整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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大抵ギャンブルするやつは負ける

 

 ー街。

 

 東京は凄い、色々な物が沢山ある。

 

『お嬢様に、ご主人様!心のオアシス、執事カフェは如何でしょうか?』

 

『はいと言う訳で東京ニャンニャンにやって参りましたーパチパチー!……あぁ、ここ編集で音入れろよ?』

 

『テメェカ!?テメェカヨ!?エェエソノクサッタコンジョウ!?』

 

 世界最高と名高い接客サービス、超大企業の収益システムに肖る次世代のエンターテイナー、そして一歩外を歩けばキチガイに出会う確率も秘めているここは、世界経済を支えている重要拠点でもあり、世界の都市部のGDPで第一位に輝く日本の事実上の首都。

 

 素晴らしく汚い空気と人混み、そして夜になると輝かしい程に煌めきを帯びるオトナのセカイ。

 東京を出ないのに、世界の全てを知ってるみたいに振る舞う人は多い。でも無理はない、ここになんでも揃ってるからな。

 

「すげぇ!やっぱ東京すげぇ!やべぇ!」

 

「ちょっと静かにしてって!田舎者みたいで変な目で見られるでしょ!?」

 

「うるせぇ!田舎者で結構!都会に当てられすぎて自分を捨てるよりはよっぽどいいと思う!」

 

「そうですよ!歩く無機物になるよりはよっぽどいいです!」

 

「あ、村雨ちゃん、それはちょっと言い過ぎだと思う……」

 

 俺たちが立ち寄った場所は案の定ショッピングモール内の服屋さんだった。今時ファッションに見を包んだ店員さんから声をかけられながら、悩みに悩んで選び抜く時雨たちの姿が見える。これは、女、服、のコンボが合わさった時に起こる自然現象であり、男が同行すれば軽く二時間は待たされる羽目になるので注意しよう。

 ただ、いつもの三人に加えて夕立ちゃんと五月雨ちゃん……五人はとても綺麗で、街を歩いていても、この姉妹と歩いている俺は結構注目を浴びた。

 

 それほどの娘たち達が、今この服屋さんにご来場なされている。店員さんもその美人ぶりに驚愕、または阿鼻叫喚している事だろうさ。変な偏見を買わなきゃいいけど。

 

「宍戸くん宍戸くん!このピンクのと青の、どっちが僕に似合うかな?」

 

「どっちも似合ってるよ」

 

「そう言う徹底した中立主義者みたいな意見が一番ダメなのは、言わなくてもわかるよね?」

 

「じゃあ青のやつなんていいんじゃないかな?」

 

「え~でも僕的にはピンクのジャケットの方がいいと思うんだけど〜」

 

「腹ァ決まってんだったら聞くンじゃァねェヨッ!!なんで俺に聞いたァ!?」

 

 買うモンは決まってんのに、なんで聞くのぉ〜?

 

「ハァ……」

 

「え、どっか行くの?」

 

「俺もちょっと見て回るわ、終わりそうになったら携帯鳴らせば戻ってくるからさ」

 

「あ、うん、分かった……」

 

 そして、俺は時雨たちと別れ、適当にブラブラする。

 

 

 

 ーショッピングモール。

 

 しっかし凄い人混みだな。流石は東京と言った所か……勉強ばっかで全然来てなかったから、どんな風になってるか実は気になってたんだよね。

 有名所、チェーン店以外は結構風変わりな店が多く、ここだけでも娯楽に尽きないのが、東京の良いところだ。色々な物が交わる事で多種多様な風物詩を拝めるが、逆に言えば個性を失う事となる。

 

 犠牲の果に得た物は多く……失う物も、また多い。

 

 例えば、

 

『深海棲艦は敵ではありません!!人間に似た姿形をした、我々とルーツを同じくする同胞なのです!!』

 

『我々はきっと彼等と話し合えます!!にも関わらず!!我が国は話し合いより、皆さんが納める膨大な血税を浪費し、大義を偽りながら戦争を起こしています!!』

 

『真に世界平和を望むのならば、我々一同にご協力をッ!!』

 

 常識を最も必要とする環境にいるだけあり、ごく偶に自分見失い、モラルを失う。

 

 一言で彼らを表現しよう、彼らは動物愛護団体みたいなものだ。

 どんな時代にもこう言う輩が居るんだよなぁ……世界規模で起こっている深海棲艦との戦い、その中で滅びた国もあるってのに、そんな奴らに真っ先に味方しようとするヤツが。

 舞鶴にはいなかったから、実際に見てみると変な気持ちになるな。あーいうカルト教団は、今は抗議活動程度で済んでるけど、過激派と化したら日本赤軍みたいな事にもなりかけないから真っ先に潰すかしないとダメなのにね。

 でも日本だって馬鹿じゃない……多分だけど。反対派の中には、ちゃんとデモ程度で抑えるように内通者みたいなのを送ってるはずだし……あぁ、そもそも海軍軍人の俺が心配する事でもないか。

 

 でも面白いから動画撮っとこう。

 

「相変わらずだな、あの輩は」

 

「あ、斎藤中佐!休まなくてもいいんですか?昨日までゾンビだったのに」 

 

「バカ者。確かに知恵熱こそ出はしたが、一日経てば治る。体力は消耗品ではないと言ったのは貴様ではないか」 

 

「話し聞いてたんスね。流石は元陸軍、フィジカルがバケモンですね」

 

 突然後ろから話しかけ来ないでくださいよ。ほら、なんか野次馬みたいに動画撮ってるのを凝視されると凄く恥ずかしいじゃないッスか。変な事はしてないのに。

 最初の出会い方がクソでも、二ヶ月間以上の苦行を共に乗り越えた仲だ。今では気楽に話し掛ける事も珍しくはないーー最初ルームメイトなったときは色々あったけど、漢は大体殴り合えば分かり合えるのだ。

 

「そこのお二人も、今の国の在り方に疑問があるのではないでしょうか!?」

 

「え、俺たち?」

 

「そう貴方達!お兄さん方、今は悩みがあるのではないですか!?そしてそれはずばり、人間関係!」

 

 現代人の悩みなんて九分九厘そうだろうが。なんで占い師みたいな事言ってるの?深海棲艦教なの?

 はた迷惑な宗教活動的な勧誘をしまくる輩に、どこからか現れたリーマンっぽい一人の勇者が声を上げる。

 

『何時も何時もウルセェんだよお前ら!宗教活動なら余所でやれよ!』

 

『あなた、悩みがあるんですね?』

 

『そんなの人間なんだからあるに決まってんだろ!!それに、今一番腹が立ってんのはテメェらのせいだろうがァ!!』

 

 いいぞ、言ってやれ。

 

『その怒りはどこから来るんだい?』

 

『は?』

 

『君には、拭いきれない過去があるはずだ。それが、今と言う関係のない場面であったとしても、ずっと君を追い続けて、ずっと君の心を蝕むのだ……その怒りは、どこら来るんだい?』

 

『な、何言ってんだおま』

 

『そこ怒りは……どこから来るんだい?』

 

 両頬に手を備えられたリーマンさんは、とても要らない自分語りをしだした。

 

『……子供の頃、俺は夏休みに兄貴と一緒に昆虫採集をしに行ったんだ。まだ俺が小学生ぐらいの頃だったんだ……』

 

『うんうん、それで?』

 

『それで……裏山で兄貴と二人っきりになった俺は……俺は……っ……俺は草むらの中で……女みたいにされちまったんだ……女にされちまったんだァァ!!うあああああああん!!!』

 

 普通のリーマンのくせに闇深すぎだろ。

 

『うんうん、その心の中にある毒を、私達と共に解消していこうじゃないか?先ずは我々の支援から始めないかい?』

 

『……ズズッ、はい!!』

 

 あぁ、こうやって仲間を増やしていったのか。細菌と同レベルじゃないか。

 でもあの人はサクラって線もあるし、これもうわかんねぇな。

 

「宍戸大尉、女にされた……とはどういう意味なのだ?」

 

「えっとですね……俗に言う『掘られた』みたいなものです」

 

「初等教育の時に……業が深いな」

 

 傷口が深すぎて埋めれないと思う。だから、それと向き合って生きていく事をおすすめするわ。

 

 その後は警備の人に止められて、退散したのはいいのだが、ここらでは有名な常習犯達なんだとか。

 検索したらホームページまで出てきた。無駄に凝ってるな。

 

「それで中佐、今日はここへ何をしに?」

 

「気晴らしだ。ようやく山場を乗り越えたのだからな」

 

「そうっすね。でもまだ終わったわけじゃないんですから、気張ってかないと足すくわれますぞ?」

 

「ふん、貴様に言われずとも私に抜かりはない」

 

「宍戸さぁ〜ん!お待たせしましたぁ〜!」

 

 小走りで走ってくる美少女軍団は、村雨ちゃんを先頭にした時雨たちだ。両手にはバッグ、あのお店の衣類が敷き詰められてそうなゴージャスな紙袋が皆の手元にあった……と思ったら、みんな買った服をそのまま着て帰って来てる。

 うん、やっぱり何着ても似合うなみんな。

 

「どうですかこの服?村雨、似合ってますか?」

 

「あぁ、眩しすぎて浄化されそうだよ」

 

「ふふっ、ありがとうございます!」

 

「お、お兄さん!私!春雨はどうですか!?」

 

「春雨ちゃんも、凄く似合ってるよ……ただ、スカートが少し短すぎかな?その上袖の方はぶかぶかとか、そんなに可愛いコーデすると俺襲っちゃうかもよ?」

 

「お願いします!!」

 

 いや、そこは断ってくれ春雨ちゃん。本当に襲いたくなるからさ。

 

「…………」

 

「ん?どうしました中佐殿?」

 

「いや、気張れと抜かしていた者が休日に何をしているかと思えば……」

 

「え?うらやましいんですか?気持ちはわかりますけど」

 

「自己管理が行き届いてるのならば良いのだ、ではな」

 

 邪魔者は退散する、と言いたげな雰囲気でこの場から退場していく。

 

「それで行きたい場所へ行けた?」

 

「特に行きたい場所があったわけじゃないんだ。でも適当にブラブラしてたら、結構変わったお店とか人とかに遭って面白かったぜ」

 

「これから急遽ゲーセンに行くことになったっぽい!宍戸さんは付いてくるっぽい?」

 

「勿論!ゲーセンなんて久しぶりだな!」

 

 娯楽の少なかった時代の80年代に爆発的な人気を博し、家庭用ゲーム機どころかスマホのアプリやパソコンで遊べる基本無料ゲームが盛んなこの時代でも、未だに店舗の生存競争を勝ち抜いてるゲームセンター。

 学校帰り、或いは仕事帰りで鬱憤を晴らす為に、帰宅道中にいやらしく設置されているゲーセン……仕事帰りにする事が、ゲーセンからパチンコに変わる人の事を、大人と呼んでいいのだろうか?そんな事を考えていた学生時代の秋。

 

「……でも行く前に、ちょっとあの人たちに挨拶させて」

 

「「「???」」」

 

 ゲーセンに行く前にさ、知り合いが居たから挨拶ぐらいはしなきゃな。しかもあの人たちね、外に出てる煙を吸ってオドオドしてるんだよね。

 そうやって説明したら警察呼ばれるかも知れないしね、ちょっと知り合いとして放っておけないよねこれ。

 

 なので、一端そとに出る。

 

「こんにちわ二人共、奇遇だねこんな所で会うなんて」

 

「あ、こんにちわ宍戸さん!それに皆さんもお揃いで!」

 

「貴方達も東京まで来てたのか、凄い偶然だね」

 

「本当だよね。それで、なんで外で煙の近くにいるのかな?」

 

「「焼肉の匂いを嗅ぐために!」」

 

 じゃあ店に入れよ、とツッコミを入れざるを得ない彼女達は照月と初月。二人共、第四鎮守府の所属だ。舞鶴第一鎮守府所属、秋月の妹達でもある。

 まさか東京で会うなんてとてつもない偶然なのだが、匂いを嗅ぐためにと豪語するので、その詳細が聞きたくて仕方がない。

 

「といいますと?」

 

「焼肉なんて滅多に食べないし……あんなに美味しいもの、今日食べていいのかって思って……」

 

「僕達は鎮守府のでも満足してるのに、今日だけそんな贅沢をする必要は本当にあるのか……そんなことばかり考えてしまうんだ。そんな事を考えているうちに、子供の頃からずっとしていた『おいしい匂いを嗅いでお腹いっぱいになる』作戦を知らずのうちにしていたんだ……」

 

「「「…………」」」

 

 Wow……なんてこった。

 二人……秋月を入れれば三人は、昔から貧乏で、その極度の貧乏性が災いしているのだとか。子供の頃からずっと辛い体験しかしていなかった彼女達は、そんな生活がすっかり性分となってしまったらしいのだ。

 家の事情にはなるべく踏み入らないようにしているけど、確か借金がいっぱいあるらしい。その返済をするために、三人とも一生懸命働いているのだとか。艦娘とは言え、流石に国はそこまで面倒見てくれないのだろう。

 

 同人誌でそう言うネタ、沢山ありますよね?とってもエッチな身体した美少女達が借金背負ってて、そのクッソエロい身体使って接客業……するみたいな展開。この美人姉妹には正にその条件が揃っている!

 

 だが、仲間を見捨てはしない。

 

「……なぁ時雨、ゲーセン行く前にさ、腹減らない?」

 

「僕もいま丁度言おうとしていた所だよ。美味しいもの食べてからゲーセンてのも悪くないからね。あ、因みに二人は強制参加ね」

 

「え!?そ、そんな駄目です駄目です!お金いま持ってないです!」

 

「俺たちの奢りだから。な?みんな」

 

「「「もちろん!」」」

 

「「あ、ありがとうございます!!」」

 

 いや、そりゃ奢るしかないでしょ?この美少女姉妹は奢られる価値がある。それが仲間だったら、尚更さ。

 などと、涙している二人へイケメンセリフ、またの名をクッサイセリフを吐く。

 

 ……若干思った事があるんだ。これってもし俺が一人で食事に誘って奢ってたら、超絶イケメン行動したメシア系主人公的な俺に惚れる貧困少女的な展開が待っていたのではないか?

 夢見すぎだって?何言ってるんだ、この世の中は夢物語以上に奇怪な出来事が起きるんだ。現実は小説よりも奇なりって言葉を知っているよな?そういうことだ。

 決していい方向へ行くとは限らないけど、少しぐらいそっちに向かう事に賭けてもいいんじゃないかな?そうすれば、俺は美少女二人を手込めにするヤリちん男になれる!

 

 ……大体こういうギャンブルするヤツは、宝くじで大負けするんだよね。俺のことだけど。

 


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