整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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俺の正体も見破れなかったくせによく言うよ

 

 人々の注目を集めるほど騒ぎ立てていた士官が護衛と秘書艦と参謀等を連れてやってきた。

 

「宍戸は!? ドコ!?」

 

「先程ぶりですねドグソドルジ元帥。宍戸なら今そこのダンボールに──」

 

「し、宍戸くんなら、あちらに行きましたよっ」

 

 時雨が一般人に開放している場所を指した。

 

「それは本当か三つ編みベイビー!? べリングハム少佐、サラトガ、君たちはここに来て宍戸の匂いを覚えているはずだッ! 追跡を頼む!」

 

「Saraたちを軍用犬か何かと勘違いなさっているのでは……」

 

「問題ありません、このBirminghamが必ずや、FaptainをFleet Admiral Dogsodorjの元へ誘って見せましょう」

 

「頼りにしているぜ」

 

「ワオォォォォンッッッ!!」

 

 サラトガさんと少佐がアメリカ軍の元帥の前に立ち、匂いを頼りに時雨が指した方向へと向かっていった。イギリス系の嗅覚を巧みに起用した彼の先導により、人混みへと姿を消した。ヤられていたのは味蕾だけじゃなかったのか。

 

 誰の目にも映らずに、すぐそこにあった大き目のダンボールの中に隠れるのは困難だ。

 時雨のナイスアシストでなんとか押し切ったはいいものの、不自然な行動を取る俺を見た艦隊のみんなは一斉に俺を疑問視する。 

 

 突然の来訪者、そして異国の海軍のトップともあろう御方が、何故俺なんかを探しているんだ?

 アイオワさんは目が点になってる。アイオワさんのこんな顔初めてみたぞ。

 

「い、いきなりどうしたんですか提督? 隼鷹ですら少し緊張したぐらい偉い人が来たのは分かるけど、提督を探していたんだったら会うべきじゃないの?」

 

 飛鷹……それどころか、この場にいるほとんどは事情を知らないんだ、そう思っても仕方ないだろう。初霜や涼月……親潮ですら、俺に注意するぐらいだ。失礼だったかも知れないけど、今の俺はこう応えるしかない。

 

「そ、そうだね……」

 

「宍戸さん……」

 

 今到着した古鷹も、一連の出来事を見て、静かに声を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 警備府、俺の部屋。

 

「なんであの時隠れちゃったの? 白露さんに話してみなさいっ」

 

 パーティー参加という業務を終え、部屋でくつろぎ初めた白露さんから五月雨ちゃんの姉妹ら、鈴熊、初霜、親潮やアメリカ元帥と一緒にいたGAIJIN男女二人組。佐世保方面軍司令官の業務に支障が出ないのか心配だけど、何故か古鷹もいる。

 

 詰め寄る白露さん。おっぱいを押し付けてくるが、漢という生き物として「え? 何を押し付けてたって?」と肌の神経に異常があるようなセリフを吐きながら気丈に振る舞う。

 

「アレはですね、太平洋方面総司令官という、非常に高い地位にいる人なんです。怖いし、会いたくないんですよ」

 

「というより、何故そんな人が司令をお求めになっていたのですか?」

 

「……夕立の推測を入れるなら、宍戸さんはアメリカ軍のスパイで、その元帥さんの愛人……っぽいッ」

 

「「「え!?」」」

 

 とんでもない推測を言い始めるぽいぽいちゃん。俺がスパイで愛人だって……?

 夕立ちゃん、君みたいな元気な娘は腐らないとばかり思っていたが、それは間違いだったようだな。

 

「ソレ以外に考えられないっぽい! ここの情報を抜き取るために送られた宍戸さんがあのオジサンに接触。ついでに得た日本海軍男色指南甲種、という未知なるプレイを楽しむために、情報をリークしていた……っぽいッ。絶対そうっぽい! これは、名探偵夕立が考えた完璧な推理っぽい!」

 

「さ、流石にそれはないと思いますけど……」

 

「五月雨は知らないっぽい! 男同士の世界を見ても友情の一言で片付けちゃう子供な五月雨にはッ!」

 

「そ、そうじゃなくて、仮にそうだとしても、隠れる理由にはなっていないような……」

 

 夕立ちゃん甘いな、五月雨ちゃんの方が一歩上だぜ。

 

「ふん! そんなの、ソコのにいるイケメン少佐さんとデキちゃったから罪悪感で逃げちゃったに決まっているっぽい!」

 

「ははは、Yuudachiは聡明ですね。しかし困りましたね、私という存在が、Fleet Admiralとの仲を引き裂いてしまった、だなんて……我ながら、罪深さに押し潰されそうです♂」

 

「貴様らはそんなクソみたいな推測しかできんのか!? もっと他にあるだろ!?」

 

 少しため息を漏らす。

 全員の耳が答えを聞く準備ができたのを見計らい、俺は自分の口から真実を打ち明けた。

 

「……実はあの元帥、蒲生と繋がっていたかも知れないんだ」

 

「「「……?」」」

 

 きょとんとしてる。

 

 深海棲艦教との繋がりは現在調査を進めているらしいが、結果として企みは失敗に終わったんだから良しとする。何より、本格的に驚異となり得る組織を壊滅させるために、警察も動いている。俺の道を遮らない、ただただ壊滅を待つ組織にこれ以上労力を費やすのは無意味だし、何より……後ろにある影が、そんなにデカイ存在ならば、立ち回りを気をつけるほか立ち向かう手段はない。

 

 分かる、俺も少し話を飛ばしすぎたし、多分この事を知っている人は本当に少数派だと思うし、陰謀云々には関わらせないようにしよう。

 

「ようするに、極力関わりたくない人なんだ。米国は、俺の事を驚異に思っていて、俺の事を殺そうとしているとか、引き抜こうと企んでいるとかさ……色々あるでしょ?」

 

「そんな理由で何回も警備府に足を運んで訪問してくるものなのでしょうか……? 借りにも総司令ともあろうお方が自らの足で来るのは、相当な理由があるからなのでは……」

 

「そういうもんなんだよ親潮。斎藤司令官には、俺がアレに会いたくないって旨を、ちゃんと伝えておいてねっ」

 

「わ、分かりました」

 

「それからみんな、今日はもう遅いからおねんねしよ? さっさと行かないと月魔が寝れないでしょ?」

 

「寝てるみたいですけど……」

 

 コイツ、こんなにうるせぇのにグースカ寝やがって。しかしパーティーの影響で眠たくなったのか、散々推測を口にしてた夕立ちゃんと五月雨ちゃんは戻っていく。

 

「……おい、戻れと言ってるのが聞こえなかったのかね!?」

 

「だって気になるじゃん! 余計目が冷めちゃった……宍戸っちのせいなんだからね!」

 

「宍戸くん、ここのみんなにだったら、話してもいいんじゃないかな」

 

「時雨……?」

 

 何時になく真剣な眼差しを送る時雨……それに村雨ちゃんと、春雨ちゃん。

 時雨からは一応聞いている、古鷹辺りは、俺の口から真実を聞きたいのだそうだ。

 

「身の上話って嫌いなんだけど……おまえたちには、特別だお?」

 

 

 

 

 

 

「「「む、息子!?」」」

 

「し、司令、本当なんですか? し、司令が……あの米軍の元帥の……」

 

 親潮は言葉に詰まる。

 

「勘違いしないでくれ、俺はれっきとしたニホンジン、海外から来た訳わかんないヤリチンとは違うんだよ。血縁関係はあっても、もう縁を切った者同士だ。市民権も違う、パスポートも別国、俺は息子でもなければ、あの元帥様とはなんの関わりもない」

 

「「「…………」」」

 

「まぁ時雨と村雨ちゃんと春雨ちゃんはこの事を知っている」

 

「え!? ずるい!!」

 

「わたくし達にも知る権利がありましたわ! なんで言ってくださらないのですの!?」

 

 そういう反応なのか鈴熊……。

 

 俺の正体も見破れなかったのに……。

 

 いや無理か。

 

「大方話したとおりだ。それでベリングハム少佐、貴官は俺の監視を任されていたのかな? あのクソ野郎に? 近づくためにホモ宣言をするなど極めて悪質だということを知りなさい。貴官には失望の念を抱いている」

 

「わ、私は違います! Saratogaとは違い本当に知らなかったんですッ! Sara、どういうことなんだ!? 君はAdmiralとShidshidoの関係を知っていたのかい!?」

 

「……正直に言えば、そうです」

 

 素直に認めやがってこのスケベ艦娘が。

 

「留学のついで程度でいいから近辺情報を探ってほしいと連絡が来まして、本当にShishidoが彼の求めている人物かを特定してほしいと言われたのですが……年齢や出身地からして、間違いなくそうだと確信して……でも、まさかShishidoがそれほど嫌悪されている方だとは思いませんでした……」

 

「俺とは無関係だと貫いてくれるんだったら大丈夫だよ。でもそうだと知れたら俺の立場危うすぎるじゃん!? 何考えてるの!? 俺が大淀さんとか、軍令部総長とか、明石次官の親友とか、その辺りの人にスパイ容疑かけられて謀殺されたらどうするの!? セキニン……取ってくれるんだよね?」

 

「ど、どちらの意味で……でしょうか……っ」

 

 このサラトガとかいうアメリ艦、俺が言わんとしているコト分かってるみたいだぜ? まったくエロスケベすぎるにもほどがある。

 

「全部の意味でだよ!!! 追われる際は俺の擁護、金銭的に困ったら俺の養護を、性的に困ったら俺のYOUGOを……とにかく、養ってほしい!」

 

「「「サイテー……」」」

 

「最低じゃない!! 俺の計画が……提督になる俺の計画が……アメリカ出身で、しかも旧姓がドグソドルジなんていう、文字通りクソみたいな名前だなんて知られたら……完全に俺、詰んだよね」

 

「でも大淀さん辺りにはもう知られてるんじゃない? あの人、情報に関しては世界トップクラスだし、海軍大臣の人も知ってるんでしょ?」

 

 時雨は的を射抜いているし、多分なんだろうけど、サラトガに罪悪感をまんべんなく与えて俺の性欲補助ペットとして飼う作戦も台無しになるからやめろ。

 

「ん~、それなら問題なくない? 白露は別に気にしないよ!」

 

「白露さん……」

 

「そうですわ! 今の宍戸さんの人が変わるわけじゃないんですもの! スパイの線で少し疑ってしまいましたが、わたくしは宍戸さんを信じます!」

 

「熊野……」

 

「お金持ちなんでしょ? いままで宍戸くんにいっぱい酷いことされたからって和解金せがんだらお金くれると思う?」

 

「時雨ちょっと黙ってろ」

 

 ……しかし、みんなは満場一致で別に俺が誰であっても受け入れてくれると言っている。

 最も恐れていた事態は避けられ、改めて絆の深さを確認したところで、最後に古鷹へ話を伺う。

 古鷹は知ってしまって、それがずっと気がかりだったらしいが、それを伝えられなくとも古鷹の不安げな表情から汲み取れる。

 

「古鷹……やっぱり、怖い?」

 

「い、いいえそんな事は……」

 

「いや、本音で話してもらっていい。人間ってのは固定概念で生きているもんなんだ。それも悪くはないけど、それがある以上、俺が同じ日本人じゃないって思ってしまうのは当たり前だと思う……俺のアンセスター遺伝子データ見るか? 99%モンゴロイドだ」

 

「それって日本人じゃないですか……」

 

「そういうことだ初霜、血統は完全に日本人。名前が少し違っただけ。それに、アメリカとのコネクションなんてない。俺はこの先、日本で死ぬ。日本に尽くして、ここと、お前たちが俺の家族だ。古鷹も家族だ」

 

「宍戸さんは、やっぱり優しいですね……ふふふ」

 

 古鷹が笑ってくれた。

 

「……実は、ただ心配だっただけなんです。宍戸さんが他の国に行っちゃわないかって……」

 

「古鷹……」

 

「でも、その言葉を聞いて、安心しました……今夜は、多分ゆっくり寝れます」

 

「俺のベッドでか? 狭いから体をくっつけて寝ようなっ」

 

「ふぇ!? い、いっしょにですかぁ……!? ど、どうしましょう……」

 

 本気で考えるな古鷹、そういうの軽く躱せないと悪い男に引っかかるぞ。

 

「ず、ずるいです! じゃあ今日は親潮も一緒に寝ます!」

 

「ズルいのはどちらかなOyashio? 私も一緒に寝ます!」

 

「よし、みんなが言ってる間に便乗すれば……あ、あぁ~! す、鈴谷も宍戸っちと寝たぁ~い!」

 

「じゃあ白露さんも寝る~! 宍戸くんと寝て、籠絡するんだぁ~!」

 

「お兄さんと寝たら殺しますからね? お兄さん! 春雨を含めた5人の中だったら誰と一緒に寝たいですか!?」

 

「消去法で男は除外するかな」

 

「な、なんですと!?」

 

「「「ははははは!」」」

 

 仲間たちと笑い合う感じ……そう、ここが俺の家なんだ。

 

「じゃ、じゃあもしも班長がいたらどうするんですッ!? 男を除外するんですか!?」

 

「当たり前だろお前、何が悲しくて男と……」

 

 ぽわぽわぽわ~。

 

 

 ──漆黒の黒天から射す月明かりの夜。

 海軍警備府、毎日の忙しい業務を終え、只々、疲れを癒やす為に、寝床に付く。艦娘の艤装整備に肩こりが絶えず、10分程度の軽い柔軟を入れて睡眠に入る。それが何時もの日課だった。

 言い換えれば、何時もと変わらない、繰り返しの毎日。

 

 だが、今日の夜空はちょっと違った。

 

 『我ながら些か、困惑を極めますな。司令官殿と寝床を共にするなど、海軍に長い間身を置いた小官であっても特殊な事例でして……こういう場合、どのようなお言葉をかけるのが正解なのか、士官昇進課程の際に書いて頂ければ、完璧な対応ができたというもの……無知な自分を、お許しください』

 

 『そ、そんなぁ! ぼ、僕も、初めてなので……」

 

 『ははは、それでは、我々は共に、初体験を奪い合った仲、という事になりますな……司令官殿、お手を』

 

 『は、はい! あ、あの……』

 

 『ん? ……いやはや失敬、枕を抱いていては、小官のお手を掴むことなどできないと分かっていながら、少し意地悪をしてしまいましたな。配慮の足らぬ小官は、またしても失態を犯してしまいました……ですが、今度は失敗しません、よっと! ……こうして抱きかかえられるのは、お嫌いですか?』

 

 『い、いいえ! そ、そんなことはぁ……はぅ……!』

 

 『ははは、今夜は、何時も以上に疲れが癒えるでしょうな……今夜のベッドは、特別仕様ですので』

 

 抱きかかえられたまま、ベッドの中という深淵に、のめり込んで行くのだった。

 

 

 

「誰これ考えたやつ?」

 

「わ、私です宍戸大佐……すいません、宍戸大佐が女体化したらそうなるかなって……」

 

「初霜ォ! お前だけは常識人の砦だと思ったのにッ!!! あと誰だよ初霜にTS覚えさせたの……おい、時雨、なんでそっぽ向いてんだよ。お前だろ絶対」

 

「ひ、ひゅ~ひゅひゅ~ひゅひゅ~……ぼ、僕じゃないよ?」

 

 ヘッタクソな口笛吹きやがって……。

 

「姐さん口笛静かにしてください……」

 

「なんだ僕の口笛で起きるの!? ストーカー野郎の分際でナマイキだね!? 僕は根に持つタイプだって知ってるでしょ!?」

 

「ひ、ひぃ! ご、ごめんなさい姐さん! で、でも明日は早いから早く寝てください! みなさんも早く寝たほうがいいと思います!!」

 

「「「え~!」」」

 

 不満を一言で述べるみんなだが、俺が解散を呼びかけて各々の部屋に戻っていく。

 

 俺も明日は早い。

 

 海軍大臣に少し身の上話を含めた文句を付けてやらないと。

 

 


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