海棲艦の大群がその何か、なのか?

 

 ってかさ、え、深海棲艦って日本大好きなの? 俺たちがいる場所にいちいち困難なシチュ持って来やがって面白いと思ってんの? 

 

 ウザ、海軍抜けるわ。

 

 なんて言ってられるかーい!

 精神状態がこれほど迷走するぐらい今の状況はホントクソ。今まで直面したことのない大事に、自分が立たされているという不安。

 理解に苦労は必要ないが、最も厄介な状況にそれぞれ思考を巡らせざるを得ないというところか。

 

 会議に参加しているのはモブ顔の司令官達がほとんどだけど、第一軍として目立ちまくり、なおかつこの中で俺と深い知り合いなのが大鯨中佐、結城少佐、斎藤准将、荒木大佐、オイゲン中佐、並びにそれぞれの秘書艦や副官と、そして強制出席の赤城提督と蘇我総司令官だ。

 歴戦、熟練、秀才たちが、権力を握る頭脳として集まり、なおかつ戦力的に申し分ないはずの現在の佐世保方面軍が勝てるかどうか分からないって顔してる。

 

 当然だ、戦力的に申し分なかったのは連合軍がやられた。この事実の重さに、自然と頭を下ろす佐世保海軍首脳部。

 ここから推測できるのは、仮想敵国同士で構成されている軍に連携なんて取れなかった……ということなのか、海外連合軍を撤退に追い込んだヤバイ深海棲艦がいたのか……または、両方なのか。

 数的にはかなり多い艦船が用意されたのはしっている。艦船は確かに破壊力的には強力だけど、深海棲艦って船の底に穴開けて戦闘不能にしたり、急接近されたり、横転して沈んだりしたら深海棲艦の盾みたいになるから絶対に攻撃受けちゃだめなんだよね。

 

 憶測なんて意味ないけど、今はこの緊急会議から、最大限にここを守る為の作戦を立てることだけしかできない。

 記者さんがいるけど、これは後に大淀総長の指示で招き入れ、記事を書いてもらい、連合軍が敗北した事をいち早く世間に知らしめさせるためだったと言っていた。根回しが早すぎる。

 

「コッチも緊急会議してますけど、アッチの連合軍も緊急会議っぽいッス。出席者はロシアの元艦娘のスケベなペトロパブロフスク中将さんと、これまたスケベエロスな元艦娘提督の利綏中将さんと……あとは韓海の李大将と、USIPC司令官のジャック・ドグソドルジ元帥ですかね。あ、後者はオッサンですね」

 

「オッサンかオッサンじゃないかは聞いていなのだが……」

 

「…………」

 

 これだけ面倒事持ってきてくれたんだ、報復としてみんなで砲撃を半島方面に向けて、司令室にありったけの大砲ぶちかまして、大惨事を起こそう。

 もうこれ戦争だよ戦争。

 

「あと、同盟軍として救援信号を受けてる状態ですが、どうしますか?」

 

「そんなのは私の独断で判断できる問題ではない。勝手に作戦を遂行しておいて、しかも戦っていた艦隊がこちらに攻め寄せている……その上こちらに救援を求めるなど片腹痛い。繰り出されていた異国の兵士たちには悪いが、我々も自分の身を優先させてもらう」

 

「了解ッス、俺のプレゼンはこれで終わりッスかね」

 

「ありがとう結城少佐。では次に、深海棲艦の群衆をどう退けるかだ。君たちの動きが早かったおかげで、住民を即刻避難させている事に成功した。佐世保方面軍全体に非常呼集をかけ、全要港部は防衛態勢を敷いているはずだが、補給物資並びに準備が必要な基地はあるか?」

 

「今のところは問題ありません」

 

 赤城提督の答えに頷く蘇我提督は、順を追ってマニュアル通りの第一防衛態勢についての軽いおさらいと、深海棲艦を迎え撃つ作戦案を説明していく。俺の隣で可愛らしくメモを取る村雨ちゃんも、緊張した面立ちで秘書艦たちと情報を交換し合ったりしている。

 

 緊急招集をかけられた近場の司令官や提督たちは切り替えが早く、眉を寄せた真剣な形相を浮かべ、作戦内容を耳に入れている。

 

 現段階では深海棲艦が佐世保に進行してきている事と、連合軍が敗北した事実は世間一般には知らされてもいないので、避難は深海棲艦による攻撃とだけしか伝えていない。が、国民保護措置として全域に避難命令を出すのは稀。混乱がないようになんとか留めている。

 

 その一方で追撃され、残存の艦隊は中国の上海港湾、または釜山まで撤退したものと思われる。どれだけの被害が出たかなんて現段階で知る由もないが、被害の大きさは既に全世界がこの沖縄奪還戦争を知ることとなるだろう。

 深海棲艦の数も、結城と諜報部と情報参謀たちが集めてきたモノで、実際海軍が管理する諸島周辺のレーダーで察知したのは20隻程度だ。衛星写真ではなんにも写んないし、写真でも若干朧気なんだよなあの深海棲艦たち。幽霊かよ。

 

「今防衛作戦は、ここ佐世保に来るという情報しかわからない以上、要請した陸海空の三軍が持つ防衛設備を惜しみなく使う方針で行く。三軍の通信情報は常時オープンにしておけ。こんな状況である以上、彼らも協力を拒むような事はしないはずだ」

 

「「「ハ!」」」

 

 オープンにすることでリアルタイムに情報交換ができる一方で、重要な情報が流出する危険性はある。軍隊同士の通信だから特段と不利になるような事はない……陸海の、お互いの技術が流出することを除いて。

 陸海空の三軍を使うとは言ったが、形式上は海軍の仕事であり指揮系統は蘇我総司令のもとに集まる。その理由からか、陸空はサポート扱いである。

 

「本格的に防衛作戦を立てるのは陸空の司令官が集まってからだが、現段階での作戦としては、すべての基地が臨戦態勢を維持のまま、各基地からの遠距離攻撃、及び空軍の波攻撃を逃れた深海棲艦を各基地から迎撃。指定海域の制海権を確保した艦隊は50%の戦力を所属基地に残し交戦中の諸港、艦隊、及び敵残存艦隊の排除を行うよう、近場の基地同士で連携を取るようにしてくれ。質問はあるか?」

 

「「「…………」」」

 

「無いようなら解散するぞ。必要以上に会議を長引かせるわけにはいかない」

 

 応! と男らしさ溢れる気概で、各々が自分の要港部へと戻ってく準備をするが、その大部分は自分の近場にいる基地のみんなと地方レベルでの詳細な戦術案を話し合っている。

 頭を抱える蘇我提督を支える古鷹。こういう娘がいるのはパパにとって一番の救いとなるだろう。隣の窓の下では、佐世保のいち艦隊の旗艦として指揮をとっている加古がいる。強そう。

 

「ハァ……しかし、とんだ時期に配属されてしまったな。配属、などという言葉を使える立場では無くなった今の私は、赤城提督にどう映るのだろうか?」

 

 艦隊を指揮の準備をするために幕僚と話している赤城提督を目尻に、再度ため息をついた。彼を含めて、大多数は赤城提督が佐世保方面の総司令になると思っていた為、まさか自分が抜擢されるとは思っていなかっただろう。それだけ有能であり勇猛な提督として知られている蘇我提督が彼女を差し置いて総司令に置かれるのは、少なからず彼女から反感や嫉妬を買うものだと懸念していたが、赤城提督はそんな事を気にするような艦娘じゃないのは誰もが知っている。

 

「いいのではないでしょうか。第一鎮守府司令長官代行は、単なる埋め合わせの代理に過ぎません、何も赤城提督が正式に第一鎮守府を任せねばならない、というわけでもないでしょう?」

 

「宍戸……あぁ、そうだな。ところで宍戸、古鷹をもらう気にはなったか?」

 

「「「な、なに!?」」」

 

「も、もう! パパやめてったらぁ!」

 

 

『な、なに!? 古鷹ちゃんをもらう……だと!? 俺たちのラブリーエンジェル古鷹ちゃんを!? 許せねぇよぉオイ……って、あのイケメンは宍戸サン!? あの超イケメンで将来有望で強くて仕事ができてカッコ良くてイケメンでイケメンの、あの宍戸サン!?』

 

『あっ、わたしの艦娘型子宮がイケメン惚れして痙攣しそう……!』

 

『この作戦はこの人がいれば間違いない! バンザイ!』

 

 

「おっと! 俺の正体がバレちまったぜ。隠し通そうとしたのに、耳の早ぇ野郎共だぜ」

 

「むぅ……宍戸さんは村雨のです!」

 

 むにゅっ。

 

「「「えええええ!!? ま、まさかあの超絶大天使村雨ちゃんをも虜にしてるのカァ~~!?」」」

 

「おっといけねぇ! それもバレちまったか! まったく罪な漢だぜ俺は」

 

「あ、ず、ずるい! 私だって宍戸さんのこと……あの、その……え、えいっ!」

 

 むにゅっ、むにゅ。

 

「宍戸さんは渡しません!」

 

「わ、私だって……!」

 

「まったく、とんだ不幸体質だぜ」

 

 パリーン! カチャ。

 

「動くなァ! この鎮守府は我々が占拠したッ!! 大人しくしねぇと撃つぞォ!」

 

 突然窓からテロリストが入ってきた。そして一斉に向けられたアサルトライフルAK47バイポッドとレーザー付きナンチャラカンチャラ以下省略。

 

 ざっと十人か……フ。

 

「ほら男はここ、女は俺たちがたっぷり楽しませて……ぐああああ!!!」

 

「フッ、フッ、フッ──!」

 

「「「ぐあああああ!!! く、くそ! 何者だコイツ!?」」」

 

「現役で大佐と呼ばれている者だ、お前たちは俺には勝てないことがこのCQCで分かっただろ、大人しく降参しろ」

 

「「「ま、参りました~~!!!」」」

 

「すごい!! 宍戸さんがまさか陸戦も得意だったんなんて!!! 抱いて!!!」

 

「これは総司令官の座を譲らざるを得ないな!(謎理論)」

 

「凄いです宍戸さん! ちゅっ」

 

「グッヘヘヘェ! おっと! 俺が大佐だってバレちまったか! くそぉ! あ、でも俺は彼女を作るつもりは今の所ない」

 

「「「KAKKOIIIIIIII!!!」」」

 

 

 

 

 

 長崎警備府。

 

「ってことがあってさ……いや、まさかあんな緊急招集の場で俺の正体が明かされるとか不覚すぎて……」

 

「肉弾戦最強な大佐ってコマ○ドーじゃん……あ、ここにいる天龍や龍田たちは宍戸くんのことを多少知ってるとは思うけど、この人って事実と妄想をごっちゃにして話すから信用ならないよ」

 

「そうだったのか……カッコいいと思ったんだけどなぁ……」

 

「「「え?」」」

 

「あ、い、今のなし!! 何でもねぇって! つかコッチ見んなよ!」

 

 天龍、俺の妄想をカッコいいと言ってくれるのか。

 

 俺の執務室は何故か最低でも一人は関係ないヤツが居て、俺がいると普通は二人きりの執務室が、まるでお泊まり会のような雰囲気でワイワイワイワイと……。

 

 実際あのとき、蘇我提督が訂正を入れたのだが「俺のほうがイケメンなのに……」とか「俺のほうが可愛いのに……」とか「俺のほうが階級高いのに……」とか抜かしてて、最終的には古鷹は渡さないとか言い出す所存。

 

 この非常事態に随分と悠長な……まぁそれだけリラックスできてるんだったらいいんだけど、基地から見える範囲にでも来られたらたまったモンじゃないぞ。実際に来られた防衛戦を何度か経験している俺が言うんだ。

 基地の防衛と本土防衛圏は今更教科書を取り出すまでもないし、一番肝心な国民の避難を済ませた後、やるべきことは全軍をもっての連携を取ることにある。

 

 長崎駐屯地連隊長、及びその上司だがコネクションの深い師団長には既に話しは付けてあり、空軍の協力も微力ながら受け取れると言われた。

 

「宍戸さん、連隊長さんから支援弾道ミサイルなどを配備完了したとの報告をもらいました! 提督へは……」

 

「陸軍、空軍共に準備完了って伝えておいて。空軍って戦うだけで深海棲艦の艦載機攻撃によるパイロットの死傷者が出る可能性が高いんだけど、国土守るためだから仕方がないよね……まぁ命と100億相当の戦闘機は無駄には出来ないからガチでヤバイ状況だと思ったら出撃してもらおう」

 

 そろそろ安価な無人機でも作ってほしいところだけど、技術に回す資金が足りなすぎるし研究費が膨大すぎる。アメリカ辺りはやってたような気がするけど、未だに戦闘効率は悪く、随時更新中なんだとか。

 

「あん? じゃあオレたちが前方で戦ってる間アイツらは高みの見物かよ?」

 

「戦闘効率を考えて航空支援は陸軍と一緒にやってもらうのが一番なんだ。海戦時の作戦も用意してあるから、詳細は作戦資料の他軍連携欄を読んでくれな。まぁ大したこと書いてないから、普通に戦ってるだけでいいんだけど。空軍にはそのためのデータを送信してあるから問題はないはず」

 

「仕事が早いわねっ~」

 

「そりゃ早くなきゃ駄目ッスよ龍田さん! コッチには司令官クラスが三人もいるんですから、指揮が滞っちゃ駄目なんです」

 

「つっても一人はあの柱島の提督だろ? あとは正式な司令官と、お前と……てか、よく考えたらなんでお前が執務室で仕切ってんだよ!? 副司令官だろお前!?」

 

「ほら、適材適所って言うでしょ、俺は全体を仕切るのがうまいからここでふんぞり返ってるし、みんなもまだ俺のことを司令官って呼ぶ。一方で正式な司令官は斎藤司令官で、あの人はデスクワークと準備、そして細部に渡る人事調整みたいな後方支援に特化している。パワーバランスが崩れてても、それが一番良い形で立っていれば問題ない」

 

 半分嘘だお。本当は自ら艤装の視察に行っている司令官の代わりにここに座ってるだけ。

 

「そういうものか……?」

 

 首を傾げる天龍と龍田さんに、遠征をしてきた経験を活かすため、万が一に備えて長距離任務と奇襲作戦を担当してもらうための準備命令とその詳細について話した。各部門を担当する士官たちや艦娘たちに基地内無線で命令を出しながら、大まかな書類の修正、及び作成を行う。

 

 大規模な防衛作戦が始まる……が、作戦そのものは簡単だ。

 要は遠距離ミサイル攻撃を行って数を減らして、残った敵艦隊が基地に迫ってきたら艦娘たちが出撃して倒す。

 

 迫ってきている数と質、そして突然進軍してきた……という点を除けば、大したことはないし、実際に勝てる戦いである。

 だけどそれ以上に失敗が許されない戦いでもある。足並みが揃わなければ駄目になるし、反攻作戦のために募っていた艦娘やミサイル艦艇が無様に敗北する結果はどうしても避けたい。連合軍の敗北は単なる欲張りの失敗例だが、コッチは本土決戦なんだ。すなわち、敗北は国家そのものへの大打撃を意味する。

 

「分かったか時雨? 俺たちは国土と国民とその意思を守る勇敢なる戦士であり、お好み焼きチップスみたいな邪道非道菓子を貪るアホじゃないんだよ。分かったらその脂肪の塊をさっさとこの執務室から除去して、みんなと一緒に深海棲艦と戦う準備をしおー」

 

「は? 最高に美味しいし、宍戸くんの味蕾は塩と砂糖の判別しかできないの?」

 

「提督さん、まさか関西風と関東風の違いが分からんとか……ないよね?」

 

「いンや! 谷風は味蕾がない可能性に一票だね! 提督は忙しすぎてたまに丹精込めて作られた艦娘からのお菓子を「あぁはいはい、うまいうまい」と! 乙女が一番傷つく無関心系の返事をしてしまった経験があると見て間違いない!」

 

「ほ、本当ですか提督? 最低です。ご老人でも不味い美味しいの区別はつくと思います」

 

 ほっほっほ、いつの間にか第十七駆逐隊が来て俺に罵声の嵐じゃわい。司令室に入ってきた途端に司令官をイジる事を許す寛大な心を持つのは海軍広しといえど俺だけ! 俺の沸点……高すぎ?

 

「なるほど、だからこの間、この磯風が焼いた秋刀魚を不味そうに食っていたのだな?」

 

「君は味見をしてから料理を出す努力をしなさい間宮さんもいるんだから……おい、なんでお前ら俺の事をそんな最低男を見るような目で見るんだ? お前ら磯風が焼いた秋刀魚食ったことないのか? 炭の味がしたんだぞ」

 

「うちらが食べた時は普通に美味しかったけど……」

 

「あ、それオレも食べたことあるな。うまかったぜっ! 龍田も食わせたらうまいって言ってたし!」

 

「文明の進歩は素晴らしい。パッケージに書いてある通りに焼いたらとても美味しくできた……」

 

「はッ? なんで俺の時だけ文明の進歩を使わず七輪焼きなの? なんで俺のときだけ我流なの? なんで俺のときだけ焦げてたの? 怒らないから教えなさい」

 

「だって……司令には……私の手作り、食べてほしかったんだもん……」

 

 ……は?

 え、なに恥ずかしそうにスカート掴んでるの? なんで頬染めて俯いてるの? なんでそんなに可愛い喋り方してるの? イソカゼちゃん……?

 

「「「じー……」」」

 

「宍戸くん? 分かってるよね? ここで突き放したら、磯風は病んで一生男の人を嫌う男性差別主義女子になるか、いま阿修羅になって宍戸くんを殺すかの二者一択なんだよ?」

 

「……ごめんな磯風、俺が悪かったよ。俺ってちょっとツンデレな所あってさ、女の子の手作りなんて食べ飽きてるぜー? みたいに反応、歳甲斐もなくつい言っちゃうんだ。悪いと分かっていても、カッコつけたいのが漢だし、かえってそれが裏目に出ちゃうのも、また漢なんだ……もし、こんな俺を許してくれるんだったら……もう一度、俺に磯風の手作り秋刀魚、食べさせてくれよな? 今度はちゃんと、俺の本心から、”美味しい”って言うからさ……」

 

「あぁ……私こそすまない。私らしくない反応を示してしまってっ。実は、丁度司令に秋刀魚を焼いてきたんだ……もちろんオーブンを使わず、七輪でっ」

 

「あ、うん、結構用意がいいんだね……うん、食べるよ」

 

 防衛作戦は既に始まっていると言っても過言ではない状況。いつ作ったのかわからないが、最悪始末書を書かせる必要性を念頭に入れながら、丁寧にアルミホイルで巻かれた秋刀魚を開け、割り箸で中身を解す。

 

 食べれる部位を箸で掴んで口に運ぶが、

 

 これ、どう見ても焦げてるよね。

 

「…………」

 

「ど、どうだ司令? 美味しいか?」

 

「中身のゴリゴリした感触と程よい炭の味が絶妙にマッチしてオイシイ」

 

「提督、それ素直に美味しくないと思います」

 

「だから言ったでしょうッッッ!!!? なんでこんな焦げてるの!? 七輪で焼いたほうが美味いとか老害が不定期に発信する迷信だからッ!!! 今度は絶対にオーブンで焼きなさいッ!!!」

 

「ば、バカな!? オーソドックスな手法で焼くものは古来の味がして大抵はうまくなると聞いたのに!!! 現代技術は簡単に作れるから科学の味がすると私は……!」

 

「古来か、未来か、それを選ぶのは磯風、お前自身だ。科学や技術というものは時代を重ね、不承ではなく必然的な進化によって塗り替えられていくものなんだ。オーブン時代に生まれた俺はオーブンで焼いた秋刀魚の方が受け付けやすい。ごめんな」

 

「ば、バカな……単に司令の味蕾には未来がないだけなのでは……?」

 

「うまいこと言ったつもりか秋刀魚食わすぞ。つか何しに来たんだ? こんな非常事態にわざわざ秋刀魚を俺に食わせて地獄を味合わせるために来たわけじゃないだろう?」

 

 深海棲艦の大群が来るまで残りぃ~数時間!

 こんな所で油を売りに来ている第17駆逐隊は遊撃部隊として設置した。これはね? 暇だから何処に居てもいいってわけじゃないし、一般的には一番難しい立ち回りを任されているようなものなんだお?

 

 だからお前たちは準備運動や精神統一でもして、深海棲艦とたたかおーねー?

 

 

 

 と言っている間に警報が鳴る。

 

「っ!? テメェらこんなところで秋刀魚売ってる場合じゃねぇぞオイ!? さっさとイけ!! 行かないと俺とキスして交尾させるぞォ!! あ、それはむしろご褒美になっちゃうか、あはは。あ、恥ずかしかったらハグとか、手を繋ぐだけでもいい──」

 

「「「第十七駆逐隊抜錨ッ!!」」」

 

「…………」

 

 …………。

 

「天龍に龍田さ」

 

「いくぜぇ龍田ぁ! ここが腕の見せ所だ!」

 

「張り切っちゃってぇ……天龍ちゃん、かわいいわ~っ」

 

 …………。

 

「ねぇ、時雨ちゃん」

 

「時雨、いくよ!」

 

「…………」

 

 俺のセリフの三秒後には部屋を飛び出しているみんな。

 一人取り残された俺。

 鳴り響く警報。

 

 そうか、そんなに嫌なのか。

 

 ふーん。

 

 

 

 深海棲艦を皆殺しにして憂さ晴らしだ。

 

 


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