整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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作戦のあとは

 

 ー執務室。

 

「ふぉおふぁふぃあ、フォフガンヴァッテクレア!ファファファファファ!!」

 

「「「…………」」」

 

「えっとっ、要するに昨日のご活躍へのボーナスを贈りたいらしいんです」

 

「ムアファメジャン、アリファフォウ」

 

「ごめん宍戸司令官、何言ってるか多分誰も分かってない」

 

「クッッッンッ……テメェが俺の顔に甘栗拳し打ち込まなかったら口内が切れる事も無かったんですけどねェ!?お陰で10箇所ぐらい口内炎になりそうだよ!?ただでさえなりやすい体質なのにィ!!!」

 

「わ、悪かったから、ごめんごめん!流石にやり過ぎたとは思うけど、今は普通に喋ってるじゃん!」

 

 昨日、東京湾に接近していた深海棲艦は俺たちの支援の下、確実に殲滅せしめた。その活躍の裏には、自分の上司である筈の俺に『ハリ倒ス』の電報を入れてきた時雨、そしてスクランブル往復アタックをした鈴熊部隊の力もあって、見事に救出、及び勝利を収めた。

 そして帰ってきた時の時雨の顔は言わば般若の擬人化であり、有言実行の下、鈴谷や村雨ちゃん達の前で散々殴られた挙句、俺がエロサイトで買ったモノを公開するなどと、末代までの辱めを受けた。

 

 部下へ無理難題を押し付けるとこうなる、と言ういい見本だった。色々頑張ってくれたみんなにはボーナスも弾まなきゃいけないのだが……生憎、すぐに支給できるほどの権力はない。

 精々、俺の自腹で現金を渡すのが限界……なのだが、これは賄賂行為でありれっきとした犯罪なのでパス。

 

 以上を持ち、日頃のお礼も含めて、行けるときに和菓子セットとか簡単なプレゼント等を買う事を約束するのと、昨日のお礼を言うために今日執務室に馳せ参じさせたのだ。

 

「以上だ、静聴ありがとう」

 

「ご厚意ありがたく思います!お兄さん!」

 

「「…………」」

 

「あ、あの、鈴熊さん方?」

 

「「ふんッ!」」

 

 顔を背けるのも無理はない……時雨は肉弾正5(¥6980)の電子レシートを見せたとき、過去にも同じシリーズを買っている事を鈴熊に暴露し、更にはホームページまで行ってこのゲームの事を隅から隅まで教え込んで、俺はその魔乳女が目的で買ってるんだと間違った解釈で伝えた為、ちょっと怒られているんだ。

 

「なぁ機嫌治してェィ?俺、なんでもするぞ」

 

「「「司令官がなんでもすると聞いて」」」

 

「やぁ、我らのゲイ達じゃないか。次ノックなしで来たら銃殺刑にするぞ」

 

「「「ウィース!」」」

 

 出ていった。

 早きこと、島風の如くとは正にこのことである。あぁ言ったら出てくのか……今度からそうしよう。

 

「おっぱい魔神になんでもするとか言われたくないっ」

 

「だからそう言うなって!って言うか俺、女性はおっぱいより、中身を見る方だからさ」

 

「す、鈴谷はまだおっぱい出ないもん!!こ、この変態!」

 

「これは事案ですわね、所属の憲兵に連絡を」

 

「ラジャー」

 

「ラジャー、じゃなくてネガティブだろうガァ!!時雨まで乗ルナァ!つーか鈴谷、お前中身って言って普通おチチの事考えるかよッ!?恥を知れェ!!」

 

「いや、話の流れからしてそうでしょ!?」

 

「これは事案ですわね、憲兵に連絡を」

 

「Roger」

 

 なんていい発音なんだ……あ、そういえばこの前二等兵ライアン見てたんだっけ?

 しっかし、何を言ってもループとはたまげたなぁ……肉弾正の初代は致命的なバグの宝庫だっていうから買ってみて試したのに。あと、歴史の知識も入れるためにな。

 え、信○の野望でもやれって?最新作はバグの宝庫だったし値段がクソ高かったからペケで。

 

「鈴熊、俺はただ日本の歴史を知るために買っただけなんだ。ゲームで歴史を知る……いい事じゃないか」

 

「ん?宍戸くんの言ってる歴史ってこれ?」

 

 

『はぁぁ〜ん!拙者イクでござる!ヒデヨシの蕾が鶴翼の陣形でイクでござるぅぅぅ!』

 

『あぁぁあんっ!こ、この武田シンゲンの風林火山でも、貴様の槍術には叶わないのかぁ……っ!』

 

『ぶってぇぇ!!お家再興とかぁ!どうでもいいからぁっ!シカノスケのいやらしいお尻に七難八苦してぇぇぇぇっ!!!』

 

 

「「「…………」」」

 

「うん、これ、違うんだぁっ。君たちが見てるこれはね?ゆ・め、なんだよっ?」

 

 いや違うだろ。

 村雨ちゃんや春雨ちゃんまでジト目で見てるんだけど……あ、そうか、セーブデータから見てるから、このハーレムエンドまでプレイしたってみんなに分からせちゃったんだな。

 そしてこの空気。まるで会社の課長に就任した上司が、当日話している途中にみんなの前でズボンがずり落ちて、履いてたパンツが女性物の熊さんパンツだった時みたいなリアクションと顔だ。

 

 あーあ、俺死んだな。日頃の行いっつーかなんつーか……あーあ、もう切腹しようかなぁ。

 

「あれ、それって結城くんに買えってせがまれたやつでしょ?」

 

「「「へっ?」」」

 

「あ、あなたは……!」

 

 談義中の執務室、閉じられていたドアは開き、突然と声を上げたショートヘア美少女……その名を、

 

「白露さん!?」

 

「そうだよ!それにしても宍戸くんも優しいね〜!お付き合いとは言え、結城くんが勧めたゲームをやらなくちゃいけないんだもんね〜うんうん」

 

「え、そうだったの宍戸っち?」

 

「あ、あぁ!そうそうそうなんだよ!結城の趣味に付き合ってやれるのって、俺だけだしさ……」

 

「そ、そうでしたの……申し訳ありませんわ」

 

「かっこ悪いけどカッコイイですよっ!」

 

「チッ……パソコンのパスワードクラックしてまでやったのに……」

 

「いやぁ〜あっはっは!時雨は減俸な」

 

「ヤメテヤメテ」

 

 突然ながら出てきた白露さんの唐突かつ完璧なアシストのお陰で難を逃れることができた。

 白露さんありがとう……この人にはお菓子を買ってあげないと。そっと白露さんに近づいて、

 

「白露さん、ありがとうございます」

 

「貸し一つだねっ!ひっひっひ〜!」

 

 はははっ……まったく、白露さんには敵わねぇわ……はっはっはっはっ!

 

「じゃなくて何でここにいるんですかァ!?」

 

「え、姉さんなんできてんの!?宍戸くんどういう事なの!?」

 

「知らねぇから聞いてんだろうがァ!あ、でもこういう資料って村雨ちゃんがいつも管理してたような……?」

 

「ご、ごめんなさい、白露姉さんがサプライズにしたいって言って……」

 

「姉さんに口止めされたの?」

 

「そうなのよ春雨……」

 

「ネーサン……って事は、シグシグのお姉さんって事!?わぁお!」

 

「初めましてですわっ」

 

「はっじめましてー!あたしは白露!この三人のお姉さんだよっ!よっろしくー!」

 

 なるほど、それなら全部合点がいく。

 村雨ちゃんに資料を渡され、その中身を確認する。えーっとなるほどなるほど。

 現役の中で海戦を行った回数はかなり多い艦娘であり、無茶な作戦も引き受けようとする所もあるが、それに見合った技術を備えている事もまた事実である。バイオエレクトロニクス部門で最先端の義手と義足を試験者でもあり、

 

「……なるほど、じゃあ足と手の具合はもう大丈夫なんですね!」

 

「うん!まだ数回ぐらい東京の病院に帰らなきゃいけないのと、こっちの軍医さんに定期的な報告入れなきゃいけないのぐらいかな〜?あとはみんなと同じように前線に出せるから、気兼ねなくね〜!」

 

「「「おおおぉ!!」」」

 

 時雨姉妹達と一緒の服を着ている白露さんの肌はある程度露出している。故に腕や脚が見える状態なのだが、右の手足には皮膚みたいなのがついていて、人間のモノ殆ど区別が付かないほど綺麗になってた。動きも完璧だ。

 鈴熊は首を傾げているけど、白露さんの手足は義手であり、あれだけ動けるなんて凄い。まぁ、いきなり前線投入とか俺はそんな鬼畜じゃないから、訓練演習に集中させよう。

 

 さてと、白露さんのプロフィールの下に、あと四人分の紙が見える。あれ?この娘達は明日着任予定なのか?

 あ、よく見たら白露さんも同じ日に着任する予定らしい。

 

「白露さん、着任予定日って明日じゃないですか」

 

「え、そうなの?あははっ!まぁいいじゃんいいじゃん!それに予定日より前に来るなんて当たり前だし!ほら、十分前行動みたいな?」

 

「姉さんそれだと一日前行動だよ。あ、でも良かったぁ……腕に皮膚が付てるから姉さんじゃないと思ったよ……」

 

「そうでしょそうでしょ!?時雨も凄いと思うよねこれ!まぁ偽物だったとしても、お姉さんが発するスゥィ〜トボデェィ〜の色気で、すぐにお姉ちゃんだって分かっちゃうかっ!」

 

「うん!10分と一日の区別もできないお姉ちゃんなんて、世界でたった一人だからね!昔から算数の授業は、今姉さんがしてるセクシーポーズみたいに壊滅だったもんねっ!」

 

「みんなそっちの二人のことお願〜い」

 

「「…………」」

 

 白露さんがコキコキ手を鳴らしながら時雨に近づく行為は、最早姉妹間の恒例行事である。

 白露さんの言葉を察した春雨ちゃんと村雨ちゃんは、なにがなんだか分からない鈴熊を壁まで寄せ、俺もテーブルの後ろにある壁まで下がる。

 

「え、あ、その、ご、ごめんなさーー」

 

「お姉ちゃんシャープシューターッ!」

 

「ぎゃあああああああああ!!!助けてぇぇぇぇ!!!」

 

 おぉ!一応スカートだけど、鉄壁が故に見えない!すげー痛そうだなぁ!!

 フンッ、この俺の肉弾正で公開処刑なんてするからだ。カルマ、インスタントカルマだ。

 

「た、助けてぇぇぇぇ!!!」

 

「ホラホラ!お姉ちゃんクロスフェイスッ!」

 

「ガアアアガガガアアア!!!た、助けてぇぇ!!」

 

「おぉっとっとっ、逃さないよォ!お姉ちゃんアンクルロック!」

 

「イタイイタイイタイとおおおおおぉぉおおおぉおうおうおうぉう!!!」

 

「ははは!熊野の真似かよォ!」

 

「どおおおおおうおうおう言う事でしてェ!?」

 

「そういう事だよ」

 

 まさか今の叫び方が似てないとは言わせないぞ。

 

「今日は調子がいい!だからとことんやっちゃうからね!」

 

「ま、まだやるの!?や、やめてぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

ーーー

 

 

 

「はぁ〜さっぱりした!やっぱり姉妹のスキンシップは大事だよねっ!」

 

「シクシク……僕もうお嫁にいけない……」

 

「おいおい!肉弾正のヒロイン救出編のバッドエンドみたいになってるぞ!」

 

「フンッ!!!」

 

「痛い!!なんでお前はそんなに食らっても元気なんだァ!?」

 

「じゃないと軍隊なんてやってられないでしょ!?」

 

 なに正論抜かしてんだ腹立たしい。

 

「まぁまぁ!と、いうわけで、です!駆逐艦白露、着任しました!他の四人を差し置いて、いっちばーん乗りぃ!」

 

「よろしくお願いします白露さん」

 

「よっろしく〜!」

 

 ハァ……それにしても、ほぼ身内とは言え、要港部のトップに貸しを作るなんて大したもんだなぁ白露さん。

 鈴谷と熊野とも相性がいいみたいだし、姉妹もいるし、俺も大歓迎なんだけどさ。

 

 みんなが雑談を交わし始めた頃に、黒電話が鳴った。

 

「こちら鴨川要港部の宍戸です」

 

『あの、すいません、今、忙しいですか?』

 

「ん?はい、大丈夫ですけど?」

 

『良かったぁ……いやぁ、とっても私的な事なんですけど、いいですか?』

 

「はい」

 

『実は、今僕の友達が家に遊びに来てて、いま下にいるんです。三人ぐらいです』

 

「はい」

 

『三人とも、実は僕と、その、みんなでベッドを、その……共にするつもり、らしくて』

 

「はい♂」

 

『僕は嫌なんですけど、もし逃げたら追いかけて無理やりして、良さを分からせるとか言ってて』

 

「はい♂」

 

『ど、どうすればいいと思いますか?助けてくれますか?』

 

 そして俺は、ゆっくりと電話を定位置に戻した。

 

「ん、どうしたの宍戸くん?」

 

「いや、お前がお嫁にいけないとか抜かしてた頃、ガチでお婿に行けなくなっちゃう状況を作っちまった、可哀想な男の子からの、TDNメッセージだ」

 

「何言ってんの宍戸くん?」

 

 いや、リアルでこんなコールが来たの初めてだからさ。しかも仕事中にだぞ?

 電話するだけで料金かかる事もあるんだから、態々海軍なんかに電話すんな。それに誰だよホームページに番号公開したの殺すぞ。

 あの可哀想な男の子にできることは、ただ祈るのみだ。十字架をポンポンと書き、お尻への加護を……とか思ってる間にまた電話が鳴った。またかよ、一回切られたら、世間はそんなことで助けてくれないんだって自覚しろ。

 

「鳴ってるよ宍戸っちっ」

 

「あぁ……はい、もしもし」

 

『……上司の声を忘れたか?』

 

「あ、す、すいません蘇我提督!」

 

『ハッハッハ!いやいや冗談だよ。今日は、先日の作成において君の艦隊によって助けられた事にお礼を言いたくてね。それと、すまなかった……たった数隻に手を拱くとは……』

 

「新型の強化深海棲艦、フラッグシップが各艦種いるとなれば話は別でしょう。むしろ、艦隊に大した怪我を負わせずに済んだのが何よりの功績です」

 

『そう言ってくれると助かる。元帥閣下もいい采配だと言っていたよ……あぁ、ところで白露くんの事はーー』

 

「あ、既に着任しています」

 

『おぉ、それは何よりだ。一日前行動とは正にこの事だな』

 

 この人は10分前と一日の違いが分かる人だ……って、そんなこと思ったらニヤけるだろうがァ俺ェ!

 

『白露くんの件なんだが、知っての通り日本が誇るバイオエレクトロニクス部門の最先端であり、まだ試験段階。更なるデータの追求のために、度々研究者達が訪れたり、白露くん自らが出向いたりしなければなら無いことを承知してくれると助かる』

 

「もちろんです。えぇっと、自分がする事は……」

 

『特にないが、できれば彼女の体調などには特に注意してほしい。それさえ良ければ後は同じように艦娘として起用しても良いとの方針だ。とは言っても、今朝海軍省から私に向けて送られた司令なので、今後彼女の取り扱いが変化するかも知れないけれどな』

 

 え、なんで俺には送ってこないんですか?とか思ったけど、海軍の極秘事項とかも含まれるかもだから、相当階級の高い人じゃないと渡せない的な?

 白露さんを扱う事が恐ろしくなってきた。

 

『因みに彼女の腕の事は他言無用で頼む。何と言っても、極秘事項だからね。何かあったらまた連絡を入れるよ』

 

「了解です、ありがとうございました」

 

 極秘事項か……危うく鈴熊に話す所だった。

 身内だけの秘密みたいでいいかも知れない。まぁもし知られでもしたら、見たことのない新技術に目を光らせる、整備工作班の班長さんが黙っていないかも知れないしな。

 

 

 

『……ふぇ、ふぇ、ふぇっくしゅん!!』

 

『ど、どうしたんですか夕張さん!?そ、そんな……ふぁ、ふぁっくゆーだなんて……ひ、卑猥すぎます!あ、綾波、じ、女性同士はちょっと……』

 

『言ってないからァ!!』

 

『そのネタ、前に一回ゲイ三人衆さんの前で言ったら、俺の貞操がガチでヤバイ所までイキそうなって……』

 

『あ、あははっ、あなたも苦労してるのね月魔……』

 

『ははは!これぐらい、司令官のような真の漢になるためだったら、乗り越えて見せます!……あ、ちょっと失礼』

 

『携帯?今日はあまり仕事は無いけれど、一応任務中だから程々にしておきなさいね』

 

『了解です!あ、これ弟からです、なになに……ん?ダチに ガチで ホラれる ヤバイ オレ タスケっどさぉえええええええ……なんだこのメール?』

 

『お、男同士の愛の確かめ合いですかぁ!?わあぁぁぁいっ!』

 

『いや綾波さん、流石にそれはないと思うんですけど……』

 

 

 

「さてと……今日の執務は終わってるし、明日来るカワイコちゃんのために身だしなみでも整えようかなっと……」

 

「あぁ、なんか陽炎のときは無駄に格好つけようとして失敗したやつね」

 

「あぁ、お前がいなかったらクールハンサム司令官として最高の印象植え付けられたのによぉ!?」

 

「でもフランクな提督は凄く好評でしたけど……」

 

「うん……でも分からないじゃん。陽炎たちは違うとは思うけど、普通だったら心の中で『どうせ運とお金とコネでのし上がってチョーシ乗ってるんでしょ?まぁでも、お金の匂いが寄ってきたら股開くわ』とか思うのが常識なんだよ」

 

「カゲローたちに失礼だしそれ!」

 

「宍戸くんの中の常識歪みすぎ……」

 

「だから陽炎たちは違うっつってんだろォ!?少なくてもダチがそういう被害にあってんだよォ!」

 

『失礼します。着任予定の者ですが、入ってもよろしいでしょうか?』

 

「「「えっ!?」」」

 

 ……君たちも一日前行動ッスか?

 

 


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