ー駆逐艦、艦上。
更に数ヶ月後。
安全保障学についての論文ではなんと、またもや斎藤中佐が「現代の日本における教育方針の問題点と解決法」で最優秀賞を取りやがった。他は災害対策とか緊急時の対策とか……いや、日本の災害対策はこれ以上にないぐらい良いから。
俺は仮想敵国との交戦も考えろって論文で優秀賞を取ったが、最優秀賞取られた悔しさのあまりに持ってきた将棋盤を使ってボロ勝ちしてやったぜ。
出る釘は打たれる文化舐めんじゃねぇぞオラァァ!!って感じで二度三度と連戦してやった。
スカッとした所で順調に提督への道を歩んでいく過程の一つとして、現在俺はイージスシステム搭載した駆逐艦の上に乗っている。
「それでは訓練を始める!俺は宍戸龍城大尉!数週間だが君達新米に海軍兵教育の基礎中の基礎を叩き込む事を閣下から直々に御命令を賜った者だ!貴様らはこれから俺の指導を経て、一人前の海兵となるのだァ!」
「「「サー!イエッサァァー!」」」
「ここはアメ公のネイビーか貴様らァ!?日本海軍の日本男児だったらもっとマシな言葉があるだろう!?入る際に習わなかったか貴様ラァァ!!」
「あ、そうだった!宍戸大尉に対しィィ……敬礼ッ!」
「「「ッ!!!」」」
コロンブスは大航海へ向かう前、この景色を見たのだろうか?目の前に広がる大海原は、猛暑時の道路に浮かぶ陽炎のように波を立て続けーー母なる海が、艦上から30メートルぐらい下にある。
そして敬礼する30人のムサイ男達の正体は、言うなれば水兵である。
階級は低いが……いや、低いからこそ最初の半年ぐらいは付けられる教官や上官の手足みたいな扱いを受ける羽目になる。幹部への候補生だからと言っても、上官しかいない環境にいれば教育を受けていない奴らと同じ目に遭う。
しかし、普通なら准尉か熟練軍曹あたりに指導してもらう所を、大尉と言うすごい上位階級の俺様から直々に指導を受けられるコイツ等は後で誇って良いと思う。
なぜ指導をするのかと言うと、これもプログラムの一部だからだ。新米の教官ってのは誰もが辿る道であり、当然ウンコみたいな教え方で新兵達のヘッドスタートが崩されても、責めるものは誰もいない。こういう所は普通の学校と変わらないと思う。
学校の頃、クソみたいな先生に教わった事あるからよく分かるわ。
ただ、今回は訓練と指導の様子を見られているので、適当に済ますどころか本気でやらないと首が飛ぶレベルなのだ。
でも俺は舞鶴にいた時は副班長って言う面倒くさい事を肩代わりする役を仰せつかっていたので、新米への教官経験は豊富な方なのだ。
あ、軍曹って言えばあれだ、よく映画とかで見る新兵に怒鳴りつけて軍の恐ろしさをその身体に染み込ませるあれ。あれやってみよう(※海軍と陸軍では多少新兵への扱いが異なります)。
「じゃあテメェらの自己紹介から始めるぞオラァ!!オイそこのテメェ!!何しにここに来たァ!?」
「サー!海軍に入るのが夢だったからです!サー!」
「よォォし威勢がいいなァ?テメェのフェチズムを言ってみやがれコラァ!!」
「さ、サー!裸にニーソが最高であります!サー!!」
「(いや、本当に暴露しなくても良かったんだけど……)良く言ったァ!!中々マニアックだが俺も良いと思う!!実際にやってもらいたい同僚も俺の所にいるしなァ!」
「「「え……そ、それって……」」」
「勘違いするな女だ女ァ!!男のそれを見るとか拷問でしか無いぞ!!」
いやさ……怪我して太腿に包帯巻いてる整備工作員を見て、あ、これちょっとニーソじゃね?あ、キモ、オロロロロロォォ!!って思った事もあるけどさ。
「じゃあ次お前のフェチはァ!?」
「サー!萌え袖でブカブカなガーディアン着てるのにスカート履いてなくて超ミニスカワンピみたいになってるのも最高だと思います!サー!」
「心がピョンピョンするよなァアレはよォ!?スカートは履いてるけどあれみたいなァ!?」
「「「……おぉ!?」」」
あっちの方で艦上訓練に勤しんでいたのは春雨ちゃん。身長小さく脚細くて、スラッとしてても身体自体が小さいためどうしても服の幅がブカブカになる。
そんな小動物のように愛らしく、動きも何もかもが可愛いに特化した春雨ちゃんがガチムチ海軍の中にいたら……目と心を奪われるのは至極当然である。
そんな男の生理現象とも言える凝視に気付いたのか、春雨ちゃんの整備をしていた整備工作員の暴力お姉ちゃんがレンチ持ったまま近づいてくる。
「宍戸くん、僕の妹を士気向上の餌にするのやめてくれる?嫌がってるじゃないか」
「うん、ごめんね。でもさ仕方がないじゃない!?話題に上がったんだからさあぁあ!?」
「……ッ」
「分かったからごめんて、レンチそういう使い方するのやめろ」
「次邪魔したら脳天ぶち抜くから」
邪魔してないんですけど。
「フゥゥ……あぁ言う海軍過激派もいるから気を付けろよ?俺たちは規律正しき、由緒正しき海軍であり、そして国民を守る立場にある軍人であるが故に、常に死と隣り合わせだと言う意識を向けなければならないのだ」
「「「は、ハッ!!!」」」
……ん?時雨が手話でなにか言ってるぞ?なになに。
後で 殺す 絶対。
ごめん。
手話は某アニメ映画に影響されて覚えたものである。殺すなんてどこで覚えたんだろう?
「まずは砲術辺りの訓練からだァ!近年技術の進歩が加速しすぎて、駆逐艦はプレデターミサイル発射機みたいな考え方をしているやつがいるかも知れない!しかしそんなプレデターに砲台がまだ付いてるのはただ昔の名残だからでは断じてないッ!」
……そして教官としての義務を果たしてゆくのだ。もちろんマニュアルには従うけど、俺なりにできるだけ分かりやすい教え方言葉と実践を混ぜ合わせて新兵達に基礎を叩き込む。
砲術とは、要するに大砲に関すること全部である。そう説明した方が早い。
まず補充の仕方から始まり、実際の撃ち方、命令の種類から……弾道予測、撃沈時の報告の仕方と報告の種類、暗号まで様々な事を教えていく。
まだまだ新米のアマちゃんには砲術士専用の礼節やら海軍の敬礼やら色々と教えるのだが……正直、喉乾くぜ。
これさぁ……無駄に教えること多すぎね?絶対安全の精神と知識は最優先で教えるけど、礼儀は教えても意味ないと思
う。新兵訓練所と軍学校は、礼節と敬礼を身に付けるのがそこの生活の大半締めてるから砲術士の礼儀作法とかマジでいらないと思う。
艦の中でも着く職で上下関係決まってたり、例えば砲術士の中にも先輩後輩の差があったりと……まぁ一言物申せば、ヤベェ!あとメンドクセェ!
みんな平等でいいじゃん。みんな国に仕える兵士なんだし、陸も空も海も関係ない。みんな平等で、現代日本の小学校の体育祭みたいに、みんな一緒にゴールすればいいじゃない!
……とか言ってると共産主義者とかマルクス主義者と罵られるので、口に出さないように気をつけよう!
「ここで砲雷長が砲術長に『右弦の敵を大砲で撃て!』みたいな事を言ったら砲術長と連携して撃つんだ。撃つタイミングや照準を指示してくるから、それ等のやり方も説明する」
「大尉!質問があります!」
「何だ言ってみろ」
「女の子達が戦艦や重巡に乗って戦うアニメを見たのですが、あれぐらい容易に運行させる事は可能なのでしょうか!?」
「……その分だと、『ぱんつぁあふおぉお!』って言いながら戦車ブチかます可愛い女の子のアニメも見てるな?質問で返させてもらうが、従来戦車ってのはあんな高速移動しながら撃ったりするモノじゃないし、車長が常に頭上に出してたり、戦車が転がって無傷で済む訳がない」
「た、確かに……自分は陸軍ではないので、戦車の常識などは分かりませんが……」
「海上も一緒だ。たかだが、高一の女子が、ミハイル・ヴィットマンやホラーシオ・ネルソンの真似事をするのもどうかと思うが、俺の推測だと彼女達は俺たちより余程実戦慣れしている事が挙げられる」
「「「と、言うと……?」」」
「お前たちに伝えなきゃいけない事の一つだが、現実的な資金の問題で本気の演習は年に数度しかやらない」
艦船同士が実戦を想定した戦闘演習的な意味で。動かすのにも一苦労であり何千人って数の将校とバックアップが必要な上許可も降ろさなきゃいけないので、軍務上やらなきゃいけない事だけど本当に面倒なのだ。
艦娘の訓練はすごくお財布に優しいし、6隻vs6隻だったら鎮守府内でもできるから楽なんだよなぁホント。提督の決断で決められるし。
戦車はとても上手くシステムを作ればまだスポーツレベルの許容範囲かも知れないが、戦艦がバンバン毎日撃ちまくるとか何処の大富豪達が金動かしてんだよ?ってぐらい見てて金の動きが心配だった。あれぐらいバカバカ撃てるんだったら、今頃その練度で日本海軍は世界征服してるぞ。
そもそもあの程度の人数しかいない女子高生が大型戦艦動かせるのか?出来るんだったら彼女達に世界大戦を任せたい、そう思ったのは俺だけじゃないはず。
「だからなるべく演習なしで立派に仕事を果たせるようにするのが俺の役目だし、そういうシステムが既にあるのだ」
「特に現在では深海棲艦と言う全く新しき敵が加わった事により、今まで通りの戦術では通用しないと……」
「そうだ裸ニーソ。まぁ、だからこその艦娘なんだがな?でも普通にこのイージス艦は通用するし、艦船が軍縮の名の元に厄介払いされる心配はないと思うが……ミサイルとか一本で一億ぐらいするんだよ。それ無駄撃ちするとか腹立つだろ?」
「「「た、確かに……」」」
「無駄撃ちして、常に超高性能AIレベルの完璧さを求めてくる国民から『金無駄にする海軍要らねぇ!』とか言われないように、しっかり俺の背中を見て一人前になりやがれェ!!」
「「「ハッ!!」」」
ー自室。
「って事があったんだよ。そこで時雨の意見を聞かせてほしい」
「正直に言うと、フィクションの世界の出来事を訓練の話と混ぜて説明するのはやめたほうが良いと思う……」
「ローファンタジーならオッケー何だよ時雨くん。別に戦艦は魔法で動いてるって説明してる訳じゃないんだし。あ、そこ王手です」
「クッ……!父上にも負けた事がないこの私が……何故……!」
斎藤中佐、それ間接的に俺が中将閣下勝ってる事になるんですけど。
自室に戻って、教育指導の文を書き終えた後に来るのは将棋の挑戦状だった。中佐を将棋盤の上でボコボコにしてからと言うもの、事あるごとに勝負を挑んでくるのは流石に疲れるでゴザル。でもボコボコに出来るからいつでも相手してやる。
「キツーイィ!プログラムマジキツイッスゥゥゥ!ドキッ!クサイ男だらけのムサイ海軍生活ッゥゥゥ!!」
「テメェは黙ってレポート書いてろ。あと本来軍隊なんて男しかいないもんだぞ」
「でも女の子いるじゃん!!いるのに最近男ばかり教育してて苦しいんだよォォ!!マジ可愛い娘と即ハメしてぇぇ!!秋津洲さんとか大鯨さんとかダンケとかマジソクソク(出し入れ)ムサペクペク(マ○コに)モオオオ!!!」
「今の発言秋津洲さんたちに報告して時雨」
「オッケ〜」
「超マジメックスになるからやめて」
結城や斎藤中佐も俺と同じく新人たちの指導に当たり、マニュアル通りの指導法を実践してみて改善点をそれぞれが見つけてレポートに提出するんだ。俺たちにとっては教官経験の延長みたいなものである。
これはとても小さい事で、一見するとあまり意味を成さないかも知れないが、例え幼児が立てる提案でもそれが理にかなっているかも知れない事もあるんだーーと、大将閣下が言っていた。
アブラハム・リンカーンはグレース・ビリングズって11歳の少女に、髭を生やせば存在感が出るって言われて本当にやったら大統領になったからな。そういうアイデアを大切にするため、例え幼稚園児が言ってることでも聞き入れたりするのが荒木大将のポリシーらしい。
日本だったら子供の戯言、或いは大人に命令するクソガキだと言われて叱られるのが関の山だ。
みんなが固くて硬い日本社会に、ピッタリ適合するようなロボットを生み続ける教育方針に危篤を感じるとも言っていた。『飛び抜けた才は、日本社会では必ず引きずり降ろされる。出る杭は打たれる……哀れよッ』とかも言っていた。
日本海軍は功績とかも考慮し始めたけど、昔は学歴とキャリアでしか昇進はあり得なかったから、珍しい国だよね。
「数週間後には地方への研修もあるし、スゴーイ!提督が実際やってる事より遥かに色んな事勉強しなきゃいけない俺、スゴオォォォイ!!」
「分かったから黙って斎藤さんと一緒に将棋でもしてたら?よそ見しながらだと失礼だよ?」
「よそ見してようが何してようが、勝てばいいんですよォ……ねェ?斎藤中佐?」
「ン、ンムゥ……」
「じゃあここ空いてますよ、王手。金銀勝ちです」
「ク、クソォォォ!!」
「すごいね宍戸くん。斎藤さんが弱いのか宍戸くんが強いのかわからないけど」
「え?まぁなんて言うのかな……タダタダ、俺が強いだけ、みたいな?尊敬……って言うのかな?そういう目で見始めても、何もおかしくないと思うけど?ムフフフ」
「はいキモイね、うん。春雨と村雨がいないから褒めてくれる娘は何処にもいないよ、残念だったね!」
「ハ、ハワァ〜!宍戸さんカッコイイデスゥ〜!」
「「「黙ってレポート書いてろッ」」」
「はいすいません」
俺たちは数週間に及ぶ教官訓練と、教育方針及び教育法の問題点を集めた論文をまた書かされる。
マニュアルに対しての問題点は見当たらなかったからので苦労した。世界に誇れる日本海軍であるからこそ、下士官や兵卒の訓練法には隙がない。
だけど、この前プログラムメンバーとして特別に見せてもらった大佐以上の高級将校達が行く学校では、また安全保障学と防衛学を学んでいた。こんなんばっかだなオイ。
と思ったけど、日本海軍だけでなく日本全体の歴史的を振り返り、総じて自虐史観で話していた事が分かった。下の者には愛国心を謳うのに対して、それとは真逆……そして論理ロボットみたいな考え方をしていたので、そこを不思議に思った。
これだったら技術大国日本は国防を管理するAIでも作って全部任せたらいいじゃんって思った。どうせ上の連中なんて保身とロボットみたいにしか動かないからな。
あ、でもあの場でそれ言ったら殺されるか。ここでも出る杭打たれる文化……つーかこんなの独裁国家と変わんねぇじゃねぇか。社会的風潮そのものがスターリンみたいな?強く自分の意見を断言する政治家もいたけど(社会的に)抹殺されたからなぁ。
「失礼しまぁ〜すっ……あ、宍戸さん戻っていたんですねっ!」
「そう、君たちの元にね。ロマンチックだとは思わないか?」
「素敵ですお兄さんっ!私の部屋にも来て下さい!」
「お、春雨ちゃんに誘われちゃったな〜。仕方がない、漢としてイクしかないだろう」
「やったぁ〜!」
「オイ卑怯だぞ宍戸ォ!まだレポート終わってねぇのにテメェ春雨ちゃんの部屋行く気かよォ!?もし春雨ちゃんのトコ行ったらオレも行くからナァ!?」
「「断念……」」
「残念……みたいな感じに言うんじゃねェ!!」
煩い学友はともかくとして、時雨はまた俺のノーパソ、そして村雨ちゃんと一緒に色々な事を調べてる。貰ってる給料で問題なく買えるはずなのに俺のパソコンばっかり使うのは、カスタムメイドのスーパーノートパソコンだからだ。とにかく早く、スピードが落ちない。
自作PCは広く認知されているだろうが、自作ノーパソはとても高度な技術が必要なのだ。あ、これでビジネス始められるかも。元海軍技術将校による自作ノーパソが量産体制を整備!みたいな?
「……あれ、宍戸くん。またメール来てるんだけど」
「もしかしてまたクソジジイからとか?んな訳ないよな、ハハハ」
「病院からだから多分そうなんだと思うけど……宍戸くん、まだ懲りてないの?」
「何が?」
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「「「…………」」」
「……宍戸大尉。学友としてメガネは外していた事にする」
「ありがとうございます、斎藤中佐」
あのさぁ……すごく軽蔑した目で見るのホントやめて。お金をちゃんと使ってあげるーー経済ってそうやって回るんだよ?ちょっと使いどころを間違えただけじゃん。
春雨ちゃんや村雨ちゃんの頬が凄く赤く染まってるじゃねぇかよォ!!プライバシーってものは無いんですかねぇ俺には!?
「宍戸くん、二次元ものに移行すればいいってもんじゃないんだよ?しかも趣向はドンドン酷くなってるように感じるんだけど……」
「いやさ、天下統一の方は純粋にどれほどのクソゲーなのか見たかっただけで、SLGストラテジーゲームとしての機能があるからそういう面でも楽しめるんだよね。その他は結城が勧めたのだから」
「オレかよ!?しかもこんなゲーム知らねぇから!!」
「でも肉の唄を抜き要素って言いながら買ってないからまだお前よりマシだし」
「アレは純愛ゲームだろうがァ!?エロ抜いたら芥川賞モンだぞオイォ!?テメェこそクソゲー集めてなにやってんだ!?」
「雌猫教師4は傑作だから!大抵のゲームはナンバリング4まで行くと化けるんだぞ!抜き度80舐めんなよォコラァ!?」
「二人共ゴミだから。じゃあメール開けるよ」
「「はいすいません」」
でも、二人はなんだかんだで興味有りげですよ?やっぱむっつりなんですかねぇ……!
「メールにはなんて?」
「東京の病院からだって。内容は……うん、案の定ってヤツだと思う」
やっぱりか。
ー病院。
「龍城ィ!なぜ来るのが遅かったァ!?そのせいでワシはドスケベナースさん達と一緒にウハウハするしか楽しみ方が無かったんじゃぞい!」
「最高じゃねぇか、できれば残り少ない一生をそこで費やして欲しかった」
「そういう事は言うもんじゃないよ宍戸くん!宍戸くんのたった一人のおじいさんなんでしょ?」
「たしかにそうですけど……」
「流石はあの春雨ちゃんのお姉ちゃんじゃわい!めんこい上に優しいと来た!」
「お褒めに預かり、コーエーです!」
ふふんっと威張る白露さんの隣には爺さん。ジジイが個人証明書とか全部家において金だけ持ち東京のキャバクラに行って、テーブルの上でリンボーダンスとわけの分からない遊びをした事でぎっくり腰確定。
病院に搬送されるも身元証明書がない上金がないので、俺が迎えに行く羽目になった。これをクソジジイと言わずになんと申すか?まだ海軍大学校カリキュラムが残ってる俺は教官を終えてから来てるけど、まだまだ国際法の授業が残ってるんだ。
そんな忙しい俺が外出許可を貰って来てやってんのにもっと早く来いだと?ちょっとキツイ愚痴ぐらい勘弁しろよ。
「それで龍城よ、提督にはなれたか?生きてる内に見たいのに、待ちくたびれちゃうのぉ〜ワシは〜!」
「俺の覇道は絶賛邁進中なんでね、こうやって無闇に呼び出されると提督になるの遅くなるから……そこンとこヨロシクゥッ!」
「大尉程度で浮かれておるから足をすくわれるんじゃい。まだまだ半人前よのう……」
「ナースさーん、睡眠薬の投与お願いしまーす」
「おい待ていィ!そんなんなくともグッスリ眠れるワイ!!」
じゃあ眠ってて、そして三日経ったらさっさとお家帰ろうねクソジジイ。
「でも本当に面白いお爺さんなんだよ!セクハラはやめてほしいけど……」
「何を言うか!セクハラしてこそ女子が輝くのではなかろうてに!それにワシがこう言う風になったのは、キャバクラで下ネタを連発しても喜んでくれる女子がいるからジャイ!ワシはキャバクラに育てられた」
「その上お値段がクソ高いと来た。もう行くんじゃねぇぞ」
「それは無理じゃわい。ワシの心からの下ネタとセクハラを喜んでくれるのは彼女達しかおらん!龍城、貴様は間違えるでないぞ?女子は下ネタを嫌う……卑猥なゲームなんぞはもってのほかじゃ!」
「あぁ、この前身を持って体感したよ」
白露さんが爺さんの話し相手になってくれたお陰でクソみたいなセクハララッシュは起きなかったものの、迷惑なのは変わりない。
「今日は宍戸くんだけ?」
「後で時雨も来るらしいですよ。病院が許容する範囲でお菓子を持ってくるそうです」
「それってすっごく小さいって意味じゃーん!ちぇー」
「仕方がないですよ、ここは病院ですから」
「私にとったら研究施設みたいなものだもん!正直食事を制限する意味ないと思うけどー!」
「もっともですけど、ここは時雨が持ってくる一番おいしいお菓子を……って、どうしたんだジジイそんなぼーっとして?眠いのか?」
「時雨、ちゃんとは……めんこいのかのう?」
「それしかねぇのかクソジジイ」
「私の妹で、生意気だけどいっちばーん私に近い妹なの!可愛さも保証するよ!もちろん、いっちばーん可愛いのは私だけど!ね、宍戸くん!」
「可愛さで言えばそれに全フリしている春雨ちゃんなどそれに当たるのでは?」
「客観的な意見だけど、要するに姉さんじゃないって言ってるのは変わらないよね?」
なるべく言うことを避けてきた酷い真実を吐き捨てたミセス三つ編み。手には合計50円以下ぐらいのうまい棒。
作る側にとってはコスパは最悪なはずなのに未だにこの低価格。最高においしく、ガキンチョでも大人買いが可能な庶民的でとても財布に優しい駄菓子の一つ。最早文化遺産にしてもいいと思うけど、流石に別の物を持ってこようよ。名目上はお見舞いに来てるんだし。
「ありがとう時雨!すっごーくおいしいお菓子なのは知ってるけど、なんでこれなの?しかも全部明太子味って?」
「(最近うまい棒を食べてないでしょ?たまにはこう言うのもどうかなって思って)姉さんは健康な病院食だけで十分だからね、お金がもったいないよ」
「……んッ?」
「あ、しまった!建前と本音が!……僕にとって、姉さんは世界一のお姉ちゃんだよっ」
「そんなこと世界でいっちばーん分かってるもんね〜!」
白露さんの指コキコキ……あっ、これはコブラツイスト決定ですね。なぜコブラツイストかと言うと、狭い病院内でジタバタせずに決められるから。
狭い場所、少ない動作で、最大限のダメージ!痛そうだけど、俺には時雨を助ける術がない。あと、時雨は白露さんしか姉がいないので強制的に世界一である事をツッコみたいのだが、その隙もないとは恐れ入る。
「ハァ……ハァ……もう、常人より身体能力上なんじゃないの……?ハァ……」
「いやいやぁ!私の全盛期はこんなものじゃないよ〜!パルクールで全国行けるレベルになったら上々かな〜?」
「フランスの外国人部隊入れますね。俺が提督になったら白露さん送りますよ」
「あ、それはちょ〜っと勘弁してほしいかなぁ〜……」
「冗談ですよハハハ」
「君が……時雨かね?」
「あ、はいっ、初めまして」
何気に初対面の時雨とジジイが話し始めている。時雨は護身が成ってるからセクハラされても大丈夫か……あ、でも間違ったら時雨が殺人の罪に問われるかも。時雨が俺の爺さんの仇になるってのはできるだけ避けたい。
目線入ってテレビで『日頃から暴力的だったんですよぉ〜』みたいな。
「はは、流石は白露ちゃんの妹じゃわい……めんこいのう!」
「は、はぁ……ありがとうごさいます」
「おいジジイ、時雨にはセクハラするなよ?」
「おぉっと!宍戸くんがまさか時雨の守りに入ったぁぁ!これは時雨に脈アリかにゃ〜?」
「時雨はセクハラされたら問答無用で極み技フルコースだから。テメェの自業自得でも、同僚を殺人犯にしたくない」
「一応僕の心配してるって事にしてあげるよ」
「心配せんでもやらんわい、タワケが」
「ジジイの日頃の行いのせいでこんな苦労する羽目になってんですけど?」
「すまんかったのう、ホッホッホ」
「ったく……じゃあ俺たちそろそろいくわ。下の方で手続きとか全部済ませてくっから」
「うん」
眠いのか分からないけど時雨にはあんまり興味無さそうだな。或いは時雨の暴力的な性格を一発で見抜いたとか?本当だったら凄い。
戻って勉強しないといけないのに、ジジイのせいで散々な目に遭うのだ。これで、『わぁ〜!不幸だぁ〜!ちゃんちゃんっ』って終わらせるのはシャクなので、時雨にセクハラしてもらって、ある程度制裁を受けてもらってもいいと思う。
そうだな……ジャーマンスープレックスからのジャイアントスイングぐらいが丁度いいか?
「ちょっとエッチなお爺さんだって聞いてたけど、そんな風には見えないよね?」
「ホッホッホ、ワシはTPOを守っとるだけじゃよ」
「うっそだぁ~!お爺さん事あるごとに私のおしり触ろうとするじゃん!」
「そこに尻があるから悪いんじゃ」
「はははっ、腰の方はどうですか?すっかり治りましたか?」
「応よ、時雨ちゃんの顔を見たら、まるで昔に戻った気分じゃわい」
「あ、あははっ、そうですか」
「そう、昔ワシを救ってくれためんこい女子が居てのう……あの娘は婆さんに似ていて、時雨ちゃんにも似とるわい。ありゃ美しかったぁ〜」
「そうなんですか……」
名前も似て、容姿も似ている。これは、残り短き生を意味するのだろうか?
偶然にも程が過ぎる。
時雨……なるのほどな、彼女の名前だったのか。
若かりし頃の記憶が蘇る。