整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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デート大作戦!4

 

 優雅なお昼時間を過ごすには快適な佐世保鎮守府の運動会会場裏。お空は満点の笑みを浮かべ、選手たちに太陽エネルギーという、ささやかな安らぎを与えている。

 

「はいはいはいはいはいはいかっこいいかっこいい一位になれてよかったでちゅね〜すっごぉーいィィィ! 俺をぶち抜くなんて大したヤツ! ッッッ!!!」

 

「お、落ち着いてって宍戸さん!」

 

「お、おちちゅいてりゅううううううッッ!!!」

 

「こりゃ駄目っぽい。っていうか、あのイケメンさんには勝ったから結果オーライっぽい?」

 

「でも一位取れないの悔しいじゃんッッッ!!!」

 

 格の違いってのを見せつけてやる算段は成功した。

 

 一位筋肉、二位俺、三位イケメン。

 俺が目指したのは一位獲得という、人助けも個人的目標も達成するsランク完全無欠勝利だ。同族の海軍仲間だからと言って手は抜かなかったが、全力全開でも負けた。

 やっぱり若い佐世保鎮守府直属の体力バカがその特化した肉体を見せつけ合う場では、俺みたいなのは弾きものにされる運命なのだトホホ……!

 

「あの……司令、本当にお気になさらなくても良いのでは? 二位じゃだめなんですか?」

 

 なにッ? ははは、不知火面白いこというじゃないか……それはね?

 

「駄目に決まってるよォッ!! たとえば、ほら例えばよッ? 不知火が知らない艦娘たちのリストの中でイッチバァァン! いい娘選べって言われて、何を基準に選ぶ? もちろん成績とか練度とか色々数字が高いヤツ選ぶよねッ? それがさ? ランキング形式で一位、二位って明確に順位が決まってるモノに、ワザワザ二位選ぶヤツいるゥゥゥッ??? 海軍省みたいな中央は何を基準に選ぶゥゥゥ??? 大学校首席選ぶに決まってんじゃん秋津洲さん裏山ッッッピィぃぃッッ!!!」

 

「分かりました、不知火が間違ってました」

 

 俺の完璧すぎる弁舌に恐れを成した不知火はさっさと弁当箱を開けて「いただきます」してしまった。

 

「Shiranui、それに皆さんも、teaはいかがですか?」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「「「いただきまーす!」」」

 

 自然と混ざってくるべリングハム少佐。コイツがいると俺の存在価値薄れるから近くにいてほしくないんだよなぁ。

 

 古鷹は蘇我提督と一緒にいる。

 一応秘書艦として、そして妹の加古の有志を見届ける為に。

 村雨ちゃんと時雨が会場から戻ってくる中、高らかに上げた時雨フィストは優勝した事を意味していた。また、短距離走に出場した加古に勝利したという合図でもあった。

 

「いやぁ、帰ったら警備府のみんなに褒められちゃうんじゃないかなっ! 僕の勇姿をみんなに見せて、僕こんなに頑張ったんだよ? って言ったら絶対にボーナスモノだよねっ」

 

「加古に勝利したのか。加古って結構脚長いし見た目運動とか余裕そうだったからもしかしたら負けるかと思ったんだけど」

 

「ふふ、僕が強すぎただけ……あ、お茶もらっていい?」

 

「私ももらってもいいですか?」

 

「もちろんですShigure、Murasame」

 

 優雅にティーセットから茶葉を入れ替え、マジックポットから熱湯を注ぐ。まるで執事のような規律正しく美しい動作にスタジオ騒然! モデルを凌駕する白人イケメンが尽くしてくれるシチュエーションに、女性陣歓喜! 金髪碧眼の執事はいかが? みたいな?

 

 は? 俺もできるし。

 今のおれ、阿修羅フェイスだし。

 

「宍戸くんさっきから色んな方向に嫉妬心向けてて疲れないの?」

 

「疲れるさ……誰か俺を解放してくれ」

 

「あ、あの……私で良ければ、何か力になれますか?」

 

「ふ、古鷹!? なんでここに……っていうか、こんな目立った場所にいちゃだめじゃないか……」

 

「いいえ! 私のためにしてくれていることなんですから、なにかしないと……気がすまないんです!」

 

 相変わらず古鷹はマジメだなぁ。

 

 広げられたドデカイ重箱からは、手作り弁当特有のバライティに富んだラインナップがズラリと出てきた。みんなの為に持ってきてくれたのは大変素晴らしく、飲み物も持ってきてくれたようだ。

 飲食類は既に買ってあるんだけど、古鷹の好意を無駄にするわけはなく、艦娘たち一同はガブガブ食べ始めた。

 

「おいしい! ありがとう古鷹!」

 

「いえいえ、し、宍戸さんも、どうぞ……」

 

「「「!?」」」

 

 もぞもぞと古鷹から後ろから取り出したのは、一般的な中高生が持ってくるお弁当箱。

 中からは、愛情がミシミシと感じられるハート型の海苔を乗せたお米、10種類にものぼるかわいらしいおかず一覧、古鷹の愛。

 古鷹は、俺のために、みんなとは別に作ってきてくれた……ということになる。

 その事実に、全員が驚きを隠せない……もちろん、俺も。

 

「あの……私、こんなことしかできなくて……」

 

「何を言ってるんだ、古鷹がいるだけで天使フルタカエルの圧倒的加護を付与されている人々が大勢いるんだ。俺を含めてな? だから、ありがとう古鷹、俺はあの競技で二位になってしまった負け犬野郎だが、古鷹のお弁当はありがたく受け取るよ」

 

「はい! ……ど、どうぞ……あ、あーんっ」

 

「「「!?」」」

 

 周囲の有象無象を更に驚愕させたのは、女子の男子必殺、重巡古鷹の先制攻撃。

 顔を真っ赤にしながらも、一生懸命自慢の手料理を食べさせようと、プルプルと震えたお箸で唐揚げを差し出してきた。漢は黙って応える。

 

「…………」

 

「ど、どうですか……? お口に、合いますか……?」

 

「……ほら宍戸くん、お口に合うかどうか古鷹が聞いてるよ。早く答えてあげるのが、漢だと僕は思うなっ」

 

「おひひぃ」

 

「お口に物入れて喋っちゃいけません!」

 

「テメェが答えを急かしたんだろ!? ゆっくり手料理を味わってたのに、今度はイケません!? ワットアファックだよッ!!」

 

「…………」

 

 俺と時雨の会話を、あまり面白くなさそうに見つめる天使古鷹。

 

「ごめん古鷹、本当に美味しかったよ」

 

「……えへへっ、ありがとうございます」

 

 今度は時雨が一瞬だけ嫌そうな顔した。

 他人から見たら特に変化はないように思えるが、長い付き合いの俺にはわかる。

 だが古鷹は畳み掛けるように、頬を紅潮させながらもお弁当を食べさせてくる。一人で食べれると言っても「いいえ! このあとも運動を控えているんですから、宍戸さんはゆっくりしていてください!」と、普段は大人しい彼女も、今日は珍しく頑固だ。

 そんな健気で麗しい女性を独り占め……いや、ハーレムを築きし俺を独占する古鷹に、嫉妬して針よりも鋭い眼光で牽制しようとしつつも、古鷹はそんな卑しい感情には動じない。

 

 どうせ総司令官に何か言われたんだろうが、若干楽しそうにしている古鷹にそれを聞くのも野暮というものだ。

 

 漢は黙って愛を受け止める、漢憲法第二条だ。

 

 それにしても、これだけの美少女艦娘たち侍らせて目立っているのに、あのイケメン後輩士官が来ないなんて、おかしいと思った。辺りを見渡しても近衛少尉の姿はない……と思ったらあそこにいた。

 

『兵学校を首席で卒業し、今はあの北部方面軍の中心である大湊警備府に勤務しているとの事ですが、海軍の生活はいかがですか!?」

 

『少尉任官したばかりの自分をここまで見込んでくれたという思いで一杯です! この日本海軍、ひいては国民の命を背負って、守っていけるようになりたいです!』

 

『蘇我提督は近衛少尉と初めて会うそうですが、未来の明るい海軍士官を前にした今、どのようなお気持ちですか!?』

 

『貴様に古鷹はやらんッ』

 

『え、えぇぇ……』

 

 なるほど、報道陣も今回の運動会には全力を持ってかかっていることが伺える。一応俺は有名人である自覚がないわけじゃない。当然、前線艦隊で活躍したエリート艦娘たちもこちらにいて、更には雑誌モデルのべリングハム少佐もいる。

 しかし近衛少尉の熱愛の方に気を取られるのは当然だろう。経歴を見たが、子役として活躍していて、今人気なのはただドラマに出てるからとか、それだけが理由じゃないのが伺える。

 子役タレントが兵学校で首席卒業、更には女性を追いかけているともなれば、一連の衝撃的な時流をリアルタイムでみたいと思うのは市民として当然。

 

 それは何かと出動していつでも会える国民的英雄とは、時事的な話題性の格差は大きい。つまり、俺よりもアッチに目が行くのは当然だが、こちらに来ないのも情報統制の一環なのだろうか?

 

 そして提督も古鷹への接触を食い止めるのに関与しているのだろうか? えらく敵対心を持っているように見える。が、古鷹が言うにはどうやら違うらしい。確かにエリートだが地方人まで巻き込んでエンターテイメントのように過度な膨張をさせて古鷹に近づきまくるアレが、単純に気に入らないらしい。

 

 そうは言うけど、過度な演出で迫らなくても提督なら近づく者すべてに睨みを効かせかねない。舞鶴鎮守府にいた頃、古鷹に近づいてすごい睨みを効かせてきた事がある。

 それ以上に参謀長のオッサンとか、提督の幕僚たちが過度な接触を抑えていたイメージだったので、ある種の不可侵領域のような存在だった。

 当時は、「参謀部のモテなそうなオッサンならともかく、結婚して子供もいるって話には聞く提督が、自分の秘書艦だから独占欲を見せてるなんて、クッソ小せえ提督だなァおい」と内心悪態をついていたのが懐かしい。

 

「ゴッホっっっっ──!!!」

 

 古鷹が詰め込んだ料理が口の中を詰まらせた。お陰で吹き出したじゃんか、悪い子だ、今度は俺のを詰め込んでーー

 

「す、すいません宍戸さん! あ、あわわ飲み物のみもの……!」

 

「こちらをお飲みくださいcaptain」

 

「ゴックゥゥンッ──!! なんでテメェが古鷹より先に用意してんだオラァ!!」

 

「飲み物必要なかったみたいですね司令」

 

「必要なかったがな不知火、危うく死にそうだった上、口の水分奪われてんだよッ。こういうときに飲むモノなにか知ってる? コーラ以外美味しいモンねぇぞオラァ!!」

 

「こ、cokeですって!? それはイケませんcaptain。ユダヤの侵略がまさかcaptainの血液にまで進んでいるとは……」

 

「少佐ちょっと黙ってろ。古鷹、分かってるね?」

 

「は、はい! 今買ってきます!」

 

 勢いよく立ち上がった古鷹のパンツ……ではなくスパッツの奥のエッチな場所が見えそうになる彼女を追いかけたのは、自動販売機に走っていったのを確認した数分後の事だった。

 

 

 

 

 遠回りをしてなるべくひと目につかない所を選んだのが幸いしたのか、彼女の周りには誰もいなかった。

 

 あまり使われていない場所みたいで、3種類もある指定飲料のチョイスに若干戸惑っている様子だ。「こ、これかな? それともこっちの方が好みなのかな……」など、あわあわしている古鷹をこのまま眺めているのも一興だが、迷わずに古鷹へと詰め寄る。

 

「し、宍戸さん!? ど、どうしてここに……」 

 

 少しハッキリさせたい事を思い出した。

 

「少し聞きたい事があってね、みんなが居ないところで聞きたかったから、丁度いいタイミングなんだけど……いいかな?」

 

「は、はい……」

 

「……古鷹は、本当はアイツのことどう思ってるの?」

 

「え……」

 

「古鷹は優しいし、物静かだから、周りの勢いで押されちゃう所があるのは知ってる。だからこそハッキリさせておきたいんだ。あの近衛少尉って、結構なイケメンで、将来有望で、女性を大事に出来そうな感じするし……」

 

「…………」

 

「だから、最初は戸惑って否定しちゃって、それで周りが古鷹を守るために躍起になっちゃった……そんな、周りに任せちゃって、自分の本心を話せた事って、結構少ないでしょ?」

 

「……そう、ですね……」

 

「古鷹、本当は、あの近衛の事……どう思ってるの? ただ邪魔な虫ってわけでもないでしょ?」

 

 正直、まだまだ古鷹の本心が分からないでいた。

 俺が縁談した時のアレはTDNヤケだったのか、というよりほぼ100%蘇我提督の強引さが招いた結果だけど……古鷹は、俺の事をどう思ってるんだろう? 迷惑この上ない奴ならまだしも、古鷹は優しいからそんな事思わないし、そもそもどういう経由で彼に出会ったのかが疑問だったから、それがとても気になる。

 

「古鷹、彼について、聞かせてもらえない?」

 

「そ、その……な、内緒に、してもらえませんか?」

 

「もちろん」

 

 内緒にしなきゃいけないぐらいヤバい内容だったらケース・バイ・ケースで蘇我提督に話すことになるけど。

 

 ──横須賀第二鎮守府所属の頃、彼が少尉候補生として着任した。

 兵学校卒業者らしい人事だなと思ったが、最初はあまり海軍に馴染めなかったらしい。

 当然、芸能界で生きてきたヤツが、兵学校を卒業したのが驚きだが、やはり学生の頃と勤務している頃とじゃ大変さが違うし、芸能活動も兼任しているともなれば非常にハードで、首席卒業者にかかる期待の圧力は大きい。

 

 そんな所に舞い降りたフルタカエルが、色々とアドバイスをする。

 

 というより、教育係の一人の担っていたらしい。

 

 なんやかんや、好きな人への恋愛相談役も兼任し。

 

 そして古鷹に惚れちゃう。

 

 ありがちすぎて腹立つが、こういう人生謳歌王道コースを歩むクソ野郎ほどベタな人生送ってるんだよな。よくアニメとか映画とか小説とかよく見るタイプの登場人物は、一般人が見て見栄えのある人生を送っている事が多いのは当然だ。

 

 ……恋愛相談とか言っていたが、つまり古鷹より好きな人が前にいたって事か。

 こりゃ許しておけねぇな。

 一途でも途切れちゃ意味ねぇんだよ。

 

「首席の素性はわかったけど、肝心の古鷹の心の声はまだ聞いてないな。彼と付き合うのって、想像できない?」

 

 少し考える間を置いた古鷹は絞り出すように答えた。

 

「……逆に宍戸さんは、私とあの人が、お付き合いしても……いいんですか……?」

 

「そりゃイヤだよ。古鷹があんなヤリチンとケッコンカッコカリしたら俺、一応アイツの上司になるかもしれないし、そしたらアイツの昇任枠取り消す」

 

「そ、そこまでしなくても……」

 

「古鷹も、俺が見知らぬドスケベボディーのお姉さんと付き合っちゃったらどう思う? 女優、国家公務員、話題沸騰、全国にファンクラブ、そんなステータスのある人と付き合ったら? うわ、コイツ逆玉の輿狙いじゃん、て思うじゃん」

 

「そ、そんな事は……っていうか、宍戸さん古鷹の事をそんなふうに思ってたんですか!?」

 

「誤解だよ誤解。でも、古鷹の本心に問うべき質問を、俺の感情や他のみんなの感情で判断しちゃだめだと思うんだ。古鷹の本心が知りたい……古鷹は、本当はどうしたい?」

 

「…………」

 

 

 …………。

 

 

 

 

 

 

 障害物レースのスタートラインは選手たちの熱気で既に溢れかえっていた。観客席からは主に近衛少尉の応援団、海軍専用席からは……音楽部隊が来ている。俺個人への応援は彼らの音響によって阻害されている。

 

 全選手が、各々のスタートラインを温める。

 

「宍戸大佐! またお隣に立てるなんて光栄です! 短距離では負けてしまいましたが、今回も正々堂々とーー」

 

「近衛少尉」

 

「え、は、はい!」

 

「貴官には意中の相手はいるか?」

 

「な、なんでしょうか突然……い、いいえ! います! 彼女も今、俺の活躍を見てくれている……はずです」

 

「なるほど、君が公言していた片思いというヤツか。しかし近衛少尉、君は前にも片思いをしていたと噂で聞いたんだが……今、貴官を見ている彼女は、前の想い人よりも、さぞ素敵な女性なんだろうな」

 

「く、詳しいですね……はい、俺が彼女と出逢って……いいえ、邂逅(であ)ってしまってからと言うもの、俺の毎日はあの人の事でいっぱいです」

 

「なるほど……好きになるのに理由が必要じゃないように、好きじゃなくなるのにも理由は必要ない。その瞬間を一途に愛せば、人としての道理を果たせる……だから、心変わりは仕方ない。貴官はこの論についてどう思う?」

 

 古鷹が少尉から聞いたセリフを上手く使わせてもらった。

 

「お、俺もまったくそう思いますッ!! 流石はあの宍戸大佐ですッ!! 尊敬がさらに深まった気がしますッ!!」

 

「おうそうか、俺もこれでテメェのコト心置きなくぶっ潰せるわ」

 

「え」

 

 


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