整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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海軍大学校編
いざ行かん、東京へ


 

 数ヶ月、或いはそれ以上が経った。現役である俺は地獄の体力試験をクリアし、筆記試験も一応合格した。プログラムへ参加するとは言っても、入試もできないほどの学力では拒否せざるを得ないので、入試は普通に受けなくてはいけなかったのだ。

 学生の意表を突く難しい問題が多かったのでかなり苦戦はしたが、それ以外は別段問題なかった。因みに、海軍大学校は英訳されるとネーヴァル・カレッジ、そして大学と付くが、実質的には大学院レベルなんだぜ?

 

 フッ……まぁ、俺なら当然さ……なんて言わねぇ素直に嬉しいィィ!兵学校時代の同期に一斉送信で「俺様、あの海軍大学校に行くけどなにか質問ある?」ってスレタイみたいなメール送って茶化してやるぜ。

 

 平行してやった授業内容は既に頭に入っているため、きっと普通の生徒と比べれば圧倒的な優位性を誇る。

 

 俺は晴れて、東京へと足を進める準備が整ったのだ。

 

「元気でやって下さい副班長……いいえ、宍戸大尉!」

 

「寂しくなるが、元気でやれよ!」

 

「おう!みんなも元気でな!」

 

 見送りに来た数人は班長を含め、俺がよく知る数名の古株だ。新たに入ってきた新人達ーーそして新しい提督とは違う、俺のことをよく知る戦友たち。

 その中には、

 

「元気でいて下さい兄貴!」

 

「おう……漢のなんたるか、しっかり俺の背中で学んだか?」

 

「はい!俺もいつか兄貴や姐さんみたく、大きくなって見せます!」

 

 正直あの後どうなったか分からねぇけど、元気にしてるんだったら大丈夫か。問題はもうないだろうし、この鎮守府の新しくなった副班長の補佐も完璧にできるだろう。

 

「おう!……それじゃ、言ってくるぜお前ら!!必ずビッグになるからよォ!!」

 

「「「はい!!」」」

 

 そして、俺はいよいよ本格的に東京、ひいては海軍大学校へと足を踏み入れる。

 

 

 

 

 

 

 ー学校付近。

 

 入学式が盛大なものだった。数年の軍事的教育を受けた音楽隊はかなり精密な動きを見せた。そして緊張感の中くぐり抜け、お決まりの軍隊歩きで壇上に向かった先にはあの大将様がいた。

 斎藤中将やこの国のお偉いさんや海外の将校とかもいらっしゃって、それはとても……なんて言うか、その、やべぇ!って感じだった。俺、胃が仰天しそうだったゾ。

 

 でも、全て終わった(まだ何も始まってない)。これで俺は晴れて、育成プログラムへと参加できる。

 

 目の前にあるデッカイ建物は、横須賀第四鎮守府……ではなく、第四横鎮のとなりに建設されている、ピカピカの校舎。

 海軍大学校の一部ではあるらしいけど、東京じゃなくて神奈川県なんだよねここ。

 

 提督育成プログラムに参加する数十名がここで大将と中将たちが定めた、提督に必要な確たる教育を受ける……らしいのだが、ここには誰もいない。みんなは一体どこへ……?

 

「おに〜〜さぁ〜〜んっ!!」

 

「ゴフッ!!って、春雨ちゃん!?異動先ってここだったの!?」

 

「はいそうなんですっ〜!会いたかったですっ〜!!」

 

 猛烈なタックルのあと、胸元に頬を擦り付ける春雨ちゃんを必死に剥がそうとするが、この強靭な腕力はどこから出てくるのだろうかと問いたくなるほど強い力で束縛されてる。

 そして、よく見るとここは俺が隣にあると言っていた横須賀第四鎮守府そのものだった。始めてくる所でお隣さんと間違えることなんて良くあるよね。

 

「ししどさぁ〜〜〜んっ!!」

 

「「ゴフッ!!」」

 

 そして豊満なモノでタックルしてくるのは、よく見慣れたツインテールととびっきりの笑顔を振りまく鎮守府のアイドル的存在ーーその名は村雨ちゃん。

 春雨ちゃんもタックルの衝撃を受けたのか、少し白目になってた。そして、多分俺もなってた。

 

「おや〜?僕のお財布はやっと持ち主の所に帰ってきたんだね?手土産は勿論持ってきてくれたよね?」

 

「はげろ」

 

「「グルルルルル!!!」」

 

 時雨までいる。

 

 舞鶴第一、第二鎮守府、そして港湾では異動が実装された。

 新人も入って、それ等がまた新たに入ってきた隊員達の先輩となり、導いていく……組織は永遠にトップを置いていくわけではなく、昇進とか左遷によって地位や役職が変わることがあるのだ。それが大本営の希望であれ、本人の意志であれ。

 

 時雨たちは、俺が海軍大学校へ行く前に、村雨春雨ちゃんと共に異動したのだ。どうせ俺は東京行きだし、離れ離れになっちゃうのは同じなので止めはしなかった。

 

 俺たちの提督だった蘇我提督は少将へと昇進して、異動人事命令を受けて古鷹と一緒に他の鎮守府に行ったが、

 

「おぉ宍戸くん!もう時雨くんたちと会っているとは……」

 

「お久しぶりです宍戸さん!」

 

「て、提督!それに、古鷹まで……」

 

 多分偶然じゃないけど、運命的なものを感じる。蘇我提督は大規模作戦の功績を認められ、精鋭集う横須賀鎮守府に配属された。

 時雨たちは別件で配属されたと思うけど、舞鶴のOBがこれほどまでに集うのは俺も嬉しい。それが、これから俺が勉学と汗と執念を掛けて過ごす事になる海軍大学校(の一部)の隣ともなれば、俄然テンションが上がりまくる。

 

 感覚で言うと学校が家から凄い近いみたいな気持ちだ。正式にはここの所属ではないので、横須賀第四鎮守府からは部外者扱いだけど。

 

「それで、そちらの方は……」

 

「古鷹の妹、加古ってんだー!よーろしくぅー!」

 

「おりゃ宍戸ってんだ、よろしくなぁ!って事は、蘇我提督の……」

 

「あぁ、その通りだよ」

 

 なんてこった、まさか二人目がいたとは。

 彼女は加古と言って、重巡クラスのビッグな艦娘だ。古鷹とは打って変わって……そして見ての通り、とてもファンキーな女性らしい。

 長い前髪、全体的に細い身体と、それにより目立つ高身長……メタルバンドとかにいる女性ギタリストかボーカリストのそれっぽい。ライブハウスに居たら典型的過ぎて逆に目立たなくなるタイプ。

 しかし、これほどの美人だったらライブハウスへ行く価値あり。

 

 元々この鎮守府に配属されており、提督たちが追う形で合流されたらしい。

 

「再会を惜しむ気持ちは分かるが……宍戸くんは先に学校へ行かなくてはならないのではないか?」

 

「あぁそうだった!じゃあみんなまた後で!」

 

「宍戸くん!僕のお土産は!?」

 

「俺の顔を拝めただけでもお土産でしょ!」

 

「殺すぞ!」

 

 時雨たちと別れ、俺は、今度こそッ、大学校への一歩を歩むのだった。

 

 

 

 

 ー海軍大学校。

 

「ぜぇ……ぜぇ……道は間違えるもんじゃねぇなオイ!」

 

「おいおいどうしたんだ宍戸!待ちくたびれたぜ!?」

 

「俺のこと、待っててくれたのか……?ホモカップルだと思われたくないからいいのに……」

 

「待っているだけでホモォ……とはたまげたなぁ……つーか、集合時間にはまだ5分あるだけだァ!!」

 

 今度こそ本当の学校だ。

 

 見渡してみると数十名……目の前に置かれたら結構な数だと認識できる将校たちが、お互いに談笑を交わしていた。

 これからプログラムを共に歩みを進める人達なんだろうけど、変な緊張感のせいか何だか話しかけづらい。階級は准尉、中佐など、かなりバラけた人選となっている。

 これ等をどうやって提督にするのかは発案者様に任せるとして、これらが全員提督になると考えるとちょっとゾッとするかも。

 

 筋肉マンみたいなやつから、ルシファーに選ばれし鮮血の指導者……みたいな髪型したやつもいる。髪切れよ。

 そして中には、

 

「こんにちわ、もしかして君もこの大学校に?」

 

「あ、そうなの!グーテンモーゲン!」

 

 うっほ、金髪碧眼のロリ巨乳じゃねぇか!正に日本人男性が憧れるが大抵は手の届かない星であり、同人誌の格好の的みたいな人がそこにいた。

 グーテン……って事は英語じゃないのか。なんだっけ、オランダ語?

 

「おいおい抜け駆けはよしお君だぜこのムッツリ野郎!すげー可愛い金髪碧眼の美少女がいるからって速攻口説きに行っちゃァなぁ?」

 

「ば、ばか!俺はただ美人に目がないだけだ!」 

 

「素直じゃねぇか……」

 

「ふふっ、私の名前はプリンツ・オイゲン、よろしくねー!」

 

「タツキ・シシドだ。学友として、これからよろしくな、プリンツさん」

 

「俺はシンジ!ユウキ・シンジ!ナイスツゥーミートユー!」

 

「あ、あはは……できればオイゲンでお願いします」

 

 欧米流の俺の挨拶パクんじゃねぇよ。

 

 プリンツ……じゃなくて、オイゲンさんは、どうやらドイツから来た艦娘らしい。

 彼女のような海外からの艦娘は通称で「外国艦」と呼ばれている。日本海軍には、外国艦の所属率が極めて高い所があって、呉鎮守府近くの柱島泊地がそれに当たる。これを通称「外国艦鎮守府」と呼ばれて、凄い成果を上げていたりする。

 その凄い成果の例として、俺が補佐した大規模作戦時に圧倒な撃破数並びに、強化兵的なエリートシップをバンバン蹴散らした事によって営業成績ダントツ一位に輝いた鎮守府である。

 

 それ故に、外国人部隊とか最強多国籍軍とか言われてるけど、俺はそこまでしか知らない。

 

 そして、そんな化物艦隊の艦娘だと言うのだから、驚きである。

 

「それでね、私達の提督……あぁそれとみんながすごく優しくてね!」

 

「「…………」」

 

 そしてスゲー話してくる。主に話す相手が居なかったらしく、その反動なんだろう。

 外人をなんとなく疎外してしまう日本人の集団的意識は良く話題にあがるだろう。これは特色ではなく、保守的な国なら誰しもが持つものである。海外との貿易が盛んとなりグローバル、オープン思考を根強くする経済的な観点から見た日本としては、少し矛盾する所もあるけど。

 

 でもオイゲンさんが話すのって、主に自分の提督と……あと同僚の艦娘達が優しいとかそう言う話で、話すペースにちょっぴりダルさ感じる。みんな話しかけないのは多分これが理由だろう。

 でも、話すたびの揺れるプリンを拝めないとは可哀想だな。エリート思考なのか?それとも俺は金髪美女に興味ないから的な空振りアピール?

 なんにせよ、オイゲンさんは色々あざといな。春雨ちゃんといい勝負じゃねぇか。

 

『皆良く集まってくれた。まずは入試合格おめでとう、流石は我々が見込んだ海軍軍人だ……と言っておこう』

 

 唐突に表れた荒木大将、そして斎藤中将のお二人方。俺たちは一斉に並んで、背筋をピン!と伸ばす。これは上官が来た時の、軍人特有の条件反射である。

 話しているのは斎藤中将ではなく、大将である。饒舌で話していますけど、目に隈ができてるってことはお変わり無さそうですね大将閣下。良かったよかった。

 

 でも話す内容は学校で必要な事や、これから受ける教育、学生時での禁止事項など、要点を押さえた事だけなので、話し終えるまでに五分もかからなかった。

 運動会とか始めるときに、先生達のクソ長い挨拶のせいで膨大な時間立たされると聞いたことがある。これから身体動かそうって時にさ、立たされながら長話されると凄くストレス溜まるよね。

 

「……話しは以上だ、斎藤中将」

 

「はいッ……ではこれより、学内を案内しよう」

 

 中将自らが案内をしてくれると言う凄い待遇を受けて校舎内に入る。

 

 中は、かなり新築感ある作りとなってる。子供が入ればその清潔感からはしゃぎ回って、親からゲンコツを喰らうまでがテンプレ。

 今の時代でそんな事をすれば、ドメスティックバイオレンスで訴えられるけどね。子供は責任を逃れるために、政治家みたいに言葉を巧みに選んだりするからなーーそれが悪い事だと知らないし、事実上教えられないのが難点だけど。

 

 そんな現代社会への異議を唱える会話を、結城やオイゲンさんと共にしながら歩き、そしてとある一室へと誘導される。

 

「最初の二ヶ月は基本的に大学校の生徒と同じ教育を受けてもらうよ。しかし、身体を動かすような事は最小限に留める代わりに、彼らよりも早いペースで物事を覚えてもらうが、いいかね?」

 

「「「ハッ!」」」 

 

 なんで質問系なんだよ?今更断れるわけないじゃん。一応断っておいた、と言う口実が必要なのだろうけどさ。オイゲンさんなんてブルってるじゃん。

 

 こうして、数十人の同志達と共に歩む提督となる道へのレースが、切って落とされたのだった。

 

 

 

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