ー商店街。
「わぁ〜!すごいですっ〜!」
「いろんなお店がありますねっ!」
鴨川の商店街は魚産に主点を置いていながらも、特別魚店が多い訳ではなく、街並みや店揃いも至って普通である。
普通にマックやデニーズもあるし、神社やお寺もある、凄く普通だ。東京みたいな高層ビルが無いところを見ると、田舎だと言わざるを得ないが。
簪屋がどこにあるか確認しながら、大通りを歩いていく。
「お兄さんお兄さん!素敵なお魚屋さんがいっぱいありますよ!」
「そうだね〜。今日は日頃のお礼だから、今日は俺の奢りだよ!好きなだけ好きなものを買ってってね〜村雨ちゃんに春雨ちゃん〜」
「「わぁーい!ありがとうございまーすっ!」」
白露さんは現在出撃中であり、彼女だけに休日が重ならなかったのは何かの陰謀か?等と文句を垂れていたのを思い出す。経理科の大尉くんが俺の指揮の下作戦を指示してくれているので、俺は安心して市長に合う任務が果たせるというものだ。
とは言え、時雨たちと遊んでいるのかと聞かれれば否定はできない。罪悪感に押しつぶされないため、自分の給料から何か彼にプレゼントする事を心の中で決めた。
「ねぇねぇ、僕は僕はっ?僕も好きなだけ超高級スイーツ食べてもいいんだよねっ!」
「あのポイ捨てされたゼリーの容器のこと?はははっ、もちろんだよ時雨ちゃん!好きなだけ食べておいでっ」
「はははっ、面白い冗談だね!また顔に百烈拳喰らいたいのかなっ?」
「は?誰がスイーツバイキングなんてここには無ぇんだからもっと俺の財布を労れ。それにこれ以上やったら整形しなきゃならねぇぞ俺。まぁ?そんな事になったら?流行りのジャニーズ系にするんだけどさ……例えばあんなのとか」
「「「あれ?」」」
『最近新しい海軍の要港部が置かれたようでしてぇ〜!海軍の兵隊さん達に守られてるオ・カ・ゲ・か!とぉ〜ってもニギィワッテマァ〜ッス!』
テレビ局特有のクソでかいカメラと、胸に付けてるマイク要らないんじゃないかってぐらいクソでかいマイクを持つスタッフ……間違いない、なんかのテレビのロケ中だ。
深海棲艦のせいで魚が取れないこのご時世で、要港部の艦娘に守られながらここで漁獲を再開できるようになったのは、この港町にとってはとてつもない助けになるらしい。これによって人が集まり、経済も潤い始める。
俺達の要港部のお陰って解釈で間違いないのだが、恩着せがましい上に海軍の方針なので、別段威張れる事でもない。
俺ら海軍と言う防壁のお膝元、安全安心を持ってこの地へ来れるようになった為、ジャニーズ系のへっぴり腰までもが、この港町まで足を運んでいる。観光客はあんましいないけど、ここの人の笑顔を見ると俺たちがやっている事の重大さを実感できる。
正直テレビってあまり見ないから、あれが誰だかさっぱりわからないけど、結構なイケメンなのは確かだ。合コンに居たら顔だけで場を圧巻できるレベルだな。
『では参りまショ〜YOUは何しにここへ!?』
『カレシと旅行?にキチャッテマァ〜ス!ゲキヤバ』
『ウンウン、ポのリンと海って、マジゲキヤバ、って感じだよね?ウンウン。あ、うちらモザイク結構コケッコー派なんで』
『あ、はい、そうですか……』
アレはモザイク物だな、地上波で映したら苦情来るぞ。イケメンさんも動揺してんじゃねぇか。
「ハァ……でもあぁ言うのって中身もイケメンだったら、ほぼ俺みたいなのって太刀打ちできないんだよなぁ……ね?村雨ちゃん」
「え?あ、はい、そうですね……」
「っ」
え、そんなことないです!って言って……くれないの……?
あ、ヤバ、顔隠さないとッ、泣いちゃだめだぞ俺。
「村雨はあぁ言う全然興味ないもんね」
「興味ないもの……」
「女性をおやつとしか見ていなさそうな感じがします……あんなのお兄さんと比較にもなりませんッ!」
「春雨ちゃんありがとう!俺嬉しい!でも見かけだけで人を貶すのはやめよう!例えそれが良くても悪くてもだよ!」
見かけで惑わされる理由は、有能な遺伝子を残すって本能の表れである。男は健康な身体の女性を欲し、女は有能な男を欲する。
でもこれ、結婚って言う人間が社会に秩序を確立するために作ったサンディカとは相性が悪いから、結局は随所拗れる事になるんだ。
特にこの平等社会の風潮では、外見的優劣を付けるのが悪とされる、とてもいい世の中となっている。だが、本能には逆らえない……春雨ちゃんや村雨ちゃんが、あのヤリメン系イケメンを否定してくれた事を心の中で少し喜ぶ。
ママ〜!あの人クルクルーラーみたいな髪型してる〜!なんてガキ特有の素直さに感服し、それでも爽やかな笑顔を絶やさない所だけは敬意を払ってやる。
でもフレンチクルーラーはお兄さん流石に吹き出しちゃうからやめようね。
テレビの集団は取材をしているのかどうか分からないけど、段々こっちに近づいてくる。この配置で分かる、次は絶対に俺たちに声をかける。
「じゃあ俺ちょっと用事あるから」
「ちょっと待って下さいお兄さん!」
「痛テテテ!!引っ張らないでぇ!」
「ん?なんで行こうとするの?明らかにあのヤリチンとAV撮影用カメラマンみたいなのが来るの見越してどっか行こうとしてるよね?」
「いやだって、時雨たちと居たら全国のお茶の間フレンズが『なんでアイツあんな可愛い娘たちと居るんだよ?金か?』とか言われかねない。それに俺があのイケメンさんだったら、うわッナンカキモイノイルゾォ……ってなるぞ」
「それはないでしょ……」
「それに私怖いですっ!アレ絶対に調子乗って長時間話すタイプの人ですっ!」
「春雨はお兄さんと一緒じゃなきゃ嫌です!」
「アハハ〜可愛いなぁ春雨ちゃんは〜ってか離れてェ!!俺カメラに映りたくないのォ!やめてぇ!!」
「あのぉ〜少しお時間よろしいでしょうか〜?」
「「「あ……はい」」」
結局こうなるのか。
取材だろうが仕事だろうが、ノーとは言えない日本人。流れについていく系の民族性ながらも、独立性を保ち続けているのは素晴らしい事だと思う。だからその個々の独立性を尊重して俺はさっさと簪屋と市長の所に……って、痛い痛い!体のあっちこち掴むのやめて!春雨ちゃんどこ触っとるんじゃい!?
「すいませ〜ん。今取材しているンですけどぉ〜、あ、お顔大丈夫ですか?」
「「「モザイクで」」」
「え〜可愛いのに勿体無いですって!これ、全国放送なんですよ!いやぁ〜こんなに可愛い女の子相当いな」
「「「モザイクでお願いします」」」
「あ、はい……」
一応軍人なので顔出しはペケで。そしておだてて顔映そうと必死なカス○ね。
人気バラエティーの取材が聞きまわっているのは、この街の活性化した現状と調べているらしい。
要港部設立以来、一度も被害を受けていないこともあり、海に面していながらも安全な市としてPRされてる。稼げる仕事が多いとも書かれている、現実的だな。
その事について現地で住民に話を聞いているのだそうだ。そして無論、指揮官であり当事者である俺は一言も喋らない。
「君達は学生ですか?」
「学生ですね、はい」
「大学生?でもこの辺に大学ってあったかな……」
「ありますけど、僕たちは四人とも中学生です」
「あ、そうだったの!?凄く綺麗だし、大人びてるからついね、ごめんごめん!」
ちょっと待て、俺も中学生ってどういうコト?明らかに俺スーツ着てるんだけど。ていうか、この三人は普通に中学生で通れるのか。こども料金利用できるのかな?
しかしそんな事を考えている内に取材が終わるので、案外早いと思った。
「いやぁ〜ありがとうね君たち!じゃあこれは僕からのお礼」
と言いながら時雨に渡したのは、電話番号が書いてあると推測する小さな紙。渡した後にチョリーッスポーズで退散する。お前マジで中学生にそれ渡したのか?
「これって……」
「まぁ、そういう事なんじゃないかな。マイルドなナンパだから良い方じゃない?」
「ブブーッ!……うん、あの人案外いい人なのかも。僕が丁度お鼻かみたい時に紙を出してくれるなんて。宍戸くんも見習ったほうがいいよ?」
「おう、ついでにお前の他人への敬意も見習っておくよ。じゃあ俺は市長と例の簪屋んトコ行くから適当に回ってて」
「一人で行ける?迷子にならない?知らないお姉さんについていっちゃ駄目だよ?」
「うん、分かった!だから時雨ママ小遣いちょうだい」
「とっとと行ってキモい」
みんなァ時雨がいじめるゥ!
ー市役所。
ここの雰囲気は、なんというかこう……さっぱりした感じだ。
使い古されたカウンターや椅子、デスクや観葉植物を除いたら全体的に白い色彩で建物内を包み込む。所々にゆるキャラらしき物もあるが、どこの街にも存在する妖精みたいな物であり、特に気を使う必要はないだろう。
要港部の出撃風景を見続けた俺にとっては、リラックスした風景そのものである。
市長執務室は特にサッパリしている。書斎をバックにパソコンを弄くり回すのは、仕事を十分にこなしている証拠だ。
「お忙しい所をすいません、妙高さん」
「いいえっ、むしろこちらこそすいません。提督としての義務もあるのにワザワザ……」
「これも立派な提督の義務ですよ」
「ふふふっ、そうでしたね。私の妹は元気にしていますか?」
「え……あ、はい、元気にしていますよ」
引退した艦娘であり、その名を活かして当選し現在の立場で華を咲かせている彼女は妙高さん。なんとあの合コングこと足柄さんの姉である。
足柄さんと同じく美人であり、何事にもおおらかで笑顔を絶やさない人柄ではあるものの……現役時代は仲間からも恐れられたほど強かったという伝説がある。そんなに強かったらアンタが現場指揮官やってよ、なんて言うのは野暮だ。彼女は軍人ではなく、政治家なのだから。
あと、足柄さんは俺の要港部に居ねぇから会ってないし。
「ではこれが護衛作戦のスケジュール、並びに作戦指揮の詳細です」
「え、作ってきたんですか!?話し合ってからスケジュールを考慮するはずですが……」
「既に漁業組合と直背話し合ったので、護衛のスケジュールに変更が必要な時はご連絡下さい」
「す、凄いですね……確認をするために態々?」
「そうですね、スケジュールの変更と作成をより効率的にするために、今度からは要港部へ直接ご連絡を入れるようにと頼んできました」
護衛警備をするに当たって、役所を通じて連絡を入れてから俺たち要港部に伝えられるので、緊急でない限り何日かのラグが生じる時がある。
市からの連絡事項をまとめて伝えるため仕方がないんだが、一説では組織が軍隊への依存による軍の独立性が高まる事を阻止する為……という説もあるらしい。
信じるか信じないかは、あなた次第。
でも直接連絡してもらった方が早いし、妙高さんの負担も減るーー確実にこっちの方がいい。それでも市との連携の為に来なくちゃいけないので、俺たちがやる事はあまり変わらない。
「あ、あの……」
「どうかしましたか?」
「そ、その……時間が結構空いたので、勧めてもらったSF小説を感想……聞いてくれますか?」
「え、あ、はいもちろんですよ!」
さて来ました、本日のメインディッシュ。
恥ずかしながらも出したのは、俺が勧めたSF小説、と言うなのライトノベルだ。交友の為にライトノベルを勧めたらハマってくれたらしく、来ては彼女の感想を聞くのが一ヶ月に一度のお決まりである。
今回読まれたのは、遠い昔の軍人たちを女体化して現代に呼んだ設定の、抜錨ナグモくん!
罰当たりな事をしてるとは思わないのか?なんでマニュアル本の生き写しみたいなヤツを主人公にしたんだ?と作者に問い詰めたいぐらい酷い内容だが、イラストが可愛いからどうでもいい。
そしてここに出てくる国はかなり特殊で、自衛しかできない!と言うまともな軍隊を持っていないのに加え、防衛を他の大国に任せている滅亡間近な国だ。
そこでハゲ親父から美少女に転生して、何故か一人だけ男として転生した主人公一行で、御国の威光と栄光を取り戻すために改革を迫るドタバタラブコメディ。堅苦しそうなストーリーと、明らか合ってないジャンルは正にファンタジーの域を超えたSFである。
「それでですね!このヤマモトちゃんが無双する所がスゴクて凄いんですよ!」
「へぇ〜そうなんですか〜!」
「イノウエちゃんがマスコットみたいでして!とてもスゴイんです!」
「なるほど〜へぇ〜!」
実は俺自身ウィキでしか見たことがないが、とにかく「スゴイ」らしい。そして聞けば聞くほどヘンテコな内容であり、逆に読みたくなってくる。
そして仕事してください妙高さん。熱心に語ってくれるのは有り難いんですが、ラノベなんて読んでたら色んな方々からドヤされますし。
「これにはなんと!外伝もあるんですよ!ワタシポンコツムタグチロイドっていうんですけど!」
「は、はぁ……」
何それ、どっかの曲のタイトルみたいですごい読みたいんだけど!
と言いたい所だが、そっちは既に朗読済みだ。なんで外伝から先に読むんだ?なんて馬鹿らしい質問は野暮だ。タイトルを見て読んだ俺が、実は海軍編もあってそっちが本編なんだよ〜なんて知ってるわけがないだろ。帰ったら読もう。
ー街。
三十分以上に長いくせに小学生並の感想しか言わない妙高さんの所からようやく開放されて、交番の前で大きく息を吐く。何時もあそこ行く時は必ずラノベの感想を聞く事に上、良作ならいざ知らずクソしか読まないので、軽い罰ゲームを受けてる気分だった。
でも俺自身が勧めた世界なので無碍にはできないし、何より目をキラキラさせながら話してくれるから嬉しいんだけどさ……人脈構成は成功しているとは言え、もっと他のモノを勧めるべきだったと少し後悔する。
黒制服とセーラーを着た学生達が帰宅する時間、時雨達との合流と並行してお目当ての簪も購入する。
簪屋、ではなく呉服屋と言うらしい。京都にいた時も一応それらの伝統的な店に立ち寄った事はある。だいぶ前だから、呉服屋ってタイプの店だとすっかり忘れていた俺は、「ここら辺に簪屋ありますか?」って聞いて恥をかいたのはお察し。
呉服屋なら呉服屋って看板に書いとけよ……あ、でもよく考えたらファーストフード店にレストランみたいな馬鹿正直な名前つけるヤツはいないか。
それにしても時雨達はどこに居るんだ?特徴的な髪型してるし、春雨ちゃんの凄い色した髪の毛で一発で見抜ける筈なんだけど。
少し歩いて合流場所だった海岸沿いに出る。辺りには老後を楽しんでいるババアや、深海棲艦が居るってのに呑気に遊んでるクソガキがいても、時雨達の姿はない。
海沿いの街には、公共の場所を含めて地下シェルターがあるから、よっぽど早いか奇襲でもされない限りは大丈夫だろうけど。
また一息ついてのどかな海を見る。
陽炎型の艤装が小破したので遠くの海域にいる艦隊を撤退するように指示し、経理科の大尉くんがそれを承諾したのを聞いて電話を切る。
海はあんなに広いのに……時雨達はどこに居るんだろうなぁ……学生みたいに、安全海域のビーチで真夏の海を楽しむことが出来てたら、俺もエッロいネェちゃん侍らせてたのになぁ。
そしてそれをビーチでなくても実現するのがナンパだ。ヘイカーノジョーから始まるヤリクズ野郎セリフは何時の時代も普遍的だが、ビーチでナンパってシチュエーションは定番中の定番中だろう。
例えばあんな感じに。
『ヘイカーノジョー、オレタチと遊ばな〜い?』
『なんか奢るからさ〜最近カワイイコ見なかったから今スッゴクドッキドキでサァ!』
『ハァ……ハァ……!』
『えぇ〜どうしようかなぁ〜っ?うふふふっ』
『『あわわわわわわわわ……!』』
男三人にナンパされる女の子三人って図は親の顔より見た。後ろで怯える可愛い二人と、クネクネ体を捻りながら思わせブリブリンコな態度を取る先頭の女子。
大抵は不細工が褒められてチョーシに乗ってる的なシチュで片付けるが、あの三人は本当に美人だな。
そりゃそうだ、あれは時雨達だ。春雨村雨ちゃんは嫌がっているが、時雨は寧ろ上等的な態度を取っている。
だが時雨あんな態度を取る理由は決して男どもに乗せられているからではなく「もしどうしても連れて行くんだったら、奢れるだけ奢ってもらって帰り、何かしてきたらサンドバックにする」って魂胆なのは、長年の付き合いから分かる。
それを可能にする時雨。
それを知らない、只々股間に正直な野郎共。
それを知ってれば男の方を助けるのが筋なのかも知れないが、嫌がっている娘が居たらそっちを助けるのが漢ってもんだ。
「やめろ!」
「「「あ、あなたは!?」」」
「なんだテメェ!フンッ!」
「フッ」
飛んできたパンチを華麗に躱し、超カッコよく腹へとカウンターを返す。
「グアア───ッ!!」
「やったなァこの野郎ッ!!オリャアアア!!」
「フ……パンチが遅く見えるぜ?フンッ!」
「グアアアア!!!」
「な、なんだコイツ!?に、逃げろおお!!!」
「フッ……また子猫ちゃんを救っちまったな」
「「「カッコいい!!抱いてぇ!」」」
「おっと!そしてまた美少女を落としちまった……完璧すぎるってのも、罪なもんだな……フッ、フッ」
『おいあの男ナンパ野郎から女の子を救ったぞ!?』
『凄いかっこいいわ!あんな漢にマク破られたい!』
『何者だろうあの人は……』
「おっといけね、目立ち過ぎちまった!目立つのは嫌いなのによ……」
「お名前は……」
「名乗るほどじゃないさ、じゃあな」
「「「KAKKOIII!!!」」」
……よしっ、ツッコミどころしかなかったけど、とりあえず頭の中の準備体操は整った。
メガネを取り出して、ビジネスバッグを肩にかけて……これでどっからどう見ても一般通行青年にしか見えない、完璧な変装だな。
そしてなるべく殴らないようにしよう。ナンパキモクソゴミクズとはいえ、一般人だから死なれちゃ困る。
「や、やめ!……やめた方がいいと思います」
「「「あ?」」」
威の無い一声に呆れている時雨から、俺の背中へとシフトチェンジして隠れる二人。小声で「怖かったですぅ……!」と春雨ちゃんの声が聞こえる。
ナンパくん達はゴロツキってほどでもないけど、ある程度は体が整っている様だな。
「あ?なに君?殺されたいの?」
「あッ?ンだと青坊……ではなく、彼女達は嫌がっているみたいですし」
「カワイイコ助けてオレカッコいいしたいんだ?舐めてんじゃネェぞォ!」
「これチョーっと痛い目に見てもらう必要あるね、ウンウン」
「アッ?テメェら全員俺に勝てると……じゃなくて、お、おれと平和的な解決を……」
「うるせぇンだよォ!!海軍候補生舐めてんじゃねぇぞォオラァ!!!」
「ッ!あ、結構痛い」
「痛えええええ!!!」
殴ってきたのでそのストレートへと頭を突っ込む。石頭が炸裂した事で殴ったほうが痛がってる状況に、時雨も肩をすくめる自称海軍候補生くん。
……ん?海軍候補生?
「テメェ!俺たちの兄ちゃんは海軍軍人なんだぞォ!!しかもこの鴨川要港部に居て、スゲぇ喧嘩強ェンだぞォ!!俺が電話すれば駆けつけてくれるんだぞォ!!」
「じゃあ今呼んで来いよ。但し俺が駆けつけてくれたことに感謝しながら電話しろよ?もしお前たちがここに御わす黒髪三つ編みの奸計にまんまと引っかかってたら、今頃海にバラされてたんだからな?って、それタダのメスの化物やないか〜い!」
「そうだよ君たち。じゃあ本当にできるかどうか今この人で試すから見ててねっ!」
「あ〜ダメダメダメプリンオゴルカラダメダメ」
「フッ……電話で呼ぶまでもなかったみたいだぜ?」
「「「へ?」」」
クソ野郎が顔を向けた先には、道路から渡ってくる一人の青年。ダックドコートで身を包み、いいガタイを持っているその人物の風貌は、正しく軍人と言っても差し支えなかった。他にも男はいたが、彼ほど特徴に合う人は周りにいないので、近づいてくるソイツを兄だと断定する。
「ん?こんな所で会うなんて奇遇だな」
「き、聞いてくれよ兄ちゃん!この変なヤツにボコられたんだよ!!助けてくれよォ!」
まだボコってないんですけど。
「ソイツは許せ……って、兄貴達じゃないですか!?なぜこんな場所に弟と?」
「「「……え?」」」
ナンパ男海軍軍人で喧嘩が強いこの人こそ、我らが整工班副班長の月魔のその人である。
まだ正体を明かしてないんだが、尊敬していたお兄さんがペコペコ頭を下げる相手に突っかかってたーーその事実を理解するだけで、ナンパくんたちの顔はドンドン青ざめていくのが分かる。
「こいつらがね、俺の可愛い村雨ちゃんと春雨ちゃんをナンパしてたんだよ強引に。そして割に入ったら殴られたんだ、どういう躾してんだよお前?」
「すいませんッ!!」
「僕もされたんだけど?え、無視?」
「あ、兄貴……?」
「おい、どういう事かァ知らねぇけど、なんでこんな事した?確かにナンパは悪くはねぇけど無理やりは良くねぇな?」
「す、すまねぇ兄ちゃん!!お、俺ら知らなくて!」
海軍候補生であり、兵学校に行く予定だと供述する将来の明るい若人等が弁解を始めるが、お説教タイムへのカウントダウンは止まらない。痛い目を見て初めて人は学ぶ、熱を持っている内に叩いておいたほうが人としての仕上がりがよくなる。コイツラも、まさかナンパで難破する羽目になるとは思わなかっただろうな……なんつって!
格好良く弟とその連れを叱る月魔だが、コイツもストーカーをしていたうんこ憲兵だったんだよな。
「こ、これには訳があるんだ!聞いてくれェ!」
「あ?」
「お、俺たち実は脅されてたんです!!」