整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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シークレットビジット

「とか、僕たちの前では色々とほざいていたんですよこの人?お尻がでかいとか太ってるとかルールを無視するとか艦娘として使えないとか勝手に入ってくるの凄く迷惑ザムライだとかなんとか」

 

「「「す、すいません……」」」

 

「小官こそ非礼をお詫び申し上げたく存じます。なので何卒、何卒、何卒、元帥にはこのことをお申しにならないよう、お願い申し上げたく。捏造大好きっ子なこの時雨なる道化の戯言とはいえ、部下の非礼は上官の責任……この宍戸、改めて部下の失言に、お詫び申し上げます」

 

「はッ?」

 

 本当に言ったことと言わなかったこと混ぜて口撃力倍増させるのやめろ。

 

 執務室。俺の目の前で整列しているのは、なんと元帥にあのモールス信号が届いたのか、向かわせろと言った元帥艦隊として来たのは副官であり秘書艦だった戦艦大和。

 並びに軽巡阿武隈、そして水上機母艦瑞穂がいる。

 長身の黒髪ロングが可愛さよりも美麗さが先にくる印象である。他の二人は端的に、凄く和風な人と、セットがクソ面倒そうな髪型してる人。

 

 元帥の高級副官だと記憶してるので、戦艦大和の階級は書類上では大佐である。つまり俺よりも偉い。だから俺も普段は座ったまま話すが、今回は立っている。敬礼するときも俺が先だ。

 

「提督からこちらに来るようにとの命令を受けたので、大和以下二名、鴨川要港部に参上した次第です」

 

「ありがとうございます……あの、ぶっちゃけ聞きますけど、なんでここに来るように命令されたのかは……」

 

「はい、提督からはすでに聞き及んでいます」

 

「ねぇ、これはどういうことか説明してくれるよね?」

 

「宍戸さん……っ」

 

 時雨と村雨ちゃんは驚いた顔をしている様子は見せなかったが、真剣な面立ちで聞いてくる。正直、いつ話すか迷っていたけど、話すなら今しかないな。信頼できる部下といえば、この二人と……あとは春雨ちゃんと白露さんと、鈴熊ぐらいか。

 作戦前に正式に話すが、二人が先に知っておいても損はないだろう。

 

「……というのが、俺と大淀次長と元帥の間で交わされている水面下での戦いだ、理解したか?」

 

「急すぎるよォ!?」

「急すぎますっ!」

 

 当然ながら、俺の話を100%信じることはできないと二人は首を横に振ったが、信用はするという雰囲気でもあった。

 

「コホンッ……大和さん、まずは元帥が置かれている状況についてお話してはもらえませんでしょうか?」

 

 大和さんは暗い顔をしながら言いにくそうにしていたので、隣の阿武隈さんが直入すぎる状況説明で彼の現状と経由を話してくれた。

 

 第一鎮守府が健在だった頃、元帥が大淀次長に反発して殺されそうになっていたので、麾下の艦娘らがその前に大淀次長を抹殺しようとして、彼女に協力していた官僚連中と集まる会談中に襲撃した。

 その後、提督と一緒に八丈島まで逃げて、今に至る。もちろん大淀次長は一昨日見たとおり健在であり、大淀次長……いや、日本海軍VS元帥艦隊の構図が水面下で出来上がっていることを知っているのは、本当にごくわずかな人物だけである。

 八丈島出兵も、第一次大淀VS元帥との戦いだったそうだ。要は、元帥艦隊は今、絶賛反乱中だということか。

 

 ……は?

 

「は?」

 

「……なにっ?これが全貌よ!提督がイジメられそうになってたから、阿武隈たちが守ったの!悪い!?」

 

「いいえ、忠義心があるのがいいことです」

 

 いや全然よくねぇよ?何人死んだと思ってんだあの襲撃事件で?正直無能ゴミだけ殺されたから、フラッシュアウトしてくれてラッキー的な感じだったんだけど、そんなこと言ったら俺こそが非人道的な過激派になる。

 

「なるほどね……宍戸くん、これって大和さんたちに同情したほうがいいのか、いくらなんでも行き過ぎだから批判したほうがいいのか、どっちなんだろ?」

 

「結果論としては同情だ。もし、一般市民を巻き込んだり、有望な海軍将兵の命を摘むようなことはあれば確実な批判対象だが」

 

「瑞穂たちの敵は大淀ただ一人です!仮にも仲間だった将兵のみなさんを……増しては大淀の命令で騙され、攻撃するように仕向けられている人たちを傷つけるような真似はしません!」

 

「まぁ……もしも阿武隈たちの提督を本気で殺そうとしてたら、ぜったい許さないけど……」

 

「ひ……」

 

 村雨ちゃんがおもむろに服を掴みながら俺の後ろに隠れる。それはもう胸が当たるぐらいの距離まで抱きついてくるから、俺の主砲にも血液が流れちゃうんだよねぇ。

 でも阿武隈さんの気迫で相殺されて、結果的に股の龍はまだ下を向いている。瞳の奥が黒く澱んでいるのは気のせいだろうか?

 

「現状を話してくれてありがとうございます。そして、大淀次長の罠かもしれない……という、危ない橋を渡ってくれたことに、深く感謝します。実はこちらとしてお呼びだてしたのは、再度行われる八丈島攻略作戦についてです……自分は大淀次長より、元帥討伐の任を直接受けた身で──」

 

 バン!!

 

「……え」

 

「提督のことを殺そうとしてるんだぁ……あは、アハハハ!オモシロイ!エモノガメノマエニイルッ!」

 

「瑞穂、ちょうど刃物を持参してるんですっ、持ってきてよかったぁ……!」

 

「宍戸くんッッ!!」

 

 時雨が目の前に立つ。

 喋ってる途中で俺の横を掠めた、阿武隈さんの髪を留めていたペアピン。後ろの壁に突き刺さっていて、凄く食い込んでる。銃でも撃ったかのような爆音は、単純に阿武隈さんの手から発せられた風切り音だったのか。あのぉ、投げた動作が見えなかったんですけどぉ……?

 瑞穂さんはニコリと刃物を胸から取り出そうとしている。そして大和さんは戦艦の眼力を使って、俺を蛇に睨まれたカエルのようにカチコチにしている。まさにメデューサ……ジジイ、幼い頃の見解は正しかった。おっぱいのおっきな女性は、メデューサだったんだ。

 

「あ、あの、ままままままま待ってください!!誤解です!!俺は受けただけでやるとは言ってません!!受けるんだったらわざわざ話さないでしょう!?よく考えてお願いぃ!!」

 

「なぁーんだそうだったんだ!もうっ、驚かせないでよね!っていうか、ヘアピン使わせないでよもうっ、髪の毛セットするの大変なんだからねっ!」

 

「こちらの早とちりでした、申し訳ありません」

 

「べ、べべべべべべべ別に大丈夫です、ハイ」

 

 時雨も一旦下がって、あまりの迫力に白化した村雨ちゃんを介護している。俺も冷静になるため、息を整えた。

 

「ハァぁー……ハァァァー……!大淀次長からは命令を受けましたが、自分も一応は横須賀第四鎮守府の管轄下にある身です。その上官の上官に対峙するは不敬以上の極刑、武人としては末代きっての恥であると存じます。それがあの尊敬すべき永原海軍元帥であれば、尚更といえるでしょう」

 

「反乱している事実を知ってもなお、そう言ってもらえる人が海軍にいるなんて、とてもありがたいことですっ」

 

 この際どちらに正当性があるかなんて、軍部の中枢を握る人物が決める。

 元帥とは戦いたくないし、戦ったとしても、この強さの艦隊に太刀打ちなんてできない。考えていた作戦の一つで、もしも協力が得られるんだったら、作戦中にわざと艤装を小破させて帰ってきて、無事にミッション失敗すればいいのでは?とも思ったけど、それだとどの道また討伐の手を伸ばして、他の要港部の連中が危ない役目を背負わせることとなる。

 この人たちを見るに、元帥のことになると気が触れるし、ぜったい手加減できないだろうなーと思って、少なくても轟沈が出る可能性がある。

 

「しかし現状、元帥反乱の状態は隠されてはいるものの、このままでいるわけにもいかないでしょう?整工班が補う艦娘全般についての点検や修理……それだけじゃありません、補給全般に関しての不備を補うのは、八丈島だけでは物理的にも不可能に近いんです。今までどうしていたのか聞きたいぐらいですよ?」

 

「それはこの大和も承知の上です……艤装は私達自身が点検したり装備できますし、資材は北にある未開の地からある程度遠征で補えますし、食料とかも最初は仲間から密かに送ってもらっていたんですが、自給自足の基盤は築き始めています……それでも傷んだ艤装などは設備の問題で完璧には直せないのが現状なので、こと足りないところはたくさんあります」

 

 横須賀第一鎮守府が最強と言われる所以が分かったわ。まさにこのチートぶり、コマンドーだよホント。多数の艦隊がその武勇と陣風のような艦隊運用を目の当たりにし、その海域にいたら敵が轟沈している、まさに疾風、あるいはかまいたちのような艦隊である。

 しかも自給自足している状態でイージス艦を潰したとなると、余計に元帥への対峙心が薄れる。

 

 もちろん海軍総力戦だったら勝てるぞ?日本全国の艦娘集めたら、絶対数も補給も何もかもがこちらが勝ってるんだから、勝てるんだけど……そんなことのなったら派閥で内乱起こされるより早く、日本が終わる。

 

「もっと設備が整ってて大きな島があれば、提督と阿武隈たちはそっちに逃げて、これ以上この国に執着しないんだけど……しつこいんだもん、大淀さん」

 

「提督と幸せに暮らせれば、それで……」

 

「提督……」

 

 大和さんの握力はどれぐらいなんだろう。

 彼女の持っていたペンが粉々になっていた。ほかの二人も握りしめていたけど、それだけで血が出ている。怖い、ただただ怖い。なにが怖いって?爪は深爪かってぐらい切られているはずなのに、血が出てるって、ちょっとおかしくない?

 

 目に光を宿していないとこんなに怖いものなのか。

 

 時雨が村雨ちゃんを椅子に寝かせて、俺の襟を掴みながら部屋の角に連れて行く。

 

「ねぇ宍戸くん、あの人たちやっぱり変だよ!?」

 

「おいおい状況を理解しろよ、平和ボケしている時代は既に過去のもの(PAST)ってことだよ。ハハハ、深海棲艦が出現した時代とどっちが平和なんだろうな……」

 

「なんでそんなに冷静なんだい!?いや、事前に大淀さんに言われていたから驚きはないんだろうけど……それでもなにアレ!?握ってるだけで手から血が出てるよ!?僕ですらあんなことできないよ!?」

 

「見ただろあの阿武隈さんの動きを。あんなのが百鬼夜行みたいに蔓延ってるのが元帥艦隊なんだよッ。大淀次長には悪いけど、この作戦辞退したい……」

 

「でも辞退したら今度は宍戸くんが始末されちゃうかも……僕たち、できれば元帥さんたちみたいな状況になりたくないなっ」

 

「俺だってしたくないよォ!!でもあの人たちヤると殺されるし!ヤらないと殺されるし!八方塞がりなんだよォボケェ!!」

 

「「「あの、何かッ?」」」

 

「なんでもありませんよっ、大和さん、瑞穂さん、阿武隈さん、ハハハ」

 

 クソォ!どうすればいいんだ俺は……一介の少佐には荷が重すぎる。

 大淀次長の命令に従えば、前線に出る昇進も含めて無事に二階級特進して准将へ。

 逆らえば不名誉かつ謎の殉職を遂げた裏切りクソチ○ポとして永久に名前が教科書に残る。教科書にラクガキされるのは嫌だ。 

 

 どうすればいいのか……と、思っていたその時、俺の椅子にもたれかかり、半分気絶している村雨ちゃんの顔が目に入った。

 

「し、ししど、しゃん……んっ……あぁっ……」

 

「…………」

 

 エッッッッ。

 駆逐艦は、なぜこうもエロいのだろうか。現実逃避が俺を呆然とさせる。村雨ちゃんマジ妖艶。わざとやってるんじゃないだろうな?

 いや、たぶんわざとだ……そうだ。

 俺の脳裏を走馬灯のようにフラッシュバック、想起、海馬の奥にある記憶との邂逅が、俺にそう呼びかける。

 

 

 

 『ジジイなんで屋上にくるの?』

 

 『ほう?そんな初歩的なことも分からんのかこのクソガキは?あそこを見てみィ』

 

 『あ、あれ、女の人の銭湯!?だめだよジジイ!道徳的にだめだよ!』

 

 『五月蝿いわい!!どうでもいい事ばかり覚えおってからにィ……女というものは、常に男を意識してるんじゃ。だからほれ、風呂の中でもエッロイ仕草、エッロイ動作、エッロイアガペー醸し出しとるじゃろ?これはチ○チン遊びへの誘い受けに決まっとるわいボケ』

 

 『ただ女の人がはだかなだけだと思うけど……』

 

 『いいかクソ坊主ッ!!女は誘い受けしていても裸体を容易に見せんモンなのじゃ。見られたい願望があるクセに身持ちが高い。だからこそ、漢のほうから見てやるのじゃ。ワシマジ聖人』

 

 『で、でも裸みられるのは普通に恥ずかしいし……』

 

 『でももへったくれもあるかァ!?こっちは見たくてみたくて股にある龍が喚いてるんじゃァボケェ!!』

 

 『結局ジジイがみたいだけじゃん……』

 

 『いいか龍城よ!?金でも権力でも女でも、自分から前に進み、取りに行かねばならんのじゃ!!消極的になっていたら、ろくな成果なんぞ出せんゾォ!?』

 

 『と、取りに行く……』

 

 『そうじゃ。取りに行くために、消極的に考えず、常に前進的な考えを持つのじゃ。女がエッロイ格好していれば交尾申請!風俗に行けば前渡しで中○し許可をもらう!キャバクラでも先手必勝で胸を触るゥ!そうすれば、予想以上の結果が生まれるんじゃ……』

 

 『わかったよジジイ!じゃあとりあえず、これ以上ジジイが迷惑かけないように、いろんな介護施設とおまわりさんに連絡入れておくね!』

 

 『ふ、成長したではないか……まぁ、警察などに捕まるワシでやないわい』

 

 『大丈夫だよ!ここに来たときもうおまわりさんは呼んでたから!先手必勝だね!』

 

 『Nooooooooooooo!!!』

 

 

 

 前進的な考え方か。

 

 ……あ、じゃあいいこと考えた。

 成功するかわからないし、直接元帥の了承が必要だけど、彼女たちの協力があれば大丈夫だろう。

 

「未熟な身ながら、作戦案……というよりも、双方が得をする取引を思いつきました。もしも永原海軍元帥から承諾を得ることができれば、すべてを丸く収められる可能性があります」

 

「ほ、本当ですか!?あ、あの、その作戦というのは……!?」

 

「もちろん元帥が自分を信じてくれれば、ですが……」

 

 

 

 


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