整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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佐世保(仕事をするフリ)会議

 

 佐世保第一鎮守府の会議室。

 

 スマホのRPGゲームに没頭している中、聞き逃す事無く提督やその秘書艦や参謀長が話す事を耳に入れているが、作戦の重要性や作戦の内容を長々と話しているだけのクソ会議である上、入ってきて30分以上、なんの協議も開始されていない。

 

 佐世保第一鎮守府の提督は大将であり、現舞鶴提督と同年齢、及び海軍大学校同期の64歳である。

 つまり定年退職される時期が近い身で、見る限りは意欲の欠片もないので、この奪還作戦自体どうでもいいと思っている可能性が高く、そんな提督の下で本気になるのも面倒くさい上にメリットも少ない。

 

 それにこいつの手柄にしたくないと思う士官にとって、ガチな作戦案を考えるのは骨折り損のくたびれ儲けなのである。

 むしろさっさと誕生日迎えるかご逝去なされて、新しい提督が佐世保に着くことをみんな望んでいる。

 

 それはつまり、この提督がいるまでは、形式上は会議に付き合って仕事しているフリをしてやるが、横にいる赤城提督が第一鎮守府の提督になるか、誰か他の有望な提督が赴任してくるまでは、持ってきてる一押しの作戦案は保留にしておこう……というのが、ここにいる士官たちの総意である。

 

 少なくても、俺はそう思っている。

 意欲的ではない佐世保の提督が、作戦を強行する姿勢もないが、それ以上に参謀たちが彼の意見を否定し続けていることが救いだな。まぁ軍令部から発令がなされていない分、焦るのも馬鹿らしいが。

 

「以上が、今回の作戦の重要性だ。質問はないな?では、なにか作戦についての進言はないか?」

 

「「「…………」」」

 

「……ないなら、まずは各司令官からの意見を聞こうか。阿久根要港部の司令官の作戦案は?」

 

 紙を見て”阿久根要港部”と呼んだ。

 察するに、コイツあいうえお順に基地の名前読み上げようとしてるな?

 適当な作戦をぶつけて却下されろ新人司令官結城、それがお前の仕事だ。

 

「はッ!勇敢なる士官艦娘を総動員させ、随所臨機応変に対処しながら島へと進行。パワレンジャーのようにカッコよく敵を打ちのめし、蝶のように蹂躙する!……というのはどうでしょうか?」

 

「うん、ではそれで行こう」

 

「「「!?」」」

 

「ま、待ってください提督!」

 

 まだゲームの途中なのに、条件反射的に立ち上がってしまう。

 

「何かな宍戸司令官?」

 

「親愛なる提督のご裁量に具申意見する事、非礼の限りでありますが……結城司令官の意見を却下して頂ければと思います。ご聡明かつ老巧なる提督もお考えの通り、曖昧な言葉で締めくくられる作戦には常に失敗が付き物です。新米である結城司令官をお試しになっていた事は、小官は理解しておりますが、作戦案を容易に了承するような言動は、できれば控えていただきたく思います……何分、若輩者は、一度認められると調子に乗るので」

 

「え?あはは、確かにそうだな、うん、だめだぞ結城司令官、もっとちゃんとした作戦を考えねば」

 

「はっ!精進致しまッス!」

 

 いや、ダメなのはお前だぞ提督。

 アッッブねぇ……危うく成り行きで軍隊を動かすような案が佐世保から出るところだった。こんな案を軍令部が通す訳ないとは思うけど、流石に止めなきゃ軍令部の人たちに怒られちゃうからな。

 そんな敵見つけたから潰しに行こうぜみたな海賊並の戦い方して勝てるような敵だったまだしも、エリート艦やフラッグシップの存在も確認が取れている沖縄だ。

 あっちの島々にはほとんど住んでいないが、大きな島々には自給自足をして生活する住民もいるらしい。彼らのように本州への撤退を拒否したような人たちを今更救う作戦ってわけでもないが、米軍基地の存在は非常に大きく、アレを奪還して日本の所有物にできれば国際的な優位を築ける。日本政府はアメリカに、本当に基地を放棄したのかという点についての最終確認をしているため、それさえ吐き出させれば何時でも作戦を開始できる段階にある。

 ただ、それまでの道のりには大量にして膨大、迅速にして神速、そして精密にして慎重を合わせた超絶準備と完璧作戦立案が必要なんだ。

 

 あと頭がまだ冴えてる提督もな?

 こんな提督の総指揮の下で戦うなんてゴメンだし、作戦が速い段階で開始されれば総指揮官変えられずに、上手く行ってたらコレが元帥に昇進されるかも知れないので、そうなったら佐世保も日本海軍もオシマイだ。

 我らが偉大なる海軍大臣である斉藤長官によってそれはないとは思うけど、この人の誕生日はいつなんだろう?

 

「流石はあの”前線の龍”……見た目によらず、提督へあのように具申意見する度胸があるとは……」

 

「作戦の先鋒は彼で決まりだな!前線の龍、恐るべし!」

 

 そのクッソ恥ずかしい異名を連語するのやめろ。

 結城の例を上げればどんなクソみたいな作戦案でも通すような提督になっているため、司令官たちは作戦の進言については慎重になっていた。

 村雨ちゃんと一緒に片手でゲームを楽しみながら、会議と、村雨ちゃんのおっぱいに没頭する。かなり大きくなってる村雨おっぱいマジで揉みしだきたいわ。スマホやるためにかがんでると更に北半球が見えてさ……手に収まらなさそうなんだけど、一度は揉んでみたいな。

 

 会議はそれから一時間が経過して、結局は”各提督と司令官は連携を取りながら再案して来なさい!”として結論が出た。

 離散する沖縄奪還作戦の会の中、早速数人の司令官がお互いの案を交換しあっていたが、その中で異常な存在感を放ち続けるミニスカ弓道着がこちらに寄ってきた。

 

「初めまして……でもないですね。噂はかねがね聞いています。私は佐世保第二鎮守府の提督を務めさせて頂いております、赤城です」

 

「長崎警備府の宍戸です。艦娘として栄達なされた赤城提督のお名前は、小官が兵学校に在籍している時ですら入ってきたほどの輝名です。無礼な申しようながら、美と武を兼ね合わせた提督であると噂を聞いたことがありますが、噂というものを滅多に信じぬ小官でも、現実として証明された今、これからは噂を少しは信じてみようかと思わされる所存です」

 

「あらっ、そんな褒められ方をしたのは初めてですねっ、ありがとうございます。しかし私からすれば、お隣にいる秘書艦さんの方が遥かに美人であると思いますが……」

 

「め、めめめめめめっそうもありません!!!」

 

 緊張する村雨ちゃんが再度敬礼した所で、行式的な建前を崩して本題に入る。

 

「赤城提督は、この作戦をどうお思いですか?」

 

「そうですね……正直に申しますと、時期尚早ではないかと思います」

 

「自分もそう思います。最大でも一年程度は待つべきだと思いました」

 

「最大で、ですか?それはどういう……?」

 

 ……この人本当に気付いてないのか?

 みんなはあんたに佐世保第一鎮守府、そして佐世保方面の総司令官になって欲しいと思ってるんだぞ。だからあのクソ提督が退役するまで待とうとしてるんだよ。でも流石の俺でもそんなこと直球に言えねぇわ。

 

「えー……年々の深海棲艦の動きは活発化しており、フラッグシップなる新種の発見がされたともなれば、奪還は難しくなるだろうという、ある種の焦りからきた期間です」

 

「……なるほど」

 

「赤城提督!ちょっと相談があるんですが……!」

 

「あ、はい!今行きます!それではまた後ほど」

 

「ハッ!お会いできて光栄でした!」

 

 赤城提督の後ろ姿を眺めていた村雨ちゃんは、一気に力が抜けたようにもたれかかってくる。前よりも大きな胸部装甲がむにゅっと音を立てて体重が乗った片腕を伝い、血行を良くする。

 どうやら偉い人を見ると緊張しすぎるようだ……帰ったら、俺の血行を良くしてくれた代わりに、体の緊張をいっぱい解してあげなきゃ……グヘヘヘェ!!

 


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