整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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鴨川要港部編
yaggy


 

 

 海軍要港部の増設により、日本国土は更なる安定を物とした。

 増設された海軍要塞の一つであるここ鴨川要港部は、人口こそ大したものではないが、日本国土を守る重要地点の一つとして新たに稼働し始め、一週間足らずで既に深海棲艦の撃破数が10隻以上を誇る。

 

 五つある軍区の主格である横須賀方面の最前線と言う立地的な事もあるが、これは日本国要港部の平均的な数値を倍を上回り、無傷で任務を終える艦隊の資材消費も最小限に留まっている。

 

 そして海軍内部で注目されるのが、有能な指揮官として着任した新人司令官である。

 

 優秀な人材を輩出し始めた提督育成プログラムの第一期生であり、諸港の存続をも危ぶまれた安芸灘海戦で大いに貢献し、現在では自らの要港部を指揮する提督となった人物である。

 

 そう、現在その手に電話を持ちながら、遠くの鎮守府に所属する先輩提督と談笑を交わすのは、現在でも成果を出し続けている提督の鑑ことこの俺様である。

 

「アハハ!そうなんですよはい!それで昔出会ったその外国艦にこう言いました……私はブリティッシュ滲みたシュガーよりも、メープルシロップの方が好みです、ってね?ハハハッ!」

 

「ねぇ宍戸くん、この書類なんだけど……」

 

「あーはいはい……あぁそうですねぇ!では今度そちらにオススメのメープルシロップを送りましょう!純度の高いメープルシロップとベーキングソーダを混ぜた水を飲むと、癌の予防にもなるらしいですよ?」

 

「ねぇってば!」

 

「チョッ、ジャマ!……あぁいえいえ!自分の部下が『寂しいから構ってぇ〜!』と駄々をこねておりまして……犬のようで可愛いと?アハハ!常にスパナを手にした狂犬では恐怖のほうが勝ります」

 

「フンッ!!!」

 

「グアアアアア!!!」

 

 そして当然の如く、俺は時雨のハンマーパンチを食らう。艦娘だからか、或いは砲撃よりも殴った回数が上回るからか、はたまたその怒りングゲージがマックスまで到達したからか、その威力は戦艦並に強いと感じた。いや、実際戦艦に殴られた事はないけど。

 ……砲撃よりも殴った回数が多い女って凄い称号だな。今度時雨を呼ぶ時に使ってみよう。

 

「何すンだテメェ!?俺がここの司令官様だと知っての狼藉かね!?つーか俺様が他の提督様と通話している途中で殴るのやめろォ!」

 

「ごめんワンッ!僕は狂犬だから自分の拳を制御できないんだワンッ!」

 

「村雨ちゃんッ!この狂犬に狂犬病ワクチンを打ってくれェ!!」

 

「狂犬なのと狂犬病は違うような……じゃあはい、時雨姉さんっ」

 

「わぁーい!超高級なクッキーだワン!」

 

 お茶無しで糖分と香料の集大成を頬張る時雨は、さながら本当の犬のようにケツを振っている。

 

 着任日から一週間ぐらいが過ぎる。

 時雨と村雨ちゃんは艦娘として出撃しているが、俺の秘書艦となった村雨ちゃんは一度目以降の出港はない。

 しかしちゃんと演習と訓練には参加しており、いつでも出撃が可能な状態にしたいとの事。当然と言えば当然なのだが、責任感があるのは村雨ちゃんらしいな。

 春雨ちゃんは時雨と同じく要港部の第一艦隊に配属したけど、この娘がメッチャ強いんだよね。特化した能力は無いと思ってたけど、練度以上の活躍を見せてくれるんだなこれが!旗艦は鈴谷にしているけど、この分だったら第二艦隊旗艦とかも任せてもいいぐらいだ。

 

 今日は県内の海域に限らせた哨戒任務を行い、時雨が出撃報告書を持って来てくれてたのだ。

 因みに時雨が「流石高級なクッキーは一味違うね!」と美味しそうに食べているそれは、中身をすり替えたTDN安物クッキー!である。

 ではモノホンはどこかって?俺と村雨ちゃんが食ったん(トリック)だよッ。

 

「ハァァ〜後でまた提督に掛け直さないといけなくなったじゃないか!どうしてくれるのかね!?」

 

「知らないよそんな事……ていうかなんでそっちの提督さんと話してたの?」

 

「人脈構成って、知ってる?そ、れ、だ、よっ!上を目指すには仲間を作る必要があるし、提督になれって言ったからには、せ、責任……とってもらうんだからねっ!」

 

「は?提督になれなんて言ってないしキモキモキモッ!」

 

 そしてこの返しである。あと女子にキモって言われるの何気にくるからやめろ。

 

 現在のメッッッッチャ遠い目的は、提督になる事である。

 確かに時雨の指摘は鋭く、提督とは将官……陸で言う将軍クラスを指す言葉だが、艦娘を起用するようになってからの海軍は、艦娘を艦隊として扱うが故に『艦隊の司令官』……つまりは、提督だな!みたいな感じで艦娘の司令官を提督と呼ぶようになったのだ。

 感覚としては社長でもないのに、シャチョさんシャチョさんって呼ばれるようなモノなのだろうか?

 

 元々正式な役職ではない上、称号的な意味合いが強く、何より呼びやすい……その結果、年々そう呼ばれる階級が下がって行き、ついに俺みたいな少佐が提督と名乗れる時代が来たのだ!

 ……名残りと時代の移行は恐ろしいと感じながらも、そんな屁理屈は許されない。一応この若さで提督になるなんて、前代未聞だと思うぜ?俺の同期全員そうだけど。

 なのにこれ以上行けって……シ○アにでもなれって言うのかよ。

 

 俺の爺さんにも一応報告はしたさ。俺を一番提督にさせたがってたの、あのクソジジイだからな。

 しかし「少佐風情が何を提督だのと……将官になってこそ、提督じゃわい!!のぉサヤカちゃん?」「エ、チョ!ムズカシイハナシワーカーラーナーイ〜!」などと電話越しに聞いた瞬間通話を切った。

 まったく……自分より階級が上の孫に威張るクソジジイやら、そんなオールドタイマーと同じ思考回路を持つ眼前のクッキーモンスターやら、クッソ適当な台詞しか吐かないクソビッチババァサヤカ(35)やら……まともな人は居ないのかねこの世の中に!?

 

「もう、そんなこと言っちゃ駄目よ姉さん!宍戸さんも一生懸命頑張ってるんですから、ちゃんとみんなで支えないと……あっ、村雨の、ちょっといいお茶、おかわりしますっ?」

 

「すりゅううううぅぅぅぅぅ!!!」

 

「ふふふっ、了解ですっ」

 

 いや、居たぞここに。しかもとびきり天使の。あれだ、俺の周りにはろくな奴がいない分、バランス悪くこっちに振られてるんだ。

 こんなに腕が細いのに一応軍人で、相応の体力を持ってる上に巨乳なんてアンビリバボーだぞ。

 この要港部でも、村雨ちゃんは皆の心のアイドルであり、人気者である。因み俺も人気者だぞ、男共から。奴らによると、ケツの形が良いのだとか。

 嬉しくねぇよ。

 

 ノーマルには重りにしかならない『同性に好かれる理由』を思い出し、口直しと言わんばかりに村雨ちゃんのお茶を飲む。

 うん、実に美味である。あのお手てで作られた傑作が……しかも村雨ちゃんが手に持つティーポットは、この俺様だけのために作られた、

 

「はいっ、これ時雨姉さんの。甘いものにはお茶は欠かせないものねっ」

 

「ありがとう村雨っ!戦闘でのアシストもうまい上にこの奥ゆかしさ……流石は僕の妹だね!僕達の司令官にはもったいないねホント!」

 

「何だとゴラァ!?村雨ちゃんには俺みたいな出世頭が一番似合うだろうがァ!?」

 

「はい、普段は肩書で男を決める女はクソとか言ってるのに、落とす時はここぞとばかりに自分のステータスをアピールしようするなんて……とんだブーメランスネークだよ!」

 

 ブーメランスネークって、回りくどいって意味なのか?

 確かに一理あるし、俺だけのために作ってくれたとかちょっと思いやがりも良いところだけどさ……司令官の座を手に入れて舞い上がるぐらいは許してほしい。

 

「ハァ……で?僕達とこんな風に話してていいの?書類仕事の方は……」

 

「もう終わらせてあるぞ」

 

「「え、もう!?」」 

 

「とは言っても、整備工作班の報告書と資材在庫、そして経理科の人達のレポートとか、それらがないとまとめられないから今は待ってる事しかできないし」

 

「そ、それにしても相変わらず早いですね……」

 

「惚れた?うん、分かる。村雨ちゃんの次の台詞は『私と言う書類を捌いてくださいっ!』でしょ?あーこれはもう辛抱たまらん」

 

「上層部に訴えようか村雨っ!」

 

「ノーノーダメダメらめらめぇ!」

 

「こ、こほんっ!きょ、今日は新しい艦娘さん達が来るのだから、シャキッとしてくださいっ!」

 

「「……あれ?そうだったっけ?」」

 

「わ、忘れてたんですかぁ!?」

 

 村雨ちゃんが驚くのも無理はない。すぐさま捌き終わってない書類の中を探索して出てきたのが、今日の昼……つまり今着任予定の艦娘達のデータだった。

 一応流れでとぼけてみたけど、時雨はガチで忘れていたらしい。

 

 三人の艦娘が着任するらしく、ある程度他の鎮守府で海戦を経験し、練度もそこそこあると見た。

 彼女たちのプロフィールには経歴、艤装のタイプや艦種の他に、個人情報も書かれており……あ、スリーサイズが載ってない、つっッッかえ。

 

 こんな不純な提督さんを目の前にする事となる……いや、超イケメン提督ことこの俺を目にする事となるラッキーガール達による、恒例のドアを叩きと元気のいい挨拶が扉の向こうから聞こえた。

 

 時雨はほぼ空になってたクッキーボックスを忍者みたいなバク宙を繰り出して勢い良く隠し、村雨ちゃんは粗相の無いようにと俺の光り輝く提督服を直してくれて、自分の服装のチェックも欠かさない。

 初印象が大事だし、最初に迎え入れる事になる艦娘達だからこっちも緊張が走るし、何よりカッコよく見られたい!

 女性にいい印象を与えると何処かのブログで見た、少し声を低くする事と、常にクールでいる事、そして優しそうな笑顔を常時作ること……よしッ、これで彼女たちの心は奪ったも同然だ。

 大きく息を吸って……入れ。

 

「失礼しますッ!本日、ヒトヨンマルマルより、鴨川要港部へと配属された駆逐艦不知火ですッ!」

 

「同じく、駆逐艦黒潮です!」

 

「同じく、駆逐艦陽炎です!」

 

「私はこの要港部を指揮する、宍戸龍城だ。初めて指揮を行う身として至らない点もあるだろうが、君達の真価を発揮できるよう最善を尽くさせて欲しい。これからよろしく頼む」

 

「「「ハッ!」」」

 

「ブフッ!」

 

 ん?何吹き出してんだ時雨テメェ?何か俺の口調に変な所でもあったのかなァッ?お前が吹き出したせいで三人とも目を見開いてるじゃないか?

 

「し、時雨姉さんっ」

 

「コホンッ……どうかしたのかな時雨くん?」

 

「クハハ!し、司令官の、く、口調が!お、面白くて!!アハハハハ!!」

 

「コホンッ、すまない君達。時雨中尉は統合失調症を患っていてね、急に笑い出す事があるのだよ。君達の先輩だが、暖かい目で見守って上げてくれ」

 

「フンッ!!」

 

「痛ェェェ!!なに気軽に手を上げてんだテメェオラァ!?俺はボクシングサックじゃねぇんだぞ!?」

 

「あーごめんね。僕は病気だから、司令官さんを急に殴らないと気がすまないんだぁ……あ、でも司令官以外には手を上げないから安心してねっ!」

 

「さっきまでクッキーモンスターだったクセによォ!?」

 

「「「ポカーン……」」」

 

「あ、あははっ……こ、これは何時もの事だから大丈夫ですよっ?」

 

 はい時雨のせいで威厳ガタ落ち。司令官として女の子達にだけはいい顔しようと思ったのを神様が許してくれなかったのか?何時もはそんなキャラじゃないのにって?KARMAってのは侮れないな。

 

「……フフッ」

 

「不知火?」

 

「いいえ……面白い司令官ですね」

 

「たしかに、気楽な感じの方が好印象かも……」

 

「え、そう?照れるなぁ〜気さく系頭脳明晰成績優秀スーパーイケメン提督だなんて……君達が良ければ、気さくに話してくれていいんだぜ?」

 

「このように、僕達の司令官は勘違いを直そうともしない系司令官だから、言い寄られないようにとことん避けてあげようね!」

 

「やめろ、自刃するぞ」

 

 え、司令官を辞めるの?と聞いてきた時雨が口で「うるうるっ」と言いながら口に手を添えてきた。その行動が何を意味するかはさておき、そのぶりっ子ポーズはあまり好感持てねぇぞ。

 

「でも良かったわ〜。おっ固い人あんま好かんから、これぐらいが丁度えぇと思うけどっ」

 

「そこまで言うんだったら俺、本気で気さく系イケメン目指してみようかな……フッ」

 

「宍戸……司令官は十分イケメンですよ!村雨が保証しますっ!ぶい!」

 

「あー村雨ちゃんがそうやって甘やかすから俺の心もぶいぶいしちゃうんじゃぁ^〜」

 

 村雨ちゃん……男は女の子の言葉本気で信じちゃうからそうやって甘やかすのは……あ^〜俺赤ちゃんになっちゃう。

 

「では改めて……駆逐艦不知火です、ご指導ご鞭撻、よろしくです」

 

「駆逐艦黒潮や!よろしゅうな!」

 

「やっと会えた!陽炎よ、よろしくねっ!」

 

「改めて、俺はここの司令官様だ!みんなよろしくゥ〜……って、やっと会えたってなに」

 

「え、そう言われるのってロマン感じない!?」

 

「……え、あ、うん」

 

 前世からの恋人で、彼女の方だけ覚えてる的なあれ?今は流行らないと思う。

 

 


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