整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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艦娘との出会いは同人誌の導入のような

「あ、改めまして……舞鶴第一鎮守府から来ました、駆逐艦親潮、です……」

 

「ほっほっほぉ……よく来てくれたのぉ……ワシが、この要港部の司令官じゃよぉ……おっほっほー……」

 

「なにお爺さん気取ってんの実年齢バレバレだよォ!」

 

「グアァッ!オイ時雨ェそれ返せェ!!俺の大事なカイゼル髭だぞォ!!」

 

「「「…………」」」

 

 春雨ちゃんを押し倒してしまった自分の行いを恥、心の底で眠る清き魂と右引きの左脳をフル稼働させ『この世で最も性欲からかけ離れ、心の清らかさを持った人物像』を求めた結果、古典的一般提督老爺が脳裏を過る。

 映画でよく見る好々爺系提督風にすれば、この親潮ちゃんも「あーこの人は悪い人じゃないー」で済ませてくれる筈……だったのだが、その野望はいとも容易く深海の底へと沈んでいく。

 

 顕わになった俺の醜い素顔を見て、親潮はもちろん、白露姉妹までもがジト目を向けてくる。

 しかし親潮に限っては、出口のドアに触れてるぐらい俺から距離を離してるので、声が聞き取りづらい。

 

「挨拶するんだったらちゃんと挨拶!ほらっ、やり直して!」

 

「わ、分かったよシグレママァ……」

 

「ッ」

 

「あ、ヤメロ暴力反対ィ!!……えぇコホンッ、俺がここの司令官だ。よろしくな」

 

「……ハっ」

 

「おりょォ?警戒されちゃってりュゥ?いやいや大丈夫だから。俺、信じられないぐらい天使だから、ほぉ〜ら!うふふ〜うふふ〜」

 

「オロロロロロロ!」

 

 そのゲロジェスチャーやめろ。

 

「い、いいえ大丈夫です!司令の趣味は、この親潮には関係ありませんので!」

 

 再度敬礼し、更に一歩後ろへ後退する親潮の顔は、警戒心レベルがMAXまで達したと言ってるようなものである。

 確かに不純な行為だったかもしれない。でも当の春雨ちゃんの優しさもあり、通報されてないでしょ?俺は女の子に手を出すような性欲魔人セイヨークじゃないし、部下にも寛大すぎるぐらいの優しさで迫ってるぞ?

 

 ほら、あそこで歩いてる憲兵さんだって本当は門前にいるはずなのに、何か艦娘と話してるじゃん。それをお咎め無しにしようとしているオレKAKKEEEE。

 あれ、艦娘側が何か渡してる?ラブレターか?もしかして不純異性交友か?ん?んッ?

 規律を破る奴は厳重注意からの全裸で町内一周させるぞ(※そのような規則は存在しません)。

 

「えーコホンッ、これは真面目に聞きたいんだけどさ、着任って本当に鴨川で合ってる?」

 

「ど、どういうことでしょうか?」

 

「ここの資料には君のプロフィールもないし、新しく着任する艦娘がいるなんて大本営からも聞いてないし……ま、まさか、また俺だけが知らされてないとか!?提督なのに!?」

 

「い、いいえいいえ!こちらにも資料は届いていません!」

 

「じゃあなんで……」

 

 敬礼を解かない親潮と顎に指を当てる俺達が考えている中、執務室に電話の騒音が鳴り響く。なんだよこんな時に?

 

「はいこちら鴨川要港部の宍戸です」

 

『私は舞鶴第一鎮守府の斎藤という者なのだが』

 

「か、閣下!」

 

 急に立ち上がった俺にびっくりしたのか、みんな目を丸くする。かく言う俺も、目を見開きながら危うく敬礼しそうだった。日本人特有のお辞儀しながら電話するヤツ、これ何度やっても改善しないよね。

 

『もう親潮くんが着いている頃だと思ってね、今は大丈夫かな?』

 

「はいもちろん!……って、え?」

 

『秘書艦経験の豊富な艦娘でね、何かと役に立ってくれると思うよ』

 

「あ、ありがとうございます!」

 

『それで、状況の方はどうだい?何か掴めたかな?』

 

「今のところは何も」

 

 何もしてないし。

 中将は俺に誰がどの派閥に、或いはどっち寄りなのかを調べてほしいって言ってるんだが、そんなの一朝一夕で分かるわけねぇだろ。

 なんてツッコミを目上に入れるのは野暮だ。彼がそうだとは言わないが、何時も自分ができる以上の事を押し付けてくる者を上司と呼ぶ。

 そして自分自身が上手にできて、それを継承させようとする者を、指導者と呼ぶ。

 

 それより人事に関わってもいいのだろうか?なんでこんなに早く着任させることができるんだ?と問い詰めたい所だったが、実は前から決まっていたらしい。そしてどうやら陽炎達の姉妹なんだそうだ。

 彼女に関しての資料はどっかに紛失したと推測するが、秘書艦経験のある艦娘は頼もしい。

 村雨ちゃんを秘書艦にするのはいいんだが、そろそろ本格的に演習や前線に出さなきゃいけない頃合いでもあるからな。

 

『ではまた連絡するよ』

 

「ハ!」

 

「……あ、あの」

 

「ん、どうしたの?」

 

 モジモジしながら聞いてくる親潮。

 

「か、閣下は、私のことを何と……」

 

「経験豊富な娘だって聞いたけど」

 

「け、経験豊富っ!?」

 

 なに私清純ですアピールしてんだお前アァ?そんな細いのに引き締まってる体して、その上スカートなんだそれ?短すぎだろ!?みんなもそうだけど、エっっっロッ。

 

「艦娘として多数の経歴を積んできた有能な人材だって聞いてるよ。ここには陽炎達も居るからね、居心地は悪くはないとは思うけど、ゆっくりしてってね」

 

「は、はぁ……で、では、親潮は待機任務に入ります!」

 

「おう。もしよければ案内するけど……」

 

「け、結構ですッッッ!!!」

 

 足から目視で疾風が見えるほど、素早く執務室を後にした親潮のスカートが一瞬だけ、ヒラリっと上がったので見えるかと思ったけど、見えなかった。

 見えなかったものの、健康な太腿がパンツが見える直前まで見え、肌面積を最大限まで露出させた。

 見えなかったのに、見えた時よりエロい。俺はその一瞬で、チラリズムの何たるかを知るための、崇高な学問の窓を開いてしまったのかも知れない。

 

 親潮ちゃん、俺はこんなんだけど決して同人誌に出る中年小太り竿提督じゃないって事を、いつか彼女に理解してもらいたいな。

 

「ははは!親潮に同人誌の竿だと思われてるよあの反応!春雨を押し倒した罰だよ!」

 

「は?あんな経験豊富でしかも大人にしか分からないエロさしてる女の子がさ、薄本の導入みたいな感じで来たらさ、そりゃそうなるっしょ?それに俺が最初にのしかかられたんですけど?ねぇ春雨ちゃん?」

 

「反省してますっ……」

 

「いやいや、いいんだよ春雨ちゃん。俺は全然気にしてないからねっ」

 

「どっちだし」

 

「は?俺は今、春雨ちゃんだから許したんだぞ。もしこれが私かわいい系勘違い不細工だったらどうだ?うん?蹴り上げて整形するところだぞ」

 

「宍戸くん、襖に耳あり障子に目あり、だよ」

 

「時雨さん最近IQ上がった?そんなことわざつかえるなんて、すごいあたまよくなったね!」

 

 言った瞬間後ろを取り、耳元に拳を近づけてきてコキコキ鳴らしてくる時雨は「丁度グリグリ攻撃試したかったんだよね〜うふふっ」と、満面の笑みを浮かべてフィストポジションの再確認。

 

「フッ……時雨、もう遠征の時間じゃなかったっけ?」

 

「「「あ」」」

 

 時刻はヒトサンマルマル。時計を見てみんなとの時間を惜しむ暇が多少ある。しかし、刻一刻と進む針は止められない、次の出撃へのカウントダウンが始まる。

 

「残念だったねっ」

 

「僕のマネ……って事でいいんだよね?あとで私刑ね」

 

「フ……逃げ伸びて見せるさ」

 

 普段の雰囲気とは異なり、出撃する時は真面目モードの白露姉妹。今日の遠征を終える為にスプリントし、執務室から出撃所へとスクランブル発進する。

 

 後に時雨から逃げ回ったが、結果的に捕まって、そして脳汁が骨の隙間から出るかと思うぐらい激しい痛みに見舞われる事となる。それを見た鈴熊は現代人特有の、写真を撮るだけ撮って助けない薄情おマ○コになるのだが、これはまた別のお話。

 

 遠征している間、こちらも中将からの大事なお遣いを済ませる事とする。とても大きなミッション……この国の命運を掛けた、一大ミッション。

 

 

 ー休憩室。

 

 それは中将の言った捜査だ。

 最近深海棲艦の数が増えたり、兵学校に出向く埋め合わせをするために仕事詰めで苦しかったんだ。

 それにボランティアでの残業みたいなもんだし、これぐらいは良い息抜きとして考えておこう。

 

 さて、廊下では丁度、屋上でタバコを吸い終わったと思われる整備工作班に出くわした。

 

「タバコの臭いがするな……」

 

「あ、し、宍戸司令官!申し訳ありません!!」

 

「今度からはするなよ。したとしても隠れて……な?」

 

「は、ハイッ!!アザッス!!」

 

 と、誰だよこのイケメン的なセリフで頭を下げさせた。

 チッ……アイコスなんだからいいじゃねぇかよ……なんて毒を吐くクソザコにも理解を示し、懐の深すぎる俺カッコイイして高揚感が冷めない間に、休憩室と手書きで書かれてあるドアを開ける。

 

「お、なんじゃ提督さんやない。どーしたん、こないな所に来て?」

 

「いや、第十七駆逐隊はどうしているか気になってね」

 

「ほう?この磯風達が気になるとは……まぁ、これだけの美少女が揃っているとなれば、仕方のない事ではあるが」

 

「ま、まさか私達に何かご不満な点が……」

 

「へっへー!浜風そんなネガティブな思考はダメダメぇ!それより提督ぅ!谷風のこの前の活躍見たっしょ!?」

 

「見た見た、これはご褒美モンだと思ったぐらいすげーわ」

 

「ご、ご褒美とは……ま、まさか……!」

 

 おもむろに胸隠しながら睨んでんじゃねぇよ。また同人誌の導入みたいな感じになってんじゃねぇか。

 誰もがシコ○コシコドピュドピュドクドクフキフキ!じゃないんだぞ。あれは全部フィクションだから。

 

 休憩室にはこの子達の他にも整備工作兵や経理科の連中とかも居る。

 この前アイコス買ったんだけどよぉ?タバコ感バリバリ〜!とか言いながらその鍛えられた上腕二頭筋をピキピキ言わせてる。しかし話し相手のカレはアイコスよりも筋肉に目が行っている様子だ。お、今クセでその辺に捨てようとしたな?吸い殻がその辺に落っこちてたら今度こそ全面禁煙にするぞ。

 

「いやいや、別になにもやましい事はないよ。それに純粋に歩き回ってるだけだよ、各地の第一鎮守府みたいにスタッフが百人単位で集まってる訳じゃないんだし、小さな要港部なりにコミュニケーションをね」

 

「うちらとお話したいん?」

 

「うん!うらかぜたちとおはなししたい!」

 

「ふふふっ、いい返事じゃっ」

 

 ポヨヨンっ。

 

「し、しかし、私達は提督と艦娘……そのように親しく接しすぎても……」

 

 ポヨヨンっ!

 

「フフフ、いいじゃないか。私達の仲に加えてやろう」

 

 ぽゆんっ。

 

「ホラホラ!そンなとこで立ってるよりこっちに来て座りなって!谷風の隣だよ〜ラッキーだね!にっしっし!」

 

「おう」

 

 スカっ。

 

 身体的特徴というのは、どう足掻いても超えることはできない。

 生まれ持ったものなのか、或いは育ちの差なのか……なんにしても、残酷極まりない(おっぱい)だ。揉みしだきテェッ!!

 

「磯風が持ってるそれって……」

 

「スマホだが?」

 

「いや、そのアプリってまさか……」

 

「知ってるのか、最近の流行りらしくてな」

 

 その名は、アズー○レーン。

 擬人化系シューティングであり、ゲーム性はもちろんだが女の子も可愛い。そしてなにより面白い。そして、面白い。大事な事なので二回申した。

 制作国は中国なんだが、ボイスが日本語であり、クオリティーも申し分ない。

 

「まぁまぁ面白いんだが、パソコンを持ってきてハートオブア○アンができない以上はこれで我慢するしかない」

 

「廃人……いや、仙人ゲーマーかよ」

 

 このゲームに対しての、俺が花丸を付けたい点としては、日本よりも圧倒的に安い推定必要課金額。

 日本発のソシャゲーはお決まりの10連で糞しか出ない上、3000円を要する。それもあって、中には周年記念として10連を期間限定で毎日一回無料にしたゲームもある。

 中にはドックを開く等の開放要素、ケッコンやアイテムなど、課金する以外に選択肢を与えないゲームも存在する。

 

 しかしこのゲームは三千円で、20連とランダムなアイテムがもらえる良心設計。もっと課金しなきゃ。

 

「みんなもソシャゲやるの?」

 

「うちはグラ○ル」

 

「谷風はモン○ト!」

 

「わ、私はなにも……」

 

「ウソつきなさんな〜!この前恋愛ドラマアプリうちに見せたやないかい!」

 

「あ、あれは別に!」

 

「やったのか……俺以外のヤツと」

 

 着任して一ヶ月、大好きだった司令官に再会してしまった浜風。

 ゲームを一緒にやるのは……俺だと思ってた。

 

「いやいや違いますから!再会って、会ったことないですよね!?」

 

「実は会ったことあるみたいな設定だったら面白くない?昔イジメられっこから助けられたんだけど顔覚えてなくて、十年間その人だけを想い続けたみたいな」

 

「いや、流石にそれはキモいです」

 

「……え、どこが?」

 

「その妄想がキモい言うとるんじゃ。だからその真顔やめい」

 

「司令、今度は悲しそうな顔をするな、流石の私も反応に困る」

 

「は?悲しくねぇし」

 

 女の子にキモいとか言われるの慣れてるし、あ、ヤバ、そんな悲惨な人生送ってきたとか涙出そう。

 

「ほ〜ら、うちがヨシヨシしたるけぇ、元気だしぃな?」

 

「あ……」

 

 普通は頭を撫でる方なのに、逆に撫でられると気持チィ。

 

「よ〜しよし、良い子じゃね〜っ」

 

 ……あ、でもこれで分かっちゃった。

 浦風って俺のオカンだったんだ。

 こんなにロリ顔で、体華奢なのにエロすぎる体してるし、何よりこの母性。肉欲に溺れる!溺れるゥ!

 

「あ^〜うらかぜままぁ〜!」

 

「もう、うちの方が年下じゃけぇ!」

 

「ハハハ。年下でも関係ないよ」

 

「いや関係あるじゃろ」

 

 いや、食い下がらせてもらうけど関係ないから。母性がある女性、童心に帰れる男性、お互いが認め合う、このプロセスが成立するだけでそこには既に理想の親子関係が生まれるんだ。

 じゃあなんでロリママ系が多いのか?と谷風が聞いてきた。それに俺は、ただの日本人の趣味に決まってるだろ、と淡泊ながらも要点をついた回答で納得させられた。

 

「年下でも年上でも共通の趣味を持ったりするし、ニュースに興味を持ったりする。年齢なんて関係ないよ」

 

「ニュース……話は変わるが、東京の事件は何ら進展も無いらしいな」

 

「あぁ確かに!殺人事件とかすぐに容疑者割り出すのにね!」

 

「いや殺人事件と比べるのはちょっと……」

 

「何週間か前は俺たち鴨川が見張ってないから悪いとか、クーデターだとか、とにかくすごい騒ぎだったんだよなぁ……」

 

「それって提督さんにとってまずくないん?」

 

「海域警備した記録残ってるし、鴨川の海域はちゃーんと警護させてたから、モーメンタイだよ。それでも文句があるって言われたら査問でも軍法会議でも持って来いってんだよ。俺は国家権力にもめげないぞ、民主主義バンザァイッ!!」

 

「では出撃を減らしてほしい人は挙手しろ」

 

「「「はぁ〜い!」」」

「「ハァーイ!」」

 

 男どもまで手を上げるな。

 

「人間社会において規律は必要だろ?有能かつ寛大なカシラが居るからこそ、多くを守り、効率が良くなるんだ。システム化をすれば尚更だ。だから君たちは黙って俺が出撃と言ったら出撃なんだよ?専制君主制バンサァイッ!!」 

 

「最悪の民主は最悪の独裁に勝ると、私は思います」

 

「自分もそう思うッス」

 

「ほほう。第十七駆逐隊も、整工班のお前らもそう思うんだな?でもな、時には独裁的に成らざるを得ない状況だって、中には存在したんだよ。だからケースバイケース、何事にも臨機応変にね」

 

「ウチもそう思うッス!だから女子にはブカブカセーターニーソを履く事を義務付けてほしいッス!」

 

「それはいいけど、代わりに駆逐漢として出撃してほしいって言ったら?」

 

「断固拒否ッスッ!!」

 

 だよな?俺もお前のエロい格好なんて見たくねぇんだよ。俺が教官してた時代から全然変わらねぇじゃんかコイツ。自分を曲げないのはいいことだけど。

 もう一度俺のハードな教官時代を味合わせてやろうかテメェ?みんなに着せ替えするんだったら裸エプロンだろうが。

 

「軍服とかは完全に海軍省の決定で動いてるから、異議申し立てがあればそっちに……と言いたいところだけど、今は正式な海軍大臣がいない状況だし……」

 

「次の元帥や大臣は誰がなるのでしょうか?」

 

「俺に聞かれても……逆に聞くけど、みんなは誰が大臣で誰が総長になってほしい?」

 

「荒木大将一択ですね」

 

「私もだ」

 

「そーやな、保守的で国内第一やし。でも、物騒にもこの状況やと、誰が頭取るかでえらい騒ぎになると思うんじゃ」

 

 浦風ママ……なんて先見の目を持っているんだ……この御方を海軍元帥にするのへ一票。

 

「大丈夫大丈夫。たとえそうなっても、ノータッチだったら火の粉は降りかからないから。触らぬ神に祟りなし、みんなもそれ覚えといてね……覚えておいてねッッッ」

 

「「「は、はい……」」」

 

 よし、これで中将からのお役目は果たした、帰ろう。

 

「まぁそんな事はさておいてですね、教官……じゃなくて、司令官は明日辺り鴨川行くんッスよね?」

 

「え?あぁうん、市長との面談にね」

 

 港町を守る要港部は、市町との連携を重視する。その理由はもちろん、武装なんかしていない漁師さんが漁業をしている間に、深海棲艦から守る役割を持つ艦娘達を統率する司令官と市との打ち合わせの為である。

 一ヶ月に一回程度だが、深海棲艦が邪魔する以上、艦娘との連携は産業に大きく影響する。海軍が設けた必要科目の一つであり、前に一度大きな深海棲艦が現れてその瞬間から5分以内に戻るのを強要された事がある。ホント深海棲艦クソだと思った。

 

「そこでお土産買ってきて欲しいんスよ……簪売ってる店なんですけどォ……」

 

「なんで簪を買うのかはともかく、納得できるような正当な理由がなきゃ駄目だぞ」

 

「そんな事言わないで!ほら、自分の手、厚いでしょう?」

 

 そう言いながらゴツゴツした手を低い位置から伸ばし、俺の手と重ねてくる。感覚で分かる、札束ってほどじゃないが、数枚程度の紙幣特有の厚みを持った紙が脳裏に高揚感をもたらす。

 

「チッ……しょうがねぇな!まぁ欲しいっていうのは正当な理由だと思うし?まぁ仕方がないとは思うんだけどさァ?」

 

「じゃあ谷風新型のタブレット欲しい!」

 

「国家機関情報漏洩防止の為、貴官の申し立てを却下スル。日本海軍の誇りと、この勲章の数々に掛け、我は清廉潔白の大和魂を心掛ける」

 

「えぇ〜!ブーブー!」

 

「その誇りが私達の前で平然と賄賂行為をしていたのだが、咎めてもいいのだろうか?」

 

「は?これ簪買うための代金だし、それにお前たちも欲しいモンがあれば買うぞ、だからこの事は黙ってて(日頃のお礼としてな)」

 

「口封じか……まぁ黙っているにしても、パソコンを持ってこれない以上私はなにもいらない。それに欲しければルートがあるしな」

 

「俺の前で平然とそんなこと言ってもいいの……?」

 

「その代わり、私達第十七駆の今度のボーナスは弾んでくれ。もちろん、谷風の活躍とはまた別に、な?」

 

 チッ……ちゃっかりしてやがんなぁ。

 

 簪の件だが、実は隠れた名店があるので、母への誕生日プレゼントにしたいのだとか。素直にそういえばいいのに……それに、袖の下を確認したら千円札が20枚分なんだけど。

 つまりお代はピッタリこれで……って意味だよね?

 

 騙された感が半端ないのは何故だろう?仕返しとして、俺がセーターワンピニーソ着てる所を食事中にラインで送ってやる。

 

 


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