整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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密談は学校の屋上にて

 

 ー海軍兵学校。

 

 レンガ色、黒、そして白のコントラストという、ドット絵のポケモン一体に使われる色の数より少ない配色で覆われる、東京の『海軍兵学校』。

 一見すると出撃所のないクソでかい鎮守府のようなスタイルだ。何を隠そう、これは海軍大学校よりも大きく、ここだけで最早一つの国って思えるぐらい何でも揃ってる……娯楽以外。

 

 俺の遠い後輩に当たる学生達や教官、更には艦娘と思わしき女性たちが歩き回っており、窓の中には教育を受けているムサ苦しい男達の姿があった。あれは整備工作班で習った建築の授業かな?

 俺を通り過ぎ際に見る人たちが多い……提督服はそんなに目立つもんなのか?俺が学生の時は校長とか、或いは訪問してきた現役提督しか着てなかったけど……あ、じゃあ目立つわこれ。

 

 このいつ見ても美しいフォルムと偉大さを感じさせてくれる建物……何を隠そう、俺が通っていた兵学校である。その証拠に、あそこの芝生には特殊な構造で作られている穴がある。

 コツコツと短い時間と巧みなスニーキングスキルを駆使し、プリペイドカード、そして持ち込み禁止のスマホ、卒業前にはパソコンなどを用意し、D○Mサイトに行って3Dのエロを検索、購入、そして『実施』した記憶はまだ新鮮に残ってる。

 同期は運が悪かったらオバタリアンが写った雑誌を貰うことになる一方、俺はネットと言う技術を使う事が出来た。その背徳感から、実施が捗る捗る、フフフッ。

 

「ねぇねぇ宍戸っち、なんでシバフ掻いてるの?」

 

「いやさ、俺ってここのOBなんだよ。ここにタイムカプセルを埋めといたはずなんだけど……あぁ、やっぱり埋められてるわ」

 

「え、取っちゃったの?ヒドーイ!残してくれても良かったのにっ」

 

 思い出と言うなのタイムカプセルは、既に取り出したからな。

 

「じゃあさじゃあさ!ナニ入れてたの?鈴谷知りたいっ!」

 

「え?あ〜ん〜と〜……未来の俺へのメッセージを書いたんだ。俺は前を向いて生きる漢だけど、前を見詰め過ぎて昔を忘れないようにする為に……な」

 

「そうなんだ……あれ?でもそれってただ日記に書くだけでも良くない?わざわざここに隠すヒツヨウセイ?はないと思うんだけど」

 

「い、いいんだよォ!思い出が日本中に転がってるとかカッコイイだろうがァ!」

 

「あ、あははっ、そうだね」

 

 はい見事なまでの失笑。

 これだからロマンを知らないヤツはァ……あれ?もう穴が塞がれてると思ったら、その裏に何か埋められてる……なんだろ?タイムカプセルはでっち上げなんだけど。

 

「ん?なにこれ?まさかタイムカプセル!?」

 

「いや、明らかに俺のじゃないんだけど……」

 

「なーんだ」

 

 と言いつつ肩に頭を乗せて覗き込んでくる鈴谷、そしてのしかかって来るオッパイ。

 平常心を保ちつつ、配色が明らかに違う物を引っ張り出して見ると、中からは折りたたまれた紙が出てきた。

 丁寧に入れたのか、土塗れになっているもののグチャグチャにはなっておらず、辛うじて開けて読むことができる。

 

 えぇっと、どれどれ。

 

 高城亮太、統率67、武勇56、知略78、政治87。

 近衛竜也、統率87、武勇89、知略40、政治54。

 御手洗健二、統率65、武勇27、知略5、政治8。

 田中晃司(俺)、統率88、武勇79、知略83、政治84。

 

 

 

「……宍戸っち、なにこれ?」

 

「っ、まぁ、なんていうの?その……うん……」

 

「ねぇねぇなにこれ宍戸っち!何かの暗号!?」

 

「えぇっとね、あの、その……うん、ゲームの暗号、みたいな?」

 

「へぇ〜」

 

 ……とりあえず、これを書いた晃司とやらは健二くんから殴られるべきだ。あと自分に対するステータスに『謙遜』って言葉を感じないのが腹立つ。

 罰として、埋め直さずに包めてその辺にポイしておこう。

 

「そんな事より早く行こーよ!鈴谷さっさと面倒くさいコト終わらせて帰りたい〜!」

 

「分かった分かった!分かったからァ!腕にしがみつくなァ!」

 

「こ、これぐらいいいでしょ!そ、その……な、ナンパとかされるの、コワいし……」

 

 俺はそんな事より提督が艦娘と不純異性交遊しているって思われる方がコワイんだけど。あ、でも学生じゃないからいいのか。

 

 あまり乗り気じゃなかった鈴谷を兵学校に連れてきた理由は、日本が誇る最新鋭の攻撃型軽空母である鈴谷に、現在活動中の艦娘として講話……と言うなの検体模型役として、学生達に見せる為だ。

 実際にどんな風に艤装を付けているか、どうやって戦うか、航空巡洋艦の艤装と比べて扱いやすさや使用者からの要望、アドバイスなどをクラス毎に話さなきゃいけない。その間に研究者達からの定期検診も受けるなど、鈴谷にとっては面倒くさい一日だろう。

 

 だけど我慢してほしい。上層部が鈴谷の戦歴が攻撃型軽空母の中で日本一凄いって言うからさ、まぁ断れないよね。因みに二番目は熊野である。それ以降のランキングはない、つまり彼女達が日本でたった二人しかいない攻撃型軽空母なんだ。

 前には同僚に「おい、お前羨ましいぞ!攻撃型軽空母の二人ぶんどってるとかよォ!?」と言われたので「じゃあそっちに居る航空戦艦とトレードとかどうッスかァ!?」って返事したら電話を切られた。架空請求業者並のスピードで切るもんだから、どうしたのかと思ったぞ。

 

「うぅ〜……なんかジロジロ見られてるんですけどぉ……宍戸っち、ナニか知らない?」

 

「お前がそのデカパイ押し付けながら腕組んでるからだろうがァ!普通の学校でもそんな事して堂々と廊下歩いてたら注目も浴びルゥァ!」

 

「だ、だって講話とか初めてだし!き、緊張するんだもんっ!そ、それにで、デカパ……き、キモッ!むぅ〜!」

 

 と言いつつ腕を組む力が強まってる。眉毛をハの字にして、口をプクッと膨らませながら上目遣いとか……犯されてぇのかァ!?

 

 こんなやり取りをしている故に、当然通り過ぎる度に注目を浴びながら目的地である教室に到着する。

 中には俺の前職である整備工作兵となるべき優秀な人材がコロコロいる。教えている教官さんもこっちに気づいたみたいだし、俺は鈴谷を剥がす。

 

「じゃあ俺は行くところがあるから」

 

「え、ちょ、一緒に来てくれないの!?」

 

「え、だって俺は元々別に用事があるから途中まで来ただけで、授業参観に来たわけじゃないぞ?」

 

「で、でもぉ……」

 

「大丈夫、鈴谷ならチョチョイってやれる、少しは俺を信じろよ」

 

「わかった……じゃあ行ってくるね?」

 

 鈴谷は教室内に入り、俺は外からその勇姿を見守る。教官に手を振り、それを敬礼で返してくれた所でもう俺は行ってもいいのだが、鈴谷がどういう感じで授業に貢献するのか見たい。

 若干導入までが長いが、ようやく鈴谷を紹介してくれる様だ。

 

『そしてこちらが鴨川要港部から来てくれた、攻撃型軽空母の鈴谷さんだ』

 

『す、鈴谷です、よろしくお願いします』

 

『『『よろしくお願いしますッ!!』』』

 

 おぉ!鈴谷が入るまでは死んだ魚みたいな顔をしていた学生くん達は、鈴谷が話した途端この代わりよう!

 もう彼らを見ているだけで分かる。攻撃型軽空母のなんたるかより、鈴谷さんのスリーサイズを教えて下さい!って聞きたいんだろ?そしてそのエロい数字を耳にして、主砲を実施したいんだろ?

 分かってる、だが百年早い帰って勉強して寝ろ猿ども。

 

 

 

 ー屋上。

 

「おぉ、やっと来てくれたか宍戸少佐!待ちわびてたぞ!」

 

「遅くなってすいません蘇我少将」

 

「مرحبا! كيف حالك؟」

 

 鈴谷が士官達に視姦されている間、俺は自分の目的を果たすため屋上に来る。蘇我提督は屋上に作られている小さなスペース、そして僅かな場所取りを使って作られた不格好ながらも丈夫そうなベンチに座っていた。

 

 俺が呼び出されたのは他でもない、あの小規模ながらも日本軍と国に大打撃を与えた襲撃事件。大臣達が死亡、及び行方不明となっている現状……そして消えた元帥閣下。

 こう言う事は面と向かって話す主義を持つ少将は、どうしても俺に話しておきたかったらしい。俺が特別……と言うのもあるだろうが、結城みたいな提督や馴染み深い軍人にも機会があれば話すつもりらしい。こと細かなコミュニケーションが人間関係の円滑さ維持に影響してるって、それ一番言われてるから。

 

「すまないね……流石にこれほどの事件ともなると、私でも子供のように動揺してしまうのだよ」

 

「少将が子供です、か……ならば他はさしずめ、赤ん坊と言うところですか。いや実に的を射抜いています、親がいなければ泣くばかりで」

 

「أنت محق! هاهاها!」

 

 落ち着きのない連中はこう言うニュースが来れば騒ぐこと以外しないのは、それしかできないからだと言うが、それなら赤ん坊と変わりない。少将もそれを理解してくれて笑っている。

 

「ハハハ、まぁ私もこの事件の精算に貢献しているわけじゃないんだがな。しかし、一週間以上経っている今でも行方不明の大臣の真相は分からず終い、か……内閣だけならばともかく、海軍大臣と連合艦隊司令長官であった元帥閣下の行方が分からないともなると、我らにも多少痛手を感じるがな……ふぅ〜」

 

「元帥閣下の不在……つまみ食いをやらかし、叱られ逃げている。それぐらいに簡単なシナリオであれば、苦労もヘッタクレもないんですが」

 

「الجلوس رجل! تفعل بعض الشيشة!」

 

「あのちょっとイイっすか?」

 

「なんだ?」

 

「あの、なんていうか、こちらのとっても御立派なターバンをお持ちになられている方々は……」

 

「あぁ、彼はサウジアラビアから来られた少将殿とその補佐官殿だ。君も大学校で面識があるとは思うが……」

 

 思い……出した……!

 

 どう考えても日本語に聞こえない言葉で日本人(主に俺)に話しかけまくってたターバンヘッドか。アラビア語を専攻してるヤツ居ないのかよ!?と愚痴を吐いたのはいい思い出だ。

 

 そして俺の視線には、三人が口に咥えているホースみたい物体に行く。

 

「…………」

 

「……ん?あぁこれか。これはシーシャと言うらしくてな、アラビア発祥のタバコらしいんだ。中々なモノだなこれは……あ、古鷹と加古には黙っていてくれると助かる。例え交友であってもうるさいからな」

 

 そりゃそうだろ。

 でも古鷹みたいな娘が居たら「もう、パパったらぁ!」みたいな感じで叱られたい。そして最終的に、身体を心配しての事だと言いながら抱きつかれたら最高。

 

 この少将がここにいる理由は兵学校の視察だ。あそこはアラビア圏の中でも屈指の海面積を誇るから、日本とも海軍関係で強い国交を続けている。学校を視察って事は、彼は教育部門の関係者かな?

 どちらにしろ偉い人だ、腰を低くして歓迎しよう。アメリカ風に言うと、あの超絶軍事独裁王国から来た頭がボンバーマンになってるディックヘッド?ハハッ!国に強制送還してやるッ!

 

 しっかし凄いベリー臭だな……甘さを持つ煙が辺りを散乱し、非常に香り高く、逆に気持ち悪い。タバコとか言ってたけど、タバコのクソみたいな匂いとは違うので俺でも耐えられる。

 

「HAHAHA!アナタモドウ?」

 

「え、あーその……自分は、仏陀シントーイストなので、喫煙ができません」

 

「エ、ソウナノ?」

 

「え?あ、あぁはいそうなんですよ!彼の宗派では特に喫煙にはうるさいようでして……それに彼は忙しいので、ゆっくりと話す時間はないでしょう」

 

「オォー、ザンネンザンネン!」

 

 (※神道自体が喫煙を禁じていると言う記事はありません)

 

 あと喋れンだったら日本語話せ。

 

「話が逸れたな、本題に戻そう。君は元帥の失踪について何かわかっている事はあるかい?」

 

「え、な、な、な、ななああああなぜ自分にそのような事をお聞きにッ!?じ、じじ自分が何かをしたとおおおぉぉぉうおうおう!?」

 

「熊野くんか君は……それにその動揺ぶりだと、それこそ怪しまれるぞ。もっと堂々と構えていてくれたまえ」

 

「そうですよねすいません……」

 

「いや、別に君を怪しんでいるわけじゃないんだがな。ただ元帥閣下にお会いになった君だったら、事件が起こる前の彼の様子を知っているんじゃないかと思ってな。何か、変わった様子はなかったかな?意味深な発言をしていたとか、体調が優れなかったとか」

 

「いや、特には……」

 

「そうか……」

 

「本当にそれだけの為に俺を?」

 

「……まぁそうなんだが、私達の鎮守府で、もう一つ気がかりな事があってな」

 

「と、言うと?」

 

 

 

「第一鎮守府所属の艦娘達が居ないんだ」

 


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