整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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世界は混沌に包まれている

 

 

 世界は混沌の渦に巻き込まれている。

 

 深海棲艦と呼ばれる謎の敵を相手に、艦娘と言う兵器を駆使して戦い続ける各国は苦戦を強いられ、多大な被害を出しながら一進一退を繰り返す。艦娘はその間、提督による独裁的な暴挙を受けながら、逆らえない相手にその身を差し出し続け、御国の為に日々海戦に明け暮れる毎日。国民も、艦娘も、誰もが慈悲深く聡明なヒーローの登場を待ち望んでいた。

 

 そんな中、突如出現したスーパーイケメンヒーローこそがーーこの俺、という訳だ。

 

 提督は俺の計略で左遷され、ソイツの暴挙に嘆き悲しんでいた艦娘達は俺の手により救われる。終戦直後の如き待遇は俺が定めた制度で艦娘達の暮らしぶりは一気に改善された。お陰で、艦娘全員から少なからず恋心のような感情を寄せられる。モテるって言うのも大変だな。

 大規模作戦では、俺が自ら出撃して次々と島を奪い返し、軍上層部から目を掛けられる一方で目障りにな存在となってしまった。

 

 只々仕事をクールにこなしていた俺は、暗殺やらあられもない罪やらを被せられ、遂には堪忍袋の緒が切れた。俺を怒らせるとどうなるか……そして、艦娘達に手を出そうとしたらどうなるか……じっくりと教えてやる為にな。

 腐りきった海軍上層部を叩きのめす為、ハーレム状態の艦娘達とイチャ付きながらクーデターを起こし、俺はこの国の支配者となった。

 

 ……俺はただCOOLに仕事をこなしていただけだ。別に凄い事じゃない。俺にしかできない事をしようとしただけさ。でも、今はもうそんな事を言ってられない。海軍を改革し、深海棲艦を倒し、より良い国を作る……そして、艦娘達が笑って暮らせる世の中を作っていくだけさ……

 

 

 

 

 

 

 

「……どうだった?」

 

「ゴミ」

 

「はぁ!?俺の最高傑作なんだぞォ!!?」

 

 

 ー舞鶴鎮守府付近、飲食店。

 

 

 同僚の書いたファンコミックへ批判したと同時に怒り見せ、立ち上がりながらレストラン中に憤怒の声を放ってきた。ウェイトレスが来る前に座れと宥め、少し落ち着きを見せた所で批判への詳細に移る。

 

「後にも先にも絵がひどい。これじゃ夏コミで売上ゼロは固い。あとストーリーが無駄に壮大だし無駄に長い。なんで60ページも無駄で壮大なストーリーを作ってるんだよ?普通にイチャついてろよ」

 

「は?普通にしてたら面白くねぇじゃん!!」

 

「じゃあなんでもいいからこのクソ長いページ数を減らしてその分をエロで補うとか」

 

「俺はこそばゆいラブがいいのおおおッッッ!!!」

 

 ADHDなのかと尋ねたいほどテーブルをバンバン叩き、冷めた珈琲が器から何滴か零れ落ちる。こちらの落ち度であるにも関わらず拭こうとしてくれる店員に感謝と謝罪を述べ、追加で珈琲を二人分注文する。

 

 社会人にとって貴重な休暇に呼び出され何を頼まれるかと思えば……コミマに出す物への採点と言う天井のシミほどどうでもいい案件だった事ほど落胆する物はないよ。「正直な感想が欲しい!」と言われ素直に言ったらこれだ。成人式を一緒に迎えた同士とはとても思いたくない。

 お天道様が程よく差し込み、それにより美味しそうに照らされるパフェ、そしてこの同人作品、なんだこの組み合わせは?

 

 

「大体な、艦娘がそんなクソみたいな待遇受けるわけないんだよなぁ?艦娘になる人達は普通の人間な訳だし。イヤな上司はいるかもしれないけど」

 

「あれだけ可愛い子ばっかだったら普通提督なら試して見たいとか思わねぇか?コスプレ見たいな格好してエロい身体、美人揃いと来たら文句無いだろぉ!?すげぇペロペロしてぇ……!!」

 

「そうだな。分かったから声抑えてくれよ公共の場だし。それに、艦娘にモテたいとか思ってんだったら自分を磨け……俺みたいにな」

 

「モテてないお前の方向性は見習いたくないけど、失敗談として聞きたいぜ!」

 

「は?」

 

 俺の第二鎮守府とは違う、舞鶴第一鎮守府所属で、俺と同じく整備工作員の【結城(ゆうき)】中尉。

 俺は昨日、見逃した冬アニメをコンプしようと今日の朝から臨戦態勢だった。給料でジャーキーやスルメ等を取り揃え、寮から一歩も出ない覚悟で居たにも関わらず、朝八時のモーニングコール。

 100人に一人と言う微妙な確率で妖精が見える特別体質を授かる奴が、全員が御国の為に!とか言える奴じゃないのはコイツを見れば一目瞭然だと思う。

 

 ちなみに、汚職に手を出したクソ提督は相応の処分を受けてるので、浮かれる=重いスティグマを背負うとの事で誠実な振る舞いを強いられる風潮があるらしい。俺達の提督が言ってた。

 

「あのさぁ……お前の言うニャンニャンがしたいっていうんだったらロトでも買え」

 

「人生は運で決まるって言うのかよ……おっと!噂をすればだぞ」

 

「ん?あぁ……時雨と村雨ちゃんじゃんか」

 

 このレストランは特に近くて旨く、第一第二鎮守府関係なく訪れる。

 管理する提督は勿論、艦娘や海軍軍人達が立ち寄る憩いの場として有名所となった。俺達よりここに来る人はメニューを言わずとも品が出されるほど。

 

 入ってきた二人の人影は俺達の存在を確認しながら店員と相槌を打ち、こちらへと足を運んでくる。鎮守府内で毎日目にしている姿はどことなく新鮮に感じるのは、鎮守府外ではあまり会わないからか。

 

「こんにちわ〜っ」

 

「時雨ちゃんに村雨ちゃんじゃん!今日は二人でお買い物?」

 

 時雨はキャミソールワンピースと村雨ちゃんは縦セーターと言う私服仕様。これ絶対ナンパされたよね?というぐらい似合ってた。

 

「うん、昨日二人で行こうって事になって……それで、そっちの宍戸大尉はアニメコンプするために部屋に籠もるとか言っておいてレストラン?」

 

「モーニングコールを貰って案の定小一時間ここに居るよ……」 

 

「知ってる。知り合いだったら相席して欲しいって店員さんに頼まれた所だよ」

 

「ンンッ……こりゃ店員さんへのチップ増しとかねぇと示しつかねぇぞ?」

 

「美人に使う金はプライスレス!」

 

 そう言う奴は大抵カモにされるって、それ一番言われてるから。まぁ一時間もテーブル占拠とか悪行すぎるので、最低でもチップは出しとく。

 

「時雨ちゃんに村雨ちゃんと相席なんて感激だなァ!」

 

「お前これから用事あるとか言ってなかったか?」

 

「え?あ、そう言えばそうだったァ!!出会い系で会った女の子とのデートォォ!!ごめんね二人ともォォォ!!」

 

「あ、全然大丈夫です」 

「気にしないでいいよ」

 

「え……っ」

 

 本当にどうでもいいって顔されると悲しそうな顔をする、これが男の性か。財布から三千円を取り出した結城は流れるように店内を後にする。

 

 ……後から聞いた話だと、結城はそのデートしていた女にメシを奢らされ、高級なプレゼントまで買わされた挙句、一夜を過ごせないまま逃げられたそうだ。可哀想なやつ(笑)。

 

「それで宍戸大尉?こんな美少女二人を独占できるんだから、ここは勿論奢りだよね?」

 

「今の時代女性に奢るとか何言ってんの?男女平等社会は何処行ったよ?」

 

「海外では女性に奢るのは基本中の基本だよ?知らなかったかい?」 

 

「でもここはJAPANなんだよね。男みたいに働いて男みたいに出世して、それでいてデートで最終的にヤらせてくれるかどうかを決めるのは女……平等とはこれいかに?あ、分かった!Byoudouって奴だね!」

 

「キミのほうが給料高いんだし今日ぐらいは奢ってもらっても良いんじゃないかなァ!?」

 

「「グルルルッ!!」」

 

「二人共おすわりして!みんな見てますよ!」

 

「「ごめん村雨(ちゃん)」」

 

 店を見渡すとかなり注目を集めていたらしい。

 まぁ見てるっつっても、大半は俺等を知ってる海軍の奴らで、そうでなくても住民とは顔合わせてるから大きな問題にはならないと思う。

 鎮守府にも色々クセの強い奴らがいるからなぁ……村雨ちゃんと時雨がメニュー決めてる間に周囲のメンツを確認する。

 

『睦月ちゃんは誰がいいと思う?わたし的には……やっぱり蘇我提督がカッコイイと思うわっ。提督なのにあの屈強な上腕二頭筋を見せつけてくる所なんて凄くってぇ……イっちゃう』

 

『えぇ〜睦月的には斎藤提督の方がいいと思うにゃし〜。頭良さそうなメガネで顔もカッコイイのがポイント高いぞよっ!』

 

『私はそう言うのには興味ないな……』

 

 あそこに居るのは睦月と如月、それに長月か。次女はかなりエロい事で有名で、これまたガードが固い。長月と睦月は別の睦月型と一緒に居ることが多いから珍しい。

 因みに長月は俺達みたいな整備士の一人で、とにかくボルトを締めるのが早い。

 

 

『うわぁ〜可愛い!このオムライスうさぎさんですよぉ〜!』

 

『ホントだ可愛いですね!私のはカエルさんですよ!どうやって描いたんだろ……?』

 

『念願のステーキ……ステーキ……美味しすぎますぅぅぅ……!』

 

 鹿島に吹雪ちゃんに秋月か……これまた不思議な組み合わせ。

 

 

『なぁ……この前可愛い男の子見つけてよ、受けですか?って冗談で言ってみたワケよ。そったら「は、はい、そうですっ」って返ってきたわけ。最高過ぎて掘ったゾ』

 

『ナイスデース、今度俺も誘えよ』

 

『たまたま見つけた男の子とヤれるなんて……これって勲章ですよぉ……?』

 

 

 あの人たちはゲイ三人衆(部下)。休日は目を合わせないようにするのが、貞操を守る一番の策だ。あと、一人にならない事かな?

 再度言うが、肝試しの時に三人がオバケ担当だったと聞いた時ほど怖いものは無かった。

 

 

「お待たせしました!スペシャルジャンポストロベリーパフェです!」

 

「お、時雨デカイの頼んだな。給料日だからって金払い良すぎじゃないか?」

 

「あれ?宍戸くんが払ってくれるんじゃないの?」

 

「だから払わねぇつッてんだロォがァこのアマァ!!」

 

「姉さんの冗談ですから!おちついてくださぁ〜いっ!」

 

「あ^〜、村雨ちゃんの可愛いお口でそんなこといわれちゃったから、ぼくちんの怒りが治まっちゃったぁっ!」

 

「キモッ」

 

「「グルルルルッ!」」

 

 再び村雨ちゃんに宥められ、席に座る。追加できたコーヒーを飲みながら、時雨がガブるストロベリーパフェと言う糖分の塊を眺める。

 ジャンボストロベリーに続くのは村雨ちゃんのマンゴーパフェ。パッと見地味だが、食べる前にナプキンをお膝に広げるなんて女子力高杉。

 なにより一口一口が小さい……流石は鎮守府のマドンナ的存在、可愛らしい。

 

「あむっ……んんー!おいしいよこれ!」

 

「良かったな」

 

「うんっ!」

 

 時雨の返事は満面の笑みにて返される。時雨の頬には大きな一口で付いたクリームが残り、それを取って舐める。

 

「ほら付いてたぞここ」

 

「ん、ありがとっ」

 

「…………」

 

「……?村雨ちゃんどうかした?」

 

「あ、い、いいえ、なんでもないです」

 

 村雨ちゃんは俯いて再度パフェを食べ始める。

 時雨の頬についていたパフェを食って思ったが、流石は女性に人気はパフェだけあって甘さがかなり控え目だ。

 客の事を考えながら作ってくれるなんて、優しいレシピだなと心の中で思ったりもした。

 見渡せば女性客が多い。そして可愛い娘が多い。二人を置いてナンパしてこようかな……と思っていた時。

 

 

 

『た、大変ですー!!』

 

「「「ん?」」」

 

 扉から一声を放った女性は、スカートをひらひらと靡かせながらこちらへ走ってくる。

 店員を含め、店内にいる客全員が彼女の行き先を凝視する。セーラー服っぽい衣装に、オッドアイ。うちらの提督の秘書艦、古鷹に似ている……て言うか本人だ。

 

「ふ、古鷹さん……?」

 

「ハァ……ハァ……ハァ……宍戸さん!!重大なご用件があります!!」

 

「な、なにかな?愛の告白ならオッケーするけど……」

 

「提督の代理を頼めませんかッ!?」

 

 

 

「「「……え?」」」

 

 

 

 告白云々は無視かよ?

 

 


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