整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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デート大作戦!6

 

 翌日の昼頃、古鷹は秘書艦の仕事に目を瞑ってもらい、宍戸を鎮守府の外で待ちわびていた。鎮守府の敷地外なので、一通りは多く、ドレスアップした古鷹は、白のロングスカートとブラウンニットと言う秋服を思わせるコーデに仕上がっている。性的。

 

 一方、夕立たち姉妹は、古鷹とのデートの様子を見せつける作戦のために、近衛少尉を呼び出していた。茂みの中に彼を閉じ込めた村雨、時雨、夕立の三方包囲で見動きが取れなくなっている。

 

「な、なんですか急に!? 古鷹さんの事をお聞かせ頂けたのは大変嬉しいのですが、このように拘束されるのは窮屈で……」

 

「いいから静かにするっぽい。古鷹を狙っているのは知ってるけど、古鷹にはもう、好きな人がいるっぽい」

 

「き、聞いてますよそんな事! 本人から! でも、恋って、諦めきれないじゃないですか。今は貴女方に拘束されてますけど、俺の心は……ずっと前から、古鷹さんに拘束されてます」

 

「「「…………」」」

 

 クッッッッッッッサ! と言いかけたが言葉を飲み込んだ三人。あとずっと前とか言っておきながら結構最近の事だと記憶している三人は、彼に対しての疑心感を更に高めた。

 

「っていうか、変装までさせてなんなんですか!? いい加減に話してください! そしてできれば離してください! マネージャーには用事があると言って誤魔化しましたが、つまらないことだったら承知しませんよ!?」

 

 顔にメイクを施し、目立たないように変装させているが、当然夕立、時雨、村雨も整工班の服を着て変装させている。メディアやファンとの接触は控えさせ、その間に茂みから古鷹を監視するという、まるでスパイ映画にでもいるかのような感覚に襲われた夕立は少し興奮している。

 陽炎やベリングハム少佐は人数的な限界点を考慮し、長崎警備府にて待機……と思われていたが、実は経過が気になって遠距離から双眼鏡を覗かせている。

 

「いいから静かにするっぽい! このカイリキィ時雨の腕にかかれば少尉は声も出せずにミンチカツになるっぽい」

 

「…………」

 

「ひ、ひぃ……!!」

 

 時雨は夕立を睨んでいたが、少尉は時雨の形相に震えていた。

 

「しッ、静かにして三人とも。宍戸さんが来るわ」

 

「し、宍戸大佐が……? ……ま、まさか、やっぱり……?」

 

「流石はロマンチスト脳な事ばかりSNSで発信する頭フワラーガーデンっぽい。古鷹が好きなのは宍戸さんっぽい。運動会の翌日に筋肉痛無視でデートできるぐらい古鷹とラブラブっぽい」

 

「な……!? う、嘘だ……ふ、古鷹さんは何も……」

 

「なんなら直接話を聞くっぽい。これは宍戸さんの服に付いてる軍用ピンマイクから聞こえる音声っぽい」

 

 村雨が取り出したスマホから、無作為に服が擦れる音が聞こえるが、走りながらでも吐息と発声はちゃんと聞き取れた。極小高性能マイクは警備府内の通信機器扱いとなっているが、ごく一部の人間にしか使用は許されていない。

 

「な、なんでそんなモノを宍戸大佐に付けてるんですか……? っていうか、そもそも何故あなたたち三人は隠れて二人のデートを覗き見なんて……」

 

「そ……それは夕立たちは宍戸さんの妹だからっぽい! だから宍戸さんが古鷹と一緒にデートする様子を見たい! 安直な理由? こんな大掛かりなことをして三人でデートの様子を覗き見るのは非常識? エチケットに反してる? そんなの関係ないっぽい! 恋は戦争、諜報もスパイも外套も短剣も時には必要で、少尉にも古鷹ラブの精神があったからこれを見る資格があると夕立は確信して参加させてやってるっぽい! 悪い!? あと、言ってなかったけど夕立たち三人は一応少尉の上官っぽい! こんな可愛い上官には敬意を払うっぽい!」

 

「は、はッ!! うん……?」

 

 本当に妹なのか、何故恋と関係するのかなど色々と疑問が湧いてしまったが、夕立の勢いに押される。が、それ以上にショッキングな言葉を聞いて、目前の現実がそれらの疑問視を阻害してしまう。

 

 

『遅れてごめんね……俺の古鷹』

 

「「「ッ!?」」」

 

『い、いいえ……あ、あなたっ』

 

「「「!?!?」」」

 

『は、早かったですねっ……』

 

『あぁ……今日は一週間ぶりのデート。久しぶりすぎて、古鷹の事を想ったら、朝から古鷹の名前ばかり呼びながらラジオ体操してて……いつの間にか、ここに居た。着替えなんて、古鷹に早く会いたすぎて、早着替えが神着替えになっちゃったよ……古鷹の事を想うの、マジ俺のチートだから』

 

「「「ッ!?」」」

 

「ブッ!」

 

 時雨たちは予想はしていたが、イチャラブカップルを演じる為に何が必要かを研究した結果、歯の浮くようなクサイ台詞を言い続ければいいんだ、という結果になった。

 時雨は思わず吹いてしまったが、村雨や夕立は引いている。少尉は現実に叩きのめされ、遠くから双眼鏡を覗かせる陽炎達は何を言っているか分からないので、順調に進んでいる事だけを願いつつ、双眼鏡の取り合いを初めた。

 

『あ、あ、あ、あなたっ! う、運動会で疲れてるんですから、わざわざ大会の直後にデートしなくてもいいのに……』

 

『え? そんなの無理。古鷹と、24時間月月火水木金金デートしたいって、俺のハートビートが騒いでるんだ。俺のトキメキを止められるのは……目の前にいる君だけなんだよっ? My Sweety Honey』

 

 しかし、予想以上に下手なクサイ台詞を連発している宍戸。演技力には一定の自信を持つ宍戸大佐は内心「古鷹の為ッ! 古鷹の為ッ!」と連語している上、既に赤面している古鷹よりもこっ恥ずかしい思いに打ちひしがれていた。

 

 時雨は、宍戸の発言のキモさで腹と口を抑えるので必死になっている一方、村雨は今にも持っている音の発信源を壊しそうな表情でスマホを握りしめている。

 

「ど、どういうことですかこれは……え……ふ、古鷹さんと宍戸大佐は……もうすでに……付き合って……?」

 

「あーまぁーうん……夕立たちは、ただただ見守るっぽい。ほら! 移動するっぽい! ついてきて!」

 

「は、はいッ!」

 

 

 

 一方で陽炎たちは双眼鏡を持ちながら、聞こえない会話の内容を予測しながら、夕立たちから更に50歩ほど離れた場所監視していた。

 

「あ、移動するみたい! 両舷全速!」

 

「チマチマ歩いとるなぁ……あ、古鷹に歩幅合わせとるんやな、何気に男子力高いやん!」

 

「少佐は司令のこういう所にお惹かれになったのですか?」

 

「はい♂本格的♂気遣いのできて仕事♂ができる上に何気に我々海外士官の立場維持に協力してくれるなど、ソッチ♂方面での気遣いもできるイケメンですので♂」

 

「オスオスやかましいわッ! まぁ司令はんはたしかにあんな感じでも、ちゃんとうちらの事も気遣ってくれてるのは嬉しいけどなぁ……」

 

「古鷹と楽しそうに話しちゃって……『その服かわいいね』『い、いいえ! 宍戸さんこそ可愛いです!』『古鷹より可愛くなれる娘なんていないよ』『し、宍戸さん……』みたいな会話してるに決まってる! この陽炎の推測に……狂いはない!」

 

「いやいや、多分アレやろ? 『それじゃ、今からホテル行く?』『え、えぇ!? そ、そんなことできません! え、演技……ですよね?』『演技かどうかは……ベッドの上で確かめてみなッ』とか言ってたりしてッ!?」

 

「「きゃあー!!!」」

 

「落ち着いてください陽炎、黒潮! 司令がそんな事を言うような胆力があるとお思いですか? 『古鷹の為に早く着替えて来たよ、古鷹を思ったら、自然と着替えが終わってた。無意識に早着替えをさせるなんて、いけない子だ……My Sweet Honey』『は、はわわ……!』程度の発言だったと、不知火は推測します」

 

「「うわぁ……」」

 

 苦虫を潰したような表情を浮かべるほど引いていた二人。

 

「な、なんですか?」

 

「いや、別にいいんだけどさ……不知火って、もしかしてここにいる誰よりもロマンチストだったりする? そんな臭いセリフ私でも吐けない」

 

「な……!? し、不知火はただ宍戸司令の言いそうな事を口に出したまでです! し、少佐はどう思いますか!?」

 

 赤面しながら話題を逸らすために使われた少佐は顎を指に当てながら口に漏らした。

 

「ふむ……私なら『遅れてごめんね、べリングハム少佐の事を思ってたら、早着替えになってた、いけない漢の子だ……』だと思います」

 

「それ少佐が言ってほしいだけじゃん。ていうか、さっきからなに見てるの?」

 

「いいえ……私やYuudachiたちの他に、Captainを見張っている人がいます」

 

「え……?」

 

 

 

 

 ビルの屋上は便利である。

 お天道様がニッコリ笑顔見下ろして日光を無差別に放射するが、三人が見る先はその下にある。

 

 加古、足柄、そして新任士官の御手洗少尉が更にこのデートを監視している。

 

 彼女たちの本当の目的は、屋上で密会をしているアメリカ軍元帥と、佐世保鎮守府第二鎮守府参謀長の護衛という口実だが、動向を監視する名目も兼ね備えている。個人で連れている護衛を含めると数はかなり多い。

 保守派の全体的な減退の流れ、そして自分たち以外の勢力の呼称である”蘇我派”の勢いに押される。必然的に仲間を求め、友好的かつ有効的な勢力である外部の……アメリカ軍との接触を図るのは必然である。

 

「私としては、国軍を防衛軍として固めるのが最も良いと考える所存です。アメリカ政府を含めた国際社会も国土防衛に専念する必要性を表明している事は明らかであります。我々に、再度山良き友人となる権利をお与え下されば、友好関係は必然的に築かれるでしょう」

 

「俺別に政治家じゃないから何とも言えないけど……いや、この際政治家もアリか。イイ身体した赤城さんに手を差し伸べるのもやぶさかじゃないけど、正直あまり気が進まないんだよなぁ〜……流れを止めて、その先に我々の利益があるのか、それが数百年続いた我が祖国の歴史を作ってきた。それは承知しているな」

 

「重々承知の上です。しかしながら、損益を被るのを阻止してきたという事も理解しております」

 

「分かってるじゃねぇか、だが考え方次第では利益にもなるぜ? 交渉するならちゃんと材料を用意するんだな」

 

「な!? あ、貴方がたは我々と協力関係にあるのではないのですか!?」

 

「そんな非公式な関係はない……そういう事にできるからこそ、回りくどい支援を行ってたんじゃねぇか。第一、なんでそんなに躍起になる? たしかに赤城提督は美人だが……」

 

 ”赤城派”の参謀長は、赤城提督の前線現役時代は護衛艦船の乗組員幹部を努めており、航海中に奇襲を受け、遠征任務の途中だった彼女に救ってもらった経験があり、恩を感じている。

 

「クッ……宍戸大佐、斎藤准将、大鯨中佐、秋津洲中佐……若手革新派の面々が保守派を取り込もうとしている今……我々が生き残る手段は、果敢に抵抗する以外無いのです……!」

 

「いや考え方変えればいいだけじゃん。つか、コッチにカコやアシガラみたいな艦娘もいるんだし、もう少しこういう話控えない?」

 

「艦船派が急に消極的になり、我々の勢力は減退の一途を辿るばかり……! そもそも第二次沖縄作戦で宍戸大佐等が我々を止めなければ……クソォ!」

 

「話聞けよ」

 

 佐世保総司令から直々に命令を受けて行動してる加古だが、そのサポートとして指名したのが、イージス艦新任幹部の御手洗少尉と、たまたま佐世保鎮守府を彷徨いていた足柄。

 この三人は、イージス艦幹部であり艦船派の御手洗少尉は当然だが、加古と足柄には保守派への転換を思わせるような素振りが度々見られていた。

 実は流言だが、保守派への二重スパイとして大淀総長、明石次官、宍戸大佐が仕組んだ罠だったが、これは彼女らの数ある策謀の中の一つでしかないので、期待はしていなかった。

 

 事実、三人の興味は政治的な戯言になく、早くも眼球の細胞をフル稼働させ、大勢が集う広場にいる、一組のカップルに注視していた。

 

「なぜ俺がこんなことに……」

 

「どうせイージス艦の勤務なんて暇なんだろー? それよりも古鷹のデート見守るミッションの方が何倍もいいって! ほらほら!」

 

 パンパンと背中を叩く加古だが、二人は初対面と言ってもいいレベルで面識が薄い。

 フレンドリーな加古はこういう事をやってのける度胸がある事を高く評価されていた。艦船派の中で特に舌戦を極めていた御手洗少尉と宍戸大佐は、因縁という程でもないが、苦手意識を持つに十分な要素を作ってしまっていた。

 

「若いっていいわね……へ? 今、誰か私の事オバサンって言わなかった?」

 

「言うわけ無いでしょそんな事……でも古鷹と宍戸大佐はなんでデートしてるんだろ? 付き合ってないと思ったんだけど……」

 

「え、普通はデート数回ぐらい挟んでから付き合うものじゃないかしら? 面白そうだから付いてきたのだけど、馴れ初めなら尚更面白くなりそうね!」

 

「え……告ったら付き合うみたいな感じだとばかり思ってたけど、そうなんだ……少尉も知ってた?」

 

「し、知らないですよ……でもまぁ、大佐が尾行されているのを見るに、ただのデートじゃないって事だけは確かです」

 

「え、私たち以外に見てる人がいるって事?」

 

「はい、アレはたしか海外士官のべリングハム少佐と三人の女性……他には、前線艦隊で活躍なされたと噂される時雨大尉、村雨中尉、竜也……近衛少尉と、他一名居ます」

 

「え、そうなの!? なんで分かるの?」

 

「目が良いからです」

 

「そんなに目が良いなんて羨ましいわ……私なんて最近、本を読むときもメガネをかけて……え、だれ今私のこと老眼って言ったの?」

 

「だから言ってないって。んでも、やっぱり人気だね〜古鷹は! 多分レズだよアレ。古鷹取られたくないからデート尾行してるんだよ」

 

「ハハハ、その発想はなかったです。護衛なんてつまらない仕事にも華が咲いたようですし、俺はこれで失礼してもいいですか?」

 

「駄目」

 

「ですよね、すいません……」

 

 

 


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