柱島泊地、竹敷要塞部を渡り歩いた俺はついに、横須賀第四鎮守府へと足を運ぶ事となった。
それは畏れ多くも俺の旧上司である蘇我提督が統括する場所であり、時雨達もいる。
到着が早く、予定日の前夜についてしまった俺は真っ先に蘇我提督の執務室へと足を運び、到着した事を伝えた。夜なのにまだ執務をしてたので、俺も手伝う事を志願したのだ。
そこで執務をしている途中、話題の拍子に俺は柱島の瀬戸内海防衛戦の事を包み隠さず話したら、提督はそれがとても大きな出来事として取り上げられている事を話してくれたのだ。
そう、俺は正直海軍内部でどれだけ大きな出来事だったのかを把握していなかった為、ほんのちょっとだけブチ切れて勢い任せに指揮を取った事を馬鹿正直に伝えてしまったのだ。
実質大規模作戦時の司令長官のような立場になっていた補佐官が居たことが、かなりの噂となっていた事を知らされたのだ。
作戦で勝つ自信はあったものの、俺は一歩間違えば酷い失態として見られていたかも知れない。迷惑を掛け損ねた事を謝り続け、蘇我提督も俺に非心を見せてくれた。
というのも、提督が「私も昔は似たような事をしてね、それが運良く昇進への決定打となったわけだが、ハハハ!」と言ってくれたので、気に病む必要性は無いとも教えてくれた。
よく考えればそうだよな。俺はやった。学生の身分でありながらこれほど大きな功績を立てた人物は俺を置いて他にいないはず!
これはもう昇進する準備万端的な?つい最近昇進したばかりだけど。
そして、時雨達の部屋にもお邪魔させてもらったところ、
「よっ、元気だったかみんな?」
「「「え!?」」」
「か、帰ってきてくれたんですかぁ!?」
「あぁ、明日からここの補佐官になるらしいんだ。みんなまたよろしくねん」
「お兄さぁ〜〜〜ん!!」
「宍戸さぁぁ〜〜〜ん!!」
おっとっと、こんなに抱きついてきちゃって。モテる男は辛いぜ。
「ありゃ?そこで物欲しそうに見てくる子猫ちゃんは誰かと思えば時雨じゃないか。なーんだ、抱きつかれて羨ましいのか?ほら、抱きつくんだったら俺の背中が、あ・い・て・る・よ」
「じゃあその社会の窓閉めて。竿が見えてるよ」
「「きゃああああああ!!!」」
「驚かないで春雨ちゃんと村雨ちゃん!!見えてないから!ただ開いてるだけだから!」
「び、びっくりしましたぁ……」
「しめてくれたから抱きついてあげるよ。ほ〜ら、だきっ」
「い、痛いイタイイタイタイタイィィィ!!!白露さん直伝のコブライタイイイ!!な、ナンデェェェ!!?」
「ケーキがいいって言ったのに送ってきたのが呪われそうな人形だったからだよォ!!僕が純粋無垢な少女みたいに待ってていざ開けたらう○こ顔の恐怖人形だったなんて許せなァァァイ!!!」
「い、イタイイタイ!!あ、あれは呪いの人形じゃなくて!真夜中になったらひとりでに動いたり髪が何故か伸びたりする人形だって!!」
「そうなんだァ!?即効で捨てた甲斐があったよォ!!」
広島の街で見つけた人形があって、謎の技術で髪を一定数伸ばしたり、明暗センサーに反応してちょっと動いたりするなんちゃって呪い人形だ。
友達にドッキリとして大好評な反面、本物を冒涜していると批判の声も見られた一品だが、本物を冒涜しているってお前達本物見た事があるのかって話だよ。 無神論者でありSOA(そんなオカルトありえません)な俺には分からねぇ話だ。
「ハァ……ハァ……ほら、長崎のカステラ買ってきたからさ」
「あ、やるね宍戸くん!僕は君が期待を裏切らない男の人だって知ってたよ!」
「現金なヤツだな……」
「でも嬉しいですお兄さんっ!またお兄さんと一緒にお仕事ができるんですねっ!」
「村雨も嬉しいですっ!ふふふっ」
「俺もだよ……俺のミューズたち」
「オロロロロロロォォ!!!」
吐くなテメェオラ。
変わりようのない時雨達に俺も安心感を覚える。
横須賀第四鎮守府とは実はあまり交流がないものの、知っている人が多いので別段困るわけでもない。
結構雰囲気もいいし、横須賀みたいな鎮守府の最先端は、てっきりエリート精鋭至上主義みたいな奴らの集まりかとばかりかと思った。
何かとここでは日常的な雰囲気を感じている理由は多分、横須賀第一鎮守府の存在があるからだろう。
今まではあまり触れなかったが、横須賀第一鎮守府は同時に元帥府もあり、あそこの元帥さんは連合艦隊司令長官でもあって、艦隊が滅茶苦茶強いのだ。
第四鎮守府まで必要なのか?って思うぐらい強い。まぁ海軍要塞の要点ってのは国土を守る事であってどれだけ深海棲艦をオーバーキルできるかに注目しているわけじゃない。関東全域を守るには、鎮守府一つじゃ足りないからな。
哨戒任務と警備警護任務を主にする第四鎮守府は、必要だが超絶忙しい鎮守府ってほどでもなく、蘇我提督に分からない所とかを聞いたりして指揮官としての教訓、そして教示を得る。
ー廊下。
「古鷹、酒保と食料の在庫表は……」
「あ、はい!今すぐに!」
「では宍戸少佐、今日の鎮守府の資材収支を取りに行くのだが……」
「修理、出撃、製造の資材収支の統計は既に確認済みです。ついでに食糧在庫も確認が終わりましたので、後は必要量の要請を送るだけです」
「も、もうですかぁ!?相変わらず早いですね……」
「流石……と言いたいところだが、本当にスムーズだな。さぞ教えるのがうまい提督がいたのだろう、私が教える事などもう無いかな?ハハハ」
「いいえ、蘇我提督の元で学ぶ事はこれから山ほどあるでしょう。改めて、よろしくお願いします……」
いやぁ反面教師って結構いいですねぇ!柱島は、殆どの執務を秘書艦無しで担えるまでに成長させてくれた。
一番基礎的な事は、緊急時じゃなくても鎮守府中をダッシュで走り回って執務を終わらせる事だ。お陰で俺の肺活量はすごく上がった気がする。
「と言う事は今日の仕事は終わったも同然じゃないか……」
「それらの書類を一日分としてまとめるまでは終われない……のですが、それらは自分がやっておきましょう。折角なので二人はおくつろぎ下さい」
「え、いいのかい?」
「勿論です。日頃のお礼と言うに少し
物足りないとは思いますが……」
「そんなことは全然ありません!ありがとうございます宍戸さん!」
「ゆっくり貰った時間を使わせてもらうよ」
そして俺は気遣いも忘れないのだ。凄く大きなプレゼントを渡すよりかは、こう言うちょっとした心遣いをする方が印象に残りやすいし、人脈の糧となる。
提督としての実務に特化した育成プログラムの中で、俺は特にそうなんだろうな。
しかし、俺が気遣うのは目上の者だけじゃない。
ー工房。
「宍戸少佐!ご苦労さんッス!」
「おい、そりゃ目下の者に言う言葉だぞ!」
「も、申し訳ありません宍戸少佐!」
「そんなに気張らなくてもいいってみんな!俺はただの補佐官様。もしかしたら君たちの上司になって、何れは日本海軍を牛耳る事になる将来有望な提督候補ってだけだから!」
「いや滅茶苦茶ヤベェじゃないッスか!?ゴマすらせて下さいよォ〜」
「何時でもゴマすってもいいゾイ……あ、古くなってた工具とか修理用品とか明日には届くよ」
「マジッスか!?アザッス!班長に言っても中々早く届かないンスよね~、提督に直談判ってのも難しいッスし」
「そういうのは早く言ったほうがいいぞ。案外提督に直談判した方がいい事もある」
「「「そりゃ流石にムズいッスよ〜!」」」
流石に提督へ直談判は気が引けるか。
工房では大量の男どもが汗を流しながら整備と工作の限りを尽くす、この職場。今は哨戒の最中なので張り詰めた感はないーーこの人数を見ると舞鶴を思い出す。
その他にも主計部や軍医部との交流も欠かさない。
舞鶴の第一鎮守府や港湾みたいに大きくないので、参謀部はない。横須賀第二鎮守府まで行ってどんな感じか見てきたけど、決断力とリーダーシップのある提督の前ではあまり意味を成さない。
「君たち心の中では、うちらの仕事の過酷さを知らないくせに何言ってんだこの新人補佐官?とか思ってると思うけど、宍戸くんは元整備工作班の副班長だよ?」
「「「え!?」」」
「しかも舞鶴で一度提督の元で働いた事があるんです!すごいですよね!」
「マジッスか!?」
ひょっこり現れたのは村雨ちゃんと時雨は、隠しに隠していた俺の正直をサラッとバラした。後で「俺、実は……」みたな展開でみんなを驚かせたかったのに。
「って事は、お二人も補佐官殿とはお知り合い……って事ッスか?」
「そうだね。僕達の元同僚なんだ」
「は?部下だろ?仮にも所属してた班の副班長だったんだから上司だろ?」
「こういう細かいところを気にする小さい男は出世できても女の子にモテないから気を付けようねみんな!」
「「グルルルルルッ!!!」」
「ま、まぁまぁ!お、落ち着いて下さいふたりとも〜!」
「「「あ^〜」」」
村雨ちゃんによる癒やしASMRを作ってほしい、そうすればどんなストレスフルな日常でも明るく変えられる。
新兵じゃないんだし、整備工作班の人たちには手ほどきは必要ないが、ある程度のアドバイスを与える事、そして密接なコミュニケーションを取ることによって円滑な鎮守府運営が成立するのだ。
どんな鎮守府でも、仲間とのコミュニケーションを大事にする大切さを教えてくれた提督に感謝の念を込めながら、兵器の整備を一緒手伝っていた頃。
「照月艦隊、帰還しました!」
「おー照月達帰還確認。哨戒はどうだった?」
「あ、お兄さん!異状はなかったです!」
「春雨ちゃんもお疲れ様!でもそうか、異状がなかったのか……」
「深海棲艦を発見しなかったのはいい事だね、平和な海を保ててる証拠だよ」
「そうっすね初月さん。あ、提督への報告書は俺がやっとくから、大まかな情報だけ俺に教えて……シャワーは早い方がいいでしょ?」
「本当ですか!ありがとうございます!」
気遣いのできる男はモテる。
しかしやりすぎるとつきあがるし奴隷として認識されるので、アメとムチの一進一退で関係と言うなのリードの主導権を握るのだ。
「……なにか気がかりな事でもあるの?」
「鋭いな時雨、まるでお前が俺にかますパンチの様だよ、HAHAHA」
「HAHAHA、何時も殴ってるみたいに言わないでくれるかいラッシュするよこのデコスケ野郎」
すまないな、でも悪い印象ってのは残りやすいもんなんだよ。
みんなの前では言わなかったが、最近気がかりになっていたのが撃破率だ。
横須賀第四鎮守府は関東の海軍要塞の中でも末端であり、割り当てられている海域への哨戒や他鎮守府のバックアップなどがあるのだが、出撃回数の割にはあまり深海棲艦を倒せていないのだ。
つまりは平和そのものであり、誰も傷つく必要も無ければそもそも問題が起きてないと言う実に素晴らしい状態なのだ。哨戒任務は敵を倒しに行くんじゃなくて、海域を警備する役割を持つ。設置される機関は役割を持つことでその存在価値を保てる。
故に、鎮守府は撃破数や積み上げている功績で差値を分けるような評論基準は建前上ないのだ。
しかし一週間で10隻程度の撃沈は書類上あまり芳しいものとは言えない。この情報を一般に公開するような真似はまずないが、下の奴らの口から大まかにだが漏らす事もある。
それを聞いて膨張させたり、改変したりするジャーナリストのせいで「横須賀第四鎮守府、先月の深海棲艦撃退数ゼロ!税金により稼働しているこの要塞の撤去はいつだぁ!?」とか言われる可能性もあるんだ。
海軍軍人としては、こっちの苦労も知らないカス共へ問答無用の腹パンをかます所だけど、報道の自由と発言の自由を尊重する日本国はそんな人の不幸を食い物にするメディアに敵わない。
ペンは剣よりも強し。
「……どこ見てるんだい?水の上の居たからって照月達のブラは見えないよ?」
「え、やだっ!エッチ!」
「ち、チゲぇよ!ちょっと考え事してただけだし!?なぁみんなぁ!?」
「「「う、ウッス!その通りッス!」」」
とか言って短いスカート凝視視点じゃねぇよ殺すぞ脇役共。なんて文句は付けれない、何故なら照月達は本当にクッソ短いスカートを履いてるのだから。ちょっと前倒すればパンツ見えるとかコスプレかよ?
「いまコスプレかよとか思ったでしょ?」
「は?全然そんなことねぇし。ただみんな軽装でエロいなって思っただけ」
「より悪いじゃないかぁ!」
「クァァ!痛いじゃないか!別に悪い指摘じゃないだろうがァ!?ゲームとかでも男は重装備なのに女はビキニアーマーとかザラだぜェ!?」
「「「確かに……」」」
「これは男女差別だね、全然公平じゃないよね宍戸くん?訴訟だよ訴訟」
あれ?前に公平の話とかしなかったっけ時雨?こういうときはお決まりの返しがあるんだよ?
「確かに、じゃあ男もビキニアーマーで戦闘させるように促そう」
「村雨そんなの見たくないですっ!」
「僕も見たくない、訴訟」
「どっちにしろ訴訟するのか……」
難しい問題だな。
だけど海軍とは国を守る戦士達の集まりである。その国を守ると言う使命があるからには、それ相応の意識を持ってもらわないと困るなぁ?
一々着る服に文句を付ける輩は、有能な教官様によって再教育させてもらおう!
あ、でもここの教官様も女性だからそっちの肩を持つ事になるのか。
ー食堂。
「なるほど、足柄さんは教官になってたんですか……いやぁ、足柄先生が俺の教官だったらすげー捗ると思いますねェ!」
「お褒めに預かり光栄だわ!宍戸大尉も元気にやってるかしら?」
「大尉?チッチッチー……甘いですよ足柄さん、俺はもう大尉ではなく少佐です」
「「「え!?そうだったの(んですかぁ)!?」」」
あれ、言ってなかったっけ?時雨達はかなり大きく目を見開きながら驚いてる。
「凄いです宍戸さんっ!」
「やっぱりお兄さんは未来の提督ですっ!」
「僕はまだ昇進まだなのに、生意気だね」
「ん?なんか言ったかね時雨くん?まぁなんて言うのかな……未来の将軍様のツメの垢が飲みたいんだったら、飲ませてやらん事もなけど?」
「これは暗殺不可避だね!送ってくれたスパナが役に立つよ!」
「「グルルルルル……!!」」
「時雨さんと宍戸さんは相変わらず仲がいいですねっ、ふふふっ。あっ、ここ座ってもいいですか?」
天使のような笑顔で舞い降りたフルタカエルが同席を希望する。
心良く受け入れ、美女に囲まれながらの食事を楽しむ……つもりだったが、
『なんだあのハーレム!?』
『お、オラのフルタカエルに、な、何気安く話しかけてんだブヒィ!』
『あぁ……俺達の村雨ちゃんが……!』
野郎どもの視線が刺さる。
鎮守府で働く男どもの醜い嫉妬から出る言葉の中には、同席する女の子の名前が最低一回は聞こえる。村雨ちゃん、春雨ちゃん、古鷹……まぁ当然だな。ただし足柄さんの名前が聞こえない、なんでなろー?
『ナッカチャンダヨー!ナッカチャンダヨー!ナッカチャンダヨー!』
「あ、すいませんっ!わ、私の携帯ですっ!すいませんすいません!」
「モーメンタイだよ古鷹」
「あ、その声知ってます!今人気のアイドル那珂ちゃんさんですよねっ!」
「村雨さん知ってるんですかっ!そうなんですそうなんです!ちょっとファンになっちゃってて!」
携帯の着メロにしてる時点でちょっとどころじゃないんだよなぁ。
「……時雨、Naka・Changって誰?香港にそんなアイドル居たっけ?」
「ブッ!?……ちゅ、中国人じゃないよ!吹き出しそうになっちゃったじゃないか!」
「いや、ナカ・チャンさんって言うからてっきりそうなんだと思って……」
「これですよお兄さん!」
春雨ちゃんがテーブルの中央に置いたスマホに映ってたのは、三人の女性が踊ってる姿だった。
その中央を陣取るのが、古鷹達が言ってた那珂ちゃんさんなる者らしい。チューブの動画に上がってる彼女達の踊りは既に百万再生突破しており、チャンネル登録者数もかなり多い。
踊りの練度も結構高く、動画も相当上げてるらしいのでこれだけでかなりの収入が見込めるだろうと内心思っていたが、それよりも驚きなのが彼女達は艦娘だと言う事だ。
つまり彼女達は現役の海軍である。最初の動画も「日本海軍の艦娘がビーマイセルフを踊ってみた」って題名で投稿されているのが確認できる。
「那珂ちゃんかわいいですよねっ!古鷹も踊ってみたいです〜っ!」
おまかわ。
「村雨も一緒に踊ってみたいですっ!」
おまおど。
「今では海軍のイメージガールみたいな感じになってるよね?いいんだけど、夏の猛暑の中でナカチャンサマーライフとかふざけたフレーズは、僕はNGかなっ」
おまひど。
「宍戸少佐は那珂ちゃんを見てどう思うかしら?」
「ビジュアル的にはバックダンサーの長髪の娘が結構好みかな」
「え、お兄さんこう言うのがいいんですかッ?」
「この中で、的な意味でね。それより春雨ちゃん、フォークが複雑骨折してるから変えてこようね」
「はいっ!」
那珂ちゃんさんか……AKB69みたいな顔面が庶民派な子たちと比べたら、俺は確かにこっちを選ぶけどさ。
後ろで踊ってるバックダンサーの子達が凄く人気あるんだよね。コメント欄には「神通ちゃん!俺と結婚して陣痛を経験してほしい!」とか「川内ちゃァァん!俺と夜戦してくれぇぇぇ!」とか那珂ちゃん以外の名前も出てるんだよ。
俺の感性が間違ってなかったら、俺は間違いなく神通ちゃん派か川内ちゃん派だな。
コメント欄には「川内三姉妹は荒木大将派!異論は認めん!」とか「こんな可愛い娘たちが斎藤中将派じゃないわけ無いだろ!?」とか書かれており、海軍内部の人間にしかわからないネタは遠慮してほしい。
……川内三姉妹って、この娘達は姉妹同士だったのか。
「でもそんなに踊りたいんだったら踊ればいいじゃん。踊るだけなら。動画を撮るにしても那珂ちゃんさん達は許可出てるはずだし、古鷹達ができない理由はないはずだけど?」
「そ、そうですよね!で、できる……と思うんですけど……提督の許可が……」
実の親父、しかも海軍軍人に踊ってみたを踊ってみたいなんて直談判する光景は見たい気もするし、すごく難しいけど、やりたい事に関して踏み切るのにも勇気は付き物だと思うぞい。
「許可は出るんじゃない?僕が前にコンビニに行ったら海軍の艦娘が作ったおにぎり型のチャーハン売ってたし」
「それは関係ないような……」
「時雨姉さんそれ買った?」
「興味本位で買ったけど、味は結構美味しかったかな。でも那珂ちゃんがそれを試してみたらもっと売れると思わない?」
「甘いな時雨、俺は買わんぞ。確かにあれは結構美味かった。だが大抵あぁいうコンビニで売られるものは大量生産型の工場で無機質に作られていて、後は那珂ちゃんスマイルを入れたらはい終わり。まるで那珂ちゃんのおててで作られた手作りおにぎり割高200円弱とか……」
「美味しかったって、買ってるじゃん」
「興味湧いたんだからいいじゃん!!」
「で、でも機械じゃなくて本当に手で作られているかも知れませんし!」
「古鷹も甘いよ、スプレンダーみたいに甘い。手作りだとしてもリストラされた4,50代のおっさんかパートのおばちゃんが、過酷な労働と滲む努力によって作られている努力の結晶だ。俺は寧ろ、可愛いだけで契約金ガッポシ貰うヤツのためより、その十分の一にも満たない金のために必死に働いて、毎日コンビニに来る客のために握り続けている人たちを応援する意思で買いたい」
「そ、そこまで語らなくても……」
「ここまでアイドルの手作りおにぎりを買う言い訳を考えた宍戸くんに拍手したいよ。でもさ、もし春雨か村雨の手作りおにぎりが発売されたらどうするの?おじさんたちの為に買うの?」
「二人のために買い占めるに決まってんだろうがァ!?」
「「「…………」」」
ジト目が痛い。
でもさ、那珂ちゃんさん達には失礼かもしれないけど、村雨ちゃん達が踊った方が断然可愛いと思うのは俺だけじゃないはずだ。
同時期に出てたら絶対こっちが人気出てたはずなのにさ、世の中最初にやったもん勝ちってか?
「海軍所属で、しかもこれほど有名だったら公認のはず、何処の艦娘なんだろう?」
「この娘達は確か横須賀第三鎮守府で見かけたような気がするな……」
「「「あ、提督!」」」
びっくりするので後ろからサプライズはやめてくださいよォ……!
「ハッハッハ、すまなかったね。だが古鷹がこの娘たちに興味を持つなんてな」
「あ、そ、その!これは……」
「現代、そして歴史上類を見ないほどの需要を持つ海軍は、まだ多くの若き入隊希望者を集めています。海軍のアピールに一役かっている彼女達を見て尊敬の意を持つのは不思議ではないでしょう」
「ん、宍戸少佐の言うとおりだ。彼女達もただ踊っているわけではなく、海軍の為を思ってやっているんだぞ古鷹」
「は、はい!」
提督が言うには彼女を第三鎮守府所属である。
那珂ちゃんはたまにひょっこり街に現れて路上ライブをするらしいのだが、出現ポイントが日本中バラバラで、現在何処にいるのかは分からない設定だ。
察するに、所属する鎮守府に迷惑をかけないために暗ましてるはずなんだけど、提督はあっさり俺たちにバラした。海軍内部だけだったら別にいいけどさ、那珂ちゃんの情報を金で売るような奴がいないとは限らないじゃん?
「……古鷹、彼女達に会いに行きたいのか?」
「え、い、いいえ!わ、私は、大丈夫……です!」
凄く会いたいらしい。隠そうとしているのだろうけどバレバレのバレンティヌスだ。
そして時雨が何故か手話で呼びかけてくる。
行かせて あげて 可哀想。
は? なに 無茶 振り してんだ?
パソコン 中身 妹達に バラス。
もうバレてるし。
ドM巨乳田舎娘デラックス版4800円。
わかったから やめて。
俺はもう、時雨にパソコンは使わせねぇ。そう心に誓った。
「提督、どのような艦娘であれそれぞれの役職についている以上はそれに集中するべきかと思いますが、ある程度余分な教養や経験を受けても差し支えないのではないでしょうか?」
「確かに」
「明日、第三鎮守府で行われる鎮守府間での資材輸送任務を見学に行きたいのですが……古鷹を同行させてもよろしいでしょうか?」
「ハッハッハ、構わないよ」
「ほ、本当ですか提督っ!」
「あぁ、あまり羽目を外し過ぎない程度に見学してきてくれ」
「あ、ありがとうございますっ!ありがとうございます!」
提督に対してのありがとうと、俺に対してのありがとうを分けて頭を下げ、キラキラした目で遠くを見つめる古鷹は輝いて見えた。
正直に言えば見学はしなくてもいいし、何より那珂ちゃんさんがいるかどうか分からないので確証の無い外回りなのだ。
でも、今人気のアイドル的存在を目の前にできるのであれば光栄だろう……神通ちゃんがいればサインを要求しよう。