整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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大規模作戦、補佐官として

 ー食堂。

 

「はぁ……疲れた」

 

「時雨姉さんお疲れ様っ、はいお茶」

 

「ありがとう、相変わらず美味しいね村雨のお茶は。お茶菓子を追加してもいいかな?」

 

「は〜い、お茶菓子のクッキー入りま〜す!宍戸さんのご注文は?」

 

「お茶とクッキー、それから村雨ちゃんをテイクアウトで」

 

「申し訳ございませんお客様ぁ〜。本店の村雨ちゃんは非売品で〜すっ」

 

「この店訴える」

 

 村雨ちゃんの店員口調からそんな茶番が始まった。持ってきてくれた物はそれだけなので、メニューもクソもないけど。

 

「それでどうだい補佐官様の仕事の方は?楽しんでる」

 

「部下に茶化される、そして疲れる、その二言に限る。時雨こそどうなんだよ?仕事の量は増したか?」

 

「まぁ僕も同じようなものさ、僕の仕事に加えて君の仕事を代わりにしているんだから当然だよ。これはジャンボパフェ三個分は固いね」

 

「奢らねぇし太るぞ」 

 

「女の子に無粋な事を言うもんじゃないよ?」

 

 女の子だったらカロリー制限しろ。

 食堂の周りは19時を回る時間帯のせいか、かなり人が多い。鎮守府の全員が集まっても席は余るほどの食堂も、普段より人数が多いと混んでいるように見える。

 卯月みたいな駆逐艦はいつも通り元気よく頬張り、瑞鶴みたいな空母はいつも通りに大盛りを腹に流し込む。

 

 数日間の補佐官実習はとても順調であり、俺は順調すぎるあまりに張り切りすぎて疲れ果てていた。

 今日は隣に座ってくれる村雨ちゃんの横乳を見ながらお茶菓子を口にして英気を養わせてもらう事にする。

 

「私も相席していいだろうか?」

 

「僕の隣で良ければ座ってよ長月。でも珍しいね、僕たちと相席するなんて」

 

「姉さん達の色話についていけないので逃げてきただけだ。暫く避難させてほしい」

 

 俺たちと同じ整備士の長月。彼女は作業服姿で紅茶とお茶菓子のセットを持ってきた。幼い顔をしているのに口調が厳格な上に男前、と言う睦月姉妹には珍しいタイプである。

 

「お疲れだな副班長……いや、補佐官殿。随分と気張っていたようだが」

 

「あれだけ休暇が必要って言ってたのにこれだけ頑張れるなんて、人間って案外働けるものなんだね」

 

「そりゃ働けるよ……特に、男の視線を釘付けにするもののためだったら尚更……フヒヒ」

 

 テーブルに顔を着きながら村雨ちゃんのロケットおっぱいを見る。隣の男子共は羨ましがっているが、テメェらなんかに渡さねぇと眼力を強くする。

 

「……って、ど、どこを見てるんですかもうっ!」

 

 村雨ちゃんは、本当に敏感だねぇ……(視線が)。少し頬を染めながらも、彼女は自分のハーブティーを口に含む。

 

「んっ……あちっ!」

 

「だ、大丈夫村雨っ?」

 

「へ、へいひ……ちょっと熱かったかもぉ……」

 

「そ、それは大変だ!!火傷はお、俺がな、舐めて癒やしてあげるからねぇ……!ハァ……ハァ……」

 

「さり気なくキス宣言したぞ副班長」

 

「成敗!」

 

「痛い!叩かなくてもいいだろうがァ!!」

 

「ふふっ、残念ですねっ」

 

「残念どころの話じゃないよぉ村雨ちゃんッッッ」

 

 ……仲間と交わす雑談、笑い合い、そして絆。そのどれもが大切で、掛け替えのない思い出へと繋がる。

 時雨、村雨ちゃん、途中参加の長月と共にお茶を楽しむこの至福は充実した俺の人生の一部だ。

 

 これから始まる大規模作戦の成功、そしてみんなの無事を何よりも祈りながら、

 

 

 補佐官としての仕事を全うする、

 

 その思いを胸に秘める。

 

 

 

 

 

 ー数日後の執務室。

 

 

 全うとかどうでもいいからさっさと終われカス。

 

「空母瑞鶴大破!そして敵主力艦隊は壊滅です!」

 

「何をやってる宍戸補佐官!伝令を!」

 

「は、はい!えっと、第二舞鶴翔鶴艦隊、空母瑞鶴大破!及び敵主力艦隊壊滅セリ!」

 

『敵艦隊ヘノ追撃命令ヲ下ス』

 

「敵主力艦隊へ追撃しろとの命です!」

 

「よし、瑞鶴はこのまま撤退させるつもりだがどうすればいいと思う?」

 

「ど、どうすればとは……あ、そうかッ、練度の高い睦月を護衛に付けて撤退させるのがいいかと!古鷹!」

 

「分かりました!睦月さんは瑞鶴さんの護衛、そして両名撤退を開始してください!」

 

 古鷹の顔を見てようやく瑞鶴達に命令が承諾された事を確認する。これだけ早く大規模作戦が実施されるとは思わなかった。もう既に6時間近く座りっぱなしだ。

 韓露の返事が早く、ロシア海軍が打撃を与えていた日本海周辺の深海棲艦を素早い同時攻撃で劣勢へと追い込んでいく。日本側による数日間の補給艦攻撃が功を奏したようだと提督が言っていた。

 

 大量のボタンが付いている通信機器を前にして大本営との通信とそのレコード作りに勤しむ(書くものはスマホにした)。

 伝令役として話しっぱなしだし、ミスが許されない緊迫した空気のせいか、言葉が詰まったりする事が多々あった。初めてなんだから仕方がないと言い聞かせながらなんとか補う。

 その上、艦隊指揮の判断に行き詰まったら助言したりしなければならない責任感ーー正に最前線と言う感じで、下の方で艤装装備を弄ってる時とはまた別の緊張感があって、帰りたくなる。

 提督もタブレットやらなんやらを使って他の鎮守府と連携を取ってるところを見ると、ただ命令を下すだけの仕事じゃない事は明白だ。

 

『こちら第二佐世保、ウルルン島付近に敵艦隊を発見した。我々が先に攻撃を仕掛けるので、援護を頼む』

 

「第二舞鶴了解した。古鷹、弥生の艦隊は佐世保に続かせろ!」

 

「了解です提督!」

 

『あ、えっと……柱島鎮守府です……そ、その……お、隠岐の島周辺に敵がいるので、そこは僕たちに任せてください……』

 

「えー第二舞鶴了解でーす!えっと、その近くの艦隊は……古鷹、金剛の艦隊は隠岐の島周辺にいる深海棲艦を無視してもいいって」

 

「了解です!」

 

 まぁ、他の鎮守府との連絡も、半分ぐらいは俺に任されているのが現状だ。柱島から聞こえるひ弱な声は多分俺と同じルーキーなんだろうと勝手に予測し、同類がいる事にテンションが少し上がった。

 他の鎮守府との現在状況を取り合うのはいいのだが、英語が喋れると言う理由で俺は海外の艦隊との通信も任されている。

 

『This is Vostochny Port! F*ck off Kasatka!(こちらボストチヌイ港!退けよ単冠湾!)』

 

『ジス、イズ、マイヅル!ノット、カサツカ!』

 

『Oops!простите!(わりぃ!)HAHAHA!』

 

 間違い電話感覚で平然と通信を切るクソ野郎。

 

「宍戸くん!竹島に向かった敵艦隊はどうなってるか聞いてくれないか?」

 

「分かりました!ここを押して……ジスイズ、マイヅル!竹島ズ、ヘルプ、ニーデッド?」

 

『タケジマ、ノーノォー!!』

 

「う、ワット!?え、なに、どういうこと!?」

 

『ノォー!ノット、タケジマァ!!イッツ、独島!独島ォ、イェェス!ドクト、ドクトオッケーッ!?ドクトォ〜ヌ〜ン〜ウリタァ〜ーー』

 

「えーアッチは心配ないそうです!」

 

「分かった、では弥生艦隊はその後一旦戻らせると伝えてくれ!弥生達の次の目標は佐渡島周辺だったか……じゃあ瑞鶴を弥生の艦隊に編成して行かせる!」

 

「蘇我提督、できればその後は札幌に向かわせてください。待ち構えている単冠湾に援護要請が来ていました!」

 

「ではそうしよう!」

 

 大規模作戦だけに、すげー長い作戦時間だ。とは言っても、短期決戦ということで一日だけで決める電撃作戦である。大規模作戦と言えば他の鎮守府と連携、及び数日間掛けて行う作戦なので一日と言うのはかなり急ピッチだ。

 補給線を断って弱体化した敵艦隊に短期決戦を目論むと言っても、まる一日掛けるほど大きな作戦だ。

 前の大規模作戦も確かに艤装とかクッソ早く直さなきゃいけなかったけど、今回の作戦は多分あの時以上に早い修復スピードを要すると思う。

 

 それを考えると、今回補佐官の仕事受けて良かったかも。慣れれば案外悪くないしな。

 

「そろそろヒトキュウマルマルを回る頃だが……作戦の終了命令はまだ出ないのか?」

 

「ないですね……大本営からも他鎮守府からも何も言ってこないので、こうなると地味に暇ですね……喉を休めるにはいいですけど」

 

「はっはっは、たしかにね。今のうちに休めておきたまえ」

 

 テーブルにあったボトルで喉を癒やす。同時に古鷹も喉の乾きを癒やしながら、艦隊からの報告を待っていた。

 

 大破する艦娘がかなり多いが、今のところ第一第二含めて舞鶴の轟沈者はいないらしい。

 従来の船であるイージス艦や航空機なども損傷を負う事なくミサイルを発射できたらしい。

 最初からミサイルとか片っ端から撃っとけよ、とか思ったけど深海棲艦には通用しないらしい。通用しないって言うのは、誘導ミサイルでも振り切るとか、撃ち過ぎると環境破壊を生むとか、実際やったらミサイルが空中で破壊されたとか。

 ミサイル撃たれる前に破壊とか怖すぎ……俺が政治家なら、軍事費半端ねぇイージスとか航空機とか絶対出動させたくない。最近ではロシア空軍の編隊が数機撃ち落とされた事件があったり……良く考えればすげー奴らと戦ってるのな俺ら。

 まぁでも、今回は敵艦隊をその手で撃滅することに成功したらしい、やったねイージス。

 

『こちら舞鶴第一鎮守府の斎藤、本作戦はこれにて終了とする。繰り返す、今回の大規模作戦は成功した。よって、本作戦は終了とする。各鎮守府は速やかに艦隊を帰還させ、今後の情報を待つように』

 

「斎藤中将からの作戦成功、及び艦隊帰還命令です!今後の情報を待つようにと!」

 

「やっとかぁ……!」 

 

「ハァ……疲れましたぁ〜……!」

 

 俺を含めた三人が一斉にテーブルの上にうなだれる。提督はすぐさま工房に繋がるマイクへ作戦完了、そして労いの言葉を述べた。

 修理所や工房とは結構距離のある執務室からも、「よっしゃァァ!!」と重音が聞こえる。俺があそこに居たら倒れるだろうな。

 

「いやぁ無事に終わって良かった!初めてにしてはかなり良かったぞ!」

 

「あ、ど、どうも……」

 

「古鷹もそう思います!最初以外は殆どスムーズに言えるようになってましたものね!」

 

「な、なんか照れるなぁ……はは」

 

「これはボーナスを弾ませないといけない……とは言ったものの、君は休暇の方がいいと言っていたね。古鷹から聞いているよ」

 

「くれるんですか!?」

 

「あぁ。まぁ休暇を渡すとは言っても、大規模作戦後は休む事にしているので、君だけ特別に、と言う訳じゃないのだが」 

 

 推定でもかなり資材使ったはずだし、作戦司令官である斎藤中将からの報告を待たなきゃいけないから明日の金曜日は休みになるらしい。

 

「ありがとうございます!大規模作戦後の連休は有り難みが違いますねェ!!」

 

「そうだな。しかし、まだ大規模作戦関連の書類や消費資材のレポートと出撃記録、そして大本営司令書の処理もある。連休前に申し訳ないが、手伝ってくれると助かる」

 

「勿論です蘇我提督。片付けましょう!」

 

 無事補佐官としての義務を終えた俺は、その後も数時間執務室に居座ることとなった。正直目が悪くなるのは避けたいんだけど、仕事だから仕方がない。

 明日は給料日で休日だし、今度こそ部屋から出ないようにする決心をしながら、書類の横で見るアニメの順番をメモしていた。

 

 本命の奴を見ながら萌豚系見て、テンプレ系を二画面同時鑑賞しよう。

 

「……ん?ご注文はリゼ○ャロですか……聖剣の戦乱姫……無能剣士の鎮魂歌……宍戸くん、これは何かね?」

 

「へっ!?あ、い、いやこれはそのですね……」

 

「アニメを見るのはいいのだが、健康のためにも程々にしなさい」

 

「は、はっ!」

 

 覗き込んできた提督がそう忠告してくる、優しいな……でもなんでアニメだって分かったんだろ?

 

 


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