整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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アカシトアタシ

 明石とは昔からの親友だった。

 

 彼女の純粋で、キラキラした笑顔を見るたびに、私の心は癒やされていた。

 

『主席卒業おめでとう!これからもよろしくね、大淀っ!』

 

『うん、よろしくねっ!』

 

 過去の記憶が甦る。

 色々な人を蹴落として、彼女までもを踏み台にして主席になった私を、明石は優しく迎え入れてくれた。

 嫉妬と羨望もあった。

 闘争と馴れ合いもあった。

 協力も謀略もあった。

 海軍の中枢で働くのはとても大変だったし、秘書艦としても働いて、周りの人があまり受け入れてくれない状況に、私の精神力は次第に疲労していった。

 

 だけど、そんなの疲れる私の寂しい心は、明石声を聞くと不思議と癒やされた。

 

 いつも寝るときはこれを聴きながら寝る。

 

 ねぇ明石?私のこと、好き?

 

 ──うん!大好き!

 

 …………。

 

 

 ──うん!大好き!

 

 ──うん!大好き!

 

 ──うん!大好き!

 

『……ぐへへへェ!明石の催眠ボイスヤベぇマジサイコォォォ〜……!』

 

 一日最低でも十回はメールした。

 

『……十分経っても返事が来ない……ま、まさか浮気!?いや、もしかしたら何かあったのかも……!』

 

 ごめん大淀!仕事中だった!

 

『なんだ仕事かー!フフフ!驚かせちゃって〜このこのぉ!』

 

『……あれ、大淀大尉じゃね?』

 

『なんかやばい雰囲気マジコワ……』

 

 明石の事になると顔がニヤけると周りからは言われてたし、陰口で気持ち悪いとも言われたことがある。

 でも、そんなのは気にならなかった。明石の事を考えると元気が出て、周りの事なんて気にならなかったからだ。

 

 人はストレスを感じたときにお酒を飲む、遊ぶ、ゲームをする……私にとって、明石のことを考えるのはそれと同じぐらい大切で、自分を奮い立たせる精神安定剤だった。

 

 明石とは今でも、そしてこれからも親友でありたいと思った。明石いがいの友達はいらない、明石さえいればいい、私達を邪魔するモノは殺す。

 明石の邪魔になるモノは徹底的に叩くし、それが親友の務めだと思ってる。

 だって、友達だもん。

 

 友達を想うなんて、当たり前でしょ?

 

 そう言ったら、明石も賛同してくれた。これはもうケッコンカッコセック……いや、明石との関係はそんな淫らなものじゃない。

 明石との関係そんな薄っぺらい、コンテンツの流行が終わったら靴替えされるような下劣で短命なモノじゃない。

 もっと崇高で、純粋で、清らかで、愛らしくて、素敵で、永遠でなくてはならない。

 

 だから私は明石の事を勉強していた。そのせいで海軍大学校時代での成績は次席だったけど、代わりに明石が主席になってくれたからむしろ嬉しかった。

 明石は、私が彼女よりも頭がいいと思っている。

 だからあのときは本当に心配された。

 明石に心配させた、その事だけを悔やむ。

 

 だけど実りはあった。

 明石の好み全般はもちろん、スリーサイズ、初潮、生理周期、ホクロの数……明石大百科を作ることに成功したのだ。

 だけど、これだけじゃ、私の心は満足しなかった。そんな事を考えていた頃、明石は彼女が着ていた作業服を私にくれたのだ。

 

『明石、この作業服って……』

 

『え、そこにあるやつ?う〜ん古くなってるし、洗濯に出し忘れたのだから捨てようかと思ったんだけど……』

 

『も、もらってもいい!?』

 

『え?う、うん、いいけど……』

 

『大丈夫!一生大切にするから!』

 

『いや、使うんだったら雑巾にでもして捨ててほしいけど……』 

 

 そう、私が求めていたものを、明石が完璧なタイミングでプレゼントしてくれたのだ。これでわかった。私達は心でつながっているんだって。

 

 それを執務室に置いて、度々嗅ぐ行為を繰り返していた。

 

『明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石…』  

 

 気持ち悪い?そんなことない。だって純愛だもん。純愛を気持ち悪いなんていう悲しい人は死刑。

 親友への純粋な愛。アガペーもエロスもフィリアも超越した……そう、これは明石愛である。

 

 ……だけど、明石が日本統合造船の社長を兼任し始めてからは、私との時間がなくなってしまった。

 

『明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石…』  

 

 電話に出る回数も減った、自撮りの超かわいい写真を送ってくれる回数も減った、メールを送ってきてくれる回数も減った。

 私の心の穴が空いた……そう感じていた時、またしても明石は救いの手を差し伸べてくれた。

 

『この本読んでみて!』

 

『この本は……』

 

『結構前に、公園で女の子にもらったものなんだけど、すっごくためになるからっ!読み返してみたら結構いまの日本に当てはまっててさぁ!』

 

『……うん、確かに面白いかも』

 

『うん!この国も、こんな風になったらいいのになぁ〜』

 

 私が明石の言葉を聞いたとき、まるで電撃が体中を走るような感覚に襲われた。

 

『……こういう国にしたいの?』 

 

『うん!そうすれば私の方も、もっと資材が取れるし、もっと開発ができるもんね!』

 

『……明石、こういう国を作るために、頑張ろうねっ』

 

『うんっ!』

 

 本の内容はかなり的を射抜いてて、私も興味をそそったけど、明石のあのキラキラした目と、可愛い声がなければ、やる気なんて微塵も起きなかっただろう。

 彼女は工作艦として活躍していて、彼女の興味は技術開発にある。

 

 明石がしたと思ったことはなんでもやらせる。たとえ世界征服でもなんでも、明石のためだと思うと不思議なぐらい力と行動力が湧き上がる。

 あのぷにぷにのほっぺと、マシュマロのように柔らかそうな唇が『ありがとう!大好きだよ大淀!』と微笑みかけてくれるだけで、私のやる気スイッチに火がつくんだ。

 

 そう、すべては明石のため。

 そのためだったらどんなことも正当化されるんだ。

 

『今は、本国の防衛を集中したほうがいいと思うよ』

 

『は?永原元帥、正気ですか?』

 

『うん』

 

 私に……いや、私たちに逆らうモノは、なんとしても容赦しない。本に影響を受けた烏合の衆……革新派のリーダーが誰であろうと、誰が敵であろうと、明石がそうしたいんだったら、私は容赦なく潰すし、利用する。

 元帥を潰そうとしたとき、彼の艦娘たちが私を官僚たちと共に潰そうとして襲撃してきたのは肝を冷やしたけど、要港部の連合艦隊の作戦で彼をようやく始末できる。

 

 元帥の第一鎮守府の艦隊は、八丈島で深海棲艦の迷彩を被りながら戦ってるから、本物の艦娘だとは鴨川司令官以外、誰にも気づかれないはずだ。流石に元部下だった人を殺すのは渋るはずだし、鴨川要港部は素でも強い。御蔵島を攻略して、本格的に私の艦隊と明石の作った戦闘用ロボット集団、そして要港部と鎮守府の支援があれば、確実にあの艦隊を潰せる。

 

 ようやく……ようやく憂いを断てる。

 これで、やっとまた一方、私と明石の目的に近づけた。

 

 あぁ^〜あかしぃ〜っ!

 これであかしが目指す世界にやっと一歩ちかづけたお〜?この国を資源まみれにしてぇ、明石も大淀まみれになろうねぇ〜?

 

 明石……明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石明石ィィィ!!!

 

 

 

 

 

 

「……明石!明石!明石ぃぃうううわぁああああん!!! あぁああああ…ああ…あっあっー!明石明石明石ィィぁああああ!!! あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくんっはぁっ!明石たんの桃色ブロンドの髪をクンカクンカしたいぉ!クンカクンカ!間違えました!モフモフしたいです!モフモフ!モフモフ!ピンク髪モフモフきゅんきゅんきゅい!! 明石が日造船の社長になれて嬉し…いやあああああ!!!明石と会えなくなるゥ!!!あ…明石は忙しいってことは… アカシハオオヨドニアワナクナル?いやぁぁぁあああああ!! この!畜生ガァ!やめてやる!!海軍なんて滅ぼし…て…え!?見…てる?写真の明石たんが私を見てる? 写真立ての中にいる明石ちゃんが私を見てるぞ!記憶の中の明石チャンが私に愛してるって言ってるぞ!!よかった…海軍もまだまだ捨てたモンじゃないんですねっ! いやっほぉおおおおおおお!!!私には明石ちゃんがいる!! ううっうぅうう!!私の想いよ明石へ届け!!ナニか届いて腹め!妊め!孕めぇー!」

 

「…………」

 

 気づいたら、大淀次長は作業服を顔に被せながら、上記の字列を連語していた。ぐにょぐにょした動きがとっても気持ち悪かった。

 

 明石って、整備工作班の母と呼ばれた、あの明石少将の事か?

 実は軍令部にも元部下たちが居て、海軍省軍務局局長であり、最近では軍需局が事実上傘下に入ってる状態で、更には日本統合造船っていう造船の社長に就任している、あのスーパーウルトラ艦娘の明石少将なら、裏で操ることも十分可能だと思ったんだけど。

 

 大淀次長が黒幕っぽいから、予想は外れたか。

 

「……あのぉ、このひと大丈夫ですか?」

 

「ムキムキ」

 

「あ、それしか喋れないんですね。あの、これ見てるのも流石にアレなんで、自分はこれで失礼させていただきます」

 

 

 

 

 

 

 あのボディービルダーみたいな二人も流石に察したのか、俺を部屋から退室させてくれた。

 結局会議はそれで解散させ、後日に完成された計画書が送られることになるが、たぶん大淀次長は俺の返事を待っているんだろう。

 

 元帥を討伐……か。

 

 鴨川要港部の執務室。

 

「その大淀少将ってやばくない?あの敏腕文官で有名な人でしょ?」

 

「そうそう、流石の時雨でも知ってるか」 

 

「いやだなぁ、まるで僕が馬鹿みたいじゃないか」

 

「白露お姉さんに比べたらそうかもね!」

 

「え?HAHAHA!」

 

「え、なに笑ってるのッ?」

 

 時雨がまたドジを踏み、白露さんの甲からコキコキ音と共に、床に叩き伏せられたのを余興に、春雨ちゃんが淹れたコーヒーを一口。

 うん、砂糖入れたいぐらい苦い。

 でも春雨ちゃんが横にいる手前、かっこよくブラックを飲み干したい。

 

「ブラックのコーヒーを飲めるお兄さん、カッコイイですっ!あ、コップは春雨が片付けますねっ」

 

「ありがとう春雨ちゃん」

 

「えへへっ、撫でられちゃいましたぁ〜!」

 

 クゥゥゥ!春雨ちゃんのニヘラ笑いかわいいなおい。

 コップを大事そうに持っていった春雨ちゃんが部屋を退出する頃、時雨をボロ雑巾にした白露さんが肩を伸ばしながら机に腰をかける。

 白露さんケツでかいな。

 

「それで、前線指揮官を引き受けた宍戸司令官様は、どんな作戦を立てるのかなー?」

 

「それが、なにも浮かばないんですよ」

 

「は?成功する自信もないのに受けたの?殺そっか?」

 

 白露さんのはガチで洒落にならないからパスで。しかしそれを言ったら「こ〜んなか弱い乙女に向かってなんてこと言うの!」とか言い出すに決まってる。

 そんなことを言われたら笑うしかないので、俺もボロ雑巾にされないように黙っておこう。

 

 混乱を招かないように、元帥のことは話してはいない……というより、話しどころが掴めない。このまま話さずに戦闘させて艦隊を倒すか、当日になって一人ひとりに話すか。

 未だに優柔不断となっている。

 

「作戦については、おおかた目星はつけてあります。大鯨さんや結城の要港部、並びに新種とは言っても、戦力的な差で埋められる数まで減っているとは聞いていますし、エリート艦撃破の経験がある白露さんを含めた数隻がいるならば、この作戦への不安要素は拭えている計算となります。ある意味、俺を中佐にしてまでこの作戦を遂行するところが引っかかりますが……まぁ、大丈夫でしょう」

 

「そうかなぁ……」

 

 意外に頭いいのかなぁ……なんて言ったら冗談抜きで張り倒されるから、それこそ禁句である。

 複数の作戦案を白露さんと、ボディープレスから立ち直った時雨に説明するが、疑問を抱いたような顔をされる。

 

 ニュースで報道されているように、横須賀鎮守府はかなりダメージを受けた様子だったので、その手前、再度横須賀鎮守府が主導でトンボ返りするように作戦を決行するのは、いくら要港部の支援があるからと言って軍部からも国民からも目映りが悪い。

 

 元帥艦隊のデータはもらってあるから、すでに作戦構想は大方決まっているが、どれも完璧ではない。マニュアルに従って、弱点を知って、その上で立てた作戦をこれ以上完璧なものにするのは不可能だった。

 特に、この大和とかいう戦艦はほぼ一撃即死攻撃を仕掛けてくるので、深海棲艦以上の化物と対峙することとなる不安感はどうしても拭えない。

 そもそも元帥艦隊の事はみんなに知らせていない手前、なんで弱点知ってんだ?っていう不信感を募ることとなる。

 

「どんな状況にも対応できるように、四角になって移動する陣形を編んで見たらどうかな?僕たちだけじゃ人数的に到底無理だけど、他のところからも艦娘が来るんだったら、ある程度は可能なんじゃないかな?」

 

 時雨の陣形に対して「あ、それいいかも!」と太鼓判を叩く白露さんをいったん牽制する。

 時雨が言ってるのは、通常6隻、最高12隻で編成する連合艦隊を更に超える、30,40隻以上の艦娘が作る巨大な輪形陣で密集しながら移動する陣形のことを話しているらしい。

 

 自分が整工班だったということを忘れているのか、密集しすぎで起こる司令室との電波障害とか、総司令官がいても各司令官の麾下にいる艦娘たちが一箇所に集中して指揮系統が混雑することとか、少なくても最低限の改善がなされれば採用されるだろうけど。

 

 俺たち三人が頭を悩ませ、村雨ちゃんが出ていく前に置いていった最後のお餅を巡ってお互いに睨みを効かせていた頃、黒電話が鳴り響いた。

 

「はいもしもし」

 

『1,12、19、13、5、5』

 

「……?」

 

 

「あ、時雨ぇ!お姉ちゃんと半分こするって発想はないの!?」

 

「ないない、それに姉さん太るよ?ただでさえおしり大きいのに……まぁ、僕は大丈夫だけどっ」

 

「このお姉ちゃんがいっちばーん!嫌いな単語だねそれ!うん!白露さんの最終奥義……ギロチンチョップ、いっきまーす!」

 

「あ、ぼく死んだかもっ」

 

 

『7、23、25,11,19,3』

 

「…………」

 

『5,6,2,3ーー』

 

「……は、はい?」

 

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