整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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大洗演習

 

「ねぇなんで!?俺ッチ素直だったじゃん!!これまでにないほど誠実な男性見たことないよ!?なんで一人も落とせなかったの!?」

 

「お前わざとじゃないよな」

 

 大洗のお見合いは次の日に持ち越しとなり番組は一旦、休息に入る。

 俺たちがここに来た本当の目的である演習をようやく実行できてワクワクしているのに対して、大洗要港部の副司令は御立腹の様子である。

 必要以上に下ネタで攻めすぎるのは当然ペケだが、なにより自分の給料は風俗とアニメキャラに使っていると豪語していた事が悪い。ここまで来ると”正直なのはいいことだ”という昔からの言葉が,本当にそうなのかと疑いたくなってくる。

 

 大洗要港部、演習場。

 

 大洗の艦娘たちもかなりかわいい娘が多いが、俺の艦隊には敵わない。これからよろしく、と握手を交わしてお互いの健闘を祈りながら、お互いに自分の勝利を信じ切っているフシのある両陣営。

 この演習で学ぶ事は2つ。

 それは前半後半で違うが、前半は前線に出ている艦娘同士の違い。違う要港部で、戦い方が異なる艦娘同士の技術を交換し合う場としては、今日の演習は最高に実のあるものとなる。

 違う性質を持った司令官の艦隊もそれだけでガラリと変わるが、艦隊旗艦による指揮と、司令官の指揮でどれだけ戦況、戦果が変わるかを検証する場でもある。

 もちろん100%正確で、完璧なデータなど原則的に取れないのが現状の中、半実戦的なシミュレーションとしての演習が艦娘の練度向上、そして検証の場として最適である。それに、他の艦娘との交流を繋げる場でもあるので、個人的には練度向上と同じぐらい重要な行事だと思っている。

 

「それでは那智司令官、本日はよろしくお願いします」

 

「あぁ、こちらこそよろし……ん?君は泣いていたあの坊やではないか。どうしたんだ?ここは部外者以外は立ち入り禁止だぞ」

 

「おぼえててくれたんですね!ぼくね、なちさんに、ありがとっていいにきたの!」

 

「そうだったのか。よしよし、いい子だ」

 

「うぅ〜那智お姉ちゃーん!」

 

「うぉ、はははっ、こらこらだめだぞ?男の子がいきなり女性に抱きついては」

 

「ばぶぅー!ばぶぅー!」

 

「「「なにやってるんですか司令官!?」」」

 

 春雨村雨熊野が俺を連れ戻しに来た。那智さんの腰にしがみつきながら、三人は俺の腰にしがみついてる。我ながら何だこの絵面は。

 

「いやだぁ!那智お姉ちゃんと離れたくないぃ!母性ムンムンっッ!バブゥッ!」

 

「あなたはわたくしたちの司令官なのですからちゃんとしてくださいませ!!」

 

「村雨のおっぱいを見ていいですから!!那智司令官に懐かないでください!!」

 

「お兄さんお願いですから春雨を見てください!!」

 

「いやだぁ!バブゥ!バブゥ!!」

 

「みんな宍戸くんの使い方がなってないな〜。宍戸くんを黙らすにはこうするんだ、よォ────!!」

 

「っ─────!!!」

 

 ……吊り人形の糸が切れたかのように落ち、その首を掴まれて、ズルズルと引っ張られた司令官殿は、鴨川要港部の陣地へと戻っていった。

 

「あれが鴨川要港部の司令官、宍戸龍城少佐か。柱島泊地では例の艦隊をものの見事に統率し、既に多くの戦果を上げながらプログラムを次席卒業したという……思っていたのとは違うな」

 

「え、それだけッスか……」

 

「結城、艦隊の指揮はお前がやれ」

 

「え、いいんっすか!?ていうかなんでぇ!?」

 

「前線指揮官としての経験も積ませるために副司令官となったのだろう?それにお前の同期なのだから、お前が相手をするのが妥当だと思うが……」

 

「あぁなるほどー……了解っす!大洗の力、見せつけてやるッス!」

 

 

 

 十五分後に意識を取り戻したとき、その惨事を傍観していた白露さんに「時雨がね?首のところをピコーンってカラテチョップしたんだぁ!そしてね?気絶したの。この白露さんでも、リアルで映画みたいにチョップで気絶する人初めてみたなー!」と聞かされた。

 

(※首チョップで人は気絶しません、絶対に真似しないでください)

 

「小官は鴨川司令長官である。小官の麾下にて武勇を奮うは武人としての誇りと心得よ。艦隊編成の程は如何なものか?」

 

「ほらぁ!時雨姉さんが首チョップなんてするから宍戸さんが変な喋り方になってるじゃないですかぁ!!」

 

「貴官等の胸部装甲は敵艦隊に対して有効打を加えるが、司令長官たる小官の砲塔火力発電にもなり得ると見受ける。小官直々の指揮下にて、小官の大和砲塔の上下整備任務に従事せよ」

 

「言ってるコトわけ分かんないけど、なんか目がいやらしいんですけどー!」

 

「よっと──!!」

 

「ッ──!?あ、時雨、痛いって分かる?わかるね?ファ○クッユゥゥゥ!!」

 

「「「良かったぁ〜!いつもの司令官だぁ〜!」」」

 

 いつの間にか演習準備が整っていたこの頃、快晴は要港部と隣海を悠々と照らしていた。

 深海棲艦の反応は薄く、要港部前の海域で演習をするには絶好の日和であると、那智司令官や俺も晴天に感謝しながら出撃所の外を眺める。

 

 那智司令官は、所謂ホスト的なポジションとして壇上に立ち、そしてマイクを持ちながらその大きな胸を張って簡潔な挨拶をかます。

 

『諸君、那智だ。知らない者はいないと思うが、今日は鴨川要港部から宍戸司令官とその主力艦隊が来港して下さった。もちろんその目的は、貴様らとの演習である。彼らの来航を無駄にしないためにも、予定されている通りに演習を進めるように。以上、大洗対鴨川の演習は二分後とする』

 

『『『よろしくお願いします!』』』

 

 お互いに再度、挨拶をして演習に取り掛かる。

 演習の予定は三段階に別れており、後の2つは通常通りに艦隊同士がドンパチするもので、二段目は鈴谷の指揮下で、三段目は俺の指揮下でするものだ。

 

 初段階はもちろんウォーミングアップである。既にやり終えた準備運動じゃなくて、海上にある的を撃ったり、障害物を避けたりするーー所謂、陸軍でやっているピットランみたいなものだ。特殊部隊は特にタイムとスコアを気にしながら競ったりして、お互いを高め合うのが基本なんだそうだ。

 演習前のこれは正にお互いの実力を見せつけ合う行為である。演習は手の内がわからない相手とするのが基本的に最良とされているが、最低限こうやって見せ合わないと駄目だっていうレギュレーションが存在する。

 

 そりゃ初っ端から柱島の外国艦隊と戦うなんてしたら、初見殺しにも程があるからな。そんな敵が実戦で出ないことを願おう。

 

『では最初は大洗から行かせてもらおう』

 

『ハッ!』

 

 行きます!の掛け声で大洗の艦娘が行ったのは挨拶から丁度二分が経過した頃だった。

 

 的を外したり転びそうになったりもしたが、誠実さを感じる走りで悪くはなかった。緊張して本調子じゃなかったと思えば尚更だ。

 特にこれとった感想もないまま次は俺たちの番だ。

 

「白露、いっちばーん!」

 

「村雨、いっきまーす!」

 

「春雨!行きますっッッッ!!」

 

 白露さんの右腕、右脚の調子は悪くない……と。こういうデータを取るのは提督としても重要だが、軍医さんにちゃんと見張るようにと言われたから仕方がない。成績は流石と言う他ないけど、的はもう少し中心に当ててほしい。かすればいいってもんじゃないぞ。

 村雨ちゃんは逆に、とても忠実に的を射抜いていったが、他のみんなと比べれば比較的にタイムは遅い方である。あくまで自分の艦隊との比較なので、これと言った支障はない。ただいい所だけを褒めて終わり、というわけにもいかず、最低でも各々の長所と短所を一つずつ覚えていく工程が、提督としてどうしても必要だからそれを上げただけだが、実戦となれば村雨ちゃんは本当にいい艦娘となるだろう。

 春雨ちゃんは……すごい、データで見るステータス的には自信がなかったけど、本番に強いタイプなのか。防衛戦のときの強さは、やっぱり紛れじゃないと言うことか。

 

『ほう、鴨川の艦隊は流石と言ったところか』

 

「ありがとうございます那智司令官!那智司令官にそう言われるのは光栄の極みです!!」

 

『これは負けてられないぞ!伊19!エースの力を見せてやれェ!』

 

『はいなの!』

 

 なんだあのクソエロスク水。

 

『イッケェェイクちゃん!いい成績出したら俺ッチもソクソクッッとイクからァ!』

 

『死ねなの』

 

 その暴言は結城副司令を凍らせたが、大きな魚雷と一緒に海水へダイブする姿は圧巻の一言だった。あのフォームの美しさもさる事ながら、海上艦ではない珍しさからくる感情でもある。

 俺の要港部、潜水艦いねぇんだよなぁ。

 

 

 

『へっくちん!』

 

『どうしたのゴーヤ?働きすぎて風邪引いちゃったんだったら、陽炎の方から班長に言ってあげるわよ!』

 

『あ、だ、大丈夫でち!誰かに噂されてたような……あ!もしかして労働神、デウス・デア・アルバイターがゴーヤに囁いてるでち!?』

 

『デウス、デア、アルバイター……!』

 

『不知火、反応せんでええから』

 

 

 

 続いて鈴熊が出撃した。

 予想通り掛け声にみんな笑った。え、成績の方はどうだったかって?まぁまぁじゃないんですかね。

 こっちしか軽空母いないんだし、第一、攻撃型軽空母の良し悪しの基準が鈴熊のデータだけで、しかも二人のステータスそのものがほぼ平行だから仕方がない。

 強いて言えば熊野は防御型で、鈴谷は攻撃型みたいな感じである。成績も若干鈴谷が勝ってるが、ほぼ誤差。

 

 あちらの潜水艦はかなり強力で、艦種によって的の数やルート云々はかなり異なる場合があるが、潜っている事に加えて、使ってるのが魚雷だけだから破壊力がある。

 知らない間に接近されて近距離魚雷発射されれば正に一撃必殺だ。普段は爆雷投射機で即KOだけど、今回はもってきてないし、こりゃヤバイわ。

 なにがヤバイかって、艦娘海戦指南や海軍兵学校の艦娘科では水上艦と潜水艦が両立したときに、潜水艦の方を倒せってルールがあるんだ。執拗に潜水艦にだけ集中したせいで轟沈した艦娘がいたため、現在では改正を検討されている。

 一概に変えられない要因として、接近されたらヤバイ上に開幕爆撃を仕掛けてくるから、これで恐怖感を覚える艦娘もいる。これに対抗できるのが、艦娘の中で最も小回りが効き、ステータス上は比較的に劣っていると言われる「駆逐艦」なんだ。彼女らには対潜能力が備わっている上、爆雷や水中探信を装備できるので、潜水艦だらけの海域だったら無双できる。

 

 整工班出身の提督として、爆雷ってのは小さな爆弾が何百個もジャラジャラしてる装備で、つける時にヒヤヒヤするから、対潜だったら水探をつけてくれた方がこちらとしては気が楽である。 

 

「最後は僕だね」

 

「うん」

 

「これってもしもいい成績とったら極上カルビとかボーナス支給とかされちゃうのかな?チラッ、チラッ?」

 

「は?テメェな……いや、もしもここの成績と、演習で勝てたら考えんでもない」

 

「時雨、行くよッ!!!」

 

 初めて時雨を手玉に取れたように思えた。

 

 水飛沫を浴びながら華麗に水面へと着水する。開始の合図と共に背後がスタートダッシュのブーストで、一瞬だけ大波を作る。

 初撃で出てくる的を見事に命中させ、白露さんや鈴谷同様に走行砲撃という、走りながら撃つ芸達者な技を駆使して次々と的を射抜いていく。

 置きミサイルならぬ、置き魚雷で遠くの的に着弾するのを確認もせずに最後は飛脚しながらのキックで的を蹴り上げた。

 

 その走りは、各々を戦慄させるものである。

 

『な、なんだあのデタラメな走りは……』

 

『時雨さんって言ってたわよね?ファンになっちゃうかも……』

 

『しゅごいいいいい!』

 

 成績は見事に駆逐艦トップである。その強さは知ってのとおりだが、あんな危ない走りはどこで覚えたのか……実戦でやらないように釘を刺さなければ。

 

「ハァ……!ハァ……!やったぁ……一位ぃ!」

 

「ねぇ時雨ぇ、そのぉ、どこでぇ、その走行砲撃とかぁ、蹴り上げるとかぁ、野蛮な技術を覚えたのかなぁ?ぅん?まにゅあるどおりにしなくてもいいけどぉ、ふりーだむわぁだめぇだぉ?」

 

「そ、その……いいじゃん別に!ほら成績一位だよ!?だからその気持ち悪い声やめて!夕立がこうするといいっぽいぽいぽーいって言ってたから真似してみただけだよ!」

 

「あの置き魚雷はなに」

 

「え、あれ?たまたま撃ったら当たっただけ」

 

 要するに運ってことか、確かに運いいもんな……今度スマホゲームのガチャ引かせよう。

 

『走り終えたところで、これより実戦演習に取り掛かる。双方準備せよ!』

 

 準備をするために、一旦出撃所で整備する必要がある。本格的なドンパチが始まる前に、各々の司令官が海上を安全な場所から見渡せる所に行かなくてはならない。

 俺は先立って、その司令塔へと向かう。

 

「宍戸司令官の艦隊は流石だと言えるな。正直、我らの艦隊で太刀打ちできるかどうか不安だ」

 

「自分の力ではありませんよ那智司令官、彼女たちが本当に強いので、こちらとしては仕事を奪われている気分でして……」

 

「ハハハ、何を言うんだ。君の指揮下にいるからこそ、本気を出せるのだと、私は思う。司令官の人徳とは案外、実績と作戦の成功にも関わっているんだぞ?」

 

「そういうものでしょうか……」

 

「あぁ、だから自信を持て、な?」

 

「うぅ〜、那智お姉ちゃぁ〜ん!!」

 

「うぉ、はははっ、本当に困ったヤツだなぁお前は」

 

「「「…………」」」

 

「あ、あれ、みんな、なんで、ここにいるのかな?し、出撃所はあっち───」

 


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