整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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補佐官となる、祖父からの手紙

 

 

「「「……え?」」」

 

「は?」

 

「すまない……突然で驚くのも無理はないな」

 

「い、いいえ!自分こそ失礼な返答をしてしまい、申し訳ありません!」

 

 思わず素で、は?と返してしまった。多分俺の脳が全力でその質問の詳細を聞きたがってるんだろう。三人の女の子たちは目を見開きながら俺と提督を交互に見ていた。

 

「ですが、何故ですか?大規模作戦を実行するに当たって、鎮守府に補佐官が居ない場合は、それを埋める為に臨時補佐官として大本営から将官或いは佐官が送られるはずでは?」

 

「そうなんだが、斎藤中将が君を補佐官に推薦していてね……中将の言う事なので無下にはできんのだよ」

 

「そうなんですか」

 

「宍戸くん何かしたの?」

 

「会議で座ってただけ」

 

 たしか新しいルールでは、作戦中の臨時補佐官は少尉以上の将校なら誰でもいいらしい。艦隊運用の実務経験や試験、そして資格等から判断される事によって自然と人材が絞られるが、提督が指名すれば決められる。

 期間限定のマイナーな補佐官の仕事を多くに経験させることができて、大本営からの補佐官が不足している時に経験のある人がいると役立つ。上位の将校を目指す時に一度でも経験していると大きなメリットになる。

 この実務をクリアして、提督に認められれば海軍大学校での科目を数日分飛ばせる豪華特典付き。

 

 一度俺たちの班長が、来る筈だった補佐官が急病で倒れて代理をする事になった。しかし班長は、頭を回すよりボルトを回す方が性に合ってるらしい。それ以降、急な事が無い限りはやらないらしい。そう考えると、どっちにしろ順番的に俺がやる事になるんだろう。

 バイト研修みたく、先人から教えてもらえばいいのにと思ったけど、ほぼオペ仕事みたいなもんだから練習と本番以外上達の目処はない。

 第二鎮守府だし、第一鎮守府みたいに三、四人も必要としない小さな場所では、練習として最適だろうけど。

 

 

「補佐なんて初めてですし……このような大事な作戦に自分が出しゃばる訳にも……」

 

「何を言うんだ、君はまだ若いんだからこう言う経験はチャンスがある時に積んでおいた方がいい……それに、この作戦の立案には君が協力したと聞いている。私なんかより余程この作戦を理解しているはずだ」

 

「で、ですが……」

 

「それに、この鎮守府に所属している君なら大本営から来る補佐官よりここ艦娘の事を熟知している……君ほど作戦補佐としての適任者は居ないはずだが?」

 

 

 ん〜そんな事言われたらイェスしか言えないよ。それに断る口実も見つからないし、確かに補佐官の仕事を経験しておいた方が後々有利かも知れない。

 そう、そうやっていい人材と化したヤツは大抵コキ使われるのが関の山だ。優等生がいつも先生に当てられたり、面倒ごと任されたりするのと同じだ。

 ……よくよく考えてみたら、蘇我提督に限ってそれは無いはずだし。

 

 

「……そう押し切られてしまったからには、やらない訳にはいかないですね。分かりました、今回の作戦では提督の補佐をさせて頂きます」 

 

「よく言ってくれたね。大規模作戦の発令は韓国海軍とロシア海軍の返答次第だ、本作戦までは補佐官としての仕事を教えるから、それまで副班長の仕事は時雨中尉に任せなさい」

 

「ぼ、僕ですか!?」

 

「なにか不満かな?」

 

「い、いいえ……時雨中尉、謹んで整備工作班副班長をさせて頂きます」

 

「よし決まりだ!明日から宍戸くんは工房での仕事を済ませた後、この執務室に通いなさい」

 

「ハ!」

 

「それでは、解散!」

 

 

 

ーーー

 

 

 

 ー部屋。

 

 

「やったじゃないですか!提督の補佐ですよ補佐!しかも大規模作戦の時によ!?時雨姉さんもそう思うわよね!?」

 

「そうだね、そのお陰で副班長に任命されてこっちとしては仕事が増えたとしか感じないんだよね、どうしてくれるの宍戸くん?パフェ奢るだけじゃ済まさないよ?」

 

「クソ……折角の休みが、仕事量倍に大変身しちまったじゃねぇか……」

 

 執務室を出たあと、俺は時雨と村雨ちゃんと一緒に俺の部屋に来ていた。部屋はこれと言って特徴はなく、木質の床と天井、そして機械類は主に机の上のパソコンと言うシンプル仕様。

 机の上で倒れ込んでいる俺と、ベッドの上で跳ねたり背伸びしたりする二人は楽しそうに今日の事を話してた。

 休めなかった分の有給を取ろうと思ったら今度はこれかよ。

 

「ノーと言える日本人になるんじゃなかったの?」

 

「あれは流石にNoとは言えないでしょぉぉぉ……なんで俺なんだよぉぉぉ……!」

 

「ほらっ、宍戸くんカッコイイって村雨が言ってるよ!ほら見て村雨の女豹のポーズっ」

 

「うっふぅ〜〜ん」

 

 横目でも見えるド迫力な谷間は圧巻の一言。真ん丸としたケツを突き出してる村雨ちゃんに飛び付きたいけど、エロい身体しておいてそれを許してくれない。

 無駄に艶めかしい誘い方しておいて許してくれないと思うとムカムカして来て、再度頭をテーブルに伏せる。

 

 コンコンコンッ

 

「入ってどうぞぉぉ……」

 

 

「ちーっす!宍戸っち元気して……ないっぽいね」

 

「「「鈴熊!」」」

 

「時雨さんに村雨さんまでその呼び方……多分鎮守府中に定着してしまったかもしれませんわね。ハァ……」

 

 ピースサインを出しながら入ってきた鈴谷と、溜息を出しながら入ってきた熊野。

 

「一体どうかしましたの?いつもの元気は何処へゆかれたんですの?」

 

「実は宍戸くん、大規模作戦で提督の補佐をする事になったんだ」

 

「大規模作戦で提督の補佐!?凄いじゃん宍戸っち!……えっと、でもなんで机に伏せてんの?」

 

「あまり乗り気じゃないみたいなんですよ〜……カッコイイ宍戸さんの姿、見てみたいのにぃ……」

 

「書類仕事で疲れて流石に力でねぇ……」

 

「根性がないですわね」

 

「ナンだとコラァ!?」

 

「あ、あるじゃありませんの……」

 

 そう勢い良く立ち上がった後、糸が切れた人形のように机に伏せる。目の前にあるノートパソコンでアニメを見る気も起きないぐらい疲れ、休日を逃したと思うと気が滅入る。

 だが折角来てくれた珍客をそのままにしておくって言うのも何なので身体を起こす。よく考えれば、女子四人が俺の部屋に来てくれるなんて男としては光栄な事なんじゃないか?

 そうポジティブに考えると人間は力が湧くから不思議な生き物だな。

 

「んしょっと……それでどうしたんだ鈴谷たち?滅多に滅多に部屋に来ないお前たちがココの来るって事は俺に何か用があるんじゃないのか?」

 

「あぁそうそう!危うく忘れそうになるトコだったよ〜!はいっ、お手紙届いてたよ!」

 

「手紙?」

 

 鈴谷が差し出してくる手紙を取る。領収書か?それともラブレター?

 

「……って、これ俺のジジイからじゃん」

 

「「「ジジイ……?」」」

 

「じじー……って事は、宍戸っちのおじいさんだよね!?イマドキ手紙とか渋いねぇ〜」

 

「即時無料で伝書を届ける事を可能とした万能機器、スマホがこの時代にはあるってのに未だにまどろっこしい事してるんだよぁあのジジイ……これだからオールドタイマーは」

 

「そこまで言わなくても……私だって、両親には手紙を書きますよ?」

 

「村雨に続いて僕もだね。何でかはわからないけど、手紙ってなんか良くない?」

 

「分かりますわその気持ち!わたくしは書いたものを写メにとってラインで送ったりしてましたわね。まどろっこしいと言われて、直接ラインにしましたが」

 

 ここにもオールドタイマーがいる。

 

「それよりも早く読んであげたら宍戸くん?」

 

「あぁ」

 

 

 『龍城よ、如何お過ごしだろうか?提督にはもう成れたか?海軍中尉だったワシを見習い、これからも精一杯御国の為に尽くせよ。できることなら帰ってきてワシを労え。お前の顔を久しぶりに見たい。返信期待しているぞ。

 

 追伸、ワシは今年で88なんじゃが、どうやったらまた股にある眠った龍を勃たせることができるか、できれば教えて欲しいぞ。現代の技術進歩に肖って見ようとおもっての、それも不可能じゃないと聞くぞ。キャバクラで会ったミサキちゃん(33)が頑張ってくれたんじゃがーー』

 

 

「持ってきてくれてありがとうな鈴谷たち……ふんッ!」

 

「あ!なんで破るんですか!?」

 

「本文より追伸の下ネタの方が文量多いとかちょっと引いたから、ついね……」

 

 それに提督になるのがそんなに早かったら誰も苦労しねぇと思うんだけど。つーか、最終階級が俺より下なくせに見習えとはどういう了見だ?88歳なら大人しくしてろって感じなんだけど。

 あと、名前の後に生々しい数字入れるのやめろ。

 

「ハァ……分かった。まぁ明日から全力で頑張る感じなんで、いい加減にベッドから退いてくれませんかね時雨さんに村雨ちゃん」

 

「嫌だ、動きたくない」

 

「イ・ヤ・ですっ!ふふふっ」

 

「じゃあ一緒に寝る?」

 

「「退くよ(きます)ッ」」

 

 ……そんなに強く言わなくてもいいのに。

 


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