整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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九州防衛作戦2

 

 出撃所前の指揮管制塔。

 

 さーて、急すぎて名前が安直すぎるが壮大すぎる九州防衛となった戦いに強制的に繰り出された俺。

 攻勢に出るはずだったが、まさかの防衛!? 

 こんな面倒くさい事を押し付けようとする連合軍とかいうクソザコも、面倒事を持ってくるクソカス深海棲艦も、皆まとめて葬るわよォぉ!!!

 

 少なくても第四鎮守府並に増えた長崎警備府の大規模艦隊を満足に出撃させるスペースを確保出来なかったが、これは警備府増築以外に方法がないので仕方がない面もある。

 しかも俺はちゃんとこれを考慮に入れて、普通は出撃困難な場所から出撃させるための臨時出撃所を浜辺に予め作ったりしたんだが、予想以上に同時出撃を決行する艦娘が多かった。しかもこの数に合う整備工作班がいないので、彼らには普段以上のハードワークを強いる上、ローテーションを整えるのが困難だったが、各部署から経験のある者を整工班に回したりしていた。が、今度は俺の直轄の部下がいなくなった。

 

 既に防衛作戦に参加する艦隊を出撃させている。

 諸事情から、必要以上に予備戦力を温存している状態だが、これ以上出撃させるのは流石に整工班へのプレッシャーに関わるので、彼女たちの出撃はこちらでコントロールさせてもらう。

 出撃中の艦隊が帰ってくる時に混雑する可能性もあるんだから、細心の注意を払っておく。

 

 一番心配なのは敵戦力の数についてだ。

 責任転嫁を図るわけじゃないけど、もし万が一この状況の説明を要求されたら、俺のせいじゃないと言い張るだろうし、どうにもできないことではあるが、言われれば、出撃する艦隊をもう少し増やしていたはずだ。言い換えれば、そのための備えはもう少し整えられたのに……。

 

 敵の数、ざっと数えても200隻以上。

 

 予想の倍。

 

 しかも”以上”と付いているので、正確な数字じゃない。希望的に見てもその数を下回ることは無い。

 

 連合軍の艦隊を追っていたのか、五島周辺海域から迂回して来ているため、赤城提督麾下の精鋭艦隊率いる佐世保主力艦隊に、敵本隊が当たるようになっているらしい。

 

 戦力が集中している所に来てくれるのは奇跡としか言いようがない。

 佐世保鎮守府は陸軍、空軍のバリスティックミサイル、対艦ミサイル、誘導ミサイルなどなど、ミリオタが見たらさぞお喜びになりそうなラインナップを配備している。

 当然、大砲なども完備しているが、並べられたミサイルに比べたら焼け石に水である。

 

 佐世保鎮守府に駐留するイージス艦もミサイルを打つ準備を万全にしている。民間に被害が及ばないように、一匹残らず蹴散らす必要がある緊張感の中、ようやく大型兵器を使用する機会が来たと喜びに叫ぶ陸海空の全軍。

 

 ミサイルなどの類は深海棲艦に、建造費と維持費の割には命中率の面で効果が薄い。だが、これほど一辺に使用する事ができれば、かなり数を減らせると予測している。何より爽快感があるはずだ。

 そして一番の理由は在庫処分。

 ミサイルには消費期限があるため、それに合わせて深海棲艦に向けて発射するなど、効果的に使用されるケースは少ないが、こんな大作戦で本来の使用用途を最大限に活かすのだから、喜んで協力を申し出ているのも頷ける。何より、深海棲艦の大群が迫っている今、ミサイル活躍の場としては絶好。

 

 見せてくれよ、お前らの実力を!

 

『あ、着弾した!! あ、ガァ~対艦は外したぁ~! あ、いけ! お、そこ、そこそこそこそこだ!!! あ、クッソ~また外れたよ。あ、アッチのヤツまた外れたわ~クソ!』

 

「こちらは長崎艦隊副司令の宍戸大佐である。競馬グルイのオッサンがよくやる今世紀最低級に下手な実況やめろ」

 

『す、すいません。競馬は行ったこと無いんですが、本当にこんな感じなんでしょうかね? よく言われるんですが』

 

「正しくそんな感じ、それより状況報告を求ム。さっきから求めてるんだけど、早くしねぇと絶海の孤島に左遷するよ?」

 

『は、はははいッ! 陸軍と空軍合わせて、かなりの数を撃っているのですが、撃沈できたのは23隻ですね。3隻ほど中破で、5が小破です。やっぱり遠距離から倒せるのってイイっすよね……もうミサイルが空っぽになりそうですけど』

 

「かなり撃ってると思ったのにその程度しか撃滅出来ぬのか貴様ラァ!!!」

 

『ひ、ひぃぃぃい!!! お、俺はただの連絡役で、陸軍と空軍関連の兵器運用には一切関わっていないので……』

 

「すまん、冗談だ。俺たちの近くだけで23隻だから、佐世保鎮守府周辺はもっと撃破されてるはずだし、こっちに向かってる分の深海棲艦は弱体化できたってことか……ありがとう、指示があるまで一時待機命令を願いたい。そう連隊長と大隊長には伝えておいて」

 

『ハ!』

 

 隣にいる荒木大佐にさっさと状況報告を佐世保鎮守府に送れとケリを入れて、本隊として配置している前方の艦隊の旗艦、飛鷹に合図を出す。前進する艦隊は、機動力に自信がある天龍や初霜たちを奇襲艦隊として配置し、ヒットアンドアウェイでちょくちょく攻撃しながら島から離すように誘導して、佐世保本隊が敵艦隊の側面を攻撃するだけで、深海棲艦は撃滅できる。

 

 現状、敵艦隊全体の動きとしては、ほとんどが佐世保に向かっていると予想している。

 

 外国艦のみんなには更に迂回させ、遊撃部隊と同じような立ち回りをさせながら、フラッグシップがいる深海棲艦本隊を攻撃するのを目的とさせている。

 200隻以上の深海棲艦だが、その旗艦を探し出して倒せば殲滅までの工程をスムーズに行える。

 外国艦には危ないが、臨機応変性を求められる任務に付かせた。彼女たち曰く、それが最も戦いやすい任務であり、旗艦も元参謀長のオイゲンさんが戦闘にいる。オイゲンさん自ら申し出た前線指揮官の役だが、俺的には司令官として俺の側にいてほしいなっ。なんちゃって。

 

「宍戸さん! 第八艦隊、第九艦隊の遊撃部隊は敵艦隊を撃滅したようです!」

 

 村雨ちゃんは司令室から走ってきたのか、若干息を切らしながら報告する。

 

「ありがとう村雨ちゃん。そろそろこの管制塔じゃ無線が届かなくなる距離にいるだろうし、俺たちも執務室に戻りましょう荒木大佐。斎藤司令官と一緒に司令室で朗報を待ちましょう。月魔と整備経験のある連中は引き続き整工班のサポートに付いてくれ。戻ってくる艦娘たちの帰還をなるべく円滑に行いたい。残った参謀部からきた補佐役は通信班と一緒に書類作成を急いでくれ。デカイ仕事な分、事後処理っていう面倒くさい後仕事はできるだけ楽にしたいからさ」

 

「「「ハ!」」」

 

「う、うん……」

 

 数人の士官は各自、持ち場に飛んでいった。

 村雨ちゃんが持ってきてくれた人事詳報、必要資材状況を読みながら執務室に戻っていく。

 

 執務室。

 

「宍戸か、たった今深海棲艦の本隊と交戦しているとの報告を受け取ったぞ。うまく敵を囲んで居るようだな……」

 

 司令官は忙しく通信を試みている親潮を傍らに戦略地図に顔を向けている。状況を把握し、先、そのまた先を読んで判断を下す……これこそ、未来の大艦隊を統べるに相応しい提督の姿である。

 

 まぁ彼自身は軍学校で優等を取るほどの秀才なので、佐世保周辺海域の各艦隊の状況なんて写真を見るようなもんだろう。

 

 彼は今、所謂、”忙しい状況なのは分かってるけど、この合間はやることがなくてそわそわする”状態。

 

 大本営から送られてきた補佐官は黙々と大本営との連絡をとってるみたいだが、特に無線が混雑しているとか、口を動かすのに忙しさを感じてる様子はない。

 

 何もかも順調に思えるが、この状態の維持は大変である。強いて問題があるといえば、市民を避難させないといけないことだけど、早めに打たれた手によってかなり早い段階でシェルターに避難させることができた。

 

 こんな簡単な敵になんで連合軍の艦隊が負けたんだろう……いや、これ以上の深海棲艦の艦隊がいた可能性もあれば、陸上支援や海軍の陸戦基地攻撃隊がいなければより戦況は悪化していたはずだ。

 いま向かっている数以上の深海棲艦も予想できるため、警備府は俺の指示で整工班や基地に待機する艦娘に攻勢準備をするようにと命令している。現状を見るに、敵艦隊は効率的に倒されてるけど何れは防衛圏を突破される。

 

 一生懸命、可愛らしいお口を動かして秘書艦としての通信役をこなす親潮が嬉しそうに報告してきた。

 

「司令! 艦隊の八割が壊滅したそうです! もちろん、敵艦隊の!」

 

「よしッ、外国艦はテンション上がってるはずだから一匹残らず撃沈してくれとみんなに伝えて」

 

「わかりました!」

 

「あー宍戸、手持ち無沙汰というわけではないが、流石に私だけ何もしないのは気が引けるので仕事を……」

 

 それ俺に聞く?

 

「他の要港部からの援軍要請がないかを随時チェックしてください。要請がない場合でも手が空いている事を諸港に知らせておけば自然と連絡が入ってくるはずですし」

 

 任務に無頓着な准将じゃないんからもう連絡は入れてあるだろうと俺は思ったけど、司令室から出て行ってもらっても困るし、余裕を持てるのはいい予兆だし。

 

 さて、次は報告の時間だ。

 膨大な数の深海棲艦を相手に、我が艦隊は圧倒的練度と集中訓練で磨き上げた驚異的な戦闘効率特化により敵艦隊を撃破。余る戦力は即時他港へと救援に向かわせる……フッ、これぐらい書けば、この警備府の重要性は更に知らしめられる事となる。

 補佐官さんや秘書艦ちゃんたちが各方面に俺の言葉を書き記し、各基地に向けていった。

 

「というより、司令とその席代わったらどうですか? ハッキリ言って司令がそこに座ってるほうが士気が上がると思います。主に私の」

 

 この親潮、司令官に対してなんて辛辣な事を……。

 

「し、しかし私はここ長崎警備府の司令官として、この席を離れるわけには……」

 

「邪魔です、司令の雑用でも手伝ってください」

 

「────」

 

 あ、司令官のメガネ曇ってる。この人泣きそう。

 親潮ハッキリ言い過ぎィ! 軍人としてのキャリアも、存在そのものを否定されてた斎藤准将。モフモフした髪の補佐官はジト目。多分この部屋にいる全員が思っていることだろう、闇落ちしませんように、と。

 

「仕事を奪ってしまい申し訳ありません。しかしここまで来てしまった以上、誰が指揮してても関係はないです。なので、心苦しくはありますが、司令官の成すべき事をされるのが吉かと。あ、じゃあできれば、俺があまり知らない第7から第10艦隊の指揮もお願いします。彼女たちが今回の主力なので」

 

「分かった、そうだな。ついでに後処理が楽になるように書類作成でもしているぞ……荒木提督、手伝ってくれるか?」

 

「え? ぼ、僕はあまりそういうの得意じゃないと思うけど……が、頑張るよ」

 

 じゃあ、お前何が得意なんだよ?

 と心の中でツッコミを入れ、部屋の隅にある通信機器を二人で弄り始めた司令官二人。

 

 まったく、誰がトップなのかは知っているくせに俺が未だに司令官だと思ってるヤツが多すぎる。だがそのクセ、持つ威厳の差は、下っ端ら捧げられる敬礼と態度の違いから、誰がより畏れを得ているか一目瞭然である。

 ここのみんなは顔見知りだが、一人だけ俺が名前を知らない人がいる。

 一段落して水を口に含む補佐官さんに近づいた。

 

「俺は副司令官の宍戸です。よろしくね補佐官さん」

 

「叢雲よ、噂はかねがね……よろしく」

 

 なんかドライな人だな……しかしそのミニスカ黒ストは良し。

 

 適当なパイプ椅子を引っ張ってきて、村雨ちゃんは俺の隣に立つ。

 さて、副司令官は制度上存在するだけで今やほとんど見ないタイプの役職。ここにいたところで俺の指定席なんて存在しないから、外を回って斎藤准将への連絡がスムーズになるようにするぐらいが限界だが……村雨ちゃんも、准将たちと一緒に連絡を取っている。

 クソ……村雨ちゃんが‥…他の男と喋ってるなんて……! クソ……あんな親密そうに……! あのデカパイは俺だけのモノなのに……!

 

「宍戸さん、天草要港部と荒尾要港部が苦戦していると言っていますが、どうしますか?」

 

「は? アッチは防衛作戦に参加してないでしょ!? それに大牟田警備府は何してるの!?」

 

「……今拾った情報なのだけど、防衛作戦で阿久根要港部が戦ってた敵の分艦隊が、そっちの方面に逃げていったらしいわ。6隻の機動艦隊だけど、エリート艦も編成されているから苦戦しているんじゃないかしら」

 

「流石は大本営から送られてきた叢雲さんだ。地域情報にあまり詳しくなくても、あちらには深海棲艦があまり来ないから練度と経験が低い事を瞬時に理解してしまうなんて」

 

「こちらに来る時、資料を読んだのよ。それに、艦娘の数そのものが少ないってのもあるのかも」

 

 いやぁ、デキる女って感じでエロいわ。

 格好がエロい。

 ホント目の付け所に困るぜ。

 

「そのとおり、戦ってない分練度が低い。そして艦娘が少ない。逆にこっちの警備府は多すぎる。ワケ分かんねぇこの人事……神風たち向かわせてくれ村雨ちゃん。軽空母も含まれてるんだっけ? 涼月なら防空は完璧だろうが、念のために天龍たちに編成されてる艦隊も連れてって。高射砲付けてる駆逐艦何隻かいるでしょ」

 

「はいっ! あ、白露さんからです! え〜宍戸くん、まだ出撃しないの? ですって」

 

「そろそろ行くのでおとなしく待っててくだちゃいね~って伝えて」

 

「りょうかーい! あと、なんで赤ちゃん言葉なの~? とのことです」

 

「警備府内にいるのに電話使わないの~? って返しておいて」

 

「じゅうでんきれてる~、だそうです」

 

 相変わらず緊張感のない白露さん。

 

「あ、今度は隼鷹さんからです。 防衛圏なんちゃらからはみ出そうなんだけどいい~? です」

 

「防衛圏なんちゃらってなんですかッ? 普通に第二防衛圏だからそれぐらい覚えて……あと、そこからは絶対にはみ出ないで、出たらイージスミサイルとか陸上支援ミサイルの標的になって最悪死ぬ。艦娘が戦うのは第二防衛圏内まで」

 

 防衛圏の構築もまた、俺たちが有効に戦える要素の一つである。先人たちが地の利と戦闘情報と研究成果を最大限に活かして何年もかけた戦闘指南書は、連合軍の艦隊が来て人間同士の撃ち合いになったとしても負けない、負けるはずがない。

 

「ノック無しですが失礼します宍戸副司令官。我々整工班は攻勢準備を終えました。鎮守府から授かりました輸送船は、輸送船団へと変貌を遂げています。”行け”の一言で、我々は出港できます」

 

 なんて仕事が早い人なんだダンディー班長……!

 

「ありがとうございます班長♂」

 

「攻勢の準備とは……まさか、貴様前線に行く気か!? 我々はここで戦っていれば大丈夫だろう!? なぜ前線なんかに……」

 

「あくまで準備だけです。現状では有利ですが、物量で防衛圏が危ぶまれる可能性があるので、行動可能範囲の拡張とその補給線を確保するための準備を指導するためですが……当然、出撃中の艦娘も多いです。艦隊同士が近づきすぎて万が一、電波障害で指令が出せなくなったなどの対処でもあります。もちろん彼らを前線に出さないのが一番良いのですが、動ける時に使える物を配置しておきます」

 

「そうだったのか……ん? そこにいるのは、ベリングハム少佐か?」

 

 ドアの方を振り向くと、班長の隣でドア付近に手を置きながら呼吸を整えるベリングハム少佐の姿が。参謀部と連絡役を一挙に遣わされているので忙しいはずなんだが、何をしに来たのか尋ねる前に要件を叫んだ。その挙動に全員が彼を振り向いた。

 

「た、大変です!! ぼ、防衛ラインが破られました!!! 現在鎮守府付近まで敵艦隊が迫っています!!」

 

「もう破られたのか……整工班と待機中の艦娘には悪いけど、早速出撃準備だぁ……ほとんど置いていくから、来るのは指定した最小限の艦隊、かつ航海中は適当な要港部を拠点とする事になりそうだけどね。長崎警備府のプランBの発令は斎藤司令の判断でお任せします。その通りに艦隊を動かしますので、それじゃあ村雨ちゃん……いける?」

 

「はいっ! みんなが戦ってるんですから、私も戦いたいです!」

 

「よし! 斎藤司令官、例の反攻作戦の件は……」

 

「ん? あぁ、反攻作戦を計画した艦隊の編成の事だな。ほぼ済ませてあるから心配はするな。だから、警備府の一部が休んでいるのはその為だと、皆にも触れ回ってる……」

 

「了解ッス! じゃあレッツゴー!」

 

 

 ーーーーーーー

 

 

「あ、ちょッ!! ……行ってしまわれましたか……って、足早!? 相変わらず行動が早い人ですね。私の腰捌きに勝るとも劣らない」

 

「ははは……」

 

 宍戸副司令官と秘書艦村雨の俊足を前にして驚くベリングハム少佐と、苦笑いを見せる洪班長。斎藤准将は引き続き警備府内の情報管理と意思決定……更には防衛作戦のせいで破棄されていたと思われていた反攻作戦の計画準備も執り行っていた。

 これは他の主要な要港部と鎮守府でも成されている事であり、防衛作戦を成功させた後、反攻作戦が行われる事を意味していた。

 

 班長は、少佐の神妙な顔を見て違和感を感じているように思えた。

 彼らが交わした二度の相槌にあまり関心を持たなかったのか、誰もその会話を聞くこともなく、また彼ら自身もそれを重要視するような素振りを見せなかったが、ベリングハム少佐が感じていた”何か”は的中していた。

 

「どうかなされたのですか?」

 

「いいえ……今まで順調に進行を阻止していた我々の攻撃をこうも容易く貫かれるのに対し、少々疑問を抱いていただけです。敵艦情報の詳細が確認できなかった事も、少し違和感があります……接近している敵艦隊には、何かあると思うんです」

 

「確かにそうかも知れません……しかし、どのような敵がこようとも、今できることは迅速なる対応、それのみです。宍戸副司令も、最小限の損害を望んでおられます。そのためには、最短での殲滅を要します。我々も彼の指示に従い、全力を尽くしましょう」

 

「そうですね……では」

 

 走っていく班長の後ろ姿を見送るベリングハム少佐。

 

「クッ……あぁいうイケメンアジア人男性が好みなのですかッ? 私もそうですがねッ? クッ……CPT.SHISHIDOォォォ……」

 

「Birmingham落ち着いてください! 彼はもう出撃所に行きましたよ! それに今はそんな状況ではないでしょう?」

 

「あぁ……って、何をしているんだいSara? ここは君の所属ではないのだし、緊急事態だからとはいえ、防衛作戦に参加する必要はないとCaptainにも言われただろう?」

 

「ですがSaraだけなにもしていないなんて、我慢できません。私も、何でもいいのでお手伝いしたいです……」

 

「なんでも、か。それをCaptainに言ってあげてたら喜んだだろうな……私の権限でどうこうできるものではないが、もし良ければ通信部を手伝ってくれ」

 

「はい!」

 

 執務室から出ていく二人の外国人を尻目に、斎藤准将はこう思った。

 

「すぐ隣にその権限を持つ私がいるのに、何故私に許可を取らなかったんだ? 私は司令官として相応しくない人間だと思っているのか、或いは司令官として認識していないのか……」

 

「り、両方だと思う……」

 

「荒木大佐、貴様にだけは言われたくはない。晴れて貴官の上官となったこの日、貴様には言うことが山ほどある。丁度連絡と第10艦隊への指示も終わったところだ。貴様を一流の提督となれるようにみっちりとシゴイてやる」

 

「ひ、ひぇぇ……」

 

「ざ、ザラです、失礼しますっ! 参謀部から資材情報を持ってきました! そして、提督が斎藤司令官にどうしごかれるのか見に来ちゃいましたぁ! ザラ、すっごく気になります! わくわくどきどきっ」

 

「資材情報ありがとうございますザラさん! でも司令と荒木大佐の絡みは見なくてもいいと思います。いい年した男の人が絡み合うなんて気持ちが悪いです。身内だと3倍ぐらい増してキモいです」

 

「親潮、この私を泣かせたいのか?」

 

「え、私が気にするとでも思ってるんですか?」

 

「────」

 

 仕事をしている最中に冗談の言い合いや、絡み合いが発生した執務室の中、一人モフモフと大本営や通信部との連絡と書類作りをこなす叢雲が呟いた。

 

「……今って、防衛作戦中なのよね……噂通り、イカれた警備府だわ……」

 

 

 


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