整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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未来見すぎ

 

 

 いきなり何言ってんだコイツ?

 5歳児でも分かるように説明しろ。

 

「よろしければご説明いただけませんか?」

 

「君も知っている通り、海軍内部には派閥がある」

 

「……あの二つの派閥ですか」

 

「そう、革新派と保守派だ」

 

 革新派を簡単に説明すると、ブルネイ鎮守府でやったようにもっと海外へと進出して、もっと強い日本を実現しよう!との事らしい。要はマイルドな過激派海軍将校団ってことか(オクシモロン)。

 国際的な政治力に乏しく、今や海軍と艦娘技術と言う優れた材料があるにも関わらずその優位性を活かさないのに苛立ちを見せている将校も確かにいる。立身出世を望む部下や、各方面の提督達もそんな事を口走ってたのを目にしたので少なくても傾向があるのは間違いない。

 

 保守派は日本国土を第一に考えて要港を作り、国の守りを固めようと言う思想から、革新派とは相反している。弱腰志向などと蔑称される事もあるらしい。

 

「保守派を象徴するのは荒木大将だ。彼が作った日本の要港部は、今や港町を復活させる勢いで好評を受けているのは知っているね」

 

「はい、自分が指揮する鴨川も好調ですし、何より魚の物価が下がったのは嬉しいですね」

 

「ハハハ、私も寿司は好きだよ」

 

 俺は機会がないからあまり食えないけど。

 

 この二つの派閥。

 今まであまり話題に出なかった理由を上げると、道行く将校たちはみんな「荒木大将派」と「斎藤中将派」という二つに区切っていたからだ。

 俺はてっきり、上級将校のオッサンをアイドル化するのが流行ってんのかと思って見過ごしたが、まさか保守派と革新派なんて派閥に別れて存在してるとはね。

 

 いや、実は全く知らなかったッス。つい雰囲気出して「なるほど」とか言ったけど、まさかそんな昔の日本軍みたな思想があったとは。

 あんなの数ある話題や持っている思想のトークに過ぎないし、そこの裏に組織の企みがあるとしたら、何かカッコイイ(中二感)。

 

 ……ん、待てよ?

 

「大将派と中将派を、現在中将閣下が仰った保守革新と言い換えると……中将が革新派って事ですか?」

 

「そういう事だね」

 

 ワァオ、びっくり!派閥の元凶が今目の前にいるぞ!捕まえてとっちめなきゃ、そんな使命感が脳を過る。

 

「しかし私は派閥のどちらにも存在し得る、というのが本心でね。私がもっとも懸念している教育を変えると言う点では合致しているからね」

 

「教育、ですか……」

 

「あぁ。競争は推奨しても、私はそんなことの為に戦争を事を起こしてほしくはないのだよ」

 

「では派閥など存在しないのでは?各々が考えるより良き日本の方向性を除き」

 

「私がイヤでも勝手に推してくるのだよ、主に部下たちが」

 

 いやどういう事だよ?抑えられないのか。

 

「では何故中将がそのように別れた派閥の首領たる大将となったのですか?」

 

「それはだね、数十年……いや十数年前だったかな?私の著書『日本の可能性』というのがあってね、日本のあるべき姿と、日本は更に強国になれる!と言う論点を書いたいかにも愛国心燻る物なのだが……」

 

 中将によれば、本が今では読みやすく再出版され、それが今では革新派のバイブル的な存在になっている。

 

 発売から何年かは全く売られてなかったのに、突然爆発的に売られるようになって、印税の量に驚愕したと個人的な話も聞けた。

 本には、経済的な豊かさを得るためにはどうすればいいのか、今の教育をどう正せばいいのか、行動を起こすのに躊躇うなーーと、人生教訓のような事まで書いてあり、好評を受けるのは必須だと感じる。そんな事できるんだったら政治家に転身しろと思ったのは言うまでもない。

 

 そしてこの御方は冗談抜きで全ての。元凶であると言わざるを得ない。過激派が膨張した理由をこの人、一人の責任にしたくはないけど、首位に立っているんだからせめて抑える努力はしろと言いたい。それが叶わないから俺にこの事を話しているんだろうけど。提督へと推薦してくれた恩もあるわけだし、尚更その気持ちが強い。

 まだ目に見えない未来に、もしも革新派と保守派が衝突する場面があったら、俺は斎藤中将側だろうな。他の提督達もそうだろう。

 もしも仮に中将がその衝突を止めるつもりがなく、すべて中将の計算だったら、底が計り知れない。

 

 バイブルはは爆発的に売れたのも束の間、名前を隠していたにも関わらず彼の著書だとバレてしまう。内閣の政府見解に反するとの事で、辞任も覚悟したのだが、

 

「しかし、一部の海軍将校が猛反発してくれたお陰で、現在私はこうして君と話す事ができるんだ……日本海軍の中将としてね」

 

 カリスマ性だけで勝手に付いてくるものが多く、その人たちが強き日本と強きリーダーをテーマにはやし立てている。つまり中将は実際には威厳であり、実質的な動きは他の人間たちが勝手にやっている……と言う事なんだろうか?

 生憎、中将も何処で誰がこの布教活動にも思える行為を始めたのかは定かではないそうだ。この本が俺の家にあったら、即刻便所紙にしてその上で薄い本を読む。これが現代日本が誇る若者のライフスタイルであり、これが普通だ。

 それをさぁ、良くもまぁそんなに感化されたもんだなぁ?元気すぎるのも困り物だと思うんだけど?

 

 今や並のエンターテイメントのレベルが上がりつつある時代、娯楽に飢える人心を突き動かすのは一風変わった革新的な物だ。それはホモビデオ然り、電車のキチガイシリーズ然り、拳で語る二重一砕(カッコイイ)然り。

 エンターテイメント気分で国の方針を変えようとするのはどうかと思うが、どちらに転んでも日本の安泰は多分約束されるだろう……内戦でも起こらなきゃ。

 

 まだ派閥争いが始まったわけじゃないが、彼の思想に感化された海軍将校は良かれ悪かれ日本のために、斎藤中将を大将にして元帥の称号を陛下から賜り、軍令部総長……そして最終的には海軍大臣の座を同時に取らせる事が目的なんだそうだ。

 特に今、陸海大臣達や総理が空席になってる今なら絶好のチャンスであり、海軍首脳会議、そして海軍将官会議にて陛下へ自分達の声を届ける状況も揃ってる。この状況こそが、派閥争いへと発展する引き金になると予知しているらしい。

 流石は中将、多分過去にも醜い争いを経験してるんだろうな……いやぁ、人は見かけによらず知識豊富ッスね!

 

 荒木大将を現職から連合艦隊総司令官に付け、そして海軍大臣の役職と軍令部総長、あわよくば三軍の統合、或いは上位職を作って、権力を集中させたいとのこと。

 

 権力集中は過激派的な思想だと思われがちだけど、俺は賛成だ。日本は昔から権力を分散させて、更には威厳まで別々にしようとする傾向にあるので、予め決まった事はできても新しい事は限定される。なんだよ海軍三長官って、同等の権力持ってるトップが何人いると思ってんだよ。

 

「僭越ながら、中将の説明を聞く限り革新派とやらは、文民統制を否定しているように思えるのですが……」

 

「別にそういうわけではない……と思いたい」

 

 彼の言葉を聞いて思った、この人はガチでただの神輿なんだと。

 それほど裁量のある野心家で、しかも日本の未来を見ているヤツが海軍内に居るのか?居るとしたら今すぐ政治家になってくれ頼む。協力は惜しまないぞ。

 

「これは中将にとっては軍令部総長、海軍大臣はたまた元帥への歩みを期待できる絶好の状況でありますが……」

 

「実際に争いが起きてからでは遅いんだ。もしも争いが起き、敗れるような事になれば、末代までの晒し者となるのは必須なのだよ……それに、争ってまで地位を獲得したいとも思えないしね」

 

「では中将、気がお乗りにならないのであれば、ハッキリと革新派に仰ればいいのでは?」

 

「それはそうなんだが……まぁ、なんというかその……免職を頑張って打ち消してくれた恩もあるので、その、なんだ……強くは言えないのだよ……」

 

「なるほど……うんしょっと」

 

「あ、ちょ、座ってくれ少佐!何故立とうとする!?」

 

 だってさ、要はタネマシンガンみたいに撒かれた火種を拾うの手伝って〜って意味でしょ?あと下手に否定して部下たちから反発受けて免職になるのいやなんでしょ?こっちが嫌だよ。

 それにまだ始まってもいない争いを鎮めるとかどうすればいいんだよ?行き当たりバッタリな日本の政治とは相反して、こっちは未来見すぎだろ。

 

「それに私自身が降りた所で、私の替えはいくらでもいる。そこでまた争いが起きれば、更にややこしくなる」

 

「なるほど……何故自分なのでしょうか?自分より適任者が居るはずですが」

 

「君が色々な提督や将校と繋がりがある事は知っている。行く先々で君の名前を聞くほど、君の人脈は広い。そして思想や国の方針に拘らないからこそ適任だと思ったからだよ」

 

「失礼を承知で聞きますが、荒木大将閣下には……」

 

「好きにやらせておけばいい……と仰られていた」

 

 君たちを信頼している、日本海軍軍人として、未来に目を向ける君たちだからこそ、この背を託せるのだ(もうワシやる事やったし、起きるとも限らないし、どっちに転んでも悪い事は起きないっしょ)。大将閣下のお言葉は丸投げ以外の何者でもない。

 

「そして私直々にスカウトした君だからこそ、話せるんだ」

 

「ク……提督に仕立て上げてくれた恩は感じます。しかし派閥を止めるなど自分だけではどうにも……」

 

「いや、別に特別すごいことをしてほしいってわけではないよ。ただ鴨川要港部の諸君にできるだけ中立でいて貰えばいいだけなんだ。付け加えて他の提督達にも口利きをしてもらえれば、それでいい」

 

 あ、なんだ……別にスパイ的な事をしろってワケじゃないんだ。そんなに簡単だったらやってみいいかも。

 

「君以外にも動いてくれる人はいる。それにもしもうまく行けば、君が望む出世は約束しよう」

 

「そのような事が可能なんですか?」

 

「約束しよう、君は必ず『提督』になれる」

 

「……承知しました。中将閣下のご意向に添えるよう、全力を尽くします。要は争いがあったとしても競争程度に収めればいい話ですので」

 

「そういう事だ。助かるよ」

 

「……一つお聞きしても?」

 

「何かな?」

 

「閣下の懸念は、襲撃事件と元帥閣下の行方によって引き金となったかと思います。しかし、今なお事件の詳細はありません。中将はこの事について、どうお見受けしますか?」

 

「……事実確認は大事だが、起きてしまった事はどうしようもない。私達は、今できる最善を尽くし、待っている事しかできないよ」

 

 中将の言葉には意味深さを感じられた。何かの陰謀臭さを感じつつも、彼の言った通り、俺にもどうする事もできない。

 たとえ知っていたとしても、行動を起こすほどの勇気と努力を惜しむ可能性がある。

 

 しかし、目的ができた。

 今の俺にできる、平穏と日常を守る唯一の行動。俺にもできる、防衛手段。迫り来る乱の、見えるか見えないかぐらいの小さな火種を押し潰す。それが俺を守ってくれるんだったら、やってやろうじゃないか。

 中将がくれた極秘任務を胸に秘め、部屋を退出する。

 

 

 

 ー鴨川要港部、執務室。

 

「そ、そそそれでその派閥争いはッ!?」

 

「大丈夫大丈夫、何もしないから」

 

「っていうか、こんな大事なこと、私なんかに話していいんですかっ……?」

 

 村雨ちゃんが一肌脱いだら、軍の機密事項だろうが背中のホクロの数だろうが、口全開にして漏らすぞ?と本物の口はおちょこ口にしてティーカップに付ける。

 

「だって、クーデター?内戦?バトるの?そんなの起こりっこ無いじゃん。代理の政治家が多方面に反感を買うような事をするとか、海軍派閥が煽ってファイトするような事が起こらない限りはなにもないって」

 

「で、でも……」

 

「もう、心配性だな村雨ちゃんは……よしよし」

 

「あっ……」

 

 驚いた顔で見つめてくる村雨ちゃんの頭を優しく撫でる。頬を赤くしながらも俯きながらはにかみ、モジモジと体を揺らしながら俺の服を細い指で摘んでくる。

 

「……えへへっ」

 

 気持ちよさそうに顔をほこばせ、頭をこちらに預けてくる。とても無防備な体勢で体を寄せてくるので、おっぱいが俺の腹に触れそうだった。

 しょうがないな、と暫く頭を撫でていると、火照っりあがった上目遣いで俺を見つめ直す。

 

「……何やってんの?」

 

「「うわぁ!?」」

 

 オッパイの名残惜しさを感じつつも、時雨が茶々を入れてきたせいで条件反射で離れてしまう。

 

「ほっほ〜やりますなぁ〜うちの提督様は〜ヌフフ!」

 

「い、いやこれはですね白露さん、最近疲れていたみたいだから、俺というマイナスイオンで村雨ちゃんの体を解してあげようと思って……」

 

「……ッ」

 

「春雨、落ち着いて、顔が」

 

「ジャアハルサメモ司令官トジャレアイマス!」

 

「お、おっほ!春雨ちゃん大胆だねェ!ハッハッハァァァあああ痛い痛い痛い!!!」

 

 村雨ちゃんの頭から漂ったシャンプーと同じ物を使っているのは分かるが、春雨ちゃんからまた違った妖艶さを感じる香りが鼻腔を刺激する。その上これほど顔に接近しているとなると、死んでもいい。

 しかし抱きつく力がかなり強い。いやマジで強い。かわいい顔から想像できないほどの強さで抱きしめられているのは、やはりが時雨の妹と言わざるを得ない。

 

「おぉ!これはベアハッグ!私が春雨にいっちばーん!最初に教えたプロレス技ですッ!浮気者にはまだ生ぬるい裁きだと言わざるを得ませんが、解説の時雨さん」

 

「そうですね、とりあえず宍戸選手には私刑よりも、妹を誑かしたので死刑がいいと思います」

 

「では実況の村雨さん!今のご感想は!?」

 

「べ、別に特別なことはなんにもないですってばぁ!っていうか私実況だったんですかぁ!?白露姉さんは何なんですかじゃあ!」

 

「おぉっとォ!そんな事を言っている間にも、春雨選手が次の手に出たぞォ!続いては12番目に教えたクリンチだァ!」

 

 

 

「痛い痛い痛いィィ!!!」

 

「お兄さんお兄さんお兄さんお兄さんお兄さんお兄さんお兄さんお兄さんクンカクンカクンカクンカクンカクンカ……」

 

 痛い痛いしかも何か言ってる怖いィ!!クリンチって相手を止める技だよなぁ!?ほぼ攻撃技なんだけどォ!?

 コアラ抱きで上半身が支配されているせいで前がまともに見えない。代わりに春雨ちゃんの細やかなオッパイが鼻に付く……けど、さっきの村雨ちゃんのに比べたら……痛い痛い痛い!!!何故か強まるゥ!?こんな所を誰かに見られたら、それこそ末代までの恥だぞォ!?

 

「は、春雨ちゃんいい加減降りて……」

 

「嫌です!ぎゅ〜!!」

 

「い、いや、そろそろ降りないと……うあぁ!!」

 

「きゃっ!」

 

 重りにより体制が崩れ、痛たた……と古典的なセリフを言いながら倒れた体を起こす。

 

「お、お兄さん……っ」

 

「は、春雨ちゃん……」

 

 目の前には上向きに倒れている春雨ちゃんと、うつ伏せで倒れていた俺。漢の劣情を掻き毟るような、幼いながらも端正な顔立ちが鼻10センチ間近にあり、何故か顔にほころびがある春雨ちゃん。

 正に今の状況は、無垢な赤ずきんちゃんを襲う、ケモノの本性を見せた狼さん。

 

 横で村雨ちゃんと時雨が笑っているように見えるけど、「……フフフッ」と魔女のように笑うあれは明らかに微笑ましさから来てる笑いじゃない。シグレフィストが来る前に退かなきゃ。

 

「し、失礼します!本日より舞鶴第一鎮守府から、この鴨川鎮守府に着任することとなりました、駆逐艦親潮です!!ど、どうぞよろし……く……?」

 

「「「あ……」」」

 

「し、ししし失礼しましたぁぁぁ!!!」

 

 

 バタン!

 

 は?新しい艦娘来すぎやろ?

 と、冷静にツッコミを入れた所で席に座り、そして新人艦娘『親潮』が帰ってくるまでに、カッコイイ提督を演出するための準備に取り掛かる。

 

 ……カイゼル髭ってあったかな?

 

 


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