整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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将校会議(同期のみ)

 

 ー執務室。

 

「ふぁふぁふぁふぁ」

 

『あの、なに言ってるか全然分かんないかも……』

 

「ン……聞いてくださいよ秋津洲さん。ここにいる秘書艦の村雨ちゃんのお姉さんがですね?あ、時雨中尉って言うんですけど、めっちゃパワハラされてですね?あ、この村雨ちゃんにも少しされたけど、そのあとおっぱいでぱふぱふされたから許しましてね?まぁその、結論からいうと、口内炎が痛いんですよ」

 

『そ、それはたいへんです……あ、あのぉ!はちみつを舐めると治るってよくききますけどぉ』

 

「ハチミツ?ハニー……ハニーはもうコリゴリなんスよ大鯨さん。そもそもハニーを舐めようとしたらこんな風になったんですよ?リッフジーンッ!」

 

『は、はぁ……?』

 

 二週間後の現在でも絶賛稼働中の鴨川要港部。なんとか仲のいい提督たちに声を掛けたり同期に「派閥には入るな、入ったら掘る」と電文を送ったりしたが、実際にどれほどの効果があったかはわからない。

 

 執務を終わらせた後、まだ使ってなかった新品のタブレットを使いながら、ビデオチャットで遠くにいる同期達と話す。

 現在繋がってるのは、斎藤中佐や結城を含め、オイゲンさん、秋津洲さん、大鯨さんがいる。既に執務と指揮を終わらせる辺りは流石と言うしかない。

 

 これほど経っても官僚襲撃事件の事は分からず終いであり、本当にこの状況で乗り切らない可能性が懸念されている。

 そこでやはり気になるのが、派閥の問題だ。本当にそこまで膨張されているのか?それともサッカーを見ているような感覚で決めているのか?

 色々と曖昧な情報を再度整理するために、こちらでも将校会議を開いている。

 

 ”こちらでも”というのは、実は現在大本営にて参謀本部及び軍令部合同首脳会議が実施されている。

 軍令部首脳会議とは、要するに海軍の超絶トップの人たちが帝の下で会議を開くというものだ。

 そこに参謀本部という陸軍の超絶トップを加えて、合同首脳会議となるのだ。空軍は一応参加しているが、未だに独立した組織というよりは、陸海のサポート色の強い故に、航空省空軍会議の名前すら入れてもらえない始末には流石に同情した。

 

参加者は勿論偉い奴等ばかりだが、海軍大臣を始め多くの重役が代行されている今、参加者自体が激減しているのは明白である。

 そう予想するって言ったほうが正しい。首脳会議と言う名のプレジデントコンファレンスの詳細なんて、本人等以外は誰にも知られちゃいけないトップシークレットだからだ。

 

「で、そんなに騒ぎになってたの?それとも俺の鎮守府がお祭り好きの巣窟なだけなの?サッカー気分で軍閥決めなきゃならんの?ん?んッ?」

 

『お、落ち着いてってシシード!べつに私達もそれほど気にしてるわけじゃないから!』

 

『そうかも!ちょっと焦り過ぎかも!機を見なきゃいい戦略は立てられないんだよっ?』

 

『あ、あわわっ……』

 

『相変わらずアワワッスねェ大鯨さァんッ!俺と夜間演習なんてどうッスか!?』

 

『『『しね』』』

 

『ヒドォォォイ……』

 

「言われて当然だと思う」

 

 ビデオチャットで各地のリーダーと繋ぐなんて、政治的な密会してるみたいでちょっとウキウキする。ネット接続だからセキュリティガバガバだけど。

 

『しかしこちらでも話題にはなっていたのは確かだ。因みにサッカーが引き金となった戦争があるのはご存知かな?時に娯楽は、人を狂わせるんだ』

 

 なるほど、知識量半端ないっスねぇ中佐ァ!ついでにそのサッカー戦争を終結させた、米州機構みたいなのが日本海軍にあればいいンすけどネェ!?無いから問題なんスよッ!?

 

『こっちでも話題になってるぜ!まぁ俺ッチはそんな事より合コンの成功率を100%にする方法を模索しててそれどころじゃなかったけどな!』

 

「多分それ少子化解消にも繋がるからこのウンコみたいな事件よりそっち優先してッ、マジでッ」

 

『お、おう、珍しくガチ目なトーンじゃねぇか……』

 

『あ、こ、こちらも、たぶん大丈夫……だと思いますっ』

 

「あ^〜大鯨さん怖がらなくてもモーメンタイだよぉ〜うんうん。俺がそっちに行ってよしよししてあげようか?」

 

『あ、け、結構です!』

 

『『『ハハハ!フラれたザマァ!』』』

 

 お前等ァ、俺がなにを言われても傷つかない鉄の男だと思ったら大間違いだぞォ……?久しぶりに話す同期、或いは友人だからか会話が賑やかだ。随分とフランクに接するなぁ……と疑問の思う者も居るだろうが、軍学校で出来た友人ってのは大抵こんな感じだ。

 シリアスな話じゃない限りは、本題の話しと並行しながら茶化し合ったりするのが定番である。本当にヤバイ話は文字数が最小限となる。

 

『まぁ大丈夫かも!秋津洲たち提督の仕事は深海棲艦を倒して、みんなを守る事かも!突然政治家が居なくなってハーレーしたからって別になんともないかも!それで起こる跡目争いなんて上層部に任せておけばいいかも!』

 

『それにこういうの何ていうんだっけ?たしか、触れぬ神に祟りなし……だっけ?』

 

「上手いねオイゲンさん、ちょっと使い方違うけど」

 

『ダ〜ンケっ!』

 

『まぁ俺は斎藤中将派だけどなぁ〜』

 

『なんだ?私が居るからと言って、遠慮をする必要はないぞ?』

 

『してませんって中佐!俺をスカウトしてくれたのは中将なんでね!大将よりかは中将ってだけッスよ!それに、海外へと進もうとしてるってカッコイイじゃないッスか!?』

 

『カッコイイって理由で決めるの?』

 

 大将が目指した国内を補強して安定、それは要港部の設置で既に完了されている。JAFGが言っていた古き良き日本に戻す、という政治的な思想はともかくとして、一番現状維持で保守的である。

 でも革新派の政治力や資源的な問題も含めて、それらを海外進出により解決しようとする姿勢は好戦的だなとは思う。

 

 一見して要港部を作ってもう保守派の勝利じゃないかと思ったが、革新派が海外進出へと方針を変えれば、国土を守るために作られた要港部は一変して体のいい攻撃拠点となる。

 

「秋津洲さんの言うとおり、軍人は中立で居なきゃいけないと思う。海軍大臣は辛うじて政治に口出しできる日本海軍、唯一の軍人であって、陸軍大臣も同じだけど、どっちにしろそれ等を決めるのでさえ、御上なんだから」

 

『でもでもでもぼくぅ……どっちかっていうとぉ……ちゅうじょう派?みたいなぁ〜?』

 

「結城、頼むから派閥の内戦を煽らないで、あとめっちゃキモいから、横にいる村雨ちゃんが軽く引いてるから」

 

「司令!この親潮も引いてますっ!」

 

 親潮の声を聞いて「新しい娘!?」と喜声を上げる。

 何故かこの結城大尉殿は派閥争いにノリノリなので、面倒くさいがここは正論でみんなを収める事にしよう。喋り方も変えたほうがいいか。

 

「当然ご存知かと思うが、これは我が国の1936年当時の状況に似ている、所謂、皇道派と統制派のようなものだ」

 

『『『『『皇道派……』』』』』

『え、なにそれ?』

 

 みんなの顔は指して驚いたようには見えなかったけど、一番しっくりくる例えとして上げてみたが、ある程度それで納得はしている様子だ。結城が外国人であるオイゲンさんよりも自国の歴史に疎い事を再確認した所で、話を続けた。

 

「皇道派の歴史は浅いけど、今でも海軍軍人としては知っておかなければいけない事件トップ3に入る。もちろん国を想い、華々しく散った栄名の戦士たちとしてではなく、暴力革命的手段とテロリズムに陶酔した軍史的汚点としてだ。勿論その後、統制派も同じように悪名高いファシズム的な道を歩む事になる……今、俺たちがやらなくちゃいけない事、先人が踏んだ轍を踏まないことだ。どう思う?」

 

『宍戸少佐のいう通りかも!』

 

『カッコイイです宍戸さんっ!大鯨、みなおしちゃいましたぁ〜!』

 

「え、あ、そう?グッフフゥー!」

 

「むっ……気持ち悪いですその顔」

 

 村雨ちゃんの「気持ち悪い」、頂きました〜。後で魚雷に突っ込んで死んできます。

 おいおい、

 

『何はともあれ、首脳会議が終わるまでは今後の方針は定まらない。我々は司令官という立場を任ぜられたが、文字通りそれ以上の事柄は指を咥えて待つ以外なにもできないのだ』

 

『中佐の言うとおり!俺ッチ寝るわ』

 

『『『寝るな』』』

 

 その言葉を最後に彼らとの通信が切られた。

 

 親潮は村雨ちゃんと同じく秘書艦兼主計部という立場らしいが、本当に正直な事を言うと、いらない。

 酷い言い方だからオブラートに包むと、執務仕事は滞るほど押し寄せているわけじゃないし、村雨ちゃんがとても有能なので、必要性を感じないが、主計部がいて欲しいと言うんだったらこのままにしておこうと思う。

 でもそれでどこかの要港部が人材不足にでもなるんだったら、真っ先にこの娘を送り返す。俺や中将のワガママで一人の美少女を独占するわけにはいかない。食堂の一件では最低級の失言を連発したのにも関わらず、何故か警戒心が和らいだような気がする。

 

「ハァ……気が滅入るよ。君もそう思うよねー妖精ちゃん」

 

「っ!っ!」

 

 妖精はハンドシグナルを送っている。

 セイビ、ブヒン、タリナクナル、チュウモン、シロ、ゴミ。

 

「え、あ、ごめんねぇ〜すっかり忘れてたアハハハハハハ踏み潰すぞムシケラ」

 

 驚いた顔をしながら出ていった。

 

「ハァ……将兵や艦娘の人数が多くなったから一応改築もしてるし、あまり変なところで路線変更されたくないんだよね」

 

「しかも首脳会議で方針が決まったら今日連絡が入る予定なんですよね?方針が今までどおりだったら……」

 

「荒木大将を担いでる人たちの声は強かった、そして何事もなく今までどおりに要港部を運営できる。めでたしめでたし」

 

「宍戸さん……村雨、怖いですっ」

 

「よしよし、こっちへおいで、今日は俺のベッドで寝ていいからね?」

 

「え、そうなの?僕って寝相悪いから、朝死んでないか心配だけど、村雨を守るためだもん!仕方がないよねッ!」

 

「ごめん村雨ちゃん、やっぱり今の無しで。いやさ、君と寝ると、いつの間にか執務室に侵入してくるようなドンキーコングがさ、おまけで付いてくるなんて思いもしなかったからさ」

 

「フンッ!!!」

 

「うぉッ!反逆罪!反逆罪!」

 

「何をやってるんだか……」

 

 呆れる親潮と微笑みながら書類を片付ける村雨ちゃん。時雨はパンチングスタイルで近づいてくるが、椅子から立ち上がり、ボクサー直伝のシャドーボクシングを行う。

 この異様な光景を誰かに見られたらマズイとは思いながらもやめられないのが現実。勿論その理由は、首脳会議が終わるまで待てなかったからである。

 重大すぎる海軍方針の決定は予想もつかない方向に行くことがある。それを願わずとも、反則的に降り掛かってくるのが現状である。

 

 その予想もしなかった反則的な『2つの』方針が、村雨ちゃんの後ろにあるFAXからガラガラ音と共にプリントアウトされていた事に、時雨とじゃれていた俺はまだ気づかなかった。

 

「し、しししし宍戸さん!!こ、これ!!」

 

「「「え?」」」

 

 親潮、時雨と俺が村雨ちゃんとの間合いを詰めて、彼女の肩越しに印刷されたFAXの文面を読んだ時、混乱しているのか衝撃を受けてるのか分からない感覚が全身を襲う。

 文面はエッセイでもない、パラグラフでもない、一行で済む内容であり、衝撃的な二つの内容の文字列は並行していた。

 

 

 

 

 

 日本海軍東亜ノ開放ヲ視野ニ入レタシ

 

 

 

 

 

 宍戸少佐ハ大洗要港部ノ『今をときめく日本軍将校!まさかの独身!?ドキッ!エリート揃いのお見合いパーティー!』ニ参加サレタシ

 

 


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