整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

128 / 144
コイツらと関わるとロクな事が起きない

 

 親潮は心配していた。

 

「無線が途切れている……司令……」

 

 結城司令官は心配していた。

 

「どうしよう……地味に俺のデスクのパソコン開きっぱなしなんだよなぁ……シモ系の履歴しかないの見られたら司令カン人生終わるナリ! あぁ~そういえば送金するためにバンクアカウント開いていたんだ……やべぇ、電話も今は使えねぇし、何かあったら経済的に終わるナリ!」

 

 浜風は心配していた。

 

「トイレの順番待ちきれなくて……つい茂みの中で、足してしまった……だ、誰にも見られてない……ですよね?」

 

「安心せい、だあれも見とらんよ」

 

「そうだといいんですけど……」

 

 磯風と谷風は宍戸提督の連れて行った艦隊に編成され、二人は呑気に艦隊の帰還を待っていた。

 

「おっと……こんな所に、柔らかそうなお餅ちゃんたちはっけーん。もう整備は済ませたかナ? もしまだだったら……オレサマが、トクベツな、セイビ? してあげよっヵァ……?」

 

「邪気の多い人やね……浜風、下がっとれ」

 

「ちょ、俺けっこうマジメにしてあげようと思ってたんですけど……ほら、さっきそこの浜風ちゃん? が用を足した後からずっとお腹おさえてるでしょ? ぽんぽん良くするクスリとか、どう?」

 

 ただでさえ警戒していた相手が意味深な発言を連発するので、第一警戒態勢を敷いた。

 

「結構ですし凄く嫌です。司令に報告させていただきますね」

 

「は? この結城司令官様が直々にご指導するつってんだろオラァ!? それがよりにもよって報告するゥ……? あ、もしかして、君もうソッチの提督がOMATAセイビ担当なの? 我慢できずに茂みでやっちゃいましたぁ〜イケない私に天罰をぉ〜? みたいな?」

 

「「……ッ」」

 

「あ、ごめん。オレっち、実はちょっと自分の艦隊と連絡取れない状況でイライラしてて、外国人の艦隊を護衛していたから心配でさ……だから許してほしいナ」

 

 結城司令はいつもどおりだったが、二人はあまり彼の事を知らないので、どこからか取り出した展開寸前の12センチ砲塔を収めた。

 

「これ、本当に危ない状況だったりとか……しませんよね? 提督も見に行ったっきり戻ってこないですし……」

 

「大丈夫! あんなアホな提督が死ぬはずないって! このオレが保証する!」

 

「保証できるといいんだけどね……」

 

「うぉ、いきなり割り込んで来ないでくださいよ荒木司令……」

 

 荒木大佐も自分の艦隊の行方を心配していた。

 自分の艦隊を心配するなと言う方が難しい。しかし、艦隊と連絡が取れない時のプロトコールに従うべく、艦娘と通信班に任せなければならない。

 

 むず痒さのあまり、若干”覚醒”し始めている提督は、秘書艦ザラとともに事態の状況把握、周知、そして指揮統制の厳密化に努めている。

 一応これは斎藤前線総司令官の命令だが、彼ならば言われずともやっただろうと、後にオイゲンに語っている。

 

「い、今分かってるのは、艦隊の無線が途絶えているってことだけ……でも、予想はできるよ。僕たちの艦隊が、無線を阻害するほど強い電波を発する深海棲艦に遭遇した……とか。まぁ、これは斎藤前線司令が言ったことなんだけどね」

 

「お二人もそう思いますか……いや、実は俺もそう思っていまして。そのための対策なんてのは打ってるんですか?」

 

「うん……一応、一部の哨戒艦隊を援軍に向かわせたって聞いてる……」

 

「提督、大丈夫じゃろか……」

 

「…………」

 

 浜風と浦風、そして一生懸命任務に取り組んでいる親潮も、本当に心配している。

 それに気づいた結城司令官は、極めて珍しく、冷静に、そして不安を和らげるように、彼女たちに諭す。

 

「心配ないよみんな、宍戸は人心掌握術と処世術と場の空気を支配する能力以外にも、特別な能力があるんだ」

 

 あはは……と、少し引きつった笑顔を見せる荒木大佐。

 

「随分いっぱい能力あるね彼……それで、どんな能力なんだい?」

 

「アイツはガチでヤバい時は、必ず大成功させて戻ってくるんですよ! 兵学校抜け出してエロ本買いに行って教官に見つかりそうになった時は、逆に泥棒捕まえて褒められてましたし、前線勤務長くて深海棲艦との遭遇率高いのに生き残ってて、悪運の強いというか、単純に運が強いというか……」

 

「ど、どういうことですか……?」

 

「つまりね浜風ちゃん……アイツに任せとけば、大丈夫ってことだよ」

 

「結城司令……」

 

 見つめ合う浜風と結城司令官。

 

「……今、オレたち、結構いい雰囲気だね。これ、多分セ○クスの序章だね」

 

「憲兵さんちょっといいですか?」

 

「ハッ! 自分は整備工作班補佐部隊所属、反攻作戦現在は憲兵としての能力を兼ね備えています! 何か問題でしょうか?」

 

「提督という立場にありながらセクハラしてきました。ブラックな司令官として拘束してください!」

 

「艦娘にセクハラとは……って、イケメンで有名な結城司令官ですか……へぇ」

 

 舐めずりを見せる憲兵に対して恐怖を感じた結城司令官。

 

「オレっち、艦隊の様子見てこなきゃ……」

 

「お待ち下さい結城司令官。艦娘へのセクハラ行為は重大な犯罪行為です。あちらのテントでゆっくり話しましょう……おや? 司令官は既にテントを張られているようで……まったく、もう何をされるか分かっている様子ですね……」

 

「え、ちょ、ちがうちがう。それは浜風ちゃんに対してで、貴様に対してはないぞい! あ、ちょ、マジでやめて、こういうの宍戸の役じゃないの!? ねぇ助けてよそっちで隠れてるザラちゃんッ!!」

 

「あ、あの……お、お手伝いしても、よろしいでしょうか?」

 

「いいですよ、尋問には最低でも二人は必要だと言いますしね」

 

「グラッチェです!」

 

「あ、詰んだ」

 

 

 

 

 

「そして俺は屈強な憲兵と金髪ロリ巨乳に犯されるのだった……なーんて展開あると思った? うん? そんなわけないだろ何のために頑張って指揮と部隊編成考えて忙しすぎる指揮がんばったと思ってたの!? もしもこういう状況になったときに、そんな場合じゃない! って感じの展開作るために、一刻も早く宍戸をコッチに戻す手筈を整えていたんだッ! このタイミングを間違えなかったオレっちは偉い! あとね、できればザラさんだけ、俺のOmAtaを犯して……ね?」

 

 まったく違うけど、結城が艦隊を動かすのに尽力していたのは確からしい。

 

「ただいま、みんな」

 

「し、司令っ! ご無事だったんですねっ!! 心配しました……あ、あの、そちらの方は……」

 

「…………」

 

 ごく一部だが、驚いた表情で連れてきた艦娘を凝視するみんな。

 知っている人も少ない……というより、かなり前の事で記憶が薄いのだろうか?

 彼女をひと目見たことある人でも、まるで幽霊が出現したような目の前の状況に、頭が追いついていないのだろう。

 

「斎藤司令官、今から沖縄までご同行願えないでしょうか?」

 

「え? だ、だが、まだそこまで行ってもいなければ、今はもう夜であり就寝時間で……」

 

「そんなガキみてぇなコト言ってねぇでさっさと来いっつてんだよオラァッ!!!」

 

「き、気でも違ったか宍戸……!?」

 

 だが、司令官は俺を信用している。

 その証拠は、次の一言で証明される。

 

「……だが分かった。荒木大佐、不本意だがここは頼めるか?」

 

「うん、大丈夫だよ……多分」

 

 すごく不安定な言葉だが、今ここを任せられるのは彼しかいない。念の為に補佐として大鯨さんを付ける。

 負傷した柱島、及び秋津洲さんの艦隊は既に到着していたらしく、けが人はいるが轟沈が出ていないのは流石は秋津洲さんだと感服したと同時に、安心した。

 俺たちは斎藤司令官、夜間哨戒艦隊数隻と、海軍の陸上上陸部隊の一部を借りて沖縄に向かう。

 

 

 

 

 

 

 沖縄。

 

 歴史的な濃度の高い場所であり、散りばめられた岩石には随所、資源が吹き出ている。

 これの理由を深海棲艦出現による地殻変動と生態変化が原因と暫定的に決定づけているが、当然詳しく調べないと本当にそうかは分からない。そうだとすれば、さっき戦った強力な深海棲艦が根城にしていたのも少なからず関係していると思われる。

 

 通常、こういう資材を確保するために遠征を行う。

 それはすべての海軍軍人が理解しているところだが、普通は基地を設置できないような不規則な場所にあったり、遠征を繰り返した方が経済的であるという理由で基地を作るのは珍しい。だがこれほど大規模な資材があれば、恒常の海軍基地を建設しても理にかなった資材収入が見込めるだろう。

 

 これぐらいの資材が島全土にある、という条件が付きモノだが……米中も欲しがっていたワケだと、ここにいるみんなが納得した表情を浮かべている。

 

 今はそれどころじゃないが、後に沖縄周辺を周った際に、米軍基地の比較的まともな状態で残されていたのが見つかった。

 非常糧食はもちろん、初期の艦娘整備システムや、インフラ、古い米軍機密情報などが存在した。この基地なら、少人数であるなら衛生問題をなんとかすれば生きて行くのには困ることはないだろうと頷けた。

 

「ま……ま、まさ……か……れ、連合艦隊……司令、長官……!?」

 

 斎藤准将の言葉に、連れてきた艦隊のみんなが目を飛ばす勢いでまぶたを開けた。

 

「君は確か斎藤中将の……顔が似てるからすぐ分かったよ」

 

「な、なぜですか!? あ、あなたは確か鎮守府を強襲され、死亡したはずじゃ……い、いや、そちらの艦娘たちも……な、なぜ……?」

 

 ──永原元帥。

 元連合艦隊司令長官であり、俺がグアムまで追いやった人でもある。

 

 追いやったって言い方、なんか悪者みたいだからお連れしたでいいや。

 

「宍戸くんなに勿体ぶってるの、そろそろ説明してあげたら? ってか”俺だけ事情を知ってるんだぜ”みたいな顔キモい」

 

「ほっとけ」

 

「斎藤司令、すごく困惑していますね……親潮さんなんて顔がムンクみたいになってますし……」

 

「あ、し、司令の前ではしたない……!」

 

「宍戸っちの前だったらどんなヤバい状況でもソッチ優先なんだね……」

 

「し、宍戸……どういうことだ!? せ、説明しろ!! さ、30秒でッ!!」

 

「そんな早く説明できるワケないでしょ……まぁいいです。しかし、これはとても陰謀と業の深い話を含むので、しっかりと情報統制をお願いしますね? もちろん、いま野営地を設置中の人たちも、状況が整うまで他言無用でお願いします……もし話したら、命に関わるので、そのつもりで」

 

「「「は、はッ!!!」」」

 

 そして、回想と共に、洗いざらいを斎藤司令官に話す。

 それは、あの親玉深海棲艦を倒した後のことだった。

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

「宍戸提督……です、か?」

 

 元帥艦隊は驚いている。

 

「いかにも、小官は反攻作戦前線副司令の宍戸です。元帥閣下の右腕として数々の辣腕ぶりを見せたと噂されるあの大和さんにお会いできるなど恐悦至極に存じます」

 

 艦隊のみんなにも聞こえるようにスピーカーを広げて挨拶をかます。現状を艦隊のみんなに、薄く広く伝えるための手段としては最適である。

 

 あの黒ずくめの艦隊は前に元帥の艦隊が使用していた艤装迷彩だと記憶していたのが幸いし、艦隊が主砲を発射する前に中断と降伏を行えた。彼女たちも前に使った司令艦船の白旗を見たお陰なのか、お礼と対話の無線を聞き入れてくれた。

 

「大和……? あの、戦艦大和……?」

 

「れ、れれれ連合艦隊の艦娘とか……な、なんてこったぁーい!?」

 

 磯風と谷風は聞いた情報を精算し、放った言動が現状と一致した。

 それを聞いた艦娘たちは驚愕する。

 

「連合艦隊の……艦娘……た、たしか行方不明で……え?」

 

 涼月も……いや、艦隊全員が困惑する。

 落ち着けと言ってもそんなの無理だろう。

 時雨もどうなってるのか知りたい様子で、鈴谷たちは俺の陰謀の全貌を知っている。だけどなぜ、今になってこの人達がここに居るのか? という点についてはまだ未知数である。

 

 何より俺が一番困惑しているから、みんなに分かるように質問をしなきゃ。

 

「や、大和さんはなぜここにいるのですか? そ、それに何で沖縄方面から……」

 

「……提督と私達は今、沖縄にいるんです」

 

「「「!?」」」

 

 

 

 

 

 

 ……あれから大和さんたちはグアムにいたが、グアムでは限界だと察したみんなが決めた移住先が、豊かとは程遠いが、放棄された土地として有名な沖縄へと向かったらしい。

 どうやって? 小笠原諸島経由で? お前達やっぱりバケモノじゃん? あと、いつからどこでどうやって何時何分何秒? HOW!? と、かなり質問攻めをするべき事案だが、元帥も生きているし、みんなも辛うじて出撃できるレベルである事と、質問だけで丸一日かかるから、そこらへんの質問を後日に回して現状の説明だけを受ける。

 

 しかし、今話さなきゃいけないような重要な事だと思ったのか、加賀提督から反攻作戦を実施する艦隊の撃退をお願いされていた……という事実が確認された。

 

 これは前の沖縄作戦の話で、蒲生提督が指揮を取っていたときのことだったので、今実施中の作戦の話ではない。

 

 元帥艦隊の装備は比較的新しい……多分、物資供給や出撃ルートの確保などを行っていたのは彼女なのでは? 大湊にいる彼女からは無理だから鹿児島周辺の警備府か要港部もそれに加担しているのではないか? あるいは……赤城提督も、保守派に加担しているの可能性が非常に高い。 

 

 一旦、仮定は胸の中にしまっておくが、今の状況を精算するための質問は最小限にとどめておこう。

 

 いやぁ……すげぇわ。

 

 よりにもよって一番会いたくない人に出会ってしまった。

 

「な、なぜ加賀提督が……? ど、どうして我々を倒そうと? 我々を陥れようとしていたのか……? いや、この作戦自体が我々を陥れるための作戦だったり……?」

 

 目の前の状況が信じられない司令官を引っ張るように話を進める。

 

「それよりも! 永原元帥、小官を信用してくれたことは心からの感謝で絶えません。しかし、加賀提督の命で我々を打倒する算段を打っていたのならば、我々は一応、敵艦隊という事になりますが、なぜ小官らを迎え入れてくれたのか……元帥の艦隊が相手ならば、このような策をろうせずとも、容易く撃退できたはずです。未熟なる小官の浅知恵から察するに、誠に無礼ながら”このまま全艦反転させて帰ってくれ”……ということですかな?」

 

 斎藤司令官は目の前の状況にかなり参っている様子で、俺も彼の質問を遮って質問をする。

 

「そこまでは直球に言おうとはしていなかったけど……まぁ、合っているかな? 実際私は、かなり疲れているんだ。私だけじゃないけど、みんなもね。加賀提督から、沖縄に進行する艦隊からここを守る代わりに物資供給をしてもらえるって条件だったけど、度々艦隊がここを攻めてくるものだから、人間を相手にするのは辛くてね……特に、国を同じくした同胞らと戦うのは……言わなくても、分かってくれるよね?」

 

 後々、彼が本州に足を運んだ時に聞いた話から精算すると、彼の艦隊が実際戦ったのは、おそらく海外の連合軍との連携を無視して先に沖縄に行こうとしていた上海からの艦隊と、一部沖縄に近づいてきた蒲生提督の艦隊と、連合軍の一部の艦隊と……ここにいた深海棲艦だけ、らしい。

 ここにいた深海棲艦はさきほど倒された深海棲艦よりも強力で、それに随伴していた強力な深海棲艦が逃げていった。その逃げた深海棲艦こそがあの姫で、蒲生提督は不意打ちを食らったのだろう。その他で被害を被った艦隊もみんな、逃げていった強力な個体が原因だとみて間違いない。

 もちろん元帥の艦隊からも攻撃された可能性はあるが、なぜ蒲生提督を攻撃して、なぜ加賀提督たちがこんなことを……?

 

 まぁ二派閥に分かれていたぐらいだから、考えるだけ無駄かもしれない。

 

 というかこれ終わったことじゃないの?

 

 俺、自分の手をかなり汚して元帥たちの居場所作ったりして陰謀巡らせていたんだけど?

 

 元帥が生きていたなんて……生きた人間には口があるし……俺の計画が全部……あーこりゃだめだ。というか下手なこと言ったら殺される。元帥の艦娘たちコッチ凄い形相で睨みつけるもんだから、パンパース履いてない俺に、いったい何をさせようとしているのか……いや、俺は強い子、おもらしなんて絶対しないもん!

 

 なんでコイツらはいつも俺を陥れるような状況に追い込もうとするんだ……ッ!!

 

 時雨、村雨ちゃん、春雨ちゃん、白露さん、鈴谷、熊野……助けてェッ!

 

「「「ブルブルブル……」」」

 

 あ、コイツらもなんか震え上がってる。そうだよな? お前たちは俺の陰謀に加担した艦娘だもんなっ?

 

『え? なんで司令と元帥が前から知ってる風に話してるの? え、まさか司令って……す、すごい人だったりしないよね? し、不知火、黒潮、怖くなってきた私……』

 

『大丈夫ですよ陽炎さん……涼月たちの提督ですから、どんな人だったとしても……い、いいえ、急に怖くなってきました……』

 

『何震えてるんですか皆さん、というか、この状況を整理できるのは提督の二人以外いないのですから話していて当然でしょう?』

 

『初霜の言う通り! みんな飲もう!』

 

 他の艦娘はまだ状況が飲めてないが、ここにあるわけがない酒を飲む準備は万端だし……クソ! 俺がナントカしてやるよォ!!!

 

「……まぁ、加賀提督一行の思惑には察しはついていましたが……しかし永原元帥。元帥は反攻作戦、我々第二次沖縄作戦艦隊の実施する進軍行動に対しての攻撃は言及されていなかったと見て間違いはないでしょうか? 外国の艦隊が襲来したのも、攻撃されたから……という理由であり、撃退を命令されたのは蒲生提督の沖縄作戦艦隊だけであると推測しますが」

 

「い、いや、来た物資の中にあった手紙からは、反攻作戦が実施されるから戦ってって言われたんだ。まだ艦娘と戦ってなかったけど、戦いそうになった相手が宍戸中佐……いや、大佐の艦隊だったから、大和が任意で止めたんだ……宍戸大佐なら、話を分かってくれると思って……」

 

「ははは、元帥相手に信用を得るなど、小官にとってこれ以上にない幸福です……不躾かつ不愉快な質問かと思いますが、加賀提督と小官、どちらが信用における存在か……など、今聞く質問ではないと思いますが、お聞かせ願えないでしょうか?」

 

「こ、こんな時に質問するような内容ではないだろう貴様……」

 

「ははは、たしかにそうだね斎藤司令。本人を目の前にして答えなきゃいけないのも、なんか卑怯だと思うけど、それでも宍戸大佐と答えるかな……加賀提督とはギブアンドテイクの間柄だったけど、宍戸大佐は本当に私たちを心配して逃してくれてたからね」

 

「「「に、逃がす……?」」」

 

 俺たちも一応ギブアンドテイクだったし、非情な事を言うと八丈島の作戦を成功できれば元帥バケモノ艦隊なんてどうでもいいと思っていたから……まあそう思ってくれてるんだったらいいや。

 

「かの元帥閣下にお手を差し伸べるのは部下として、一人の士官として、なにより世紀の偉人である閣下への敬意として当然。我が名誉の極みでございます……信用を頂けるなら、愚考いたしました推測をお聞き願えればと思います」

 

「うん」

 

「加賀提督からは日本海軍が行う作戦についての言及はあったものの、既に上層部では周知であった海外連合軍の大規模遠征についての言及はなかった。永原元帥もご存知の通り、加賀提督も主目的は日本海軍に沖縄を占領を阻止させ、本国の防衛だけに集中させる……というのが、狙いだったわけです」

 

「……どういうことだい?」

 

「ありのままを話してしまえば、加賀提督は元帥を含めた艦隊が海外の大艦隊に撃破される事を望んでおり、最初から捨て駒として使うことが目的ではなかったのでは? 加賀提督が理想とする沖縄の外国支配を実現した上で、結果として日本海軍を本国に閉じ込めることができる……更には、この陰謀を共に巡らせた同志を葬れる。死人の口は開きません」

 

 大和さんが一歩前に出る。

 

「……それは私も考えていました。しかし、もしもこのままこの島を私達で守る事ができれば、続けて支援を受けることができ、その上で別の協力者を探す努力もしていましたが……」

 

 しかし公式には死んだ身分として既に片付けられている人たちが、このまま隠れて協力者を探すなんて事は難儀だ。

 

 っていうかこの状況そのものが無理。

 

 九州南部に幾つか隠れられる拠点はあるらしいが、そこも大淀総長にかかればすぐに特定されるらしい。匿う人は抹消されるし、生きてる事がおおっぴらになったら大変だ。

 

 保守派は元帥が生きている事実を公表すれば良かったと思ったが、よく考えたら日本の政権を握る官僚潰したのこの人たちなんだよなぁ……大淀総長も言ってたわ。「万が一、元帥の存在が明るみになれば、彼らは全員、軍法裁判で死刑が確定するでしょう」ってね。

 世間では元帥がなにかしたなんて話は浮き彫りになっていないが、大淀総長の手にかかれば起きた事実を再調査させることだってできる。

 

 怖すぎ、死んだ事になってる人間にも起き上がらないように追い打ちをかけようとしているのか……まぁ生きてるのは知ってたんだから、それぐらいは用心するべきか。

 

 物資の問題も米軍基地の弾薬などを使っているらしいが、物資がなきゃ満足な戦いはできないだろう。

 沖縄に元々ある保存食料の在庫があるから、無人島としては好条件だとしても、いずれ見限られるに決まっているしなぁ……。

 

 この人達も色々とあったんだな……率直に言えば、すごく関わりたくないのに、もうここまで来たらスボスボだよ。計画された邂逅じゃない、ただ偶然ね、居合わせただけ。 

 

「しかし、公式に死んだ人間に物資を送り続けるなど生産的ではありません。単刀直入な物言いをしてしまえば、元帥は現在、窮地に立たされている……ということで、間違いないでしょうか?」

 

「……そうだね」

 

 瞳を閉して本音を言い放った元帥。

 助けを求めているような素振りはある。

 だけど、このまま撤退すれば国家の威厳と俺のキャリアに関わる事となり、必死に積み上げてきたこれまでの準備計画がすべてパーとなる。

 

 穏便に済ませるにはやはり撤退がいいけど、それでも待ち構えるのは大淀総長の陰である。彼女が沖縄にいる事実を知っていて、あえて野放しにしている場合もある。

 よくよく考えれば、俺を前線艦隊に配属したのも、この元帥の存在があるからではないだろうか? 総長の”今度こそ殺してこい”あるいは”また追い出してこい”という暗に秘められたメッセージなのか。考えすぎるのは悪くないクセだが、時には悪手を引く可能性もある。

 

 勝手に撤退して俺たちが無事で済むかどうか……いや、そこまでは考えすぎだとしても、少しでも仲間たちの安寧が脅かされるのであれば、どちらにしても穏便には済まされないだろう。

 

 だから元帥には降伏を勧告し、海軍省及び大本営へ出向いてもらうのがベストで、それ以降の事は俺たちにとっては関係ないことして扱える。あるいは、またここから立ち退いてもらう。

 任務は無事に達成され、沖縄も無事に手に入れ、そして参加した主力メンバー株も上がる。

 元帥以下艦娘たちを犠牲にするような真似かと罵倒と批判を受けるかもしれないが、多くを救う為に少数を捨てる選択は、この際許される行為であると思う。

 

 さて、艦娘のみんなにも考えてみてほしい。

 俺たちが撃破した深海棲艦のボスは多分元々ここにいたと思うんだ。強力だったとはいえ、かなり弱体化していたので、そう推測したんだが、秋津洲さん、オイゲンさん、俺の艦隊が束になってかかっても劣勢になるぐらい強力なフラッグシップ深海棲艦の艦隊だった。

 

 それを追い出してもピンピンしてる元帥艦隊。

 

 国に守られてても殺される自信ある。

 

 この人たち守っても国に殺される自信ある。

 

 どうする? Life Card.

 

「……宍戸くん、ちょっと」

 

「お、おい何すんのお前!?」

 

 時雨は俺の胸ぐらを掴んで聞こえないところまで俺を誘導した。

 

「私もそのひそひそ話に参加してもいいか? 状況把握の為にできるだけ多く情報を集めたい」

 

「ん~この際だから、いいよ」

 

「ありがとう」

 

「斎藤司令、時雨、一体なんなの? 今ね、元帥に重大な話を持ちかけようとしていたところなんだよ? まさか君たちは俺が彼ら上手く大本営に行くようにと言いくるめてここを明け渡すように算段する計画をまんまと見抜いたというのかね? 流石は俺が信頼する二人だな、話は早い、早くアイツらに話させろ。あの人達と一緒にいるとロクな事が起きないんだよォッ!!!」

 

「そこまで考えてたの? 僕は大和さんたちを救いたいと思ってたんだけど……」

 

「私も時雨に同意しているが、宍戸の言うことには賛成だ。何か良からぬ陰謀が渦巻いているのは承知している。だが、元帥閣下がご存命ならば、一応救出するのがセオリーだと思うが……」

 

 あぁ、斎藤司令は大淀総長と元帥の間で壮絶な戦いがあったこと知らないんだ。

 だから救出しても大淀総長が彼らにどんな事をするのかって俺でも想像が付かないけど、決して彼らが望んだ結果にはならないのは確かなんだよなぁ……だから救出にはなっても救済にはならないって、一番よく言われてるから。

 

 でも、時雨は救済を望んでいる。

 そんな無茶振りは……いや、できるか? でも、俺これ以上変なことしたら最悪歴史の教科書で暗躍者として名を残す事になるんだよな。

 

「「「…………」」」

 

 俺のくぁわいい艦娘が、つぶらな瞳でこちらをみている……!?

 

 こんな膿溜めよりも汚らしい事を強要されている俺に対して、世界の深淵とか人間関係にまつわる色々汚い事情を知らないような顔で、こちらをみている……!?

 

「宍戸……」

 

 斎藤司令お前はコッチみなくてもいいから。

 

「……分かった。じゃあ斎藤司令、アンタも加担するんだぞ。時雨も、司令も、俺と運命共同体だぞ。怖いことになったら反抗戦争も是非も無し、分かったなッ?」

 

「な、何がなんだかわからないが、承知した」

 

 とはいえ、元帥のところに戻るまでの数十秒は相当長い気がした。俺はこのまま、長崎警備府を中心に、赤城提督と加賀提督を担ぎ上げながら保守派を名乗るのも一つの選択だと思っていた。

 大湊警備府という一つの大型警備府の提督である加賀提督がまだ粛清されていないのは、相当力があるからだと勝手に解釈している。それで保守派で再び革新派を変えて行き、長い政治闘争に持ち込む作戦は……いや、どうだろう。

 

 そして元帥閣下の元へと戻る。

 艦娘みんなが俺をみている。俺みたいなかっこいい提督、他に居ないよね?

 わかりみ。

 

 後で絶対に貴官らのOPPAIとOMATAで採算取らせるからなッ。

 

「永原元帥、我々としてもできるだけ戦闘を避けるべきという孫氏の教えは習っていないわけではありません。しかし、永原元帥が目指す安定と安寧を思えばこそ、何かと万事解決を目指すのが人間の道理というものです。つきましては、小官にまかせて頂きたく思いますが……よろしいですかな?」

 

「う、うん……一応、聞くよ」

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。