ー執務室。
「…………ンンッ」
休日だと言うのに、舞鶴第二鎮守府の資料は俺が片付けていた。建築物と本等から漂う木質の匂いと、シンプルだが緊張感を煽る広い間取りは正に大統領執務室。横にはクソでっかい通信機みたいなヤツと、その他作戦中に使うようなものがあらかた揃ってた。
鎮守府にはあまり人は残ってないし、普段の油臭い作業服を着ながらの書類仕事なので実質俺がやってる資材チェックの執務と雰囲気は変わらない。内心、休日入る前にやっとけよ……と悪態をつきながら古鷹に教えてもらった通りに事務を進め、紙の上でペンを走らせていた。
古鷹に教えてもらっているので、提督代理である俺の秘書艦は彼女である。
「ど、どうかしましたか……?」
紙を擦る音以外何もなかった執務室に唸り声を放ったらしい。無意識に昨日の悪夢を思い出していたのだろうか?
「いや実はさ、昨日……」
ーーー
ー昨日の病室。
「じゃあ俺はちょっと班長の所に行ってくるわ。ただのギックリ腰だからって、副班長の俺が行かねぇって言うのも失礼だしな」
「うん分かった。僕もこのお花を変えたら行くよ」
部屋を出て、隣の部屋に行く。提督と班長少佐の部屋は個室で、使われていなかったのを理由に快適な環境で同時入院が可能となっていた。鎮守府にも一応医療室と病院があるけど、二人共外で倒れたから何とも言えない偶然である。
時代の発展と共に、病室の音は隣に聞こえない防音仕様となっているのに感心しながらドアを開ける。
「班長、宍戸です。具合はどうですーー」
『やめてください……やめてください……イヤァ……怖い……怖い……!』
『縛っちゃったよ……イヤらしい身体に食い込んじゃうよ?』
『班長怖いとか言っておきながらコッチは……やっぱ好きなんすねぇ〜』
『ほら言ってみてくださいよぉ……僕のイヤらしい穴いっぱい犯してくださいって』
『やめてください……アイアンマンッ』
「…………」
……そっ閉ってこう言う時にやるもんなんだな。キモい女声で亀甲縛りの太っちょオヤジは、俺が最低でも週1?で顔を会わせてる上司で、本来ならあんな格好絶対にする筈が無い。それが、お見舞いに来ていたはずのゲイ三人衆に捕まってなにかされてた。多分、あれはDREAMなんだ。
今日は酷い日だな……酒はあまり飲まないけど、今の悪夢を忘れさせてくれるなら、帰りにウォッカでも買ってくるか。
「宍戸くんどうしたの?班長とはもう会った?」
「……お目々に毒を盛られた後の時雨は眼福眼福……今日も可愛いよ時雨」
「な、なんだい急にっ!?て、照れる前に何とも言えない気持ち悪さが込み上げてくるよ……っ」
ーーー
ー執務室。
「と言うことがあったんだ。俺は明日からどんな顔であの人たちに会えばいいの?」
「わ、私に聞かれても……」
「そうだよね……ごめん、自分で考えるよ。丁度俺の所は終わったし」
「も、もうですか!?は、早いですね……」
「前に一度やった事あるし、それにさっさと終わらせて残りの十数時間の休日を満喫したいんだ。日曜日にこんな所で執務してさ……明日起きたらあと5日は休日を見られないとか……ひぐっ」
「な、なな泣かないで下さい!きっと大丈夫ですからっ!提督にも今日の分の休日を作ってもらえるようにおねがいしますから!」
優しいしな古鷹ちゃんは……偶に俺達の為に差し入れとか持ってきてくれるし、優しい声で報告とか読んでくれるし、可愛いし、提督が秘書艦として選ぶ理由も分かる。
古鷹も執務を終えたっぽいし、後はこれらを大本営に送って終えることができる。
コンコンコンッ
「……入りたまえッ……なんつって!」
『コホンッ……失礼します、宍戸提督代理』
「おう……って、蘇我提督じゃないですか!?」
ノックなんてしたから誰かと思ったら提督本人じゃないかよ!?俺と古鷹は慌てて敬礼する。
「お身体の方は……」
「この通り、すっかり良くなったよ。けれど……まさか比叡が使った料理の中に間違えて化粧用のクリームが入っていたとか夢にも思わなかったよ。ははは」
それを笑って済ませる辺りがスゲー。化粧用のクリームを混ぜた料理か……心臓悪くするし、吐き気とかも酷かったはずだし、そんなの作ったら比叡も二度と料理なんてする気なくすし(※提督は特別な訓練を受けています、間違っても料理に異物を入れないようにして下さい)。
「しかし……折角の休日だと言うのに、君に私の残業を任せてしまい申し訳ない……」
「いいえ、不測の事態と言うものは誰にでも訪れるものです。班長のぎっくり腰は流石に注意してほしいですが……」
「ははは、羽を休めようと羽を酷使し過ぎた、と言う所か」
班長の羽……生えてたらそれも亀甲縛りになっていっぱい犯……あぁいけないいけないッ!!忘れなきゃいけないのに、考えるほど面白くなってきやがるッ!!
「古鷹、君もすまなかったね、本来ならば私一人で残りを片付けようとしていたのだが……」
「いいえとんでもないです!提督が仕事をするんのでしたら、休日でも古鷹はお仕事をお手伝いします!」
「ありがたいな……君のような部下を持って、私は恵まれていると改めて思い知らされるよ……本当にありがとう、古鷹」
「い、いいえ……秘書艦として、当然ですっ!」
「古鷹……」
「提督……」
……ん、何だ?こいつらがお互いにぶつけ合う熱い目線は?まるで運命の糸が通じ合ったカップルじゃないか。デキてんのか?あるある、カップルと部外者がいる場合にのみ起こる、二人だけの世界に入った途端その部外者が置いてきぼりにされる現象。
「宍戸く〜ん、もう提督に……会ったね」
「こんにちわ〜」
「時雨に村雨ちゃん」
扉から顔をひょっこり覗かせた後、提督に敬礼してこっちに寄ってくる。私服の時雨たちは普通の女子だが、実直な敬礼は紛れもない軍人であると実感させられる。
「一日だけだったとは言え、一日提督になった気分はどうだっだ宍戸く〜ん?」
「一日署長みたいに言わないでくれるか?立場だけそういう事になってただ適当にカメラにニッコリするだけのクソアイドルと違って、コッチはミスが許されないんだぞ」
「執務室に座る宍戸さん、カッコイイですっ!」
「ありがとう村雨ちゃん、その言葉を頼りに生きていくよ」
「さ、流石にそこまで背負えないかも……」
俺が提督だったら絶対村雨ちゃんの傀儡になっちゃうな。
「まぁとにかく提督もこうして帰ってきてくれたことだし、俺の仕事はおしまいだ。蘇我提督、大規模作戦のご内容はここにある資料にまとめておきましたので読んで下さい……それでは自分はーー」
「あー待ってくれ宍戸くん!」
「え?ど、どうかしましたか?」
「そ、そのー……大規模作戦についてなんだが……少し言い難いのだが……」
「はい……?」
「大規模作戦で私の補佐をして欲しいのだが……頼めるかな?」