整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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デート大作戦!3

佐世保鎮守府。

 

 秘書艦村雨ちゃんと共に行った会議では艦船派があーだこーだ言ってた。

 

 掻い摘めば、艦船勤務の軍人が少なく新人に限りある演習をさせたりする教育的な面に欠点がある為、実戦では力を発揮できないのは当たり前だと言う。

 更に対空対地は良いが、対艦ミサイルに関しては艦娘寄りの技術が発展しすぎてる上、船の新型装備が更新されない点も挙げられたが、正しくその通りである。

 教育演習に関する事でもあるが、物資の配給が足りていないからそもそも演習がかなりやりにくくなってる現状と、海の配線を守る深海棲艦探索特化型の潜水艦だけには物資が良好に行き届いている不平さも取り上げられた。

 艦娘と艦船が共闘して戦える戦術論などもあったが、これらはすべて塵と化した。

 これほど急に話を持ち上げたのは、多分八丈島作戦でも、沖縄作戦でも、一次作戦で使われた艦船が、深海棲艦にあっけなく撃沈されて「大規模作戦で艦船が出撃すると大失敗に終わる」というジンクスが出来上がってるからだと思う。今更遅いし、双方ともなんだかんだ永原少将のせいだから、この人たちが悪いわけじゃない。

 

 当たり前だがこれらの文句は大本営レベルの人たちを動かさないと解決には至らない上、そもそも数十、数百レベルの海軍軍人を危険に晒す上、効率的な代用兵器、兵士である艦娘が居るのだから無理にそれらを起用する必要はない。

 それに第一次大規模作戦でも沈黙した艦の救助に艦娘が多く使われた件も行動を滞らせた原因になったので、艦娘研究に尽力している国家はよほどの問題に直面しない限りは起用に積極性を見いだせないと結論づけた。

 

 そしてみんな仲直りして、幸せになったとさ。

 

 ちゃんちゃん。

 

 

 

 って簡単に行くわけねぇだろ。

 そんな簡単に行ったらここまで苦労しねぇんだよ。

 

 佐世保鎮守府の廊下内にはリアルグループチャットが開かれていた。

 

「俺たちを……整備工作班補給科に……?」

 

「簡単な仕事とは言わないけど、艦船勤務ほど閉鎖された環境じゃないし、何より陸! 別に出航するわけでもないのに、形だけ出航状態にするために船に閉じ込められる心配もない。この補給部隊にはボーナスもあるんだ。これ以上、艦船に関しての問題起こさなかったら今までどおり艦上勤務でもいいし、君たちから教官への転属の推薦をしてやってもいい。こういう問題起こすんだったら少し海軍省に掛け合って変な所に転属しちゃうけど……」

 

「い、いいえやりますやります!! やらせてください!」

 

「流石は宍戸大佐ッス! 正直艦長に乗せられただけなんで、金さえ良ければどこでもイイっす」

 

「そうかそうか、当然だな。あとスマホ貸せよ会議中に村雨たんのパンティー撮ってただろクソ野郎」

 

 頼まれてやっているわけではない。

 ただ、忙しい時期にこれ以上蘇我提督の負担とならないようにしなければいけないのは、部下として当然の役目であり、何より俺に火の粉が掛かったんだからこれ以上未来に問題を持って行くわけには、いかないのだ。できる範囲で問題点を削除するのが、俺の流儀である。

 

「貴様ら何をしとるんじゃ!? おん!? ワシの部下を丸め込もうなどと、そうはいかんぞい!!」

 

 白髪の老いぼれクソジジイ風艦長は今年で40になるらしい。拡大解釈すれば30代で大佐。すこぶるエリートなんだけど、明らかに年齢サバ読んでるよねこれ。絶対70歳ぐらいだろ。昇進した理由、たぶん風格があるからとか有り得そうで怖いわ。

 

「あ、艦長もこれ以上問題起こしたら駄目ですよ? 実は斎藤長官及び次官へ、警備府が試作運用してる新兵器についてレポートを提出しに行くのです。その際、艦長のご不満を大淀総長も含めて言及してもいいですが、いかがですか?」

 

「い、いやぁ〜最近耳が遠くてのぉ〜ふぉっふぉふぉふぉ……」

 

「艦長、実は海軍省に艦船不要論というものが上がっていまして、小官は必要派なのです。もし小官や小官の尊敬に値する上司である蘇我提督を煩わせる問題は、早急に対処するべく中央へ……」

 

「わ、分かった分かった! もうこのような事はしない! それでいいんじゃろ!?」

 

「そうじゃ」

 

 遺恨は残さない、戦いとは戦う前後が大事なのだ。

 

 

 

 しかしどうしても戦略だけでは勝てない戦いもある。それが筋肉と反射神経と運動センスだけで競う公平な戦……通称スポーツである。

 ただスポーツと言っても多種に渡るため、どうしても苦手な分野が出てきてしまい、それをよりシンプルに、より公平にするために設けられたのが、運動会の種目というわけだ。

 

 艦船派の一部を丸め込んだ後、運動会の臨む俺は、今後の彼らの処遇について考えながら、いち選手として直立していた。

 

 佐世保鎮守府運動会場。

 

『この度、佐世保鎮守府、主催、海軍、運動会を、開ける事を、とても、嬉しく、思います──』

 

 活気に溢れ満ちた兵士たちが参列している。

 遠目で見ても佐世保方面軍司令長官殿の威厳は五臓六腑に染み渡る。

 

「蘇我提督ってあんなにキョドった喋り方してたっけ? あんなにムキムキなのに人前に出るの苦手だったり?」

 

「いや違うだろ時雨じゃあるまいし。ちゃんと分かりやすく喋べらないと一般人に伝わらないだろ」

 

 お日様が見守る運動会会場。

 音楽隊と選手の足踏みは観客席にまで届いていた……というのは、村雨ちゃん談である。

 

 時雨は長崎警備府所属として、俺は個人として選手枠を担っている。

 

 観客席には一般人がほとんどだが、見物人の中には少なからず軍人が混じっている。その中には、村雨ちゃん、夕立ちゃん、陽炎三姉妹と……古鷹がいる。

 代表とされる選手が宣誓を行い、開会式を終えた運動会が開始された。

 

『『『きゃああああああ!!! リュウヤサマァァァァァア!!!』』』

 

『来てくれてありがとうございまぁッス!』

 

 観客席からRYUYAの文字が応声と共に掲げられている。それに堂々と応えられるのは、リュウヤとか言うイケメンクソち○ぽ以外にいない。ここをなんだと思ってるんだエキストラは? 普通の運動会じゃないんだぞ。

 

「へぇ〜あれが古鷹を狙いやがる竜也さん……もとい、近衛少尉か。一応後輩だけどあんな人気集められるなんて羨ましいねぇまったくクソッッ」

 

「落ち着いて宍戸くん、やることはわかってるでしょ?」

 

「あぁ、整形レベルまでアイツの顔面偏差値を下げるって寸法だよな? わかってる、楽勝だから」

 

「いや違うから」

 

 彼は近衛竜也と言って、兵学校首席のエリートでありながら、芸能人としての顔も持つ、川内三姉妹に続く海軍を代表する広告塔だ。人気の理由は多々あるも、恋愛に関して”誠実と一途”のモットーを貫くタイプであると公言している。

 だが、そんなチ○ポがイ○ポらしく古鷹に迫ってるのはみんなと話した通りだ。佐世保まで運動会に参加した理由はなんと古鷹目的であり、彼のSNSでも「とある艦娘に愛に……いや、会いにいく」と、これまた大胆に公言している。

 

 きも。

 

 作戦ってほどでもないが、艦娘たち公認で俺に片思いをしている古鷹……という構図をこれでもかと見せつけるのが、諦めさせるベストな方法だとみんな賛同した。

 

 しかし実はこの運動会の後、「実は古鷹と俺はみんなに内緒で付き合っていた」という二重構造を作り、信憑性を得るために二人でデートをして、時雨たちが彼の手を引き、ラブラブな姿を見せつける算段だ。

 

 それじゃ運動会へ参加する意義はあまりないのではないか? と斎藤提督にも聞かれたが、そんなことはない。諦めさせるには、彼を上回る要素を兼ね備えている事を示さなきゃいけない。

 運動会で勝負するなんて古いラブコメぐらいでしか思いつかないだろ。でも、それでも古鷹のためとあってはやるしかない。何よりタイミング的には素晴らしいので使わない手はない。

 

 個人的な事を言えば、軍の行事、特に運動会なんて群雄割拠のイベントで優等を刻む事はプロフィールのアップデートを意味する。異色だが有用なステータスは取っておくに越したことはない。人事で地味に有効打となるモノはなんとしてでも勝ち取りに行くスタイルだ。

 

 だから、あの陽キャな陰茎……ではなく陰系男子にそれを取らせるわけにはいかない。結構年下の後輩だとしても一度キックをお見舞いするぐらいは必要だろう。

 

「グルルルルル……」

 

「落ち着いてくださいcaptain、野獣のようになっていますよ!」

 

「お前なんでここにいるの? アメリカに帰ったんじゃないのかよ?」

 

「酷いですcaptain!? 確かに一連の出来事はありましたが、だからと言って帰るなどと……captain、もしかして香水変えましたか?」

 

「ちょ、やめろってお前! そんな乙女心を燻らせる気付き方するなよぉ……」

 

「ははっ、可愛らしいですよ、captain……」

 

 

『チッ、アイツら運動会の選手同士でイチャいちゃしてやがるぜェ……? ベンチプレス200キロ代の俺様が直々に寝取りレ○プしてやろうかァ……?』

 

『おいやめとけって! アレ確か宍戸提督だぜ? 艦娘と互角に組み手やってたとか言う……』

 

『マジかよ!? チ○ポがウズウズするぜぇ……!』

 

 

「ほ、ほらぁ、お前のせいで皆に見られてるだろ〜?」

 

「haha、良いじゃないですか、見せつけてあげましょう! 私たちの、愛をォ! ほらShigureも!」

 

「女の僕がこんなに居づらい空間ってある? やめて宍戸くん。第一にキモい、第二に宍戸くんがガチムチだってわかったらこの後のひっそりデート作戦が台無しになっちゃう、第三に準備時間中に接触して話すって作戦が既に台無しになってる」

 

「すまん時雨、じゃあおれイグッッ」

 

「普通に行ってきます言えなんだね? あ、僕が直々にその汚い口の中改造して言えるようにさせてあげようかっ! 口裂け男って一度見てみたかったんだよねっ」

 

「本当に申し訳ない、任務に取り掛かる」

 

 選手たちはそれぞれの科目に応じて、準備をするか、暇をするかの二者択一。

 これは学校の運動会とほぼ同じだが、ガチで暇そうにしているのを見つかると上官に怒られたり、手伝いを強要される。

 

 しかしイケメン士官さんはどうやら、御通り御過ぎる度に艦娘や女性から御声を御かけになられる事が多く御られるらしく、無条件に沸き立つイラツキを抑えながら自然と彼に近づくこうとした時だった。

 

「あ、す、すいません! 宍戸提督ですか!?」

 

「あ、あぁ、提督ではないんだけど……君は、近衛少尉、だったよね?」

 

「じ、自分の名を宍戸提督……いいえ、宍戸大佐に覚えていてもらうなんて、光栄です! 自分は大佐を尊敬しています!」

 

「そ、そうなんだ……いや、君も中々に有名な士官だ。海軍として逸材を手に入れたのは誇らしい事だ、と上部の先輩方もお喜びになっていたよ」

 

「じ、自分がそのような……いやぁ、今日は来てよかったです! 宍戸大佐にも、まさか会えるとは思っていなかったので、本当に良かったです!」

 

「そ、そうかそうか! 今日は楽しんで、頑張ってくれ!」

 

「はい!」

 

 

 

「どうだった宍戸くん?」

 

「宍戸さん計画通りツバ吐き付けてやったっぽい!?」

 

「いやぁ〜意外と話せる奴だった」

 

「あ、これ多分何も言ってこないまま帰ってきたヤツだ。夕立、やるよっ」

 

「オッケーっぽぉい!」

 

「うああああああああああ!!! やめろやめろやめろォ!! ここはIMMAF公式会場じゃないんだぞォ!」

 

 ボディプレスをかけられる前に引き止めてくれた村雨ちゃんたちには感謝する。陽炎たちはとても残念そうな顔をしているが、内心しょうがねぇやつだなぁ〜とか思ってんだろうな。

 

 そして、肝心の古鷹は皆の陰に隠れている。

 

「あ、あの、宍戸さん……やっぱり私なんかのために……んっ!」

 

 俺の人差し指で古鷹のプルっとした唇を塞いだ。

 

「古鷹、私なんか……なんて言葉使っちゃだめだよ? ここにいるみんな、古鷹のために来てくれてるようなもんなんだから。みんなの好意を素直に受け止めるのも、立派な役目だと思うよ」

 

「んっ……は、はいっ……」

 

「「「うわぁ……」」」

 

 おい、こういうの好きなんだろお前らッッッ?

 

「……でも、やっぱりこれは私の問題です。宍戸さんたちにご迷惑をかけるわけには……」

 

「古鷹さんは、あまり自分の意見を表に出さないけれど、こういうときぐらいは本音をぶつけても、村雨、いいと思うわよっ?」

 

「…………」

 

 少し塞ぎ込んでしまった古鷹。

 そんな古鷹の頭を撫でる。

 

「宍戸さんっ……」

 

「大丈夫だ、あんなヤツ俺という上官様が劣等感と敗北感と色々俺の実力と実績を混ぜた劣弱意識まみれにしてギットギトのべっちゃべちゃにしてやるからな」

 

「は、はい!」

 

「もう少し言葉選べないの?」

 

「というより、劣等感を感じているのは司令なのでは?」

 

「何言ってんだ不知火貴様? この俺が、あんな学校卒業して間もない青臭いガキに、劣等感を感じていると? キャリアも年数も圧倒的にコッチ優位の俺が? ハッ! 冗談じゃねぇんだよあんなのに嫉妬してて海軍やってられっかってンだよォ!!」

 

「そ、そんなにムキにならなくても……村雨は、村雨だけは、宍戸さんの方が素敵だって、分かってますからっ」

 

「あ、心のギトギトシットシン消えちゃったっ!」

 

「わっかりやすい司令はんやなぁ……」

 

 

『次は、男子短距離走です』

 

 そうこうしている内に俺の出番がきた。

 

「よし、あの近衛とかいうイケメン野郎の顔に土方のモノをドバーっと体中に塗りたくってやる」

 

「体なのか顔なのかどっちなの……」

 

「ウルセェゾッ!! 全身にね、くまなくね、すごいことするから、見ててね?」

 

「宍戸さん、イケメンさんの前だとこんな風になるっぽい……?」

 

 夕立ちゃん、今更だよっ。

 

 

 

 彼が出場するのは短距離走、そして個人として目玉である障害物レースだ。

 

 一列に並ぶ屈強な肉体を持った海軍マッチョたちの中には、もちろん俺が倒さなきゃいけない相手である近衛少尉もいる。

 

 一斉に並び始めた軍人の中には、俺を見て驚いてるやつもいる。

 そりゃそうだ、この大会に出場している中で二番目に、それも他と比べてずば抜けて階級の高い人物がいれば普通目を疑うだろう。

 

 因みに一番高いのは佐世保方面軍総司令官の蘇我提督で、屈強な肉体を使った綱引きのアンカーとして出場するらしい。

 

 接待プレイはゼロ。手加減はなしだぞ? と意思を伝えるため隣の選手たちにウィンクとサムズアップをキメる。

 

 そして、隣に並んだ士官が声をかけてくる。

 

「お、同じ競技だったんですか宍戸大佐!? 奇遇ですね……」

 

「あぁ、滅茶苦茶奇遇すぎるオーマイゴッド。上官だからって手加減はなしだぞ? 手を抜いていると思ったら、それこそ厳罰モノだからな? 本気で戦って勝ったモノにこそ、価値があると俺は思う」

 

「は、はい! 自分も、自分の意思を示す為にここに来ています! お互い、全力を尽くしましょう!」

 

「そのイキだ!」

 

 開始前にある数十秒ほどの時間を使って、観客席に手を振ったら、陽炎たちが手をふりかえしてきた。

 少し陰になって見えないけど、古鷹もちゃんといるはずだ。さて、ここが正念場……結構走り込みをサボってしまっていた俺は、果たして勝てるのだろうか?

 

『では、位置について……よぉーい! スタートォ!』

 

 

 


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