整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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超緊急会議

 

 

「よく思うんだけどなんで俺がクソみたいな前線に出なきゃいけないの? 別に危険がいっぱいファ○キン前線が好きだから出てるわけじゃないんだぞ?」

 

「秋津洲も前線に出されてるかもッ! 文句言うのは無しかも!」

 

「最初からその予定だっただろうに……というより、宍戸は急に率先してやりたいと張り切り始めただろう? どうしたんだ急に……」

 

「だって仕方がないじゃないですか!? 調べたら俺の代わりって、特攻弾正少将とか一億玉砕少将とか聖戦完遂大佐とか本土決戦准将とか、絶対に前線任せちゃいけないタイプの人多すぎるんですよねェッ!? 俺が頑なに拒否したら、ソイツらが俺の可愛い艦隊を指揮するってェ!? できるわけ無いでしょうガァ!! 本当は武闘派を人事編成からなるべく退けたかったですが、ちょくちょく編入されている所を見る、左遷は間に合いませんでしたねッッ!!?」

 

「特攻とか聖戦とか、それは彼らの本名じゃないんだが……」

 

「で、でも宍戸さんが前線に出るって宣伝した甲斐もあって、今度は勝てるかもしれない! って雰囲気になってるので……」

 

「俺は祭り神じゃないんだから……古鷹、俺が前線に出てそんなに嬉しいの?」

 

「え? ち、違いますちがいます! ……本音を言えば、危険な任務には行ってほしくないです」

 

「はは、大丈夫だよ。前線なんて俺の辣腕を振るえば危険でもない。古鷹は……何も心配しないで。ただ、俺の帰りを心待ちにしてくれれば、それでいいんだ」

 

「は、はいっ!」

 

「お前ノリノリなのかそうじゃないのかハッキリしろ」

 

 まさか結城司令官にツッコまれるとは。

 

 司令室の隣の会議室。

 出席しているのは軍令部から特別に前線指揮官として出撃する秋津洲さん、兵站担当の大鯨さん、柱島艦隊の外国艦を束ねるオイゲンさんと荒木大佐、阿久根要港部でなんとノーダメ防衛に成功した結城司令官、赤城提督、俺と秘書艦たる村雨ちゃんと、その他。

 

「決行時刻は最速で明日の早朝としたいのだが、異論はないか」

 

「参加する艦隊の整理は終わってますが、近くに漂流した海外の将兵の方々はどうするのでしょうかぁ……?」

 

「それ秋津洲も聞きたかったかも! 秋津洲たちには関係ないけど、命に関わるんだったら善は急げかも!」

 

「いいえ、厳密にはうちら関係ないワケじゃないみたいッスよ?」

 

「どういうことなのユーキ?」

 

「美人な皆さんに説明させて頂くと、漂流先は主に端島や下甑みたいな日本列島の一部なんです。地理的にコッチが救出に向かうほうが何倍も早いですし、人は住んでいないですが、沖縄みたいな放置地区ではなく、コッチは規定防衛圏内の島ですから……」

 

「その件だが、もう救出艦隊が向かっていると鹿児島警備府から連絡を受けたから問題はない。君たちには、ただ沖縄作戦に集中してほしい」

 

 予定していたとおりの編成を組んで行う反攻作戦。

 人員導入数はかなりの数で、正に第二次攻撃と称してもいい。

 

 蘇我提督から既に聞いたことのある詳細を再度頭に叩き込み、作戦実行の早朝まで休むのが、今回の目標である。

 前線では秋津洲さんとオイゲンさんという、スーパータッグがいる。俺達の前線に隙はない。

 

「では、反攻作戦発動までに基地へと戻り、疲れを取ってくれ。この事は長崎警備府始め、参加する諸港に私直々の命令として触れ回っている」

 

「「「ハッ!」」」

 

 

 

 

 明日へ向けて各々持ち場に戻る中、赤城提督は浮かない顔をしていた。彼女はこの作戦に参加していない。

 彼が行った人事ではないが、蘇我提督は気負いした表情で赤城提督に伺う。

 

「……本当に、よろしいのですか赤城提督? 先の作戦では撤退戦を指揮を振るわれた観点から見ても、大淀総長が貴女に謹慎を言い渡すなど、あまり得策ではないと思いますが……」

 

「いいんです蘇我総司令。軍令部からの命令とあっては、こちらも従わなくてはいけませんから……というより、そもそもこの作戦には参加するつもりはなかったんですが」

 

「赤城提督が保守派であるのは百も承知です。この作戦には批判的であると理解した上で、失敗した前作戦に参加なされたのではないですか? 今回の作戦は返上の機会であると私は……」

 

「……いいえ、私は一次作戦、艦隊編成、防衛の指揮を休まずに行ってきました。そろそろ休んでも、文句は言われないと思います。私たちの部下が、そう海軍省に進言したとなれば、致し方ありませんね」

 

 本来、赤城提督が外されるのは艦隊の士気に関わり、また部下から慕われている故に、反発を食らうはずだが”赤城提督は第一次作戦、撤退戦、防衛戦をしてお疲れだから無理させるな”という一部、部下たちの進言と流言が幸いして大きな反発を呼ぶことはなかった。

 

 蘇我提督は当然知っているが、赤城提督の部下たちを説き伏せたのが宍戸大佐の一行だった事は後で分かる。

 

「そうですか……赤城提督の艦隊も反攻作戦には批判的だったのは、確かに覚えていますが……」

 

「何れにせよ、私個人としては気乗りしない作戦です。何事もない成功を祈っています……加賀さん、ごめんなさい」

 

 

 

 

 

 

 長崎警備府の寝室。

 戻ってきた時はもう夕方になっていた。全員自室に籠もり、明日の大規模反攻作戦の為に疲れを癒やしている。

 

「宍戸、明日の大規模作戦についての詳しい説明はオイゲン中佐から説明を受けた。それでどうだった? 私一人のけ者の会議は」

 

「なに不貞腐れてるんですか、同期の中で一人だけ出席してなかったぐらいで。急だったんですよあの会議は。俺が行かなかったら斎藤准将が来てたんですよ?」

 

「私は一行に構わなかったぞ」

 

 この人、面倒くせぇ。

 元々やるつもりだったのは知ってる、だが、まさか俺が前線のフィクサーとなるように、総長自ら念を押してきたのは意外だった。

 言われずとも、命がかかっている以上は最善を尽くすのが道理だが、ある意味この作戦の不安定さを示唆していた。

 

 いや、蘇我提督はかなり自信を持っていたし、一連の作戦について驚くような素振りはなかった。明日にでも出撃し、作戦実施できるようにと、常に体制を整えろというのは軍令部からのお達し……クソ、楽できない。

 

「オイゲンさんから聞いたんだったら作戦計画内容と艦隊編成は理解してますよね? 前線は斎藤准将が指揮を取るんですからもっとシャキっとして下さいよ……ていうか、早く自室に籠もって寝てください。丁度そこにいたからってのもあるけど、休ませるためにわざわざ出席したんですよ」

 

「何を言っているんだこんな時に引きこもって寝れるわけないだろう!? 私には後処理があるし、本番となったら意思決定が主とは言え、貴様のほうが手腕を振るうだろう?」

 

「そうですよ司令! 親潮も、司令に司令してほしいんです!」

 

「親潮、親潮、司令、ソッチ、俺、副司令、オッケー? いい加減にしないと准将泣くぞ。つか昇進したのに祝の言葉ぐらい送ったあげて」

 

「え、親潮はちゃんとおめでとうって言いましたよ?」

 

「あぁ、一言だけな」

 

 不満そうな顔してるから明らかに言葉が足りなかったね親潮?

 一応、俺が目指す提督にはなったんだからもっと喜んでやれよ。

 

「この人の提督は約束されてるみたいなものですからあまり驚かないというか……」

 

「僕もそう思うな。海軍大臣の息子さんなんでしょ? 肩書だけで大企業への就職決まりそう。平社員でも出世は間違い無しみたいな」

 

「ソレソレ! 白露もそう思うけど、最終的には顔で決まっちゃうんだよねー!」

 

「白露姉さんが言うと説得力あるわね」

 

「え、酷くない村雨!? 白露がいっちばーん可愛いからって、それで得したことってあまりないと思うけど〜! ね? 宍戸くん?」

 

「白露姉さんお兄さんに近づきすぎです!! 離れてくださいただでさえ激務で疲れてるのに大きなお尻で潰しちゃうつもりですか!?」

 

「大きくないよッ?」

 

 白露さん真顔で言わないで。

 そんなに気にしてるのか、お尻が大きいのはステータスなんだぞ。

 

「みんな明日は早いんだからさっさと寝て……」

 

「兄貴、自分は多少うるさくても寝れるので大丈夫ですよ」

 

「俺が寝れないんだけど」

 

「私もうるさくても寝れるタイプです」

 

「奇遇ですね! 三日月もそうなんですっ」

 

 ベッドの上で談笑する二人は、体が小さいからそのまま毛布の中に入れば気づかないだろう。だから、一晩一緒に寝てしまっても、不可抗力だろうと妄想を数秒ほど捗らせた後、再度さっさと寝るように伝える。

 

「綾波、第二改装の調子はどうかしら? 少しだけ艤装点検を担当させてもらったけど、操作性や安定性に問題とかは……」

 

「問題ありません! すごく調子がいいと思ったら夕張が艤装整備してくれてたんですね! ありがとうございます!」

 

「あ、熊野そこのお菓子とって」

 

「足元にあるのだから、いつもみたく足指を器用に使って取ればいいではありませんの」

 

「ちょ、それみんなの前で言う!? 鈴谷のはしたないプライベートな全貌、乙女の裏事情バラされてちょっと傷ついたかも〜」

 

 艤装とかギリギリ明日の作戦に関係する事話してんだったら許したけど、ポテトチップス取るとらないとか、クッソどうでもいい事まで持ち込みやがってこのメス共ガァ……! ここは作戦前夜祭会場じゃないんだぞ。

 

 え、まさか、みんなそんな物あると思って来てる? 残ねーん無いんだなそれが。

 

 っていうか、ここ人口密度半端ないぐらいクッソ狭くなってんだよね。俺の寝床も占領されてるし。優しく言わなきゃ聞かないのか貴様らは?

 

「あの……おねんね……しよぉ?」

 

「はい今の可愛いセリフを言うCaptain撮れました。今晩のオカズですね」

 

「お、Okazu? これを見ながら、ご飯食べるの……?」

 

「多分Gambierの思ってる事とは違うと思いますし、今度からはあまり近寄らないようにします」

 

「な!? Sara君はオカズと聞いてなんて不純な事を考えているんだこのエロ艦娘め!」

 

「艦娘は全員エロいだろうがァ!!! つか寝ろって言ってんのに聞こえてねぇのか貴様らァ!? この部屋、狭いんだよォ!! 早く自室で精神統一でもなさい朝早いんだからァッッ!!」

 

「「「…………」」」

 

 ……え、まるで俺が悪いみたいにコッチ見てくるの、なに? え、俺が悪いの? まさか俺の許可なしに部屋で作戦前夜祭開催が決まってたとか? 首謀者晒せ。

 

「……宍戸、この際だから言うが、みんな明日の作戦が不安なんだ」

 

「……え」

 

 神妙に、深く息を吸いながらこちらを見つめてくる斎藤准将。みんなも同様に。

 

「ここにいる全員……いや、来ていない者も含めて、皆成功は疑っていない。ただ、大掛かりな戦いに無事で帰ってこれる保証などどこにも無い……貴様一人を除いてな」

 

「え」

 

「宍戸くんといると何故か全部丸く収まるような感じがして……」

 

「それ分かる! だからってわけじゃないけど、鈴谷たちもなんとなくここに来ちゃったんだよね」

 

「そうです! 司令官の加護があれば、親潮たちの前に敵はありません!」

 

「我々日本海軍の誇りであるFaptain……もとい、Captain Shishidoの前ではこのような試練造作もありません」

 

「我々って……貴方はこちら(アメリカ)側ではないですか……でも、あなたには、どこかそういう、人を”安心”させる力があるのでしょうね」

 

 同じような事を述べて、ここに留まりたがるみんなの表情には、何かを求めているようなものがあった。

 

 そして、ここにはそれがある……そんな雰囲気。

 

「……ぼくもそう思う、かな」

 

「時雨……」

 

 珍しく素直に認めた時雨。

 みんなと同じような不安を抱えているんだろうか。

 白露さんや鈴谷みたいにはしゃぐ奴らや、村雨ちゃんや春雨ちゃんみたいに静かに寄り添う娘たち、上司として信頼してくれる初霜たちも、なんだかんだ不安なんだろう。俺も全員無事に任務を達成できるか不安だ。

 

 そして、みんなは俺といればなんとかなると思ってるのか。

 

 なるほど。

 

「……作戦は成功させるさ、もちろん全員無事でね」

 

「「「……!」」」

 

「って言いたいけど保証できるわけないじゃん!? 准将、俺をなんだと思ってるですか!? 戦神……軍神ッ!? もしかして俺……もう死んでるゥ!? キミトゼンゼンゼンゼンゼン……」

 

「いや、お前が参加した作戦はだいたいどうにかなってるから……」

 

「曖昧スギィ!」

 

「ははは、すまないすまない。大丈夫だ、貴様にばかり重荷は背負わせないさ……私の背中は、案外広いんだぞ?」

 

「さ、斎藤提督……?」

 

 椅子に座る俺の後ろを陣取った斎藤准将。

 半ばあなすろ抱きのような形になりつつある体制で、ゴツゴツとした手を肩に置いた。

 

「……フフフ、案外、私のより硬くないじゃないか。この背中に余る分は、私が引き受けると言っているんだ……私も、貴様に負けないように、少しぐらい格好を付けないと、な?」 

 

「さ、斎藤提督……!」

 

「……面白くありませんね、f※ckデスッ」

 

 男同士の三角関係!

 これに魅了されない女子はいない。

 

「み、見てください初霜さん! し、司令官と司令官のお顔があんなに接近してます……! こ、これはもう付き合ってると見て間違いないのでは……!?」

 

「三日月さんあんな不純なモノを見てはいけ……」

 

「フォオオオオオオオッッッ!!! 綾波、今日は寝られませんッッッ!! 皆さん絶っったいに触らないでくださいねっ!? あの中に入るのではなく、観葉植物になるんですよ!? わかりましたかぁぁぁ!?」

 

「綾波、抑えてちょうだい。目の毒よ……あ、でもべリングハム少佐となら意外とイケるかも……?」

 

「むむ……宍戸さんが提督と……たしかに、女として村雨は、この雰囲気を崩してはならないという感覚がフツフツと……」

 

「何を言ってるんですか!? ただ気持ち悪いだけですよこれ!?」

 

「でも親潮は斎藤提督だから気持ち悪いと思ってるんであって、これがもしべリングハム少佐だったらどう思うの?」

 

「え? 何を言ってるんですか時雨さんそんなの気持ち……ん……きもち……気持ち、いい?」

 

「ヤメロォ!! これ以上腐女子を増やすな死ぬぞッ!!」

 

「「「ハハハハハ!!!」」」

 

 明日作戦なのにコイツら体力獰猛化してんのか?

 

「ふぅ……じゃあ盛り上がった所で、明日の作戦について一言頂けるかな宍戸? みんなも、激励を望んでいるようだぞ」

 

 クソ狭い部屋は大勢の艦娘と士官で賑わっている中、ここの部屋主である月魔はもう寝ており、この突然始まった前夜祭に対して司会っぽいセリフを望んでいる様子だ。

 

 外を見てみると、夕立ちゃんと五月雨ちゃんも部屋を覗き見してる。

 

 ……形式張ったセリフしか吐けない司令官殿に代わり、副司令官として気の利いたショートスピーチを出してほしいのだったらーー文字通り一言、それも明日の作戦に向けて、最も必要な言葉を、君たちに贈ろうじゃないか。

 

 

 

 

「寝ろ」

 


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