整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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八号作戦成功

 

 作戦当日の御蔵島付近。

 

 天気は晴天、波低し。

 絶好の艦隊運行日和に、自ら艦隊を率いてる司令官は誰かとみんなは噂していた。その正体はまさに、自分から最前線に赴く司令官の鑑こと俺である。

 俺の前線艦隊は演習した時と同じで、この6隻である。横須賀第四鎮守府主導のもと、総司令官の蘇我少将、並びに作戦参謀の那智中佐、情報参謀には結城大尉、後方支援艦隊の指揮官として大鯨少佐。

 

 作戦の規模は明記されてないが、大規模作戦として実行するものである。

 知り合いの提督や鎮守府から、無謀な作戦ではないかという連絡を頂いたにも関わらず実行する俺は、正に現代のアタシポンコツムタグチちゃんのモデルとなっている将軍の写し鏡である。いや、この大規模作戦そのものは俺が考案したわけじゃないから。

 

 目標である御蔵島、八丈島、青ヶ島、小笠原諸島を攻略するものであり、一ヶ月以内の制圧が期待されている。この期間は理想であり、これよりかかる可能性は十分にあると、上層部は考えている。

 敵の数は単体が強力なエリート艦に加えて、フラッグシップと呼ばれる深海棲艦もいると言われた。それが20隻以上となり、更に八丈島という要塞が深海棲艦側にある以上、攻略は最短で二週間はかかるとも言及される。

 

 指揮する前線艦隊はすでに目標の一つである御蔵島にいたエリート艦を艦載機の流星雨でボコって、そこに拠点を作り、いよいよ本格的に目的である八丈島まで出港しようとしていた直後のことだった。

 

「ぶえええええん!ぐえええええん!」

 

『ど、どうしたんですかぁ…!?』

 

「ひっぐ!いやね大鯨さん?ぼくね、ふつうにね、漢なの。なのにね、えっちなビデオとか持ってただけで、変態扱いされるの、すごく、名誉?プライド?傷ついたの。わかる?」

 

『あ、あのっ……す、すいませんっ!ちょっとよく状況が……』

 

「じゃあ聞いててください……こちら前線総指揮官の宍戸中佐である。御蔵島からは無事出港し、ささやかな波を仰ぐ。三宅、大島、御蔵島の後方艦隊の兵站は順調か?」

 

『三宅から旗艦陽炎オッケーでーす、だからさっさと行ってくださーい妊法提督さーん』

 

『大島から旗艦磯風も問題はない。安心して深海棲艦をスマックしてファ○クしてくるといい』

 

『御蔵島はさきほど確認した通り、支援、及び臨時補給態勢に落ち度はありません。なので無闇に話しかけないでください、ナマイキごめんなさいが伝染ります』

 

「大鯨さん無線ちゃんと伝わったかな?あと俺の悲しみもちゃんと伝わったかな?うん?」

 

『あ、あのぉ……ご、ごめんなさいっ!!』

 

「ふええええええん!!!」

 

 仲間からの罵詈雑言に、随伴する艦隊もドン引きである。流失したお宝は俺のものだと判明した主な理由は、単純に宛先のところを剥がし忘れていたからである。

 

 大鯨さんや結城から作戦は順調かと聞かれた。

 

 え、作戦?うん、順調なんじゃないですかね?

 通り際に撃破した艦隊は合計10隻、内数2隻ほどがエリート艦である。かなり多いほうだし、ここにくるまで無傷だから褒められてもいい。

 

 資材を取りに行く遠征ではなく、攻略を主体とした遠征のときーー特に、今回のように長距離を大艦隊と移動するときは、花形の前線艦隊が哨戒や敵艦隊の撃破をして、後方支援艦隊がドラム缶や艦船などで資材や食料を運び、整工班、並びにそれに従軍する部隊を輸送するのが一般的である。

 艦娘以外を海域周辺の島に配置する理由はもちろん、臨時的な補給修理をするためである。陸よりは断然少ない数で、まさに少数精鋭だが、それでも100人、200人単位を修理機器、道具、資材と共に管理しながら効率よく動かすのは至難の業である。

 進めるタイミング、情報伝達の効率と速さ、現状把握とそれに伴った適切な判断力、それらを押さえれば一流の艦隊運用を成す指揮官として名を馳せるだろう。

 

 つまり幹事役がうまい会社の社畜は、すぐにでも海軍に志願して、提督育成プログラムを受けてくるといい。会社にいるより断然活躍できるからさ。

 

 ある程度その島で準備を終えたら再び前線艦隊が次の島、あるいは泊地か拠点を制圧して、そこに後方支援を輸送する。その繰り返しで、移動、泊り、移動で目的地までたどり着き、万全の状態で迎え撃つ。

 兵力も大事だが、事前準備と兵站はそれ以上に大事だし、作戦を実際に指揮すると色々忘れることが多い。多々ある重大な補給を見逃してしまうと、大きな失敗に繋がり、歴史的な大敗北をきした例は1つや2つじゃない。

 いつでも増援を呼べるように、後方艦隊を警戒態勢のまま待機させて、後ろからの攻撃も安全。

 

 八丈島に向かう際は、鈴熊に艦載機をブンブン飛ばすように指示している。

 

「艦載機足らないよ!もっと張って!」

 

「これが限界だって!熊野のと合わせてテイサツ系のやつ20個しかないじゃん!」

 

「それより宍戸くん、もうちょっと操縦なんとかならないの?さっきからそのボートから水しぶきすごく飛んでるんだけど」

 

「ごめんねぇ!?俺様、ついこのあいだ覚えたばかりなんだよこれの操縦!オラァチンタラ走ってっとォレース始めんぞゴラァ!!」

 

「や、やめてくださいお兄さん!春雨で良ければ、いつでもスマイリングセッ○スティバルしますからっ!」

 

「春雨ちゃんそんな卑猥なこと言っちゃダメェィ!でも帰ったらオシオキだぞっ。俺の名誉をズタズタにしやがってこいつめ」

 

「お、おしおき……お兄さんの、おしおき……!」

 

 恍惚のポーズで水上走行するのは前方不注意になるのでやめるように言った。

 

 御蔵島から八丈島は遠い。

 でも小笠原と比べれば大したことはない。

 船の中は良好で、乱暴な動きをしても内部の揺れが軽減されているあたり、技術的な加工は興味をそそる。そしてなにより速い!全速力の艦娘に追いついてるこの速度、マジすげぇ!

 

「みんなは知ってのとおりだけど、これはかなり異様な作戦になるから、注意してほしいんだ」

 

「元帥と宍戸さんの極秘作戦……かっこいいですけど……」

 

「…………」

 

 みんなは不安そうな顔を見せるが、大丈夫だと念を押す。

 

「心配するな!必ずうまく行く!」

 

「で、でもぉ……」

 

「大丈夫です鈴谷さん!春雨は、お兄さんを信じます!」

 

「私も信じちゃう!」

 

「姉さんは話の規模が大きすぎて考えるのやめてるだけでしょ?」

 

「んッ?」

 

 頼む時雨、作戦中に白露さんを挑発するのはやめてくれ。

 

 作戦開始から4時間ぐらいか、あまり経過はしてない。トントン拍子とはまさにこのことか……でも、油断は禁物である。どんな状況にも適切に対応できるように、みんなには常に心を警戒態勢にするようにと口を酸っぱくして言っている。

 こうすることで不安感は煽るが、なにが起こっても随時対処できる。

 

『こちら総司令部だ。君が直接行くなんて、本当に大丈夫なのか?やっぱり後方支援艦隊とともに行ったほうが……』

 

「大丈夫ですって!何度目ですか蘇我少将……」

 

『いや、君たちの裁量は私も承知しているところだが、流石に6隻だけで八丈島周辺のエリート艦隊を偵察など……』

 

 本当はそんなクッソチンケなへなちょこ艦隊じゃねぇんだよなぁ……多分、その100倍は強いぞ。ガチでやり合ったら確実なる死ゾ。

 ほら、あそこに見えるでしょ?大和さんに、多分武蔵さん?それに、その他諸々。あの数十隻が全員阿武隈さんや瑞穂さんみたいな強さだったら末恐ろしいのだが、それ以上に目を引いたのが、大和さんと武蔵さんがメッッッッチャデカイ砲台である。

 一撃即死攻撃とかどんな大砲かとワクワクしてたけど、目の前にすると怖過ぎるんだけど。

 

「では作戦に戻ります。それでは蘇我総司令官、戦果にご期待ください」

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 第四鎮守府、作戦本部。

 

「あ、ちょ……まったく、本当に大丈夫なのだろうか?」

 

 作戦総司令であるというのに、この落ち着きのなさ。彼は常に勝利を自負しているわけではない。ただ事務的に、そして忠実に、その任をこなそうとする姿勢が、部下たちを惹く要因だろう。

 

「心配ないですよ、私は彼を信じます」

 

 作戦参謀の那智も蘇我と同じように心配はしていた。総司令官が席の立ち座りを繰り返す一方で、那智も横に結んだ長髪を弄り倒していたが、それでも彼を信じる事にした。

 どこの馬の骨とも分からない者を前線に出すのは愚策であり、それを二事返事で承諾するのを蛮勇と呼ぶ。しかし彼がただの蛮勇でないことは知っている。

 この作戦を成功させる何かを持っている。那智も、作戦進行の更新を待つ事にした。

 

「那智参謀長……そうだな、総司令官たるもの、どっしりと構えていなければ……念の為、宍戸中佐の後方支援艦隊がいつでも出撃できるかどうか、予め確かめておいてくれ結城参謀、古鷹」

 

「わ、分かりましたぁ!」

 

「ハイッス!……古鷹ちゃん、緊張してる?」

 

「え、あ、あの、はいっ……宍戸さん、大丈夫かなぁって……」

 

「わかる、分かるぜぇ?まったく、古鷹ちゃんみたいな娘を怖がらせちゃって、ダチながらワルイ奴だぜぇ……いつでも、俺っちの胸、貸すからさ」

 

「結城さん……」

 

「もちろん、タダでとは言わないさ。実は俺っち、今朝から自分の第一砲塔が、血を欲しがる妖刀ムラマサみたいにウズウズしているのを感じてるんだよねぇ……古鷹ちゃん、俺にスジ切りされないように、気をつけような……?ウッヒヒヒィ!」

 

「結城大尉ッッッ、ちょっと話があるのだがッッッ?」

 

「あ、あの、総司令官?え、あ、え、あの、その、俺の声きこえて──アァァァァァァア!!!」

 

「やれやれ……」

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 御蔵島。

 

「補給準備、及び緊急出撃準備の再確認完了!何れも支障はありません」

 

「ありがとうございます親潮。私個人としても準備は万全です」

 

「はい……」

 

 私の顔はそんなに不安そうだったのだろうか、不知火が顔を覗かせてきた。

 なんでもないと振り払い、私自身の艤装も整工班の人につけてもらう。

 

 大淀次長の作戦……あれは、本当にただの深海棲艦からの奇襲だったのだろうか。本当にそうだったらどれだけ安心できるか、私は言いようのない不安と、何かとてつもなく大きなことが起ころうとしている胸騒ぎが、脳裏を掻き乱す。

 悪いことが起こるとは限らない、いい事も時には起こる。でも、怖い。

 

「それにしても司令はん、ホンマ凄いんやな〜。普通これだけ大規模な作戦だったら、ここまで辿り着くのに少なくても倍は時間食ってたで?」

 

「司令だけじゃありませんよ。後方支援艦隊には

あの大鯨少佐もいます。情報参謀にも結城大尉など、秀才が揃っているからこそ、成せた技でしょう」

 

 しかし、みんなも驚いている。

 迅速な行動もそうだが、なにより直接前線に行って指揮を取ってここの島にいた深海棲艦を制圧した手腕……その姿は、まさに武辺者。されど効果的だ。ある程度ラグが生じる司令室での前線指揮は、一歩間違えば大勝利と大敗北につながる。

 それを嫌がってやっているのか、あるいはただ自分を大きく見せたいだけなのか……あるいは、自ら指揮を取ることで勝利を確信できるから、そうしているのだろうか。

 

「まぁなんにしても、このまま前線がぜーんぶ倒してくれれば、うちらも楽でええんやけどぉ……って、うちらも一応前線やないかーい!アハハハ!」

 

「ハァ……」

 

「笑ってくれへんの親潮……?」

 

 だから心配……いや、私はなにを考えてるんだろう。このまま、たった6隻で八丈島をも制圧してしまう……なんて、そんなはずはない。

 それは無理にも程がある。きっと無事に偵察してきて、帰ってくるはずだ。

 

 司令は何かと私に心配をさせる。司令のバカ。

 

「親潮ちゃん、ちょい動かないで」

 

「あ、す、すいません!!あ、あの……」

 

「ん?」

 

「あまり上を見られると……その……」

 

 整工班の人が私の艤装を付けれくれてるのはいいのだけれど、脚の部分を付けながら上を覗かれると……そ、その、スカートの中が見え、 

 

「あぁ大丈夫大丈夫。俺が狙ってるのは、あそこの人だから」

 

「え……?」

 

 

 

『ウッソだろお前!ホントに男かよ!?こんな腕ヘナヘナしててよぉ?』

 

『いいじゃないですか別に……』

 

『おにいさんねぇ!君みたいな可愛いねぇ!子の苦痛に悶える顔が大好きなんだよォ!』

 

『や、やめてください!小生やだ、ヤダ、ヤダヤダヤダヤダァ!!』

 

 抵抗する美青年の顔にパシーンと叩かれたような音がした。

 

『ザっけんなよオイ誰が大声出していいっつったァ!?うん!?整工班の先輩おこらしちゃったねぇ!?スパナ痛いの分かってんだよおいオラァ!!』

 

『やめちくり〜!』

 

 唐突に脱がされる作業服から露出する茶色かがった肌。鍛え抜かれた肉体は見た目細く、若い男の子が好きな男性にはうってつけの体だった。

 弱肉強食に則り、屈強な体を持つ男性に蹂躙される自然界の法則は、強引すぎる交配を肯定させる……って、何やってるんですかあの人たち!?

 

「何やってるんですかアレ!?」

 

「見ればわかるでしょ?串刺しだよ串刺し、千本刺しだよ」

 

「千本も刺さったら死ぬで……」

 

「じゃああの処女ケツに、特別な稽古をつけてきますので」

 

 そう言って彼は半裸になり始めた。

 

『お兄さんなんて言った?』

 

『キモティヨクシロッテ……』

 

『できましたか?できなかったね……じゃあお前来いよお前コラァ!!!』

 

『せ、先輩……実は俺、先輩、好きッス!』

 

「と、唐突過ぎる告白はホモホモ特権ですっ!綾波、応援しますっ!」

 

『オレモオマエガスキダ』

 

「きゃあああああああ!!!これはもうしゃぶり合いしかありませんっ!!あぁでも綾波ビデオ持ってきてませんっッ!!憎い!ビデオを持ってこれない大規模作戦が憎いィッ!」

 

「クソォ!なんで他の鎮守府から艦娘が来てんのにエロい格好してねぇんだよクソガァ!!縦セタワンピニーソ着てキテキティ!」

 

「どうでもいいですが、早く給料上がんないかな……」

 

 

 

「司令……早く帰ってきてください……色々と耐えられそうにないです」

 

 

 

 

 

 

 八丈島、出撃所。

 

 昼から夕方に差し掛かり、あたりは黄昏れていた。出撃所とは名ばかりであり、非常にお粗末だったが、最低でも機能はしていたようだ。

 

 八丈島あたりにいたエリート艦隊と思しき大艦隊は……現在では無残な姿で海に浮いていた。しかも相当な数である。

 

 予定通りに大和さん、褐色肌のアネゴ系妹の武蔵さん、それに深海棲艦に偽装した艦娘が複数人いた。大和さんと並んで立ってなかったら危うく砲撃して全速後退を呼びかけるところだった。

 馬小屋サイズの古びた建物は司令室。

 内部には通信機器などの電子機器が取り揃えてあるが、それもほんの最小限である。食料や資材などを優先的に保管してあるところを見ると、まぁよくもここまで取り揃えたもんだと、密かに感心していた。

 中に入ってじっくりとここの生活を見てみたい、とは思ったけど、それはまた後ほど。

 偵察として八丈島に来た手前、あまり長い間戻ってこないと総司令官らに心配をかけるので、話している時間そのものは少ない。

 

 俺はボートから降りずに、元帥が荷物とともに姿を表すのを、艦隊と一緒に整列して待つ。30秒もしない内に姿を表したのは、第一鎮守府でみたよりも若干細身となった、連合艦隊司令長官殿その人である。一斉に敬礼した俺の艦隊のみんなも、初めて間近で見る元海軍トップには緊張感を覚えるらしい。

 

「あれが元帥……」

 

「ほ、ほんとうだったのあの話!?冗談かと思ってた……」

 

「なんだか普通の人だねっ」

 

「お前階級が上がったら角でも生えると思ってんのか?人間のままなのが普通だと思うんですけど……まぁいいや」

 

 一度停めたボートから陸に降りて敬礼する。この際足が濡れるとかは気にしないぞ……クソ冷てぇ。

 

「元連合艦隊司令長官の永原元日本海軍元帥であるとお見受けします」

 

「は、はい……あ、君はあのときの……」

 

「元帥からの覚え良しとは武人の誇りに存じます。

自分は今回の作戦である、八号作戦の前線総指揮官である宍戸龍城中佐です。大和大佐からは話しを伺っているかと思いますが、つきましては、元帥には今ここでイエスかノーで答えて頂きたく思います……作戦に乗るか、乗らないかを」

 

「その……うん……」

 

「「「……提督ッ?」」」

 

「あ、い、イエス!!イエスです!」

 

「では行きましょう、自分の艦船にお乗り下さい」

 

 一瞬迷っていたような素振りを見せた元帥。

 そして、彼の艦娘に威圧されて強引にイエスと言ったような気がしたが、そんなこと気にしていられるほど、今はお時間が尊い。元帥を艦船に入れて、艦船の中から大発を取り出して、阿武隈さんに渡した。

 そしてみんな食料やら資材やらを入れたドラム缶を持って、元帥の艦隊が編成される。

 

「……暗号を解読してくれたことも含めて、ありがとう宍戸中佐。ほんとうに助かったよ」

 

「かの元帥からお褒めのお言葉を授かるなど、恐悦至極」

 

「その……やっぱりこの作戦やめーー」

 

「では行きましょう提督!」

 

 言葉を遮られた元帥の艦隊は合計で20隻程度だろうか?元帥艦隊が八丈島から出港していった。

 

 俺と元帥の密約、それは彼が逃げるための司令艦船と新鋭装備を渡す代わりに、目的地であるグアムに行くまでの道のりにある諸島の深海棲艦を撃滅してほしいというものだった。

 

 グアムとは、アメリカの準州として組み込まれていた島であり、絶海の観光地であり、海軍の基地としても名を馳せた、太平洋の要所である。

 しかしアメリカ軍は今でもハワイに夢中になっているので、消去法で捨てられたゴーストタウン……いや、ゴーストポート、グアムくん。億ドル単位で費やされた艦娘設備はどうなってるかわからないけど、少なくても軍事基地としての機能は整ってあるだろう。インフラもかなり充実しているーーと思う。

 正直そこまで責任は持てないので、あくまで個人的な見解だが、ここよりは充実しているはずだ。

 当然こちらのメリットとしては、グアムまでの道のり……つまり、通ることとなる青ヶ島や小笠原諸島などを制圧しながら進むので、こちらの手柄にできるってのが大きな要素である。なにより八丈島の無血開城はとてもいい。

 

 元帥の存在がバレずにグアムまで到達する道のりは前線艦隊の伸び方にも影響するが、前線指揮官として俺の艦隊を常に最前線に出していれば問題はない。

 

 うん、我ながら完璧な作戦だ!自分では何もしていないけど、初めてすごいことした気分になった。

 

「海軍元帥が離反しているというのも驚きましたけど……その元帥と結託してこんな作戦を思いつくなんて、宍戸さんも隅には置けませんわね?」

 

「くまのん惚れ直しちゃった?いやぁ……かっこよすぎて知略もあるなんて俺まじ神なんだけど」

 

「宍戸くんみたいな人っていつか絶対後悔するんだよね」

 

「そうそう!策士、策に溺れる?っていうやつだっけ?」

 

「溺れてから言ってください……それにしても、船を元帥に明け渡したこと、なんて言えばいいんだろう……まぁいいや、とりあえずあの人を逃がすのには成功したぜ。これであのバケモノと戦わなくても済むし、八丈島は攻略したし、親潮と不知火に連絡して後方艦隊をこっちに移動させるように言ってくれる?」

 

「はい!」

 

 村雨ちゃんが送った通信はすぐに御蔵島の艦隊から作戦本部へと送られる。

 内容はもちろん、我レ八丈島制圧セリ。

 偵察艦隊として送られた前線艦隊の6隻を指揮した司令官は、何日かかるのかと不安を過ぎらせていた大規模作戦の主目的を、電光石火の早業で制圧したとして革新派の目に大きく止まることとなるが、それはまた後のほど。

 今は、後方の艦隊を呼び寄せることが先決だ。

 

 ……それにしても、よくできてるなこの八丈島。

 要塞、要港としては申し分ないけど、流石に深海棲艦がこの生活環境を整えられるなんてありえないしな。人は見たところ元帥以外は住んで居なかったようだし、ここだけでも片付けたほうが良いか。

 

「鈴谷たち、この八丈島爆撃してくれない?」

 

「え、なんで!?宍戸っちトチ狂った!?」

 

「きっとアレですわ。戦略的完勝を勝ち取ったので、かの有名な戦上手、ナポレオンにならって焦土作戦を取ろうとしているとか……ひ、卑劣ですわぁ!」

 

 は?ナポレオンはどっちかといえば戦術家だったんですけど……あとそれ歴史的な大失敗してんじゃねぇか、縁起悪いぞ。

 懇切丁寧にギャルとお嬢様にその理由を説明したのだが、今度は「この人ときどきサイコパスな所あるよね」と言われた。

 

 サイコパス?ハッ!合理性に基づいた行為であり、なおかつ人を傷つけないのに、なにをためらう必要がある(極悪面)!?こっちは命かかってんだ。文句言うやつは死刑。

 

「お兄さんの言うとおりです!せっかく作ったのに心苦しいですけど、やらないと元帥さんがいたってバレちゃいますっ!」

 

「そうだお?だから弾道観測射撃と一点集中砲火の準備しろお?」

 

「弾道観測射撃ってどうやるんだっけ?」

 

 ハハハ、白露さんちょっと、弾道学を学ばせるためにまた兵学校にぶち込みますよ?

 

「観測準備完了!一点集中砲火始めぇ!」

 

 よし、海岸沿いに雑に作られた家屋とその司令室は最低でも破壊したはずだ。八丈島の奥にも家はあるけど、人はいないけど民間のものだし壊すのは遠慮しておこう。

 

「通信、親潮さんに繋がりました!こちら前線偵察艦隊の村雨です、八丈島は制圧しました!」

 

『『『……え?』』』

 

 

 ええええええぇぇぇぇ!!!??

 

 

 

 なんて古典的な驚き方をするんだお前らは。

 

 古典的すぎて様式美だぞ?

 

 


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