整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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補佐官仕事

 

 ー工房。

 

 

「よ〜し!今日の出撃はこれで終わりらしい!片付ける準備しろよぉ〜!」

 

「「「はい!」」」

 

 次の日、今日は哨戒任務だけで済んだので修理の頻度はそれほど激しくなく、次回破損した時にスクランブル発進する為の予備の艤装や、弾薬等の作成は完了していた。後は補充と動作のチェック等を済ませたら何と二時半で切り上げられると言うスーパーホワイト仕様。

 これも、この後補佐官の仕事を覚える俺への配慮なのか?提督のお陰ではあるけど、この工房に居る奴等には俺に感謝して欲しい。

 

 班長の号令後、皆が片付けている間に班長へ接近する。

 

「あ、あの……班長」

 

「ん?どうしたんだ宍戸そんなに余所余所しくして?あぁそう言えば補佐官の仕事を覚えてくるんだったな。副班長の仕事は俺が時雨に教えておくから気にするな!」

 

「あ、いや、そうなんですが……そ、その……腰の方は……」

 

「ん?あぁそれならもうすっかり治ったよ!悪かったな心配させて」

 

「い、いいえとんでもない!こちらこそすいません部屋にもお邪魔せず……代わりにあの三人が見舞いに来られたと聞いたので、安心してしまって……」

 

 と、さり気なくゲイ三人衆の存在を話題に出す。

 

「あぁ佐藤と鈴木に高橋か。あの三人は来てくれたんだが……どうも記憶が曖昧で、何をしてくれたか覚えてないんだ。見舞いに来てくれたと言うのに失礼な奴だな俺は……あぁでもこのことは俺とお前だけの秘密にしてくれよな!」

 

「……!も、勿論です!これからもよろしくお願いします班長!!」

 

「えッ、あ、あぁ!なんか大げさな気がするが……」

 

 

 

ーーー

 

 

 ー廊下。

 

 

「ふ、ふふ〜ん、ふんふふ〜んッ!」

 

「あ、宍戸さんこんにちわっ!ごきげんですねっ」

 

「村雨ちゃんそうなんだよ!人間関係の崩壊を覚悟してたのに、それがどんな形であれ壊れなかったのがこんなにも嬉しいなんてな!」

 

「あ、そ、そうなんですか……」

 

「村雨ちゃんはまだ掃除?」

 

「はい、今は執務室近くの廊下全般ですね」

 

 茶色の長く大きめなスカートに、三角頭巾から出ているツインテールがまた可愛らしく、似合っている。清掃服と言うのは少し地味だが、村雨ちゃんが着てるのは中流階級に従えていたメイドのような格好である。

 

「うんしょ、うんしょっと……ふんふふ〜んっ」

 

 鼻歌交じりに楽しそうに掃除してくれる姿は愛らしく、四つん這いになる時に出来る曲線美は現代美学の象徴と同等である。

 

『あ、村雨ちゃんおつかれー!村雨ちゃんが磨く窓の為に俺達生きてるんだな〜って感じちゃうよ〜!』

 

『いつも頑張ってるね!可愛くて俺達もっと頑張っちゃうよ!』

 

『村雨ちゃんは僕達のアイドル!清掃員村雨ちゃんブヒぃぃぃぃ!!』

 

「みなさんお疲れ様です〜!」

 

『『『あ、副班長もおつかれーッス』』』

 

「おう、おつかれ」

 

 当然とも言える扱いの差だが、少し腹が立つ。いつも村雨ちゃんと食事を取ってるのは俺なんだぞ、テメェらはお呼びじゃないって言い散らかしたい。

 

「ハァ……じゃあ俺も執務室入ってくるわ」

 

「はい!補佐官の仕事頑張ってくださいねっ」

 

「もちろんさ〜」

 

 

ーーー

 

 

 ー執務室。

 

 

「では早速教えていくよ」

 

「ハッ!本日、蘇我提督直々にご指導下さり、ありがとうございます!」

 

「緊張しなくてもいいよ。それじゃあ最初は古鷹から作戦中の仕事や、本部への通信の仕方等を教わってくれ」

 

「了解しました!よろしく古鷹」

 

「はい、こちらこそ!」

 

 とは言っても、兵学校で無線通信の方法や機械の操作は教わった事があるから簡単だけど、やっぱりこう言うのは実践してからじゃないと分からない事の方が多いと思う。

 

「では先ずは補佐官さんが?やる事からですね。補佐官さんは秘書艦である私と同じように、作戦の詳細を提督に随時報告したりするのが仕事の一つなのですが、大規模作戦時は他の鎮守府や大本営との連携を保つ為にそちら方面の無線情報を更新する形になります」

 

 つまり普段補佐官は要らないわけだ。大規模作戦中にしか補佐官が来ない理由は多分それか。

 

 無線情報をただそのまま提督に伝えるんじゃなくて、状況に合わせて提督に言う頃合いを判断したりして、作戦と提督による判断を円滑に進める。

 そして他の艦隊と混雑しないように、他の鎮守府に現在状況を伝える。後、マップを見ながら提督と細かな指示について助言したりと、結構な喉労働だ。要するにオペレーター仕事。

 聞いているだけで喋りっぱなしの現場になりそうな指令室に水を三本も置く理由も分かる。

 その一方で、古鷹は艦娘からの現在状況を事細かに報告する義務がある。艦娘が艦隊とのやり取りをする理由は、オペの練度にもよるが艦娘同士との通信相互性がより優れているからだと古鷹は言う。

 

「最後に、ここのボタンは優先的に提督へ情報を言いたいときに使ってください。そうすれば私が発言を譲りますので」

 

「バッチリだ、ありがとう」

 

 古鷹が懇切丁寧に教えてくれるオペ仕事。

 正直、連コラみたいなボタンの数を全部一瞬で覚えられるわけねぇだろうがとも思った。

 重要なものだけ覚えて、あとはメモしたヤツをできるだけ覚えてマニュアル通りに動いてまた覚えるのが基本だ。

 

「ありがとう古鷹。では宍戸くん、今度は会話の記録の付け方や大本営に送る資料などを教えるからこちらに来なさい……とは言っても、執務の方は粗方知っているようだからかなり教えやすいよ」

 

「ハッ!恐縮であります!」

 

「ではこちらに座ってくれたまえ」 

 

 提督に誘導され鎮守府の玉座とも呼べる提督の椅子を提督の前で座る……何故か背徳感がある。

 相変わらず座り心地のいい椅子に尻を落とし、提督の指先を目で追いながらその説明を聞き始める。

 

「リアルタイムで作る大本営への伝令は必ず資料として残さなければならない。これは補佐官の伝令内容を本部とここで照らし合わせるためだ。故に、迅速な手書きスキルが必要となるのだ」

 

 照らし合わせて、何か問題があれば責任問題追求の時はかなり役立ってくれるそうだ。

 やる事はシンプルに、裁判の記録係みたいなものであるーー自分と大本営のを記録する係だけど。

 書き記す紙にはテンプレートがあるが、補佐官の中には真っ白な紙の上に書いたり、スマホを使う人までいるらしい。音声入力は質が悪い上に、修正が必要な時にクソ時間食って面倒だからしない。

 

 もちろん俺が最初に使用するのはテンプレート用紙だ。

 

「では実際に何か書いてみようか。私からの言葉は提督と言う文字に丸を書いて、それからここに言動を書くんだ……いいね?」

 

 そう言いながら後ろに寄りかかってくる提督は、俺の甲に手を重ねてくる。

 

「トゥクン!」

 

「ん?どうかしたかな?」

 

「い、いいえ……な、何故手を……」

 

「こうしないと上手く教えられないじゃないか。ほら、丸を書くところは……ここだよ」

 

 耳元で囁かれる。上腕二頭筋を当てながらのウィスパーボイスで、更に顔を近づけてくる。

 

「……んんっ」

 

 そして、側にいる古鷹は少し恥ずかしがっているように見える。視線を逸れそうとしても目が勝手に……って感じだ。古鷹には何か、いかがわしい行為にでも見えたのかな?

 

「では大本営に……我ハ提督ヲ尊敬セリ、とここに書くのだ。ははっ、我ながら少し、ナルシストだったかな?」

 

「ワ、我ハ提督ヲ尊敬♂セリ……」

 

「ん?何故かここに男性を示すマークがあるのだが……」

 

「パパがそんなに密着するからでしょーっ!!」

 

 

 ……パパ?古鷹は顔を真っ赤にしながら叫ぶ。もちろん、パパとは俺の事じゃない。

 

「こ、こら古鷹!ここでは提督と呼べとあれほど言ったと言うのに……」

 

「あ……そ、そのこれは!」

 

「えーっと……蘇我提督の、お子さん?」

 

「えっと……は、はい……」

 

 そりゃ知らなかった。最低一回は結婚してるとは思ったけど、まさかこんな美味しそーーじゃなくて、可愛らしいお子さんがいたとはね。しかも秘書艦。

 

「古鷹が他人のように接してたから気付かなかったよ」

 

「君を含め、ここのみんなは優しい。だから隠す必要はないのだが、おおっぴらにこの事を言うのは控えてもらえると助かる」

 

「もちろんですよ」

 

「い、言っておきますけど、フリじゃないですからね!」

 

「わ、分かってるよ古鷹」

 

 んん……提督って立場にいる人間の娘が、優しい人間に囲まれていないとその正体を明かせない理由?きっと何か昔あったんだろうけど、踏み込まないのがジェントルマンの努めだ。

 パパ〜なんて言うから、一瞬だけいかがわしい関係かと思った。あの大天使古鷹がパパ活してるなんて聞いた日には、生きていけない。

 

「コホン……少し無駄話が過ぎたようだ。さぁ、指導を開始するよ」

 

「了解しました」

 

 そしてまた手を重ねてくる。

 

「だから密着しすぎです!!」

 

 


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