「わぁ〜!見てください司令!鯉が泳いでいますよ!かわいいっ……」
「ははは、そうだな……でも、親潮もかわいいよ」
「も、もう……司令ったらっ」
庭園の池の近く。
まずいぜこれ、やっぱり縁談は破棄しようって切り出すタイミング見失ってる。
しゃがみながら池に泳ぐ鯉を見て笑う親潮は、ひまわりのような笑顔で俺に微笑みかけてくれている。再三おれは、これが見合いの場であると言うことを、なんとなくだが意識させている。そうすれば親潮は「な、なにかんちがいしてるんですか!私は司令みたいな気持ち悪い人と結婚するつもりはありません!」と罵声を浴びせてくれて、「なんだとコラァ!?」と縁談破棄を申し出るきっかけをくれるかと思ったが……この通り、ノリノリである。
この流れで破棄すると、親潮と楽しい一時を過ごしているのが嫌みたいに思われるから避けていたら、ダラダラと時間だけが過ぎていた。
「司令!あっちに盆栽がありますよ!見てみましょう!」
「おう」
選択肢は2つしかない。
きっちり断って斎藤長官に土下座するか、親潮が俺をキザいセリフを吐きまくるクソカスと気持ち悪がるまで待つか。俺は歳相応とは思えないほど下品なおちん○ん仮面でもやろうかと思ったけど、さすがにやりすぎだと気が引けるのと、後の仕事に支障をきたすということでやめておいた。
ライフカードがあれば……いや、あっても2つの選択肢に”親潮とケッコンする”という第三のチョイスが追加されるだけだろう。親潮は俺と結婚するのはやぶさかではないとでも思ってるのだろうか?困る、俺はまだ結婚したくないんだ。
親潮はかわいいし、しかも長官の娘だし、あそこでなんかドローン飛んでるし……って、ドローン?
鈴谷たちが立ち寄った製品店の外では。
「Meの祖国ではBest buyっていう家電量販店があるのよ!12月の前のBlack Fridayに必ず行くところなの!」
「は、はぁ……」
祖国アメリカの素晴らしさを、数ある店を通る度に謳うアイオワに耳を貸す大鯨が歩道を歩いていた。大鯨は作戦の功績から金鵄勲章を得るために来てるが、目的地を同じくするアイオワが同行していたビスマルクとはぐれてしまったため、探すのを手伝っている。
大鯨は作戦では後方支援の指揮を行っていたため、前線指揮官より目立つことはなかったが、補給と戦闘支援の手腕は海軍上層部でも高い評価を受けており、この勲章授与は蘇我提督と斎藤長官が直々に薦めたものである。
当然、人々が時の人として覚えられる有名人の数は盛り見積もって三人程度であり、大鯨を覚えている人は少数派ではないが、道路を通り過ぎる通行人の目を奪ったのは、たわわで柔らかそうな可愛らしいおっぱいと、これまたデカくアメリカを体現した過激な衣装を着ている金髪碧眼の美女の姿である。
「あーもう!あのGermanどこに行ったのかしら!?Meを怒らせたらどうなるか分かってるはずよねぇ!?」
「あ、あわわ、わたしに言われてもぉ……!」
庭園近くの公園。
「これでいいかも?」
「ありがとうございます!助かりました!」
「いいかもいいかも!同じ艦娘が困ってるんだから、助けるのは当然かも!」
秋津洲がドローンを飛ばしている。
(※許可がない場合、飛ばしてはいけません)
「それにしてもすごい技術ね。流石は日本だと感心するわ……まぁ、私の祖国も負けてないけどっ」
「ドイツも技術大国には違いない。この那智も、一度は行ってみたい国だ」
鈴谷、熊野、那智は公園でドローンを飛ばそうと奔走していたが、操作方法がいまいちつかめず、通り過ぎようとしていた秋津洲とビスマルクが彼女たちと接触する。
軍令部第1課の職員として異動するために来た秋津洲の処置は、提督となってからの作戦立案能力に長け、優れた能力もさることながら人格的な要素を含めても、軍令部が欲しがるのは無理もない。同じ主席卒業者として目を付けていた大淀総長からの申し出を秋津洲が一言返事で承諾したのは、軍人たるもの命令を聞かなければならないという概念ではなく、軍令部で自分の実力を試せる機会であったからに他ならない。
艶のある金髪をかきあげて天空の陽射しを仰ぐビスマルクは、ただただ呆然とドローンを見つめながら「なんでこの人たちはやたらとあそこの敷地内を覗こうとしてるんだろ?」と考えていた。
そもそも東京の多彩な街柄を物色していた故にはぐれたアイオワを見つけて、さっさと大本営に向かうべきなのだが、柱島鎮守府でも名前が通っていたあの秋津洲がなぜかドローンを飛ばしている光景が非常に異様で、相方のことをすっかりと忘れていた。
「慣れてるのね秋津洲。前線で戦っていた時代でもドローンを飛ばしていたのかしら?」
「ううん、確かに艦載機は飛ばしていたんだけど、ドローンじゃなくて、二式大艇ちゃんかも!」
聞き慣れない言葉に艦娘たちは頭上にはてなマークを付けた。
スマートフォンを連携させてみる高画質映像はかなりのクオリティーを誇り、鈴谷たちに時代の進歩を感じさせる。
ズームして見る庭園内には、一緒に鯉を見ていた親潮たちの姿を発見できた。本人たちはどうであれ、このお見合いは第三者からしてみれば既に縁談が成立しているのでは無いかと思うほど仲睦まじい光景であり、鈴谷と熊野にとって微笑ましい状況とは言えなかった。
「あ、手握ってるッ!!親潮なにやってるのアレ!?宍戸っちも何デレデレしてるの!?爆撃するよォ!?」
「とぉぉぉぉぉぉおおおうおうおう!!!」
「一体なにを慌ててるんだ君たちは……別に由々しき事態でもあるまいし、むしろ微笑ましいではないか。と言うより、本当に見合いだったんだな。うん、良きかな良きかな」
「「良くないですッッ!!」」
「お、おう……あ、結城大尉、帰ってきたのか」
ボロボロの服で帰ってきた結城はゲッソリとした顔で艦娘たちを見渡した。二人ぐらい増えてるが、それを気にできないほど体力を消耗している。
「あ、帰ってきたんだー!良かったよかった」
「良くねぇよォッ!?危うく別の世界に連れて行かれるかと思ったよォ!?」
「ごめんごめん!でもドローンも順調だし、結構役に立ってるよ?」
「ソイツは良かったァ!……って、秋津洲さんじゃん。なんでここにいるの?」
「秋津洲は今日から大本営勤務かも!結城大尉は?」
「オレっちついに昇進!長かったァ……」
「おめでとうかも!あといろいろ卒業おめでとうかも!」
「秋津洲さん?勘違いしてるかも知れませんが、オレっちのしりはまだヴァージンですよ?」
「そう……」
分かった途端に無関心、あるいは残念にも見える顔を見せた秋津洲。結城はこの世に自分の尻が冷酷な黒光り御柱によって貫かれることを望んでいる人が存在することに3秒間絶望するも、3秒後に復活する。
鈴谷が指示して、秋津洲がドローンを操作しながら親潮たちがいる日本庭園の他にも、ホテルビルの屋上にいる時雨たちの姿も確認し、再度カメラを移動させる際に、大鯨とアイオワの姿が映った。
「あれ、これ大鯨かも?それに隣にいる金髪は……」
「Amerikanerッッッ!!!」
アイオワが映された場所に猛邁進していったビスマルクは、止める暇も与えないほど素早いダッシュで公園を去る。
美脚から繰り出されるスプリントは疾風を起こし、先程までクールビューティー的な態度だったビスマルクの豹変ぶりは、皆を唖然とさせる。
「うぉ!な、なんだあれは、艦娘か?」
「あれはビスマルクくんだね。一度だけ話したことがある。確かあれは、プリンツ・オイゲンくんにあった時だったかな……」
「一度会っただけで名前まで覚えているとは、流石です長官」
斎藤長官、並びに斎藤中佐が乗る車を追い越す程ではないが、明らかにその道の選手であるかのような猛スピードで歩道を走り抜けるビスマルクに一驚した。
彼らが向かうのはもちろん、親族のお見合いの場となる庭園である。
「知っての通り、この車内と行き先はともにプライベートだ。だからここでは父と呼んでくれていいんだよ。まったく親潮もお前も、真面目なのはいいが身内だけの場なら少しは肩を落とさないか」
「も、申し訳ありません、父上」
「…………」
わたしもいるんですけど……とツッコミを入れず、運転手として沈黙を守リ続けるのは、妙高、那智、そして足柄の妹にして、妙高姉妹の末妹、重巡羽黒。
ほか三人の大人びた容姿とは異なり、まだあどけなさが残る童顔は彼女が所属する海軍省、そして兵学校の教官時代でも評判を持ち込むほどの美人であるp。人当たりの良さ、そして何事にも一生懸命な姿を見て彼女を批判する者は、ただただ嫉妬深さの権化である。
後に宍戸をして八面玲瓏と称される羽黒が、そのまた後に元帥となる大将、斎藤海軍大臣の専属副官となるのは驚かれることではない。羽黒の能力からしても仕事上の付き合いから推測しても、彼女ほどの適任者はいない。
「それにしても親潮があの宍戸と結婚、ですか……」
斎藤中佐は神妙な顔立ちで瞳を閉じた。
両者の想いが一致すればめでたいことだと、不平不満があるわけではない。彼は自分の父が妹にお見合いをすすめた理由を探るべきなのかと迷っていたのだ。
宍戸の予想通り、斎藤長官の意図は親族にすることで結束力を強めることにあった。今でこそ名前が通るようになった彼の英名は、今後の競争を激しくするとして、先手をとっておこうとしているのだ。しかしそんなことを言えば、長官は自分の娘を政略の道具として使う人格破綻者として心情を悪くするところだが、あいにく彼は家族を愛している。
親潮とのお見合いを決行するにあたった最低条件、そして何よりこのビッグイベントの発端は、親潮の気持ちにあった。
定時連絡として入れられていた電話では彼のことばかり話し、声色はとても晴れやかであり、少なくても嫌いな相手のことを話している印象はなかった。
斎藤中佐は、早とちりがすぎる、もしも勘違いだったらどうするんだ?と考えるところだが、人の本質を見通すほどの慧眼を持つ彼が身内のことを理解できないはずがない事も、無条件で信じるだろう。
「なにか不満があるのかな?提督育成プログラムの時から彼と寝食を共にした仲なのだから、彼の人柄は私より分かっているはずだろう?」
「はい。ただ未熟ながら、時間の経過というのがこれほど早いものだったとは、と、改めて思い知らされた気分です」
「ハハハ、私の歳になってみるといい、時間は更に加速していくぞ?そうは思わないかね羽黒くん?」
「あ、は、はいっ!」
なんで今のわたしにフったんだろ?と羽黒は思いつつも、なんとなくその気持ちが分かった気がしていた。細かいことだが、車を発進させて一時間近くが経っているのにもかかわらず、まるで数分間のように思えた感覚は、子供の頃には感じ得ないものだったからだ。
到着した日本風味な建物の前に、黒光りする車が停めてある。それだけでも通行人の目を、一瞬だけだが、奪う要素となるだろう。
運転手が外から後部座席まで回って開けるのは伝統のはであり、VIPが降りる際に敬礼するのは士官としての礼節である。これを敬礼ではなく、両膝に腕を携える形式の礼でやれば、ヤクザ風になる。羽黒は駆け足で長官が乗るドアを開けようとしたが、プライベートだからという理由で先に開けられていた。
同じく斎藤中佐も気にせず車を降りると、数十メートルほど離れた場所で数人の低身長な女性たちが屯する姿を目撃した。あれは舞鶴に行った時にいた艦娘ーー記憶力の面で長官を褒めていた斎藤中佐も、その才気を十分に受け継いでいる。
その一方で屯している艦娘の一人が、斎藤長官や羽黒の姿を見て驚いた。
「あ、あれって斎藤提督ぴょん!?」
「あら本当だわっ、相変わらずかっこいい……」
「もう東京にいるとは聞いていたが……まさかこんなところで見かけるとは」
舞鶴鎮守府に所属していた艦隊の三人である卯月、如月、長月が自分たちの元上司の存在を確認した。
コンビニで買ったフランクフルトをもぐもぐと頬張る三人は、さながら休日の女子高生のようだが、彼女たちはれっきとした艦娘である。姉妹はよく似ていると言われるが、その性格も容姿もフランクフルトの食べ方も千差万別。
卯月はパクりと、長月もガブリと、如月はしゃぶしゃぶと。
如月の食べ方は特に問題があり、麗しい容姿と妖艶な雰囲気が、一般通行男性の股間と煩悩をこれでもかと揺さぶる。注視するために止まる者が多く、路上を滞らせるとして長月がやめるように促したが「女の子はどんなときでも、視線を浴び続けたいものなのよ〜」と反論してきたため、「このフランクフルトで長月のボルト締め技法を鼻の穴に叩き込む」と脅されたので、しゃぶしゃぶからチュパチュパへと変更された。
「一応上官だった人だし、挨拶したほうがいいのかしらぁ?」
「いや、私たちの顔など覚えてはいないだろう。気にしないほうが一番だ」
「挨拶するしないはともかく、なんでここにいるのかすごく気になるぴょん!」
卯月は食べ終わったフランクフルトの棒を10メートル離れたゴミ箱に投げ捨て、手をワシャワシャさせながら不敵な笑みを浮かべた。
姉妹二人は悟るーーこれは卯月の悪戯心に火がついたと。流石の卯月でも、海軍上層部の頂点に対して足を引っ掛けるような真似はしないだろうが、少なくても事の全貌を知りたいと思う気持ちは強く、それが艦娘界のロキを尾行モードにする。
「あ、あまりおふざけはしないほうがいいと思うの!だから卯月ちゃんおちついて!」
「うるせェぴょん!この駆逐艦卯月は、誰は相手でも狙った獲物はぜったいに逃さないぴょん!」
「大げさなセリフだが、ただ何をしているのかを覗き見たいだけじゃないのか?」
「それでも大問題でしょう!?あ、ちょっと卯月ちゃん!」
卯月は腰を低く落とし、長官たちが入っていった玄関の門を、仲居や羽黒たちの目をかいくぐる。このとき既に如月と長月が止められない所まで来てしまったため、独断での行動となっていた。
「……ん?」
「!」
仲居のババァが卯月の入った茂みの中を見ている。薄い緑に囲まれた子供を見つけるのは困難だが、不可能というほどでもない。
早速侵入に失敗したかと思ったが、このおばさんは近眼であり、目を細めても隠れ上手である卯月の姿を認識することはできなかった。
去っていく仲居の姿に、思わず溜息を漏らした卯月。スニーキングスキルは天下一であり、その昔、あの春雨にもこのスニーキングスキルを習得させたほどの逸材である。
スパイ活動、破壊工作などのテクニカル、そしてタクティカルアクションにも優れる卯月は、時代が違えば、艦娘として戦うよりも活躍できただろうと、舞鶴時代から見ていた宍戸は思っていた。
見つかりそうな緊張感が全身を走り抜ける中庭の広々とした空間には通常、庭師や従業員が手入れをしているのだが、現在お見合いの場として使われている故に、当事者である二人しかいない。
「あれは……宍戸ぴょん!?それにあの女の人は……そして……斎藤提督と羽黒さんと、例の陸軍メガネと……」
卯月の脳内は、限られた情報しかない状況下から、大まかだがいくつかの推測ーーそれらの中から無意識に3択へと絞り込んだ。
一は、二人と長官一行は関係ない。
ニは、あの少女は実は長官の娘である説。
三は、あれは宍戸の妹説で、同行していた陸軍クソメガネとのお見合いする説。
二番目が正しく、卯月もなんとなくそれを信じようとしていたのは、彼女が理論的な頭脳を持つ頭のいい艦娘だからではなく、その逆を行き、ただただ「面白そうだから」という単純明快かつ非論理的な理由からだった。
距離にして、これまた10メートル範囲のところで笑い合う二人の男女。仲居さんの持ってきてくれた料理を見て、屋内に戻っていく二人の後ろ姿は、卯月の個人的な見解からすれば悪くないと感じていた。
しかし違和感を感じいた。
舞鶴時代から、長いあいだ名前を呼び合い、仲間として切磋琢磨していた卯月だからこそ感じた疑問だろうーー卯月は、これまた個人的な意見だが、時雨か村雨とくっつくと思っていたが故に、全く知らない美少女と仲良くお見合いをしている姿を見て、なんとなく違和感を感じたのだ。
だがそれは、決して悪い感情ではなく、むしろ面白そうな展開になりそうだという予感を胸にし、長官一行の尾行をやめ、宍戸のお見合いを見届ける事にした。
「あははっ、もう司令ったらっ!」
「アハハハ、ハァ……」
緊張で出された料理の味が分からない。
「ど、どうかしましたか司令っ?ま、まさか、どこかお体の調子が……」
「え?いや、まぁその……なにぶん多忙だったから疲れが中々取れないんだよなぁ……」
「……すいません司令。司令が疲れてるのに、私だけはしゃいじゃって……」
親潮は先程のニッコリ笑顔から一転、暗い表情で顔を俯かせた。
「い、いやいやそんなことない!親潮の元気な姿を見ると、元気が出るんだ」
「ほ、ほんとうですかっ?」
「あぁ」
子供が向けてくるような、しかし両頬から鼻にかけて血色をよくし、安心感を得たように細くした目と、女性らしい仕草には麗艷さもある。
……クソォ!かわいいじゃねぇか。
本当にケッコンしようか。
「楽しそうだね」
「「さ、斎藤長官!?」」
親潮とおいちー料理を食べているところに、突然の来訪者ーー開けられた襖から出てきたのは、なんと海軍のトップ!そして後ろからズラズラと続いてくるように斎藤中佐、そして……秘書艦?かどうかは分からないけど、黒髪ショートヘアの美人が入ってきた。
明らかに仲居さんではなく、海軍の艦娘的な格好をしてる美人さんが「上着持ちますっ!」と言ってきたのを「ありがとう羽黒」と長官が返したので、名前は羽黒さんと言うらしい。
長官と中佐という家族同伴なので、親潮の母かとも思ったが、若すぎるし、中佐も羽黒と呼んでいたので違う。
お見合いをしていたとは到底思えない動作で俺たちは立ち上がって敬礼するが「プライベートだから」という理由で敬礼は返してもらえず、楽にしろと言われた。
いや無理でしょ。
「久しぶりだな二人とも、元気にしていたか?」
「俺はいつも通りッス中佐」
「ハッ!斎藤司令も白浜要港部にて武勲を上げていると聞きますッ!」
「さっき父上に敬礼をやめろと言われたばかりではないか……それに、プライベートなのだから私の事はお兄ちゃんとーー」
「いいえッ!結構ですッ!」
「っ───」
中佐のローマ像みたいな顔はじめて見たかも。
親潮は少しキツめの言葉で突っぱねて、お兄さんである中佐をカチコチにしたがーークソ真面目という言葉が何より似合う親潮だ。緊張からか、身内でも通常運行でいくのが彼女である。
「ハハハ、これほど真面目な娘は今どき珍しいとは思わないかね宍戸中佐?」
「は、ハ!可憐な御嬢さんとのお見合いの場を設けて頂き、この宍戸、幸甚の至にございます!」
「ハハハ、そう思ってもらえて娘も嬉しそうだよ」
横にいた親潮は本当に嬉しそうだった。
立ち直った斎藤中佐も「フッ……」と良さげな感じに鼻を鳴らし、羽黒さんも「ふふふっ」と微笑ましそうに笑った。
これ、普通に考えて結婚まっしぐらじゃないですかね?結婚したくないのに、この大団円的な雰囲気が俺をケッコンへと強制して、抗う力を抑制している。
「……うん、いいね。学業は二人共に優秀、健康な身体付きであり、もちろん離婚歴もなく、現在付き合っている異性はいないどころか、親潮に至っては知る限り、これが初めての経験……これはもう、ね」
斎藤長官が紙を取り出し、これはもう結婚まっしぐらだね、と言わんばかりの熱い視線を送って来る。
「そ、それって身上書ですか!?」
「あぁそうだが……」
「貸してくださいッ!!!」
長官から紙切れを強引に取り上げた親潮がジッと見つめるのは、身上書という、お見合いでの履歴書である。もちろんこれは俺が書いたわけじゃないし、親潮のも貰ってない。スリーサイズが書いてあるわけじゃないんだし、誰が来ても断る予定だったので意味がないと思ったからだ。
親潮の頭越しに覗くと、俺の個人情報がびっしり書かれてあったのは言うまでもない。もちろんこれらは海軍本部が保管してある膨大な情報のほんの一部であるが……親潮には見せてなかったのか。
海軍大学校の時に行った鎮守府研修って履歴のうちに入るのか。最近の八丈島のことまで書いてある……これが履歴に乗るとか……恥ずかしすぎる。
というか親同伴とか……俺の爺さんに同伴頼む必要があるとしても、アレは絶対誘いたくない。
「し、司令のご家族は、いらっしゃらないのですか?」
「うん……ちょっと、無理でね」
「あっ……そ、その……す、すいません!」
何かを察してくれたようで、申し訳なさそうに謝る親潮。いや、こっちこそごめんね……俺のお爺さんってちょっと特殊だからさ。
あのぬらりひょん絶対「チンチ○遊びしようかァ……!」とか言い出すから、これでも親潮のことを守ってるつもりなんだぞ?アレとも絶縁したら血縁者いなくなるからやらないけど、結婚引っ越し出産まではすべて俺に一任させてほしいもんだ。もう大人なんだし。
少し沈黙が流れそうなこの空間に間髪入れず、斎藤長官が咳払いと共に本命本題、そして究極の選択肢……あるいは、答えを尋ねてきた。
「……コホンッ、単刀直入に聞いてもいいかな?親潮との、これからの向きについて」
「「「…………」」」
重力が倍になったかと思うほどズッシリとした重荷が全身を覆いかぶさり、沈黙と四人の視線が俺を刺す。
親潮は、上目遣いでこちらを見上げ、火照り帯びた瞳が潤みながら俺の顔を映す。親潮の気持ちはどうなるんだと聞きたかったところだが、そんな顔されたら、親潮の方の答えはもう決まってるみたいなものじゃないか……俺は作戦中の吊橋効果で親潮が「わ、わたし、もしかして司令のこと……すきぃ……?」みたいな展開になったらどうしようかと思ったが、案の定それは的中してしまったのか?
だとしたら、それは偽の感情だ。親潮には俺よりもっといい人が見つかるはずだ!
これをこの家族の前で言える覚悟がある海軍軍人が居るのだとしたら、ぜひともその人数を算出してほしい。
……ここでオチ○チン仮面を発動するか?
『その答え、少し待ってはくれないだろうかッ!』
「「「っ!?」」」