整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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舞鶴 vs秋津洲

 

 ー休憩室。

 

 二人零和有限確定完全情報ゲーム。スムーズに言えたら褒められるよ。

 これは運の要素がない、完全に自分と相手との駆け引きだけでゲームが進行するタイプのゲームで、基本的に上手い人は頭が良くてIQが高い。

 

 将棋の20駒に対しチェスは16駒で、ルールは王様を積ませれば勝ち。シンプルなルールは逆に戦略性の幅を広げさせ、膨大な数の通りから生まれた五万と言う戦術と定石は、世界大会の場でもよく見かけられる。

 賞金が将棋戦とは桁違いなのもまた世界レベルならではである。

 

 ちなみに起源は古代インドのチャトランガって有力な説らしいけど、どんな国にも戦争の歴史さえあれば戦をモチーフにしたゲームはある。

 

「準備はいいかも?」

 

「いいよ、先手は秋津洲さんでいいよ」

 

「本当かも?後手だったからって後で吠え面かいても知らないかも!」

 

「そんな情けないこと言わないって……じゃあ始めようか」

 

「「よろしくお願いします(かも!)」」

 

 

 

 ーー日本海軍艦娘大尉ーー

 

     秋津洲

 

 

 

 先手白の秋津洲さんは早速ポーンをニマス真ん中のE−4に突っ込ませてきた。続いて俺もそれに対抗するようにポーンを目の前に置く。

 そして案の定ナイトを飛ばしてきた秋津洲さんに同じくナイトを……なんてヘマはしない、同じ手で打ってたら先手が圧倒的優位である故に、俺はビショップを斜めにズラァァ!って出す。

 

「いい手かも!ならこれを出すかも!」

 

 と言って来ながらこれだよ、ビショップを目の前に置かれた。お互いの角がにらめっこ状態。

 続いて俺もナイトを出して秋津洲さんと同じような配置にして戦う。そして秋津洲さんは左側にキャッスリングと言う、飛車のルークとキングを入れ替える特殊技をやって防御も鉄壁にする。

 

 ポーンを斜めに配置した所で俺は二つ目のビショップを一気に盤面を突っ切らせて最初に出されたナイトの斜めに置く。

 

 一見するとそれで駒を蹂躙できるみたいに思われるだろうが、ポーンと言う将棋の歩がその後ろにある以上攻める事はできない。後ろを守るポーンの存在は相変わらずうざい。

 しかもあちらもこっちに比例して斜めに駒を配置しており、俺と同様一気にビショップを動かせる配置となっている。

 

「……なら、これならどうかも?」

 

「ウゥ〜痛い、これは痛い」

 

 盤面の左側に配置したビショップの斜め右にはナイト、左には進めてきたポーンと言う逃げないとビショップが取られる配置となっていた。

 チェスで駒を逃がすのは手を一つ奪われる事に相当するので、それが嫌なら取られる覚悟でナイトを取るかしか選択肢はない。

 

「では、これから」

 

「この手は意外かも……」

 

 ビショップの斜め下に一番端のポーンを設置して守りに入る。将棋の角に相当したビショップは当然取られ、それを倒したポーンを取り、秋津洲さんはナイトをキングから四マスの所まで進める。

 ここで意外な戦略を取った俺に会場のみんなも度肝を抜いただろう。

 

「「「な!?」」」

 

「配置ミスしたかも?ミスだったら撤回してもいいかも」

 

「いいえ、ミスじゃないですよ」

 

「そ、そうかも?」

 

 桂馬ナイトは王の目前。

 秋津洲さんがナイトを動かした事でポーンを一つ失い、その上キングの斜め左上と言う、配置的には秋津洲さんのナイトで最強のクイーンかルークを取れる彼女にとって超優位な状況にある。

 止める方法は彼女のナイトを倒す以外ないのだが、俺はあえて斜めにあった自分のナイトを前に進めると言う愚行にも思える手を打つ。

 

「宍戸さん本当にチェス得意じゃなかったんですね……」

 

「宍戸っちカッコワルー」

 

「うるせぇ!これでも本気だ本気!」

 

「でもコマも配置も圧倒的に秋津洲さんの方が上よね?どう挽回するつもりなのかしら?」

 

「大丈夫、俺は王様一人になっても戦い続けるから」

 

「口だけは一人前ですわね……」

 

 まぁ予想通りって感じでブーイングの嵐。そしてまたもや予想通りでクイーンが奪われた。白のナイトと黒のキングが隣接してる現状では倒される心配はないが、何か手を打たないとどっちにしろ死ぬ。

 

 だが、この俺様は何も策がないまま突っ込んでいたほどアホじゃない。

 

「……なるほど、そういう事かも」

 

 最初の小競り合いで俺のビショップを倒したポーンに報復攻撃を仕掛けた黒いポーンはポツンとキングが隠れる城の前で待機していた。

 俺はそれで壁となっていた相手ポーンを倒し、ルークとポーンに守られているキングを斜めからチェックを入れる。

 

「……あ、し、しまったかも!!」

 

「気付いたんですね、でももう遅いですよ、はいチェック」

 

 もちろん歩が裸で王に近づいたからと言って倒されるのがオチなんだけど、愚行と思われて進めたナイトによって俺のポーンは守られ、一番左側の逃路は俺のルークが待ち構えているので、事実上秋津洲さんは自分のルークで攻めてきたポーンを倒すしかない。

 そしてそのルークを倒すのはもちろん守っていたナイト……ではなく、膠着状態だったもう一つの俺のビショップだ。

 

 秋津洲さんはキングをビショップの前に置いて逃げることしかできなく、逃路を塞いでいた俺のルークが一気に盤の端から端へと移動し、チェックを入れる。

 まだ最後の逃げ道がある彼女はキングを避難させるが、ここで動かすのは秋津洲さんと同じように配置して外に出してたもう一つのナイトを動かし、

 

「チェックメイト、ありがとうございました」

 

「あ、ありがとうございました、かも……」

 

「「「うおおおおおおお!!!」」」

 

 駒が横に多くあったお陰で詰ませる事ができた。結論としては短期決戦はどんな戦況下でも有効な手段である。歴史上で有能な戦術家と呼ばれる人たちはせっかちな人が多いからな。

 

「宍戸っち凄い凄い!!てっきり弱いからソッコーで負けちゃうんだと思ってた!」

 

「それも戦略の一つだよ。ズルいとは思うけど、そうでもしないと秋津洲さんに勝てないと思ったかな」

 

「全然ズルくないかも!負けは負けはかも、いつ何時も油断大敵……手を抜いたつもりはないけど、秋津洲の心の中に少しだけ余裕を持ちすぎたのが敗因かも……」

 

「その通りだよ宍戸くん。流石は私が見込んだ男だ」

 

「恐れ入ります!」

 

「流石は私を将棋で倒し続けているだけはあるな。まさか秋津洲大尉まで破るとは」

 

「盤面の上にある情報だけが勝負所ではないと言うことですよ」

 

 チェスは苦手だけど、不得意とは言っていない。10人抜きとか話してたからガチで強いんだなぁ……って思ってさ。やっぱり将棋でもなんでも、相手を油断させるのはいい手だな。

 

 視野の広い戦略は戦況を左右する。

 まるで左右のおっぱいのように。

 

「良いものを見せてもらった。チェスや将棋を娯楽の一つとして強く推奨する事は、有能な将校への育成に大きく役立つかも知れない」

 

 そうですか。それより勝ったんで鈴谷の甲板ニーソを触りまくってもいいんですよね?多分それぐらいの事は成し遂げたはずなんだけど?

 しかし、大勢いる中でそんな約束を掘り返せるわけもなく、チェスにブームが付いたのか次々と対戦したいと申し出てくる将校達。おい何しにここに来たと思ってんだ仕事しろお前ら。あと鈴谷は後で絶対約束守ってもらうからな。

 

 チェスや将棋って言えば春雨ちゃんがかなりうまかったと思う。直接対決した事はないけど姉妹中では無敗のレコードを持つらしい。可愛い上に頭がいいなんて、神様は能の分配の仕方を間違えたんだろうな。

 

 

 

 ー時雨ルーム。

 

『……ハッ!?い、いまお兄さんが私の事を思ってました!私の気持ちが伝わったんですかね〜えへへ〜!くんかくんか、すーはーすぅーはぁー』

 

『姉の部屋に汚物を持ってこないでくれるかい?股に着けてたそれでHIVに感染したらどうするの?』

 

『まるで病気を持っているみたいな言い草……宍戸さんかわいそう……』

 

 

 

 ー舞鶴第二鎮守府、食堂。

 

 なるほど、服を洗濯する時はここでやるのか。舞鶴に数年も所属していたのに忘れるなんて俺はお間抜けさんだなぁ!

 いや、単に俺が当番を任されていた時代から随分と時間が立っていただけなんだけど。

 因みに俺はたまに服をシャワー室に持っていって自分で洗ったりしてる。やれって言われると面倒くさい事だけど、極々たまにそう言う事を自分でやってみたくなるもんなんだ。こまめな事は嫌いじゃないしね。

 

 横須賀を出る時も自分の洗濯物全部手洗いしてきた。清潔感のあるデブの方が汚いイケメンよりモテるって、これ常識だから。

 

「清潔感が重要。精錬感は必須。精強感は大事。これら三つ揃ってないと軍隊って成り立たないからな」

 

「泥臭さの塊みたいなのが何言ってんだ、清潔感なんか必要ねぇんだよォ!」

 

「結城はそれで落とされるよな。女からの評価も」

 

「違う違う、俺ッチの魅力に気付いてないだけ。チン○ンでけぇっつってんのにさぁ、釣られてくれないっつーか?身固い女ばっかだよなぁ〜今の世の中!」

 

「冗談でもそれはないと思うぞ」

 

「それ女の人にスッゴク失礼だし!鈴谷達だってガード固いんですけどぉ〜!」

 

「うん知ってる。でもね?何人もの女が何人もの男と股掛けてた現場をこの俺は目撃しているんだよ。心に受けた爆撃はまだ修復段階だったんだ。その上約束通りと言って洗濯物から取り出した甲板ニーソを好きなだけ触っていいなんて裏切り行為……俺はもうだめかも知れない」

 

 うん、俺はな、鈴谷の脚を触って、すきあらばお股のほうまで手を伸ばそうとしてたんだよ。鈴谷もそれを承知で言ってたのかと思えば、それがまさかの洗濯物と一緒にでてきたやつだなんてさ。

 こんなの誰が履いたか分かんねーじゃん。同じようなヤツ履いてるんだから熊野のやつかも知れないじゃん。別に嫌ってわけじゃないけどさ。

 最悪なパターンとして汚くてみすぼらしいおっさんが、鈴谷の脚の感触を味わいたくてコッソリ履いたあとかも知れないし、無闇にそんなの触れないよぉ!本音としては脱ぎたてじゃないと意味ないよぉ!

 

「それじゃあワタシのを触るデース!」

 

「あ、イイっす」

 

「ソレってNO?or YESデース?」

 

 ノーに決まってんだろうが。

 突如として現れた英国気取りの帰国子女は金剛デース!現在でも舞鶴第二鎮守府で有望な活躍ブリを見せ、戦艦クラスは伊達じゃないその圧倒的な火力とそれに見合わない消費の良さは、正にハイブリッド戦艦。

 旗艦を任される事が多い彼女は、名前から全体像を想像するとアマゾネスが浮かび上がってくるだろうが、俺の感性がイカれていない限りはれっきとした美人である。

 

「どうしたんいきなり?提督になるかも知れない将来有望な海軍大尉を今から落としに来てるとか?俺の同期達の方が出世すると思うからそっちに行った方が……」

 

「違いマァース!ワタシそんなBITCHじゃないデース!ちょっと気になったコトがあったのデース」

 

「気になること?」

 

「ハイ、あのプリンツ・オイゲンとかなり密接に話していたようですガ、彼女も提督になるデース?」

 

 密接に話してたって訳じゃなくて、単に秋津洲さんに勝ったから凄いって言われてただけなんだけど。

 それよりもすごい凄い!って言いながら上下におっぱいぶよんぶよん揺らしてた事の方が、俺のチェス何かよりよっぽど凄いよって突っ込みたくなった。野郎どもが相変わらず目のやりどころに困っていた様子だったのでな!

 

「多分そうだと思うよ?」

 

「ワァーオ……あのMassacre艦隊の旗艦が提督になるだなんて……」

 

「虐殺は言いすぎだと思うけど……え?ガチでそんなに強いの?」

 

「大規模作戦で敵艦隊全員取られマシタ……」

 

「まぁ鈴谷としては代わりに倒してくれるほうが楽でいいんだけどね〜。でも確かに凄く強かった!やばい!流石は外国艦って感じ?」

 

「へぇ……」 

 

 やっぱり都市伝説じゃなかったんだな。世の中分からないもんだなぁ〜だって見てくれよあれを。

 

『荒木大将が陸空から見ても明らかなる名将。確かに斎藤中将も名将であるが、国の導き手としては大将が先鋒をつとめる事となるだろう』

 

『何を抜かすんだ貴様等ァ?斎藤中将のお膝元にて日本海方面の安定が成せたのではないか。今や我が国が日本海を主導出来ているのは中将のお陰と言わずして他ならない』

 

『テメェ中将と大将の格差を理解しやがれェ!!』

 

『テメェこそレスキュー隊のくせに大きな事言ってんじゃねぇぞオラァ!!』

 

『だめー!みんな仲良くしないと、ふぁいあー!しちゃうよ?』

 

『『オナシャスッ!!』』

 

 即落ち二コマ漫画かよって思うぐらいスムーズな落とし方ですな。オイゲンさんの「ぷんぷん!」って言いながらぴょんぴょん跳ねるのは色々と股間に悪いのは言わずもがな。

 

 まったく……本陣である呉鎮守府の諸港を差し置いて戦果をあげていたのはやっぱり彼女の凄い指揮能力からなのか、或いは練度の高さなのだろうか?

 あんなクソエッッッロイ外国艦ばかりだったら、いつか柱島に立ち寄ってみたい。英語を流暢に話して、ワオスゴーイ!って言われて惚れられたりして、そして最終的には……グッヘヘへェィ!!

 

「……宍戸っち、えっちな事考えてる」 

 

「え、そんなことありませんわよ?」

 

「わたくしの真似ですの!?ブッ殺されたいんか!?トオオォォォ!!」

 

「あ、ごめん、ほんとごめん、だからいつものクマノンに戻ってマジ頼む」

 

「え、あ、ゴッホン……し、宍戸さんが悪いのでしてよ?」

 

 くまのんは怒らせるな、これは家訓となるだろう。みんなも熊野の豹変ぶりを見て肝に銘じた事だろう……怒らせるとどえりゃー目に遭うゆーことが。

 

「宍戸さん達はこの後どこへ行かれるんですかぁ?」

 

「えーっとね、大阪警備府から呉鎮守府に行って、それから佐世保……って感じでドンドン地方に行く感じ」

 

「なるほど……研修で全国を旅する感じね?」

 

「そういうコト。ハァ……いつになったら提督になれるのやら……」

 

 全国の基地を研修し終わったあとは確か港湾や鎮守府に属する提督の元で補佐を務める事になるんだっけか。

 一人の元に留まらず、最低三人の提督のを回って補佐する事になるので、膨大な経験値を得ることとなるのだ。

 

 最初はどんな人の補佐をするんだろう?楽しみすぎてホッピングピーポーマックスだぜ(※この言葉に特に意味はありません)。

 


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