整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん
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彼女は大淀、軍令部次長

元帥……を……討て……?

 

「なるほど、ゲームの話ですね。ではこれで失礼します」

 

「だめです」

 

 出口はムキムキッに固められており、後ろの扉以外に退路はない。

 

「……大淀少将からのお言葉、一言一句、不肖なる自分の脳内に叩き込んでみせましょう」

 

「フフフ、そういう言い回しは嫌いではありませんよ」

 

 でもそのあざ笑う感じ俺すきじゃないです。

 クスクスと笑う大淀次長の目は笑ってはいなかった。

 これだからエリート幕僚は……と、本人の前では絶対に言わない暴言を、今のうちに心の中で吐いておこう。

 大淀次長はとんでもないことを話していた。

 元帥は艦娘と八丈島で生きていた。

 そしてこの元帥をうてという命令だ。

 うてとは……討伐の『討』の字を使って、討てである。

 

「元帥を討伐……とは、どういうことでしょうか?」

 

「だから言ったとおりですよ。八丈島に亡命した海軍元帥及び艦娘を撃破してほしいんです」

 

 このように、その理由そのものを素直に白状してくれない。

 しかし現時点で分かることは、大淀次長が立てた作戦……八丈島出兵は多分、その元帥を倒すためのものだったのだろう。そしてそれほど大きなことをするのは、個人的な理由だけでは済まされないし、ここまでできない。

 そして変なところで有能なマスコミがこの情報を得ておらず、未だに元帥が行方不明で、官僚襲撃事件の真相は捜索中であると報道している中で、彼女がこれを知っているということは……彼女は海軍を大きく揺るがす革新派の先鋒である可能性は高い。

 

「……大淀次長のおっしゃることが本当であることを仮定しても、鴨川要港部だけで、あの前線艦隊の花形と呼ばれた連合艦隊司令長官及び、麾下の艦隊に太刀打ちできるはずがありません。それにーー」

 

「別にあなたの要港部一つで撃破しろ、とはっていませんよ?ふふふっ」

 

「…………」

 

 いまわかっちゃった、俺って自分のことこねくり回す人あまり好きじゃないんだ。

 

「あなたにこの極秘事項を申し上げた理由をお教えしますが、もちろん元帥が生きていることを含めて、このことは他言無用でおねがいします」

 

「聞きたくないので断ってもよろしいでしょうか?」

 

「ダメです」

 

 チッ……クソ。

 このことを世間に公表しない理由は単純に考えれば分かる話だが、そんなことをしたら国民からも海軍内部でも反発が起こり、なおかつ士気の低下に繋がるからだ。

 

 もちろん通常は、こんな反乱が起きていれば自然と知り渡るし、仲間を集ったり、それによって起こるこちら側のデメリットを最大限まで引き伸ばす努力をするだろう。

 つまり反乱の首謀である元帥さえ布告しておらず、できるもんだったら、一部が知る事項として処理できることとなる。追い出されたのか、自分から出ていったのか、そもそもなぜ元帥は反乱していると布告をせずにいるのか……なぜかはわからないが、あの官僚襲撃事件がおこった直後に逃げたと考えると、とてもじゃないが好ましいとは言えない。

 

 普通元帥が、自分の最強艦隊を引っ張って八丈島で構えてるなんて、恐ろしすぎて行きたくない。

 そんなのに太刀打ちする命知らずは誰になるんだろう?本土を襲撃するのだろうか?最悪、艦娘同士の戦いになるのだろうか?と、不安が将兵の頭を過ることになる。このことはもちろん海軍内部の誰も……少なくても、ベラベラ喋ったり騒ぎ立てるようなヤツがいないのであれば、このまま上手く黙っておくのがいい選択だろう。

 

 そしてできれば黙ったまま消す……あぁなるほど!論理的に考えると、人に頼んでひっそりと深海棲艦として殺してもらうのが、実は一番いいんだ……うわ、俺マジ最低。

 

 そしてそんなこと理論上はできるけど、かなり無理がある。うん、やっぱり辞退しようーーなんて言われたら脅迫されるかも知れないから、この時点でおれ詰んでる?

「なぜ少官にそのような不名誉ながらの大役を?聡明叡智なる大淀軍令部次長のお目に掛かるに至った経由を、見識浅き身にお教え頂ければと思います」

 

「結城大尉から、あなたは私たち革新派と、保守派を取り持とうとしていることを聞きました」

 

 あのクソ野郎、あそこで殺しておくんだった。

 だがその後、「嘘です、彼に盗聴器をつけていた部下が、私に教えてくれました」と付け加えてくれたので、友人殺しから救ってくれたことは感謝しておいてやる。

 

「だからと言ってあなたをどうこうしようなどとは思っていません。私はあなたと取引がしたいだけなんです」

 

「小官は多少は学のある身だと自負しているつもりですが、取引とは互いに利のある両者がそれに同意して初めて成立するものだと覚えております」

 

 無闇やたらに利を押し付けて利を得るのは押し売りというのです……と言おうとしたがやめておいた。

 

「ずいぶんと反抗的ですね……しかし提督、将官になりたいと思うほどの向上心のある方なら、それぐらい気概と強気がある人でなくてはならないですからね」

 

「っ!?な、なぜそれを……」

 

「それは結城大尉の口から聞きました」

 

 あの売国奴、処刑決定。

 

 大淀少将は俺にこのことを話した理由は複数ある。

 まず、立身出世を狙っている俺の援助をする名目で、その代わりに元帥を討て……と、ある意味、体のいい道具として利用できる人材だと思われたんだろう。

 

 幸いにも、元帥艦隊は失敗した深海棲艦の迷彩を被っている。

 失敗した深海棲艦迷彩とは、深海棲艦と同じような格好で欺こうと開発部が試み、失敗に終わった迷彩のことである。つまり、深海棲艦にはまったく役に立たなかったが、艦娘や人間の目だったら欺ける。

 なんでそれを着ているかは定かじゃないが、艦娘たちが戦っても、元帥の艦娘と戦う意識はなく、その辺は問題はない。

 大淀次長は横須賀第一鎮守府所属の艦娘のデータを持っており、それぞれの艦娘の弱点を知っているので、俺にはそれを使って倒してほしいとのこと。

 

 鴨川要港部は規模はともかく、戦果が上々であり、俺の戦略眼と、士気を富んだ艦娘たち、何より演習で参加していなかったので無傷である事を含めれば、期待値が高いらしい。ついでにいうと、鴨川が一番立地的に近いからと言うことも含めているのだろうか。

 

 革新派という言葉が聞けた以上は大淀少将は派閥に絡んでるのは間違いないが、独立した意思と野望を持っている。その態度や冷静さからみて、なんとなくそう思っただけだが、「ちなみに、中将はこのことを知りませんよ」と言われたので、彼の知らないことを知っている時点でより疑心が増した。

 彼女の考えが革新派の考えと合致しているのかどうかと言われれば本人にしか分からないが、何れにしても、中将へ信仰心があるようには見えない。

 

 でも中将を元帥にして海軍大臣にしたいのはほんとうかもしれない。計算上、自分の出世に繋がるかともかく、忠実な部下という名目で押し上げれば、少なくても彼女に損はない。

 中枢部を自分が所属する閥に侵食させる……日本軍もアメリカ軍も中国軍も、いつだって内部闘争中にいるのは変わらないのだろう。

 

「あなたの鴨川要港部を中心とした艦隊を編成するに辺り、他の要港部司令官の麾下の艦娘も使えるようにするため、那智司令官を作戦参謀に、そして前線に出る代わりに、あなたを中佐に任命してさしあげます。作戦が成功すれば、近々行われる海軍将官会議であなたをそのままにすることを約束します。その前に将官を納得させる実績としても、引き受けるのが懸命かと思いますが」

 

「中佐に……しかし自分の同僚には、自分より優れた才能と力量を持つ方が大勢います。これらを無視して自分だけが昇進を受けるなど……」

 

「前線指揮官として立つのですから、別に不思議なことでは無いはずですよ?それに舞鶴方面の秋津洲司令官は中佐になっています」

 

 え、あの人なにしたんだ?

 斎藤中将よりも、よっぽど早い段階で昇進できるのか……しかもこの作戦一発で。

 

 日本軍にはクソみたいな進級実役年齢というものがあった。進級するのに必要な在籍期間のことを指しているんだが、俺が軍人になる頃はすでにそれは廃止されてた。

 深海棲艦の出現時の混乱で死者は多く出たのもあったが、これの廃止には斎藤中将や、荒木大将と言った著名な軍人の働きが強い。だから今までよりも早く昇進する人も増えているし、その分その二人に尊敬と敬意を払う青年士官、将校が多いのは必然である。

 

 めっちゃ早く昇進できるチャンスを目の前に、武者震いを起こしそうだったが、よく考えたら昇進しても最年少記録じゃない。

 つまり、前にもそうやって昇進したクソ野郎がいたことになる。そう、たとえ俺が今回の申し出を受けたとしても、それより早く昇進したクソ野郎が過去にいるのだ。

 

 そう考えると、別に大したことじゃないと思い、急にクールダウンし始めた。

 しかし同時に、考える冷静さを与えた。

 

 もしも大淀次長の要望を引き受けたら、今後秘密を握られて大淀次長の言いなりとなる可能性がある。

 おれ、誰にも手綱を握られないように頑張ってきたのに……俺、孤高の戦士で、立派な提督になりたかっただけなのに……こんなメガネの言いなりになるのか‥‥っ。

 

「秘密を握られ、手綱をも握られるのは嫌、というところですか?」

 

「…………」

 

「フフフ、私はそんなことはしませんよ。取引だと言ったでしょう?これは一度の取引であり、契約でも協定でも、ましてや隷属でもありません。だから涙を拭いてください気持ち悪いです」

 

「大淀次長、本当に何が目的なんでしょうか?小官がこの制服を着ている以上は、この制服の純白に則り、清廉潔白な軍人を心がけています。元帥が生きていらっしゃるならば、討伐作戦として再立案をしたほうが良いかと思います」

 

「軍令部も海軍省も、それを望んではいないでしょう。それに、誰かがやらなければならないことでもあります……謀反者ではありますが、彼のような人物に、反逆者として不名誉な死はなるべく遂げさせたくはないのです」

 

 やっぱり元帥ってあの襲撃事件に関わってるのか……マジ怖え。

 

「それでも、部下に危険な任務を……増しては、元帥及びその麾下の艦娘に対して攻撃を仕掛けるだけでも心苦しいのに……」

 

「もちろん、このことを他言無用という条件付きですが、考える時間は十分に与えます。幸い作戦で残っているのは作戦参謀長と前線指揮官だけであり、他のことを全て決めてしまえば、前線指揮官の仕事は後日から決めることも可能です。あなたがこれを成功させてくれれば、麾下の艦娘にも一階級昇進を与えるつもりです。それ以上を望むのならば、できる限りは検討しましょう」

 

 斎藤中将も大淀次長もそうだけど、この人たち海軍省へのコネクションすげーな。他言無用で済ますんだったらさっさと断らせて俺のこと、この軽い軟禁から開放してくれませんかね?

 

「……自分がこの作戦を引き受けるかどうかはともかく、革新派と保守派はいまだ健在。保守派主流だった方針が一気に逆転してしまった以上、できている亀裂に好ましい影響を与えるとは考えにくく思います。しいては、大淀次長には闘争の火種を消していただければと思います」

 

「これ以上の内争の危険性があると思うんですか?」

 

「派閥ができるとき、まずは二手に分かれます。片方が少数派で、もう片方は多数派です。現状で多数派を打ち破る術として、少数派はしばしば荒立った手を使うことは、歴史が証明しています。成功と失敗が混雑する事実が、少なくても彼らにそのチャンスを盲信させます。もちろん内戦で国は滅びません。しかし、どの派閥が主導権を握ろうが、両閥共に疲労し、国全体の益を考えれば明らかに損となるのは先人らが示しています。犯した轍を踏むことを、中将はおろか、総長も望んでおられないでしょう。つきましては、スムーズに責務を全うする為にはなにが適切か、聡明な大淀次長ならば判断を誤らないと、小官は思います」

 

「なるほど……まぁ、考えておきましょう」

 

 よし、クッソ面倒くさい中将への面目が立つ。

 

 まぁどのみち軍令部の作戦を否定する権限はない。俺が考えなくちゃいけないのは、受けるか受けないかよりも、元帥艦隊の弱点があるデータをどう有効活用して、どう被害を最小限に留めるかだ。できればみんな軽傷で帰ってきて「失敗しちゃいましたぁ~!てへ」的なノリで他の誰かにあとのことを押し付けたい。無能だと言われてもなんでも構わねぇ、柱島にいる最強無敵外国艦隊もってこい。

 反乱軍の討伐なんて誰がやりたがるかボケ。この時点で大淀次長に対する答えは「考えておきます」でいいだろう。そもそも東亜開放なんて方針があるから問題なんだ。

 

 世間では新種深海棲艦の登場ーーと言う名の元帥艦隊のせいで半分は不安を募っているが、もう半分はまだ税金数千億(イージス)を吹き飛ばした事によりバッシングの嵐だ。

 この際、海軍が税金泥棒か、陸空軍の存在が税金の無駄遣いかなんて議論は、軍令部次長テーブルの上にある作業服ほど、どうでもいい。いや、その作業服めっちゃ気になって仕方がないんだけど、よく見たら俺が前に着てたような整備工作兵の服だ。

 

「こほん……一つ聞きたいのですが、海軍首脳会議で一体何があったのですか?参加できなかった身としては、急遽方針が変わったことへの疑問の念を持ちます」

 

「海軍首脳会議……ですか。いま思い出しても、笑いが止まりませんよ……フフフ」

 

 俺が作戦の受諾したことで、自分の思い通りになったことがそんなに嬉しいのか、思い出し笑いをしているのか、本気で楽しそうに口元を押さえる大淀次長。

 

 

 

 『どういうことだね君たち!?みんなはともかく、大淀次長まで海外進出に……』

 

 『何がいけないのですか斎藤中将!?あなたが教えてくださった素晴らしい日本を再生し、創り、国際的な権力を高める事に繋げるのは、今しかないんですよォ!?ねっ、明石〜っ?』

 

 『そのとおりです!もっといっぱい資材がほしいです!』

 

 『明石少将まで……これでは相違ある思想の衝突が……』

 

 『まぁまぁ落ち着いてください!ご安心を!中将が思っているようなことは起こさせませんから!』

 

 『し、しかし……』

 

 『確かに言い分は間違ってないな!部外者が口を挟むのもなんだが、この子達は斎藤くんの思想に感化されてそう言ってるだけだし、第一、素晴らしい思想を作った本人がそれを否定してどうすんだよ』

 

 『クッ……で、ですが』

 

 『……海外進出には、賛同できぬッ』

 

 『荒木大将……!』

 

 『は?なにを言ってるんですか?もうやりたいことはやったでしょう!?今度は斎藤中将のしたいことをやらせてあげましょうよ!?ね〜明石っ〜?』

 

 『そうですそうです!』

 

 『いや、別に私はしたいなどとは……』

 

 『斎藤中将、荒木大将、実は私達、軍令部と海軍省のとても屈強な方々が、あなた達を狙っているのを阻止していたんですよ?彼らを放てば今頃あなたがた英雄は……ちなみに、彼もその一人です』

 

 『元舞鶴第二鎮守府所属の整備工作班班長、現在は海軍省第二課所属の中佐です。好みは、スレンダーな中年男性か、くまさんみたいな人ですっ』

 

 『『!?』』

 

 『まぁ、分かってもらえましたか?』

 

 『……脅しには、応じぬッ』

 

 『因みにご子息である荒木連龍大佐にも魔の手が』

 

 『許可するッ』

 

 『あ、荒木大将ォッッ!??』

 

 

 

「は、班長……まさか海軍省にいるなんて……!!ようやく出世したんですね……!!ううぅぅ……!!」

 

「反応するのはそっちなんですか……」

 

「え、じゃあ軍令部総長っていま隣の部屋にいますか?ちょっと殴ってきてもいいですか?」

 

「彼はいま海外にいます。というより、そんなことをしたら不敬罪どころではないですよ?」

 

「法律の罪よりも、人間としての罪に耐えられるか心配なのです」

 

 大淀次長は膨張しているのだろう。そんなことで俺たちが尊敬するカリスマ中将、大将が屈するわけがない。

 

 多分アレだ、賛同する将官が多すぎて制御のかけようがなかったんだ。

 

 もし俺が熱狂的革新派であり、弁論で敵手をねじ伏せる場合、荒木大将の日本要港部設置は成し遂げ、国防概念をある程度満たせたがその維持が大変であることを話題に上げる。

 資源資材の運用は、未だに資源枯渇に悩むこの国が、これ以上ただただ防衛をし続けるわけにもいかない。大陸国が流通をストップすればたちまち危ない状況になる。もちろんそれが起こらないように、防衛を支援する代わりに、資源を分けてもらうという、防衛経済協定を確立しているのは事実である。

 だが協定とは所詮、本気で信頼し合えない国同士が、お互いに利があるからするものであり、片方に必要性がなくなれば破棄される可能性も出てくる。

 国際的に弱腰な政治家たちに取って代わって、情勢が悪化する前に、少なくても”交渉材料”は集めておこう……といえば、多分黙らせられるし、少なくても聡明な大淀次長ならこのことを首脳会議で上げただろう。

 それに八丈島とその先にある島々には艦娘稼働を担う資源が眠っている。その点を突かれれば、今回の作戦実行は失敗を避難はできるが、攻略作戦そのものに文句は言えないだろう。

 

 わかったことが二つある。

 それは革新派が海軍の中枢を握り、ないしは大淀次長が革新派が中枢を握っている事になる。これに対抗できるのは、事実上カリスマ性のある加賀提督とかいう保守派であり、それが異を唱えて内部闘争が過激化すれば……中将の慧眼通り、とてもまずいことになる事は明らかだ。

 もう一つは元帥艦隊は今は絶賛反乱中で、しかもごく一部しかそのことを知らない状態にあること。

 

 しかし疑問も残る。

 大淀次長をここまでさせるものは何なのか?この人にとって中将はただの飾りだけど、そもそも何が目的かはさっぱりだ。

 

 そんな情報の得ようもない疑問から逃れるように、俺は部屋を見渡す。部屋には殺風景さが残るが、テーブルには異様な場違い感を放つ整工班の作業服と、その隣にポツンと置かれた写真立て。

 写ってるのは大淀少将と……もう一人は誰だろう?

 

「……なにを見ているんですか?」

 

「も、申し訳ありません」

 

「この写真が気になりますか?」

 

「実直に申し上げれば……大淀次長の隣に写っている女性も、美人ですね」

 

「美人?……フッ」

 

「え」

 

 鼻で笑われた。

 

「この娘は美人って言葉だけで表現できる娘じゃないんですっッッッ!!!」

 

「っ!?」

 

 突然感情を荒げた大淀次長は、手にとった写真立てに写っていた女性を撫で始め、軽く唇を当てた。

 行為そのものにもゾッとしたが、ねっとりとした動きで、まるで自分の世界に入ったかのような表情でニヘラ笑いをする大淀次長が、なんとも言えない不気味さを醸し出す。

 

 そして早く帰りたいのに、頼んでもいない事をベラベラと喋り始めた大淀次長の目は、ここから遠い所を見てるように、薄っすらと濁っていた──。

 








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