整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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なぜこうもうまく行かんのだ?

鴨川要港部、執務室。

 

「中将!これはいったいどういうことですかァ!?海軍首脳会議で何があったんですかァ!?」

 

『……非常に申し訳ない』

 

「なんで俺がお見合いパーティーなんかに行かなきゃいけないんですかァ!?」

 

『そ、そっちなのか!?い、いや、結城大尉が目玉として出るというので、君も出てはどうかな?と……』

 

「なんであいつが出ると俺が出るんですか!?」

 

 執務室には俺の怒涛の怒鳴り声が響いた。村雨ちゃんも、あららっ、と困った顔をしながら書類を渡してくれた。戦闘詳報についての書類は比較的簡単なので、喋りながらでも処理できる。

 

 でも中将との案件は早々には処理できない。

 それはもちろん大洗要港部の地で開催されるお見合いパーティーのせいである。

 

 彼の言い分は、階級の高い者が結婚していないのもどうかと思う……という、「なぁ、お前もそろそろいい歳なんだし、結婚するつもりないか?」と会社の上司に言われるような定番セリフである。ふざけるな、俺はまだ若い。

 結城みたいに股間握手を常に求めている発情期なら分からなくもないし、番組にイケメンが出るだけで海軍のイメージが上がる。でも階級だけで言ったらアンタの息子も独身だぞ、連れてこいよ。

 

 とは言えないのもまたむず痒い話なんだ。

 実は、お見合いパーティーのある大洗要港部には、前々から精鋭を編成した演習艦隊で、演習をしに行く予定だったんだ。

 俺の本目的はそれなんだが、”ついでに”というマジカルワードを使って、短時間だが終わるまで自分も参加しろってことらしい。あと小声で「男女比……」とも言ってたので、なるほど、軍人側が集まりきらなかったんですな?

 要は、両方消化してこい、ということだ。

 

 海軍要塞ってのは一応、命の危機に晒されているんだし、そう簡単に配偶者を決めることはできないし、できればしたいとは思わない。

 

 育成プログラムの既婚者同期Aさんがな?司令官になるために一生懸命勉強して、過酷なトレーニングをこなし、ついには卒業して、更には要港部の司令官まで勤めてな?久しぶりに帰宅したら家が嫁の無双乱交の場となっていたらしいんだ。

 まだ要港部の司令官を続けているあたり、精神は崩壊してない様子だったが、かわいそすぎるし、そもそも結婚のリスク高すぎるんだが。

 今度彼に会ったときは一杯奢ろう。

 同情でもおごらない俺が奢るんだ。彼に祝福があらん事を。

 

「それは百歩譲っていいでしょう。しかし、流石に東亜開放という状況が、好ましい方向に行ってるとは解釈し

難いのですが……」

 

『クッ……すまない、私の不甲斐なさが招いた結果だ……』

 

 日本海軍が東亜開放を視野にいれたし、とは言葉のままで、日本軍による東アジアの進行を意味する。それはまさに、現在の方針を変える、という面で革新派は揺るぎない勝利を手にした事となる。

 

 日本軍は常に言葉では謙遜する。

 だから今すぐ突撃ィィ!!なんて言わないけど、遠回しだったり、ある程度こんな感じにする、的な言い回しだったりするが、今回のは視野に入れるというのは事実上、進軍侵攻を近い将来に行う事を示していた。

 俺の予想だと、少なくても日本国土の小笠原諸島、沖縄方面、尖閣諸島はもちろん、フィリピンやマレー等にも手を伸ばすつもりなんだろう。

 

 まだ俺たちには指示が下ってないが、少なくても横須賀第三鎮守府などは、進軍の用意はしているらしい。第三鎮守府の提督へは遠回しに、革新派はやめたほうがいいように促したが、彼は熱狂的な革新派だったのでやめておいた。

 

 俺は他にも色々な人と話したんだよ。

 大湊警備府の加賀提督とか、柱島の無能提督とかさ。色々根回ししておいて結局これかよ。

 けっこう偉い人にも話し合って、あまりコトを荒立てないのが先決だと口を酸っぱくして言ったんだけどなぁ……。

 

『革新派の方針となるのは、保守派の士官を怒らせる結果となるんだ。これが悪い結果を及ぼさなければいいのだが……』

 

「もういいんじゃないですか?別に怖いことが起こるとは限りませんよ?」

 

『そう願うよ……いや、こうなってしまった以上は、いい方向へと向かわせる努力をするしかない。

保守派の過激派の心情を荒立てるような真似は支度はないのだけれどね……』

 

 保守派も革新派も、集合的無意識が働いているように、全員がその思想に賛同しているのだが、これを裏から操っているヤツが必ずやいるはずなんだ。

 その両派閥の暫定トップは、裏で密かに行われていたであろう暗躍劇を、表の顔として出すことはない。が、流石に候補は絞ってほしい。

 この人は、軍令部や海軍省にも絶大な影響力を持つ人が、裏で暗躍している睨んでいるのだが、そんなの片手で数えられるぐらいしかいないんだよなぁ……まぁ、それはさておき。

 

「安心してください、こうなった以上やることは各提督、将校の感情を抑えることにあります。引き続き、中将のご意向に添えるよう尽力いたしますので」

 

『君がいてくれて本当に助かるよ……方針が決まったことも問題だが、軍令部がすでに作戦準備に取り掛かっているのも気がかりなのだよ……ハァ、では私はこれで失礼させてもらうよ』

 

「ハッ!……は?おいちょっと待てよォ!」

 

 言葉が中将に届く前に、電話が切れてしまった。

 

 すでに作戦準備を始めているだと……?その作戦準備してるのが革新派の首謀者じゃないのか?とも思ったが、後に色々なところで準備をすすめていたのが明らかとなったので、絞り出すのは容易ではないと悟った。

 

 ちょうど書類の整理が終わったところで、村雨ちゃんと親潮に書類を渡す。

 

「司令!司令は本当にお見合いに参加するのでしょうか?」

 

「命令だったら参加しなきゃいけないんじゃない?そんなものに本気で参加するつもりないし、ちゃっちゃと切り上げて、あそこの司令官と一緒に演習して終わり!でいいんじゃない?」

 

「なるほど……」

 

「姉さんたちも張り切ってましたよ!宍戸さんのお見合い姿を撮るために、憲兵さんたちに色々と写真の上手な撮り方とか教わってるところ見ちゃいましたぁ!」

 

「なるほど!そんなことに時間費やす暇があるんだったら、他港との演習に備えろって言ってきてくれないかな?ただでさえテレビに映って醜態を晒すんだからさァ!?」

 

 時雨の宣伝力は絶大だった。

 俺が気づいた時にはすでに、その噂は要港部中に広がっていて、まさになすすべのない状態だった。

 なにがそんなに酷いかと言えば、艦娘たちの陰口だった。

 

 順に、艦娘KRさん、艦娘SZさん、艦娘UKさんの語録。

 

 『やっと結婚相手に会えるんだね!顔はともかく若くて偉いんだから、ヒット率高いんじゃない?』

 

 『お、お見合いに浮かれてるとか、キモッ!キモいんですけどぉ!ふんッ』

 

 『結婚?婚約者ぐらいおらんの?じゃあせめてカノジョぐらい……あぁ〜いそうにないけぇねぇ』

 

 将校らからも色々と言われた。

 

 『マジっすか!最高ッス!祝にボーナスほしいから金くれッスッ!』

 

 『結婚相手にはブカブカセーターワンピニーソォォ!』

 

 『『『提督はホモォ!提督はホモォ!』』』

 

 思い出したら、なんか涙でてきた。

 

「でも、やはり気がかりなのは海軍方針の東亜ノ開放……」

 

「親潮ちゃんは気にしなくてもいいよ、少なくても内部での闘争は起きないし……起こさせないから」

 

 ドヤァ……!

 

「っ!司令!親潮は司令を全力で補佐します!」

 

「よく言った!ところで親潮、整工班が提出した報告書に不備があった事を伝えてきてくれない?出撃回数と資材の消費量が合ってないからさ」

 

「ハッ!直ちに!」

 

 小走りで退出する親潮の黒パン。

 いや、黒パン……親潮、黒パンツ履いてるんだ。

 スケベっ。

 

「あの、宍戸さん……本当に村雨が演習に行ってもいいんですかっ?力不足でみんなの足を引っ張るんじゃ……」

 

「大丈夫だよ村雨ちゃん。不安なときは、俺の袖を引っ張ってくれてもいいからさ」

 

「ふふふっ、ありがとうございますっ」

 

 クゥゥ!頬赤らめちゃってかわうぃ!

 連れて行くメンバーは総勢で6名。通常艦隊編成で鈴熊と四人の白露姉妹を連れて行く。

 

 演習とは所属の違う艦娘と戦うことにあるが、その中身は非常に奥深く、伝統に溢れている。

 表面上重要事項なのは、他の艦娘との交流と、練度上昇である。深海棲艦だけでしか得られない経験と、実際に艦娘と戦って得るものは全然違うので、体験としてはマイナスにならないのがまず2つ。

 だが、司令官の目線で行けば他の司令官との力量を見せつける場でもある。だから単純に実績と練度の高い艦娘だけを連れて行く人もいる。

 

 特にあそこにいるのは、同期の結城大尉である。同期との差は学歴もあるが、積み上げた実績と、世渡り上手かどうかをすべて重ねたもので、総合的に判断される。それを考慮して、俺様の軍法戦略を見せつけてやる……!と、司令官が考えることなんてこんなものだ。

 

 村雨ちゃんを編成に入れる理由はけっして秘書艦だからじゃない。村雨ちゃんは、みんなが前線に出ているのに、自分は秘書艦として働いているだけで、練度が低いことを気にしているんだ。

 もちろん気にするようなことでもないため、気にしないように言ったのだが、艦娘には艦娘なりの悩みやプライドがある。だから練度向上もあるけど、仲間外れにしないためでもある。

 

 私的な理由以外でも、村雨ちゃんは練度こそ低いが、技術的な面ではマニュアルと基礎訓練に沿った忠実なものである。鈴谷、白露さん、時雨のお三方のような、運動神経と持ち前の勘だけでイケるようなやつらとは違い、唯々諾々と物事をこなすので、こういう娘は一人ぐらい入ってくれてもいいと思う。

 もちろん行きたくないというのであれば、話は別だが。村雨ちゃんは頭を上下に振って、行きます行きます!と元気よく了承してくれたので、大洗への演習艦隊に組み込む事を、正式に書類に書いておこう。

 

 村雨ちゃんがだめだったら磯風辺りを指名していただろう。

 磯風は凛々しい風貌とマッチして、艦娘としての裁量は随一である。実績もあるけど、なによりすべてをそつなくこなす辺りがまた要領の良さを最大限に発揮している。横須賀第四鎮守府の蘇我少将かも名指しで称賛されたぐらいだ。磯風は出世するだろうなぁ……と、臨時設立の演習艦隊に関する書類にサインしながら思った。

 

「宍戸さん」

 

「どうしたの?」

 

「結婚……は、まだしないですよねっ?」

 

「逆になんでしなくちゃいけないんですか?」

 

 一生独身でも構わない。

 独身税なんてどんでもない制度が作られでもしない限りは、焦る必要はないだろう。だからそんな心配そうな顔をしないでくれ村雨ちゃん。俺は独身だからって、生物的劣等感をもようすような軟な人間じゃないよ。

 

 それよりも演習艦隊の経路が気になる。

 海路からやて?司令官であるこの俺様が?

 嘘やろお前。

 

 俺たちの港には艦船が数隻ほどある。

 その更に数隻ほどは、人を移動させるために作られたボートサイズの艦船であり、俺はこれに乗艦して、艦娘に引っ張られながら大洗要港部まで行くらしい。

 

 確かにそのほうが早い。陸で行けば数時間にところを、最低でも30分まで縮められるのだ。

 この輸送艦船はコンパクトなだけに、ある程度、深海棲艦の攻撃を凌いでくれる技術が詰まっている。だから遭ったら即死ってわけじゃないし、艦隊に守られているから問題はないだろう。

 

 内心はバクバクして演習に行く夜は眠れなくて、胸に十字架を書きながらベッドでぜぇーハァーぜぇーハァーしていたのは、時雨や鈴谷たちには内緒だよっ。

 

 しかしなにより許せないのが、俺の休日と被せてきたことだ。

 よく考えたらここ数週間の間は忙しくてまともに休暇をとっていなかったのに、更にめんどくさい事が続くのか。

 

 演習バックレたい。

 

 


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