ー舞鶴第二鎮守府、玄関。
「ハァ〜いっぱいお土産買っちゃったな〜!宍戸くんって太っ腹な所あったんだね!」
「ひぐっ……おれぇのぉ……っ……ありがね……ぜんぶ……はたいて……えっぐ……!」
「そ、そこまで泣かなくても……」
手に持ちきれない量の手土産は、舞鶴に日帰りで持ち込んだ大阪限定の品々だ。勿論これら全部を買ったのは、泣いているこの俺である。
時刻は空に燦然と輝く星を見て夜、正確な時間は9時を回っている。春雨ちゃんたちの人事担当者の一人に、なんとかして舞鶴へ配属してもらうように説得して『最善を尽くす』と言う実のない言葉を手に入れた。一応良しとしとこう。
土曜日の夜は相変わらず少しだけ騒がしく、陸軍の人達が居たら嫉妬で罵声と嫌味を浴びせられる所だ。
「あ、宍戸さんに時雨さん。今日は二人でデートですか?」
「「違います」」
「ふふっ、お似合いだと思いますけどねっ」
鎮守府の大和撫子こと翔鶴が立っていた。妹の瑞鶴と並んで、五航戦と呼ばれる空母機動部隊の主力である。
その立ち振舞いから街で人気を博しており、特に年上好きの男子学生達が翔鶴の姿を拝見した場合大抵は墜ちる。
この前はドラマを見ていたのに今日は打って変わって、村雨ちゃんみたいに重そうな洗濯物を持っている。手伝っているのか?重い物を持っていても一礼する姿は崩れず、颯爽と去っていく姿はどこぞのお姫様の如く美しい。
「相変わらず綺麗だね翔鶴って」
「あぁ、見てるだけで心が洗われそうだ」
「あんな翔鶴だけど昔はレディースの総長だったらどう思う?」
…………?
「冗談だから、そんな羅生門みたいな顔しないで……第一、翔鶴とはこの鎮守府で知り合ったんだから分かるわけないじゃん」
「それもそうだな、ははは!」
ー鈴熊部屋。
「つ〜わけでぇ〜!二人してドコに行ってたのかなぁ〜?鈴谷にも教えて欲しいなぁ〜〜〜」
「う、うぜぇ!大阪に行ってきて、それで春雨ちゃんっていう時雨と村雨ちゃんの妹の最終試験合格を祝ってただけだって!」
「ほんと〜かなぁ〜?こ〜んなにお土産買ってくれちゃって〜?」
「ちょっとこの量は怪しいですわね……」
「ほ、本当だって!宍戸くんとは何もないんだって!ね、村雨?」
「ふんだっ!知らない!」
「む、村雨ちゃん……」
口をぷくっと膨らませながらプイってする村雨ちゃんは、少々ご立腹のようだった。
多分その理由は、俺が時雨だけ誘ったからなんだろう。村雨ちゃんも誘おうかと迷ったが、必要だったのは春雨ちゃんの姉だったので無闇に同行させるのはちょっと気が引けたのだ。
でもそうなると除け者扱いになる。配慮が足らなかった俺が間違っていた。
「村雨……さん?」
「プイ!」
「む、村雨ちゃ〜ん……」
「プイ!」
「ちちん」
「プイプイ!」
ノってくれる村雨ちゃん好き。
しかし怒りのボルテージは下がる様子を見せない。俺は男だ、村雨ちゃんみたいな美少女を悲しませた責任の取り方を知らないほど、クソ野郎になるつもりはない。
「本当に悪かった村雨ちゃん!俺にできることがあれば、なんでも言ってくれ!」
コンコンコンッ
「ん、誰だろ?どーぞー」
「夜分遅くに失礼。副班長のなんでもする宣言が聞こえたんだけど……あぁ^〜いいッスね〜」
「副班長の土下座姿、アッハ、なんか芸術的」
「尻突き出してるなんて歪みねぇな♂」
「先にお願いした方が勝ちっスよね?」
「あ、村雨ちゃん、早くお願い言って俺を助けると思ってお願い早く速く疾くッッ!!」
「必死すぎ」
「……ハァ、分かりました。では宍戸さんは私と一日デートして下さい」
「そういう事だ。失せろゲイ共」
「「「腹立ちまスよ〜〜」」」
突然やってきた神出鬼没なゲイ共を追い払い、村雨ちゃんはやっと俺の方に顔を向けてくれる。
……ん?待てよ?デートだと?
「村雨ちゃん?デートっつった?」
「はい、デートです!日曜日に私とデートして下さい!勿論、二人きりでっ!」
「「「……え?」」」
「Seriously?」
ー翌日、舞鶴市。
舞鶴市ハ今日モ晴天ナリ。
空は青く、太陽光が身体を焼きつつも、港ならではの微風はかなり気持ちがいい。クソ蒸し暑いし虫がムシムシしてるから最高のデート日和とはいかないものの、雨が降るよりよっぽどマシだ。
まぁ、個人的に雨は好きで、その中でデートってのも悪くないと思っている。
さて本題だ。
ついに野郎共のアイドル、村雨ちゃんとデートをする事になった。理由は置いてきぼりにして、時雨や春雨と一緒に楽しいコトをしたからその埋め合わせをしろとのこと。
デートに誘われたのは初めてであり、そう意識し始めると青坊主みたいに緊張し始める。
メンズ香水は大丈夫?髪型崩れてない?うん、いいな。服装変じゃない?いや大丈夫、デートで調子乗ってるヤツは大抵こんなの着てるから大丈夫、うん。グラサンはカッコイイのつけた?バッチリだ。
小まめなチェックをコンビニの前でしながらデートの待ち合わせ時刻を確認する。
「ごめんなさぁ〜い!遅くなりましたぁ~!」
「全然いいよ〜……おぉぉ」
小走りで走ってきた村雨ちゃんは、ピンクのキャミソールは胸を強調し、短く全体的に茶色掛かったボックスプリーツスカートは生足を美しく見せてる。ヒール……じゃないな、底が高いサンダル型の靴を完備して、完全に夏って感じの女の子だ。
可愛すぎて抱きつきたいぜ。
「ど、どうですか……?」
「天使様が舞い降りてきたと思ったよ」
「あ、ありがとうございますっ……ふふふっ」
褒められて本当に嬉しそうだ。ただ、この後のデートプランは完全にブラフなので、罵声を浴びせられないように気をつけなきゃいけない。
村雨ちゃんを楽しませなきゃいけない責任感は大きい。今のうちに頭の中で進行ルートを選択、及び整理する。
『……楽しそうだね宍戸くん達ッ』
『んん〜まぁ埋め合わせデートみたいなもんなんだから、鈴谷達がついていく必要なくないっ?』
『欲しい本があったのでついでに街に出るのはいいのですが……流石にこう言う形での尾行は淑女としてどうかと……』
『甘いよ鈴熊。宍戸くんはあぁ見えてやる時はやる男なんだ。だからこうやって尾行して妹が襲われないか見ないと……ね?春雨』
『村雨姉さんとお兄さんがデート村雨姉さんとお兄さんがデート村雨姉さんとお兄さんがデート村雨姉さんとお兄さんがデートあは、あはは……っ』
『『だ、誰!?』』
ー映画館。
一つ目からベタな選択だ。だけど、一切嫌な顔せずに喜んで付いてきてくれる女子はとてもポイント高い。
ポップコーンのシュワシュワドリンクは映画の定番の付き物で、寧ろそっちが主な収入源じゃないか?と思うぐらい必ず買うべしと言う風潮がある。アメリカの映画館だったら一日分のカロリーがそこで手に入る。
「今話題の新作……楽しみですねっ!」
「そうだね。ジャンルはラブロマンス映画だから、村雨ちゃんの手を途中で握っちゃうかもな、あはは」
「あ、そ、その……握っても……」
「……?」
「あ、い、いいえ!なんでもないですっ」
映画館って微妙に声が聞き取りづらいよね?やっぱり空間が大きいと音が行きづらいのかな?
それはともかくとして、さっきから微妙に背中が痒いのは何故だろうか?村雨ちゃんみたいな美少女とデートしてる俺への嫉妬の視線か、或いは昨日背中洗わなかったからか。
『あむゥ!!あむあむあむあむッ……!何なのさあのいちゃつき方ァ!出来立ての中坊カップルかってんだよォ……!』
『シグシグ口調変わってる……』
『お兄さんと村雨姉さんがあんな関係だったなんて……あは、あああああああああああああああ』
『は、春雨さん違いますわよ?ポップコーンでもお食べになって落ち着いて下さいまし?』
「あ、あの……」
「どうしたの村雨ちゃん?」
「よければその……あの……ポップコーン……あ、あ~んって食べさせーー」
『カ、カラダガ、イレカワッテルー!?キミトゼンゼンゼンゼンゼン』
「お、始まったみたいだね。それでなんか言ったかな?」
「あ、い、いいえ、なんでもありません……っ」
俯いてモジモジしてる。トイレにでも行きたかったのかな?タイミング悪りぃな。でもぱぱっと観ちまえば尿意なんて消えるだろ(※消えません)。トイレを勧めたけど違ったみたいだ。
流石は映画館と広々とした空間を眺め始める……すると、遠くの席に見慣れた顔があった。
『この映画すっごく見たかったんだよパパ!』
『そうなのか?普段映画を見ない私でも楽しめるといいが……』
『大丈夫!凄く好評なのだから!』
古鷹と蘇我提督……つまり同僚と上司がいる。仲のいい親子だな〜。なに気に休日の上司ってのは少し気まずい。上映が終わり次第、速やかに退散するとしよう。
ー公園。
「映画面白かったな」
「はい!村雨、最後泣いちゃいました……あむっ」
映画見終わった後は公園で甘味を買って散歩する。買ったクレープを頬張る村雨ちゃんの口元にはクリームが付く。
それに気付かずクレープで口を隠しながら舌で舐め回している村雨ちゃん、妙に艶めかしい。
底が高い靴を履いてる村雨ちゃんは当然歩くのは遅いので、そのペースに合わせて歩く必要はある。たまに無意識で歩くの速くなっちゃっても、急いで付いて来ようとする所がまた魅力的だ。
「村雨ちゃん、ほっぺにクリームついてるよ」
「え?どこですか?」
「ここだよほら……ペロ」
「あ、ありがとうございますっ!そ、その……少し照れちゃいますねっ!」
「よしてくれよ!俺まで少し意識しちゃうじゃん!デートの定番って言ったら、クレープのクリームを取って舐める事だよね」
「そう言う定番でしたらっ、今度は村雨がナンパされて、カッコよく助けに来てくれるのが良いです!」
「できればされて欲しくはないけど、村雨ちゃんは可愛いから絶対にナンパされちゃうよ」
「ふふっ」
『『グルルルルルルッ!!!』』
『し、シグシグ?ハルちんも、もう少し抑えないと勘付かれるよ?』
いや、もう勘付かれてるんだよなぁ……村雨ちゃんとのデートがそんなに気になるのか、ずっと茂みの陰から時雨たちにコソコソ付け回されてる。
あの四人は目立つし、あんな殺気みたいな波動をぶつけられたら首が痛くなるわ。でも何かして来るわけでもないし、必要だったら声をかけてくるだろう。
とは言え、思わぬ視線をぶつけられるのは緊張感を掻き立てられ、尿意を催す。
「村雨ちゃん、ちょっとトイレ行ってきていいかな?」
「勿論です!私は外で待ってますねっ」
「ありがとう」
ートイレ。
「ふぅ……」
トイレの所にある固形洗剤みたいな丸いあれ……消臭剤っぽいから狙ってションベンすると、やってる事やってるみたいでなんか優越感。
手を洗う際には水で軽く洗ってからソープで三十秒以上擦り、再度水で洗い流す。清潔感ある男性って言うのは、例え見えない所でもその努力を怠らないものだ。村雨ちゃんを待たせない程度に髪の毛や臭いをチェックをしておく。
……ん?なんか後ろから声が、
『あ、こんなに大きく……!』
『おいおい、声出しちゃだめだろ?俺様のデカマ○に怯えてブルッちまったのかウリセンちゃんよぉ?』
『おいコイツ乳首まで立たせてんぜ、マジおもしれぇ!』
『じゃあ即○○○と行きますか!』
ー公園。
俺はトイレから出たあと、自分が出てきた公衆便所をマジマジと眺めた。もう二度と来ないので見納めに。
この比較的平和な港町で、見たくもない社会の闇を全身で感じていた
まぁ学校時代にも、多少なりとも居たので初めての事じゃない。勿論誇れる事でもない。
最後に一度だけ合掌し、俺は辺りに居るはずの村雨ちゃん捜索する。
辺りには出来立て二週間ぐらいの無駄にイチャつくカップルや、三ヶ月ぐらいで冷やし中華みたいに冷え切ったビジネスライクな男女まで様々だった。
案外人は多いので、ひと目で見つけられないのは遺憾だが、丁度目印になるストーカー四人組(時雨達)がいた。その目線の先には、
『よぉお姉さん可愛いね!どこの娘〜?』
『お前どこの娘ってここの娘に決まってんだろ?ハハハハハ!』
『うわぁ〜でもすげー可愛いわ。なんてナマエですか〜?』
『あ、あの……』
……Holly shit。定番ナンパ野郎だ。