整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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柱島 Welcome

 大阪、呉、佐世保、鹿屋、単冠湾、そして諸港の要塞部などなど、数々の鎮守府を体験して回った俺は、いよいよ提督の補佐をして、あわよくば代行して実践経験を存分に積める段階にあった。

 それぞれの鎮守府は敏感な視線で見ると確かに違った性質を持っている。特に佐世保鎮守府は凄かった……舞鶴以上に大陸からの輸送を護衛する立場にあるので、艦娘の所属数だけでなく設備とかも横須賀に引けを取らないほど優れていた。

 

 旅の終わりの論文ではそれぞれ基地の重要性を考慮し、それに沿う将校育成方針と言う物を書いた。みんなは結論としてもっと軍拡をしないと国民守れないとか言ってたけど、おいおいそんなの子供でも分かるぜ?

 

 そうさ、軍隊ってのは何時の時代も何かしらの理由で慢性的な金銭トラブルに見舞われているもんさ。あ、これは世の中全てに言える事か……やっぱ世の中金っすよ金。

 

「ですよねぇ提督?」

 

「え!?あ、う、うん、そうだと思う、うん……」

 

「HAHAHA!Moneyなんてあっちの方から降ってくるのよ!そんな事よりAdmiralもシシドも踊りましょう!出撃がない日なんて最高だわ!」

 

「深海棲艦が出現したら行かなきゃいけないのは知ってるわよねメリケン?それともテニスボールより小さな脳味噌の容量はもうマックスかしら?」

 

「何か言ったかしら?このHOT DOG SUCKER」

 

「Es ist Frankfurter Amerikaner!(フランクフルトだぞアメリカ人!)」

 

「I DON'T FUCKEN CARE!(どうでもいいだろうがァそんな事ォ!)」

 

 執務室にて、左側にドイツおっぱいがゆ〜らゆら、右側にアメリカンおっぱいがゆ〜らゆら。そして何故か無駄に縮こまるここの統率者である提督。誠に異様である。

 この光景を見れるのは柱島泊地だけ!皆さんも是非お立ち寄り下さい!

 そしてここまでの過程もどうぞ!

 

 

 

 ー海軍大学校。

 

「……君は合格だ。君のような人材こそが、提督となるべきだろう」

 

「ハッ!お褒めに預かり光栄に御座います!」

 

 面接を経て補佐をする提督が選ばれていた。面接官の提督は合格と言ったが、別に落とされる訳じゃないので、失格だとは言われない……はず。

 落とされてるヤツって居るのか?

 

「君は少佐に昇進させる。知っていると思うが、これは日本国内各地にある最下級の要塞部を任す事ができる最低階級だ。これで事実上指揮官としても働く事ができる。大本営に立ち寄ったり、鎮守府の補佐をするに当たって、助けとなるだろう」

 

「ありがとうございます!」

 

「……まぁ、君の最初の勤務先は呉の近くにある泊地なのだが」

 

「……え、それって」

 

「そう、あの外国艦鎮守府と呼ばれる場所だ。何かとクセの強い娘が多いと聞く。あそこの提督も少し変わっていると言うかなんというか……まぁ、いい経験にはなるだろう。普通の海軍基地としては見ず、あくまで例外があるのだと言う認識で勤務に臨んでくれ」

 

「は、はぁ……?」

 

 少佐に昇進し、柱島泊地……通称『外国艦鎮守府』と呼ばれるオイゲンさんの所属だった場所であり、圧倒的な戦果を出し続ける鎮守府はさぞ強い外国艦と優秀な提督がいるんだろうと、胸が高鳴っていた。

 

 行きたかった場所に行けるなんて正に奇跡!この幸運を無駄にしない為にも、一生懸命有能な提督から学ぼう!そして俺も、一流の提督となる準備をするのだ!

 

 呉を経由して柱島へはボートで行く。ボートでは数人の艦娘達が護衛してくれてたので心配は無用だ。

 ただ強い深海棲艦に運悪く出くわしたら俺は確実に死ぬので、胸のバクバクを止めようと必死に平然を装ってた。

 

 護衛してくれてた艦娘達からは「怖くないんですか?」と聞かれたが、「俺はこれから、これより危ない経験を何回もする事になる。この程度で怯えてたら、君達みたいなカワイコちゃんを守れないだろう?」ドヤァァ……って言ったら黄色い声を貰った。

 イケメンは辛いぜ。しかし彼女たちが帰る途中で、あんな臭いセリフ初めてぇ〜キモ〜!とか言ってたので、その辺にあった石をフルスイングで投げた。当たらなかったけど。

 

 そしていよいよ待ちに待った柱島泊地!かなり小さい島は農産業と漁業で成り立っている。もちろん呉より小さく、一見すると少し大きめの市役所ぐらいの建物だけだが、出撃所を含めると海軍要塞としての機能をちゃんと果たしているように見えた。

 建物の内部へ中に入ろうと……する前にまずここにいる事を伝えねばならない。つまりはインターホンか電話をかけて知らせる必要があるのだ。

 

 普通は玄関の前に門番的な憲兵がいる筈なんだけど、居ないんだよこれが。確かにここは孤島で侵入するようなヤツはいないし、モニターとレーダーで深海棲艦を察知できるからそんなに気張る必要はないんだろう。

 この規模だったら多分憲兵一人と海兵二人ぐらいでここの情報部はやっていける。

 

「あ、あの……」

 

「あ、はい!なんでしょうか?」

 

「貴方が今日から提督の補佐をとなる、シシードさん……ですか?」

 

「あ、はいそうです、初めまして」

 

「私はここで提督の第二秘書を務めさせて頂いています、Zaraです!よろしくお願いします!」

 

「宍戸龍城です、短い間ですがこちらこそよろしくお願いします」

 

 誰か呼ぼうかと思った矢先に顔をドアから覗かせひょっこり出てきたのが、重巡のZaraさん。名前、そして容姿を見ての通り……とっても外国人です。しかも金髪ロリ巨乳……うわ、エロ。

 この国に生まれた人間の殆どはそんな属性を持って生まれてこないが、逆に道端でナンパするかと言われれば躊躇してしまう。

 完璧すぎると逆に手が出しにくいっての……あるでしょ?

 

 鎮守府内に案内して貰ってるときもクソエロい体して尻ゆらしてんだよ、これマジ?こんなのと毎日イチャイチャ(してるとは限らないけど)できるなんてマジここファンタジーの世界じゃね?

 最強と名高い鎮守府、最高にエロ可愛い艦娘、そしてそれを統率する提督……どんな人なんだろ?

 

 執務室に案内されて、いよいよ本人と出会う。勿論ノックして返事来てから入って、クッソ覚えるのが面倒くさい敬礼の礼儀を踏んでいきながら近づいて手を上げる。

 

「本日マルナナマルマルより補佐官として着任しました、宍戸龍城少佐であります!短い間ですが、ご指導御鞭撻の程、よろしくお願いします!」

 

「……よく来たね、歓迎するよ。僕は荒木連龍で、ここの提督をしている者だよ。これからよろしくね」

 

「ハッ!」

 

「Meは今日のAdmiralのsecretary shipのIowaよ!……あ、AdmiralそこはMeの書類と一緒にするのよ?何回も言ってるのに……」

 

「あ、ご、ごめんアイオワ……」

 

「あ、提督!またポーラを執務室で寝かせて!こう言う時はしっかり叱ってくれないと駄目じゃないですかぁ!」

 

「ご、ごめん!い、いやさ、飲まないと出撃できないって言うからさ、そ、その、あの……」

 

「……提督ッ?」

 

「ひ、ひぃぃぃ!!ご、ごめんなさいごめんなさいぃ!!」

 

「…………」

 

 なんだこの人達は?

 

 

 

 ー柱島執務室。

 

 って事がありましてぇ、今では提督の隣に座って補佐をする事となりましたのですが……思いもしませんでしたねぇ、まさか最強鎮守府の提督が、こんなのだったとは。

 

「ビスマルクさんとアイオワさんのキャットファイトはさておき……提督、この出撃報告書と資材消費録は右側にまとめておいて、一旦放置しておきましょう。書類は一度優先度を決めて、順に終わらせて行ったほうがいいですよ」

 

「な、なるほど……君、頭いいね!」

 

 逆に頭よくなくちゃ提督なんて出来ねぇだろうがァ!?

 

 と、突っ込みを入れさせる彼の名前は【荒木連龍(あらき・れんりゅう)】大佐。

 えーっとな、この人は……まぁなんて言うかその……あれだ、オドオドしてる人だ。そして仕事が凄く出来ない人だ。聞いているだけだとこの人なんで提督になったんだって聞きたいけど、多分同じ名字からして荒木大将の息子さん……かな?まだ聞いていないけど。

 

 ここに来てもう一週間。

 出撃の様子を見てみたけどこの人が諸葛亮孔明みたいな策士策略の将ってわけでもないし、特に難しい戦略を立てている訳でもない。

 ただ素質が全くないってわけじゃない。バブル世代で甘すぎる時代を堪能した無能集団とは違いプライドが高くなく、誰に対しても低姿勢なのは人としては好印象である。そして寛容に接しているからか、鎮守府内の人望はやたら厚い。

 

「「グルルルルッッッ!!」」 

 

「あの〜アイオワさんにビスマルクさん……もうそろそろやめてもらっても良いですかね?」

 

「「黙ってろニホンジン!!」」

 

「すんませんした」

 

「あ、あの、二人共、喧嘩はだめだよ?」

 

「「Sorry Admiral!」」

 

 荒木大佐もニホンジンなんですけど……いや、もしかしてニホンジンじゃない可能性が微粒子レベルで存在している……?

 

 この柱島鎮守府……最強と名高き物にも条件が付いていた。

 この鎮守府は陽気な艦娘達が多く、整備工作員たちも海外から来ている為色々と、その……撫でらかな性格の持ち主が多いのだ。

 

 舞鶴第二鎮守府も比較的陽気と言う点では近いが、ここは戦果に影響が出るほどらしいのだ。しかし土壇場ではかなりの暴走っぷりを見せてくれる……らしい。

 要するに呉鎮守府の海上警備で目立つ程の活躍の場がない上、危機感がない状況だと本気を出せず、普段はうんこみたいな戦闘記録しか出していないとの事。

 実際、今日のリザルトはDを付けてもいいと思う。イ級の3隻に大破されるとかちょっとあり得ない。

 

 この柱島鎮守府は俺の言葉で表現するならば、正しく昼行灯。通常時は全くもってDランクリザルトなのに、緊急時の火事場の馬鹿力だけは世界一と言う……なんかこう、もの凄く扱いづらい艦隊っすね。

 彼女たちも手を抜いてるわけじゃないと思うけど、あの時のように何故か本気を出せないみたいな?いるいる、瀬戸際と本場に極端なまでに強いやつ。

 その逆がほとんどなので……まぁ、軍隊全体のバランスが取れて案外いいんじゃないッスか?

 

 艦娘は15人しかいない。その上全員が戦闘員じゃないので泊地としてもかなり少ない戦力数だが、それに見合わない戦果を大規模作戦中に上げているのも事実。過去に防衛戦で20隻以上の精鋭を無傷で撃破していた経歴を持つ。

 

 そして化物鎮守府は何より個性的な艦娘が揃っている。

 目の前で女子プロレスワールドチャンピオンシップを繰り広げているビスマルクさんとアイオワさんに加えて、酒乱のポーラとか。

 紅茶をこよなく愛し英国淑女と自称しながら発音は完全に米語寄りのウォースパイトさん、陽気でほわわんなとした雰囲気で基本的に優しいが付き合いが悪いとマフィア化するイタリアンファミリー達、祖国の誇りを重んじて何かとドイツ絡みの事に訂正を呼びかけるクッソ面倒くさいドイツ組。

 

 あ、少し前に知り合ったのはパイプを燻らしながらここの立地的に見えないはずの祖国ロシアを向き続けるオクチャビ……いや、オクチャブリッジ……すまねぇ、ロシア語はさっぱりなんだァ。

 可愛くない名前だけど、元々カッコイイ系の彼女は基本的にガングートさんと呼んでいる。

 

 こんな個性的で手を焼く羽目になるんだったら正直異動か提督をやめたくなるかも知れない。少なくても原子力潜水艦の艦長とかの方が安定感はありそうだ。

 

 執務仕事も既に代行させてもらってるようなものだし、もう俺提督でいいんじゃないかな?

 

「って事があったんだよ、すごくないこの鎮守府?ここの仕事全部代行できるようになったら俺将官に昇進されてもいいと思う」

 

『提督に相応しいのかはともかく、凄い鎮守府に当たったね宍戸くん』

 

『こっちも補佐官の人が来てますよ!あまり話してないですけど』

 

『こっちの補佐官の人は気が利く人でね?みんなの為に名物を買って来てくれたんだよ。つまり僕が頼んだモミジ饅頭送ってくれるよね?お金もちゃんと渡したはずだけど』

 

「輸送料とか貰ってないんですけど……」

 

『これが送料だよ。投げキス……んまっ!』

 

「は?」

 

 お土産の情報を渡すためにスカ○プチャットでの映像通話だ。

 どうやらコイツはまだ知らないらしい……そうやってポンポンお金を貢いでくれるバブル世代のミツグクンは、既にこの世から(多分)消えているのだと。

 しかも時代は深海棲艦がいる故に輸送費が高揚しているので、ただでさえ高かった送料は更に高くなっている。

 

 あと、別に欲しかったわけじゃないけど、映像がカクついてて投げキスがまともに見えなかった。

 

『お兄さんそっちで大丈夫ですか!?異世界人みたいな身体した外国艦に唆されていませんか!?春雨も行きましょうか!?』

 

「ははは、大丈夫だよ。ここに来るのはいい経験になるからみんなにも来てほしいけど、横須賀を守る春雨ちゃんが居なくなったらみんな困るだろうからね」

 

『う、うぅぅぅ……』

 

「心配しなくてもいいよ。春雨ちゃんと村雨ちゃんには名物のケーキ送るから……勿論、俺の投げキス入りでね」

 

『『わぁーい!ありがとうございます!』』

 

『僕には?』

 

「呉の職人さんが作ってくれたスパナを饅頭と一緒に送ってやる、喜べ」

 

『わーい。一番高そうなのに嬉しくなーい』

 

 柱島と呉を毎回行き来できるわけじゃないんだよ。特に俺みたいな余所者は、長い勤務を終えて次の鎮守府に移る時か、呉市に立ち寄る正当な理由でもないと買い物なんて出来ねぇんだよ。

 

『まったく……そんなんだからモテないっていつも言ってるのに』

 

「知らないだろうけど、俺は外国人とも気軽に話せる性格だし?結構ここでの評判はいいほうなんだぜ?」

 

『そう思ってるならそうなんだろうね……君の頭の中では』

 

「は?机の下に一人ジュボジュボはべらせてるかも知れねぇじゃねぇか!情熱的な愛情表現は外国人美人の特権!」

 

『え、いるんですか?今から行っていいですか?』

 

「あ、ごめん春雨ちゃん。冗談だから」

 

 久しぶりに時雨達と談笑に浸り、ノーパソを閉じ終わった後にやる事と言えば、勉強である。

 実際には復習(と言うなの実務)みたいなもので、艦隊運用法や艦娘海戦運用術などと来る前に覚えた事のおさらいと、提督目線からの鎮守府運営術と照らし合わせながらの研修兼補佐官なのだ。

 

 勿論、マニュアル通りではない海軍要塞柱島泊地はちっとも参考にならないのはお察しである。

 しかし俺は、仕事に関しては現実主義を貫いている。例えググってそう書いてあっても、非効率だったり実質必要なかったりすればそれに沿うような事はしない。

 それに実際に起こす深海棲艦との攻防戦では、邪険にされたり役に立たないって言われる物も数多くある。実践すればマニュアル人間と言われかねないので、思考力からの判断力と、それを実際に行動へと起こして円滑に進める技術が必要になってくる。

 

 緊急時の対処ってのは、もっとも対処が難しいからな。

 

 


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