整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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後日談番外編
デート大作戦!


 

 近年、警備府という一介の海軍基地で働きながら勉強に勤しむ今日この頃。アメリカの戦略大学に向けての勉強の名目で閑職に付けられている俺は、ほぼなんでも屋みたいな立ち回りで警備府の人間関係やら佐世保鎮守府のお仕事やらを取り持っていた。

 当然これは自分の意思でやっていることであり、誰かにお願いされてやっているわけじゃないし、たとえお願いされたとしてもやる義務なんてない。

 

 色々あって、やっと落ち着いたが、人生そのものが落ち着いたとは言い切れない。

 

 アメリカへの留学が緊張は予想以上に中枢神経を刺激していた。

 俺個人としてはやりたくないのが実情。日本人の言葉足らずな姿勢は所謂、空気を読め、という独特な文化があり、海軍大臣の野獣の眼光は、圧力のそれを示唆していたに違いない。

 了承してしまったからには最善を尽くすのが日本海軍軍人としての、大和魂を持って臨む。

 

 未だに国際情勢は緊迫しており、沖縄の奪還は報道されるが利権の争いはまだまだ続いている。米軍基地の権や、中華系移民が暮らしていた地域の領有権の主張をはじめとする動きが各国で見られるが、沖縄方面軍総司令官の永原少将管轄のもと、日本海軍の管理下にある。

 前々から外交を行っていた首相により、国連でも領有権と基地問題は当然の如く日本に帰属するものだと言う国も多い。

 

 こういう出来事もあり、海外士官は若干嫌げな感じで見られている中、アメリカ太平洋艦隊総司令ドグソドルジ元帥も日本に何故か駐留し続けている。これも外交の一環なのか、あるいは「どうせ作戦失敗させて免職食らうだからその間は好き勝手にしよう」という事なのだろうか?

 

 退屈しない毎日に少し疲れを感じ、同時に癒やしを求めていた俺に対して、とんでもないモノに参加しろと言ってきたyaggyを追い払おうとしていた。

 

「佐世保開催、海軍運動会か。それって当然ギャラ出るんだよね? 俺、そんな安い尻軽男だと思われてる?」

 

「お願い出てぇ〜! このままじゃ提督と知り合いだからヨユーで頷かせて見せるよ〜って軽々と了承した陽炎の面目丸つぶれなのぉ〜っ!」

 

「なるほど、事前に許可も得ないまま、行き当たりバッタリで何とかなると思う……という、人を振り回す行為を楽観視していた、と……女の子のお顔を潰すのは忍びないけど、一回ぐらい顔潰してもオッケーだよね! 教育教育!」

 

「い、いやだぁ〜! お〜ね〜が〜い〜! 宍戸さんにしかできないことなのぉ〜! このままじゃ私『え……は? 宍戸大佐と知り合いだったとか言って何もできないじゃん。え、ていうか部下として覚えられていたかも怪しくね? マジウケんだけど。え、っていうか、部下だったの? 見栄はるための嘘? へぇ〜……明日からアンタのことクラス全員で無視するから』みたいな事になるかもしれないじゃんんん〜……!!!」

 

「そういうお友達は友じゃないし、そもそもクラスじゃないし、そのクソビッチが俺を海軍の運動会に誘いたがっている理由は? 艦娘? 普通科? 何れにしてもなんで勉強中の俺を運動会なんかに誘うんだ? まったく検討がつかないぞ」

 

「古鷹って娘なんだけど……」

 

「お前俺と古鷹の関係知らないはず無いでしょおおおぉぉぉッ!!? は? むしろなんで俺に直接言わなかった古鷹? え、っていうか古鷹そんな娘だと思ってんのお前? へぇ〜……明日から警備府全員で陽炎のことパワハラするから」

 

「酷くなってる!? お”〜ね”〜が〜い”〜ッ!」

 

 そろそろ涙目になってきそうな陽炎は何故かそれでも食い下がる。不知火はどうでもよさそう……部屋を見渡したりして暇を潰してる感じすらあるので、関係ないのに陽炎に連れて来られたんだろう。

 

「まぁまぁ〜宍戸はん、そんぐらいにしてあげてっ。別に陽炎に悪気はなかったんや! 司令はんの娘って肩書持っとる古鷹の言うことやから、ちょっとテンション上がってたっていうか……」

 

「なるほど……人を社会的ステータスでしか見れなかった故に見栄を張ったと? へぇ〜……明日から海軍全員で陽炎のこと無視するから」

 

「え……」

 

 陽炎のこんな絶望した顔見たことない。

 

「正確には、不知火たちは本人から聞いたというより、彼女を慕う取り巻きの女性士官の方々から聞き及びました」

 

「まぁ本人もそこにいたんやし、ほぼ本人から聞いたみたいなものやけどな?」

 

「なるほど……その場の集団圧力に負けた、と? へぇ……明日から未開の地に左遷するから」

 

「オッケー不知火と黒潮。むりやり連れてきたのは悪かったから、お願いだから少し口塞ごっかっ? これ以上喋ると死刑になりそうだからっ」

 

「懸命な判断だよ」

 

「でも宍戸さんはなんだかんだ言って面倒事いつも引き受けてくれるっぽい! だから安心してもいいっぽい! っぽぉいっ!」

 

「「「ほんまか夕立!? 流石は宍戸さん!」」」

 

 意気揚々と廊下からひょっこり顔を出してきた夕立ちゃん。

 チッ……もう少し引きのばして、取引に持ち込もうと思ったのによォ絶妙ォにィ邪魔ァしてくれるじゃんッ?

 

「夕立ちゃん……俺をそんな風に思ってくれてるなんて光栄だよっ。でも、俺も別に暇してるってわけじゃないんだ。ほら、俺、通信で甲種卒目指してるからさ。めちゃくちゃ頭がいい同期たちは仕事で忙しい今、卒業できれば絶対首席は間違いないから、運動会なんてものに出てる場合じゃないんだよう……」

 

「もう卒業してなかったっぽい……?」

 

 なんで知ってるんだ夕立ちゃん。それとも提督育成プログラムと勘違いしているのか?

 

「っていうか、宍戸さん警備府の仕事とかも手伝ったし、艦娘たちとも遊んでたっぽい! あとパソコンで直視できないぐらいエッチなゲームしてたっぽい!」

 

「は? いつもそんなの見たの? 少なくても夕立ちゃんの前では見せてないと思うよ?」

 

「時雨に聞いたっぽい!」

 

 時雨ェ貴様ァッ!!

 

「夕立ちゃん……時雨の言ってること、丸呑みしちゃダメだよ? ほら、陽炎たちも引いてるじゃん」

 

「いや、宍戸さんならありえるかな〜って思っただけ。妊法提督だし、エッチなゲームやってるとか、うわぁ〜サイアク〜って、女性士官の人も言ってたわよ?」

 

「あのねェッ!? 俺もオトコだから仕方ないし全く問題ないコトだって、何回もイッてるのに、どうしてそう過去のあやまちを掘り返そうとするのかなァ!? 良くないよそういう日本のikitter別名mountterでよく見る特有のセンスのないマウンティングゥッ!!」

 

「あやまちって……認めてるじゃないですか」

 

「じゃあ分かったよォ! Lookしろッ! このPC画面をォ!! クッソ難しい英語で書いてあるから分からないとは思うけど構想中の下書き論文なんだよコレッ!? あ〜もうこれは俺がちゃんと仕事も勉強も両立してるスーパーマンだってはっきり分かんだね、はい勝チィ〜〜ッッ!!!」

 

「し、宍戸さん落ち着いて、分かったから、顔がでんじゃらすにーさんみたいになってるわよ……」

 

「あ、これ知ってるっぽい! えぇっと、エッチなゲームしてるときに、きんきゅうかいひもーど……? ってやつっぽい! たしか時雨がキーボードのボタンを押すと……」

 

 夕立ちゃんは俺の背中に無防備な胸部装甲を押し付けながら、肩越しにその無邪気な細い指で容赦なくキーボードのF12ボタンを叩いた。

 

『んっ……あっれ〜? センパイもう出しちゃったんですかぁ〜? 後輩に後背位して、背徳感が勝っちゃったんですねっ? かーわいっ』

 

『く、クソォ! こ、後輩の分際でぇあひぃん! た、食べられる……たべられちゃうぅぅ〜!』

 

「「「…………」」」

 

 沈黙は十数秒続いた。

 

「……ハッ、笑えよ」

 

「いや引いてるんだけど。さっきから矛盾だらけの発言連発しまくってる宍戸さんをセクハラで上部に報告してもいいかしら?」

 

「分かったすまない。夕立ちゃんが言ったように俺は警備府の仕事も手伝っていて、役職にはついているけど閑職だしそもその報酬も少ないタイプの仕事のわりにはハードで責任が重いけど、一応貰ってるからには最善を尽くすのは人間だと思っている。だけど、最近はホントに寝れなくて疲れてるんだ。斎藤司令官には別の仕事頼まれてるけど、一旦断って出てほしいっていう運動会には出てみるよ」

 

「わぁーい! さーんきゅっ!」

 

 ぴょんぴょん跳ねながら喜ぶ陽炎とは対象的に、心底軽蔑してるような眼差しを向ける不知火。黒潮は顔に出してないが、この二人にはアフターケアが必要だな。ご機嫌取りを装わず自然な形でなにか奢ろうってやろう。

 

「それにしても夕立ちゃん、勝手に人の部屋に入っちゃだめって、いつも言ってるでしょ?」

 

「でも時雨たちはみんな入ってるっぽい! 夕立だけ除け者は嫌っぽい!」

 

「いやね? みんなにも勝手に入るなって言ってんだけど聞かなくて……」

 

「それに夕立は古鷹さんが困ってるから、宍戸さんに相談しに来たっぽい!」

 

 ……なに?

 

「奇遇だね、実はこの三人も同じ理由でここにいるんだ。古鷹から運動会に出席してほしいんだと。本格的助っ人として出てほしいのか、まだ何をどうしてなんでってのが全くわからないから今聞こうとしてたんだ。でも陽炎たちは伝言役って感じだし、夕立ちゃんの方が詳しそうだから説明してくれないか? 古鷹が、何に悩んでいるのか」

 

「うん、でもその前にパソコンのゲーム消してほしいっぽい。耳障りな喘ぎ声がさっきからBGMみたいに流れてて煩いっぽい」

 

「ご、ごめんね、すぐに消すから……あ、クリックしちゃった」

 

『きゃ! せ、せんぱぁい、そんなに甘えたいんでちゅかぁ〜っ? ふふふっ、密輸ルートを探ってるわけじゃないんですからぁ、そんなに一生懸命にならなくてもぉ〜……』

 

『こ、この……! う、うぅ〜バブロ・エスコバブルちゃん、エッチすぎるぉ〜……!』

 

『ふふふっ、ファミリーと先輩のいる誕生日って、最高ですね! このまま日を越して……』

 

『コロンビアン治安警察だッ!! 今すぐキメ○クをやめろッ!』

 

「消せって言ってるのがわからないんだったら夕立が画面壊してあげるけどッ?」

 

「はい消した、ダメだよ夕立ちゃんッ! 大事な論文のデータが入ってるパソコンを壊すなんて、イケない娘だなぁ!」

 

「単純に続きが気になったのホント悔しいわ……」

 

 陽炎はこのあと密かに続きを見せてとお願いしてくるが、それは夕立ちゃんをここから追い出した後の話である。

 まったく、エッチなゲームの続きがみたいだなんて、とんだスケベ艦娘だぜ。

 

「じゃあ夕立ちゃん、説明してくれるかな?」

 

「分かったっぽい!」

 

 

 

 

 ……古鷹が、口説かれてる。

 近衛竜也という、士官としては比較的新しめのおち○ちんがいるんだが、これがまた厄介な人物である。

 

 現代でも一応ネームバリューだけはあり、養子らしいが名家を名乗っている士官がいて、兵学校は首席卒業、スポーツ万能。屈強な肉体を見せびらかすイケメンであり、またイケメンの名に恥じないほど紳士的で、婚活、就活問わず、女性にとっての徳川埋蔵金である。

 

 ま、俺もなんだけどねッッ? 

 

「嫌なやつ」

 

「宍戸さん露骨に機嫌悪くするのやめて……それで、みんなが憧れる王子様が、古鷹さんに目をつけた、ってことでいいの?」

 

「それなら問題ないのでは? 不知火も名前だけなら知っていますが、悪い噂は聞きませんね」

 

「でも古鷹さんは乗り気じゃないっぽいッ! だから、宍戸さんからビシー! っと言ってほしいっぽい! 『おい、俺の女に触ってんじゃねぇよ、最高に素敵なパーティーに招待するぞ』とか言ってキメてほしいっぽい!!」

 

「もっといいセリフなかったの?」

 

 夕立は説明を続けた。

 演出上手のイケメンさんは運動会にて壮大な告白を計画していると、正に「どこ情報だよそれ」だが、種目で一位を取ることで取れるマイクに向かって、一般人もいる中で盛大な告白をする……みたいな?

 

 時雨たちも姉妹も、このイケメン&古鷹接触阻止計画に一枚噛んでおり、更に周知なのは恋愛マスター(恋愛に限る)足柄さん、ワーキングブルドーザーのゴーヤ、ロッテンガール綾波、メカニック夕張など、大勢が意見を出し合った結果「俺vsイケメンって感じでぶつけて古鷹を庇わせる」作戦に乗り出したのだ。

 

 再三いうが、長時間集まって捻出される作戦はロクなものじゃない。

 

「あの、それだったら俺が直接行って話したほうが良くない?」

 

「別にそれでもいいけど、その人の所属は大湊警備府っぽい。宍戸さんは絶対に行ったことが無さそうな場所っぽい! だから危ないっぽい!」

 

「一応あるんだけど、それより俺をはじめてのおつかいに赴く新人士官みたいな扱いしないでくれる? じょうかんぼく未開の地にいくのこわい、とか言って赴任拒否するようなヤツじゃないから」

 

「いや新人でも行ったことのない場所に行かせたくないとか言わんやろ流石に……」

 

 まだツッコむとしたら途方もない遠距離恋愛って点だ。無論、海軍省人事局の意向次第で、将兵の異動が年に百億回から数十年に一回まで幅広く適用される軍隊の本質として、家族を遠くに置いて数カ月の出張もまた珍しくない。

 

 第四鎮守府……現在の横須賀第二鎮守府にいた頃に会ったとか? 遠くにいてもアプローチをしてくるって相当だな……余程イケイケなヤツなんだろう。

 

 そんな彼が有給を使って運動会にワザワザ遠征をしてくるというのだ。

 今のところの人物像は”イケイケでクソ面倒くさい青坊主”って所まで固まった。

 

「夕立的に、まだこの作戦はまだまだ構想段階だからただの暫定っぽい! 時雨たちとはまだ作戦会議中だけど、結局宍戸さんを頼る方針に決めたっぽい!」

 

「なんでも屋はタダじゃねぇんだよッ……そろそろ金請求しようかな……」

 

「でも原価比率を考えたらお金かかってないからゼロ円っぽい! 加味したら1円ぐらいならあげてもいいっぽい!」

 

『や、やめてぇ! トロツキツキツオマ○こ変になっちゃう……!』

 

『うふふ……すたーりんちゃんの言うことを聞かないトロツキストは、全員シュクセイだおっ?』

 

「その変なゲームやめてって言ってるでしょォ!? 分かった謝るからマジメに聞いてほしいっぽい!」

 

 俺としてはかなりマジメに聞いていたはずなんだけど……?

 

「……古鷹さん、本当に困ってるみたいだったから……だから、少し力になってあげたくて……」

 

「夕立ちゃん……」

 

 しょんぼりした夕立ちゃんの頭をポンポンする。

 

「大丈夫だよ夕立ちゃん。俺に任せろ」

 

「っ! うん!」

 

 こうして、まだ古鷹本人から事情の詳細すら確認できていないまま、佐世保海軍運動会へと時を進めるのだった。

 

 


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