整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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これぞ通常業務

フッ……国家の危機? 内部闘争?

 

 そんなの、俺がぱぱっと国の重要人物掻き集めて、話し付けさせて、俺の人脈があれば未然に防げて、全部丸く収めるなんて簡単だ。

 というか、簡単すぎる。

 最早歴史に名を残してしまうだろうな、俺。

 

 

 

 

 なんて言うと思った?

 

 簡単だと思った?

 

 とんだ間違いだよどんだけ俺が奔走してクソ忙しい明石次官の居場所と元帥を秘密裏に大本営まで持っていく算段を企てたと思ってるんだッ!?

 

 必要な情報をあらゆる方向から掻き集めてね、明石次官の居場所突き止めてね、それで彼女のスケジュールキャンセルさせるまで頑張ってね、元帥と大和さんを一般人の目に付かないように東京まで連れて行くのに軍用車まで佐世保の軍需部部長から借りるお願いしてね、すっ飛ばして来たんですよ。

 

 それで大淀総長との会談にピッタリ合うようにしないといけないし、俺がこれまでやってきた努力を見ずに、簡単だと抜かす輩は俺のFISTを食らう権利を得た。

 

 なおかつ大淀総長に殺されないように元帥とのやり取りを実は記録してて、ボイスレコーダーを持ってくるのがめちゃくちゃ大変だった。今後これを使うような事態にならないことを願う。

 海軍省の局長は明石次官が言えばなんとか協力してくれたので助かったが、ここまで入念に、かつ迅速に計画を立てなきゃいけなかったのは生まれて初めてだ。

 

 やったー勝ったー軍令部総長に勝ったッッ!!!

 この勝利はメリハリがなさ過ぎて気づかないし指摘しても「え?」としか反応されなかったのを見るに、この大きさを理解する者は少ないんだろう。

 だが、一度でもリードを勝ち取る事で、俺の実力と言う名の爪痕を残すことができる。

 

 つまりは面倒事増加とマークされる頻度が高まったのだが、ポジティブに考えよう、海軍という巨大組織の中で出世街道を歩むのに十分な存在感を出すことができたんだ。褒められてもいい。

 

 あとこんなクソみたいな用事を片手に海軍省に足を運ぶ事は二度となくなったはずだ。

 意気揚々としないとしていないといけない、全部これで丸く収まったんだから。

 

 俺は、今や絶頂しそうな顔で執務に励んでるぞい!

 

 大淀さんはね? 俺ですら尻込みする、追随を許さない権力を持ってるあの人には当分の間、敵いそうにないし、相手するつもりもない。

 一応、大淀さんには一定の信頼は置いているつもりなんだよね。加賀提督? 赤城提督? 荒木連合艦隊司令長官? 究極召喚みたいな反乱分子たちを抑え込めるのはあの人だけだと思うし。

 

 長崎警備府の執務室。

 

「いやぁ〜凄く怖かったですよ〜!」

 

「オムツは替えてきたか?」

 

「何日前の話だと思ってるんですか当たり前ですよッ!? はぁ〜でも久しぶりにSAN値削った気がする。知ってる? 大淀総長が俺を褒めてくれたんだぜ? これってつまり『あんまチョーシこいてっとテメェのケツと顔に決して落ちることのない泥塗るからなッ?』って意味だと思うんだ。みんなの意見を聞かせてほしい」

 

「普通に褒めていたのでは……?」

 

 親潮は分かってないな、日本語という言語に隠された秘密のメッセージを。何もかもストレートに言うような人が海軍のトップになるわけないじゃないか。

 

「親潮は純粋で可愛いね」

 

「し、司令……! で、では私を司令の専属秘書艦にし」

 

「コホンッ!! 仲良きは大変結構だが、勤務中だという事を忘れるほど仲がいいのは些か問題かも知れないぞ? 織姫と彦星の御伽話を知らぬわけではあるまい?」

 

「も、もう司令! 司令と親潮が織姫と彦星だなんて……え? でも最終的には離ればなれになる……し、司令! 私を置いていかないですよね!?」

 

 司令呼び、俺と斎藤司令を指してるらしいんだが、ややっこしいから、もう名前で呼んでくれないかな。

 

 作戦の成功は待機組だった警備府の連中だけでなく、日本中の話題の種となっている。

 

 沖縄で発見された資源は予想を超える量で、日本国としてはこれを手に入れないのは損をするのと同じであり、我々はこれを手に入れたーー資材の備蓄を高め、行動範囲の拡大を可能として、なおかつ輸出も可能にするかもしれないと鮮明に発表した大本営の好感度は第一次作戦失敗からグンと上がった。

 

 主力は秋津洲さんの艦隊と柱島外国艦艦隊だったけど、怪我をした艦娘もいる。適切な治療が行われており、近々後遺症が残らないまま復帰できるようになるとも発表したので、作戦は成功したと言って間違いないだろう。

 

 だが、それらを凌駕する事故というか神隠し事件というか……流石に元帥が沖縄で生きていたなんてとんでもないニュースは作戦の成功よりも、そもそも元帥を助けるために行った作戦なのではないか? という推測も出てきている。そりゃそうだ、通常ではありえないが、現実に起きている出来事の事実関係を繋げるために推測を巡らすなんて人として当然。

 

 ”助け出した”本人である俺は佐世保鎮守府に帰ってきてから拷問級の尋問を食らったが、俺が知ってるすべての事実を話すとややこしくなる以前に俺の立場がヤバイことになるので、とりあえずあそこに居た、だから連れてきた、以上! と説明して事なきを得た。それを伝えるためだけに3時間以上の拘束されて質問攻めなんてクソみたいだと思う。

 元帥の事を知っている人は多く、みんなも心配していると思うし、何より今後、彼が安心して海軍に復帰して勤務できるようにするためには周りの協力が必要だと思った。

 

 だからワザワザ海軍省と周辺の知り合いの提督方や士官たち、兵学校にも赴いて校長に話したりと、佐世保で待機命令を出されている元帥の様子を教えて、彼のバックアップになれないかと密かに協力を仰いでいたのに、それも大淀総長に筒抜けだったとは思わなんだ。はは、マジコワっ。

 

 交渉で島を明け渡すように言ったのはこれで二回目だ。

 国から追い出した一回目とは真逆で、二回目は海軍への復帰を取り図る。

 

 永原元帥が沖縄に来なかったら蒲生大将を沖縄に送っていたらしいから、結果的にはいい方向に持っていく事ができた。

 

 まだ事後処理よろしく、作戦の精算作業に取り組んでいる斎藤司令と親潮の執務室を訪れていた。まだ副司令官なので、横に置かれたテーブルが俺の指定席となっている。

 

「元帥が復帰できるようにと散々私も出回っていたが……それほど心配するような事なのか? 精神肉体に異常が無ければ、連合艦隊司令長官だったお方を無碍に扱うような真似はしないだろうてに……」

 

 斎藤司令には悪いが、大淀総長に殺されそうだったとか、俺に彼らの始末を命令していたとか、そもそも無理だったから彼らを逃して、その因果が巡ってこうなってるわけで……という諸事情を彼に説明する気はない。

 だが彼と、海軍大臣には、永原元帥を守る盾となってもらう必要があるため、彼の復帰を全力で応援してもらう。

 

 一方で長崎警備府の艦娘たちは、俺と同じく新型の深海棲艦が出現し、敵の情報などを佐世保鎮守府からきた情報参謀たちに話したので、作戦よりもそちらのほうがお疲れのご様子である。作戦のボーナスとして有給をもらっている艦娘たちだが、一部の艦娘はもらっていない。当然だが緊急時には戻らないといけないので、特別休暇でもない限りは警備府近くにいることを推奨される。

 

 少佐以上の艦娘は代わりに給料ボーナスをもらったらしいが、あまり多くないから喜ばなかったし、ほぼ詐欺なので暴れていた白露さんをみんなで抑えるのが大変だった。無論、俺は有給どころかボーナスすらもらっていない。

 

 俺は各地の同期に連絡し、志を共にし、時間を過ごしてきた艦娘たちと俺を慕う将兵たちにクーデターのお誘いをしようとしたが、公文書と声明文を作っている最中に今度は鈴谷が暴れだしたのでそれを抑える。

 

 そもそも前線に参加してた下士官と一部の連中はもらってるらしいから当然だろう。

 

 また、全員が一斉に休暇を取ると大変なので、交代で休暇を取っていくスタイルになっている。

 適用される人たちも含めて、年に決められた日数の休暇を取れる人の意見要求も取り入れ、ただでさえ面倒くさい制度を作っている海軍だが、それより更に細かい管理が必要になってくる。

 

「シフト管理は進んでいるか?」

 

「もちろんですよ……ハァ……」

 

 そして、実を言えば、その休暇の管理任されてるの、俺なんだよね。

 

 こういうのを管理する適任者がいるのに、俺がまだ副司令を解任されてないからって理由で任せるなんて、クソ!

 

「それができたら私に報告しろ。一応、修正が必要な箇所は言ってやるが、なるべくミスのないようにな? 今日一杯で大方片付けてほしい……まぁ、私なら今日の夕方ぐらいには終わらせられるだろうがな? ははははは!」

 

「そうですねはははははッッッ!」

 

 テメェの方がうまいだろこういうのッッッ。他の事で勝てないからってマウント取ろうとしやがってこのクソメガネがァッッッ。

 あと外回りから帰ってきたばかりなんだよコッチはッッッ。

 

 反攻作戦からの、沖縄国土復帰の事後処理、新型深海棲艦の情報提供、そして、行方不明者リストで最も謎だった元帥とその艦隊の奇跡の帰還……をしてからの暗殺とか謀殺を防ぐための外回り仕事。

 

 全部カタを付けたと思ったら今度はシフト作りかよ。

 

 俺にこんな面倒くさい上に負担の大きな仕事を押し付ける司令官に、内心悪態を付きながら執務に励む。一応、元帥の件を穏便かつ海軍大臣や彼の知り合いにも、元帥と大淀総長との間に必要なクッションとなってくれと頼んだため、個人的な頼み事ならまだしも業務上の仕事はちゃんとこなすつもりだ。

 

「失礼します宍戸副司令、現在休養中の者を含め、警備府構成員からの有給適用者すべてから要望を入手し、言われたとおり暫定書類を作りました。ご確認ください」

 

「ありがとう」

 

「もう出来たんですか司令? やっぱり警備府内放送の力は絶大ですね……」

 

 警備府各施設や人通りの激しい廊下には超量産系薄型テレビを設置してある。これは俺の要港部でもあった奴だが、警備府なだけあって人員に比例して多い。

 そして何を隠そう、海軍産である。

 とても画質が悪いし原価と製造コストを限界まで削ったタイプだが、壊れにくさと設定のややっこしさを重視したデザインとなっている。

 

 沖縄にいる陸軍との連絡系統を資料としてまとめている参謀部も使いたがっていたが、自分たちの休暇に関する事なので、先に使わせてもらった。

 資料に目を通し、ミスがないか確認する。

 

「……おい、神風と旗風は逆じゃないのか? 神風たちと話したんだが、確か神風のほうが最初だったような気がするぞ?」

 

「あ、しまった!! 多分新人が間違えたのかも……す、すいません!」

 

「あとここの時間被ってるし、この時期は余裕がないから予備ができるぐらいまでは人員ほしいし、っていうか鈴谷の名前まで入ってるじゃん……鈴谷は適用できないぞ」

 

「す、すいません! 鈴谷さんが部屋に寄られた時、あまりにも自然に『鈴谷の名前入ってないんだけど』と指摘されたため気づきませんでした……あと、短いスカートからパンツが見えたので……我ながら不覚……ッ!」

 

 無意識に短いスカートの中を見せてしまったのは致し方ないとして、鈴谷というギャル風スケベ艦娘に唆されるとは些か根性が足りてないのでは?

 

 俺は寛大だ、ミスぐらいは許してやらんこともない。

 

「いや、ミスぐらいは誰にでもあるよ、だから俺は許したる」

 

「さすが司令です! ミスを口うるさく咎めない優しさを──」

 

「だが俺のイチモツは許してくれるかなッ!?」

 

「「「え……?」」」

 

 あとで親潮がいなくなったときに斎藤司令を驚かせようとして待機させてた、股間からまぁご立派ァ! マジックバルーンが勢いよくこんにちわさせる。

 

「いいか? 今から10数えるうちに、その汚ねぇケツを、ここから特務参謀室に持っていきやがれ! さもねぇとナマモノぶち込むぞ!! ワン……ツゥ……テンッッ!!」

 

「ああああああああああッッッ!!!!」

 

 わりとガチ目なダッシュに対して、ガチの逃走を図ろうとした士官は一転びしてから持ち直して出ていったのを確認した。

 

「……宍戸、それはやりすぎだぞ」

 

「今は俺が預かってる部下です、教育方針には口出し無用でお願いします」

 

「アレは教育だったのか……?」

 

「あ、あわ、あわわわわ……し、司令の……が、あ、あんなに大きくっ……は、入らないっ……! あ、し、萎んだ……」

 

 風船にしてはホンモノ似で勢いがあったもんだから、どうやら親潮は本物だと思ってるらしい。性教育は済ませてあるはずだし、ムッツリな親潮なら”こんなデケェのあるわけない”って分かってるはずなんだけどなぁ? 

 

 まったく、とんだスケベに育ってんな親潮。どんな教育したら黒い下着なんて着てくるんだよ。

 

 ちゃんとした性教育は、俺がきっちり済ませてやらねぇとな。

 

 ぽわぽわぽわぁ〜……。

 

 

 

 『んっ……し、司令……は、入らないですぅ……』

 

 『いや入ってんじゃん。こんなに濡らしやがって……え、これでハジメテなの? こんなんで排水量駆逐艦ってマ? 戦艦の間違いじゃないのか? 色々浸水が激しいみたいだけど、演習だからって容赦しないよ? このまま成されるがままでいいの?』

 

 『だ……だめですぅ……! は、はやく、だめこんをぉ……!』

 

 『おいおい、自分からダメコン(意味深)欲しがってるぜコイツ? とんだ欠陥を持った艦だなぁ? おん? んじゃそろそろ俺のダメコンを親潮の船底に開いた穴にぶち込んでやるか……』

 

 『だ、だめですぅ! そんな激しくしたらぁ……なんか飛んじゃいますぅ~っ!!」

 

 『艦載機も搭載できねぇのに何が飛ぶってだよアァ!? おいおい自分からダメコンに食らいついてやがるぜ? 艦船整備課程甲種の俺でも手に負えねぇよ。 オラァ! 管制塔ハートマークにしてんじゃねぇよオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!』

 

 

 

 個人教育もたまにはいいもんだ。

 

「し、宍戸……提督っ? 悪鬼のような顔になられてますよ?」

 

「言っちゃ悪いかも知れないですけど、深海棲艦みたいな顔ね」

 

「す、涼月? そ、それに初霜も、いつの間に……」

 

 涼月、それに初霜。

 警備府のエースたる両旗艦が、俺の顔を覗いていた。

 

「あ、そうだ。宍戸大佐ってこういう顔する時は、だいたい如何わしいことを考えている時なんですよね……」

 

「な、何の言いがかりだ急に!? 俺の頭の中急に覗きやがって……テメェらもダメコン積ませてやろうかぁ!?」

 

「お、落ち着いてください宍戸提督! こちらに赴くときはそう言ってやれと、時雨さんに言われただけです……」

 

 なんだと、あの時雨め。

 こんな動揺してたらまるで本当に妄想していたみたいじゃないか!

 

 二人共、ジト目を向けないでくれ。だいたい俺が本当にやましいことを考えていたとかなんで分かるんだよ? 

 時雨には後で、アイツの布団の下に蛇のおもちゃ仕込んでやる。

 

「宍戸大佐……勤務中なのに……流石にそんな事を考える人だとは思わなかったわ……」

 

「親潮さんもいらっしゃるのに……ひどいです」

 

 ひでぇのはコッチの台詞だよ。

 なんでこんな軽蔑されなきゃいけないんだ(逆ギレ)。

 

「……なんの用かな涼月くんに初霜くんッ!? 俺は今、君たちみたいに前線で戦っていた娘たちがスムーズに休暇を楽しめて、なおかつ警備府にも負担がかからないように人事を取り計らっていたところなんだよ! 更に出撃する艦娘によって資材の減りが変わるし、練習、演習目的で使用する在庫とかも再計算する必要もあるし、部下たちのミスを直している最中に、そんなくだらない妄想を考えている暇が今の俺にあると思うのかねッ!?」

 

「そ、そうだったの宍戸大佐……?」

 

「そうだよッッ!! それなのに……それなのにぃ、言いがかりみたいに”如何わしい事を考えていた”……だとぉ!? あわよくばジト目で時雨の狂言を信じ切っていると暗に俺に見せつけ、俺を軽蔑するなど何たる所業かね!? あー分かった、もうね、やる気なくしたわ。あれ? まだこの書類オレの目の前にあるの?」

 

「し、司令おちついてください!」

 

「ふーん、俺の中のやる気ゲージ、破壊、報酬、功一級業務放棄勲章、部屋直行ダラダラ砲、キラン、キラン、キララララン、キラン……俺、宍戸型一番艦の龍城! 感謝もされねぇ罵倒軽蔑の嵐の業務なんてやってられねぇから! よろしくねっ!」

 

「し、宍戸、いいから落ち着け、な? 話せば分かる」

 

「なに暗殺された総理みたいなコト言ってるんですか貴様ァ!? ぜーんぶ、初霜と涼月のせいなんだからね! あと時雨!」

 

「も、申し訳ありません宍戸提督! 言われたとはいえ、軽率でした……」

 

 へぇ、申し訳ないと思ってんの?

 涼月、その涼しげな顔してさ、表情あまり変わらないけどさ、頬が結構赤いしさ、逆にエッチだよね。そりゃパこりたくなるに決まってるしさ、まぁ、なんていうの? 二度と上官に対してそんな口のきき方とか、軽蔑できないようにね、教育する必要があるんだよね。

 

 

 『ふふふ……さっきまで威勢はどうしたんですかっ? じょう、かん、さんっ?』

 

 『くッ……! み、見くびるなよ駆逐艦の分際で……! せ、整備された重雷装で、前と後ろを交互に直撃させて、挟撃して、俺をナメた事を後悔させてやる……! う、うぉ!』

 

 『ふふ、そんなこと言って、涼月が動いたら可愛い声で鳴いちゃうじゃないですかぁ……提督、どうされたいか、ちゃんと素直にお口に出さないと、止まっちゃいますよ……? ふふふ……」

 

 『クッ……い、いぎだいでずううう!!!』

 

 

 クソ……! なんで負けてるんだよ俺……! 

 涼月お前! ……く、駆逐艦の分際で……!

 

「……?」

 

 なに首かしげて分からないみたいなフリしてんだよ涼月お前……!

 表情が変わらないから一段とエロさが際立つんだよお前はァ!!!

 

「コホン、まぁ冗談はさておき、本当にどうしたん? 見ての通り俺は休暇の採算で忙しいから、手が必要だったら他のクチを当たって……く、口……!? お、俺は負けねぇぞスズツキィッ!」

 

「し、宍戸提督は、な、何を言っているのでしょうか……?」

 

「分からないわ、でも私たちが来たのは、提督にお客さんが来ている事を伝えに来たからです」

 

「HUH? お客さん!? 誰?」

 

「にわかには信じがたいですけど、アメリカ太平洋艦隊の総司令官……と名乗っていました。本当かどうか分からなかったけど、宍戸大佐に話せば自分から来るはずだから、伝えてくれと言われたわ」

 

 アメリカ太平洋艦隊の、総司令官……?

 

「なるほど、可哀想に……」

 

「ど、どういうことだ宍戸? な、何故貴様をアテにして太平洋艦隊総司令官が来ているのだ?」

 

 そんな度肝抜かれた顔するなよ二人共。

 

「長崎警備府の分艦隊はアメリカ将兵救出にも貢献し、更に沖縄では秋津洲さんたち程ではないものの、沖縄開放という偉業を最前線の艦隊として武勲を上げました。その警備府の司令官にお会いして話したい……ということなのでは? 多分まだ俺が司令官だと思って、俺の名前を上げたんでしょう。アメリカ海外士官のスターたるベリングハム少佐や、他の海外士官も出入りしていますし、もしかしたらその事で目をお付けになられたのかと」

 

「な、なるほど……貴様が呼ばれたのだから貴様が行くべきだろうが、そういう事情であれば、二度手間をする必要もあるまい。ベリングハム少佐もここにいることだし、行くついでに声をかけておこう……しかし、やはり副司令と司令がいるのはややっこしいな。参謀総長を解任してお前をそこにつけるか?」

 

「い、いや、確かに不鮮明な役職ではあるものの、後先のないオッサンを解任する必要はないかと……あ、じゃあ俺はこの資料を精算し終わり次第、参謀部に向かって詳報書類の最終確認も行うつもりです」

 

「分かった、では行くぞ親潮」

 

「あ、はい!」

 

 残された涼月と初霜は何もすることがないのか、ソファーに居座り、俺も司令席を占領する。

 

 執務室ってさ……エッr。

 

「執務室って……やっぱり、少し寂しい気がしますね。何時もは二人きりで、でも半分以上の時間は、一人で過ごす……提督や司令官になると、こういう時間を過ごす事が多い……のかしら?」

 

「俺が執務室で一人に成れた事って稀だぞ」

 

「ふふ……宍戸提督の周りには、いつも、いろんな人が居ますものね……」

 

 君たちみたいに、ね。

 初霜は寂しいと言ったが、全然そんなことはないぞ? 一人でできる……あるいは二人、いや三人でできるアソビはたくさんある。

 

 現在俺が鎮座する席に、俺一人がギリギリ肩を竦めて入れるレベルのスペース。

 足元を見せないという、ある種の緊張感と威圧感を彷彿とさせる心理学的構造になっているため、もちろん、誰が入っていたも見えることはない。

 

 股間のビッグフットが、机下フ○ラ任務に励む涼月の雪山みたいに長くて白くて綺麗な髪と肌を穢す。

 それをゴミみたいな目で、あるいは妬ましそうにみる初霜だが、無意識にパンツの中の定期メンテナンスを行う。

 

 これほど楽しいアソビある?

 

「……グヘヘヘへェ!」

 

「やっぱり如何わしいこと考えてるんじゃない……」

 

「なんだと初霜、俺が何時如何わしいこと考えていたというんだ。証拠でもあるのかねッ!?」

 

「鳴ってる電話に出ないぐらい脳内の世界に浸っていたのが何よりの証拠なのでは?」

 

「今取ろうとしてたんですゥ──ッッ!! はいこちら長崎警備府執務室ですが……え、斎藤長官!? 失礼しました、現在斎藤司令は執務室を離れております。入用でしたら、この宍戸めが責任をもって伝言を承る所存です……ん? 小官を含めて、佐世保鎮守府のパーティーに……ですか?」

 

 


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