整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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ネタバラシ2 キュイン!

「ハハハ、ご歓談のところ、お邪魔してしまいましたかな?」

 

「「「班長!!」」」

 

「キュインっ!」

 

「ん?」

 

 出撃所に入ってきたのは、整工班班長という、この警備府で多分二番目に偉い地位にある人だ。

 とは言っても、俺のように実戦部隊を技術的に管理する彼らが最も重要だから整工班が警備府組織内では一位だと言うやつもいれば、士官としてのキャリアや階級を考慮すれば参謀部が一番だと思うやつもいるので、序列的な順位への解釈は人によって変わる。

 

 ただ一つ言えることは、荘厳さの中に間見える温かさを持った、まさに徳高き理想的な上司であると、数度会っただけで分かった。

 彼のキャリアは二等兵から始まり、古い習慣に囚われたアホは彼を特務大尉と呼ぶだろう。

 班長の人徳を説明するには、第五艦隊や整工班が敬礼を捧げる相手として相応しいと言っているかのように、誇らしく、そして堂々とした笑顔をしている事に尽きる。

 俺も迷わず敬礼したが、漢としてのカッコ良さからケツが締まり、時雨はん?と声をもらした。

 

 そして班長の横で縮こまっている三日月の姿も写ったが、俺を見ると即座に後ろに隠れてしまった。 

 

「どうしたんだ三日月?我らが司令官殿の前でそんな態度を取っていたら、失礼じゃないか?」

 

「す、すいません……そ、その……萬さん、ですよね……?」

 

「萬?宍戸くんいつから日本人やめたの?」

 

「昨日、そして今日帰化した」

 

「ふふふっ、お忙しいのですねっ」

 

「フッ、提督とは常に激務と時間外勤務に晒されているものなのさ。しかし、それで少しでも涼月たちの手伝いができるというのなら、俺は24時間勤務も辞さないさ」

 

「素敵……!僕、こんな素敵な提督見たことがないよ……!僕に休暇を取らせるために24時間ぶっ通しで働いてくれるなんて……!」

 

「フフッ、貴様俺がぶっ通しで働いてお前のポジションを埋められると思ってるのか?生憎だが俺は男の分際で艤装を付けて戦える艦息ではないのだよ」

 

「あーたしかにそうだね。じゃあ僕がちゃんと演習できるように抱きかかえながら戦ってあげるからっ」

 

「テメェそれじゃ意味ねぇだろうがコラァ!!?」

 

 時雨とのやり取りが面白かったのか、班のみんなや第五艦隊に笑われている。三日月も、少しは笑ってくれたので、置きやすい位置にある頭を撫でる。

 

「まぁそんなワケで、兵曹長から大佐になっちまったから、何かと至らないところもあるかもしれないけど、よろしく頼むな、先輩」

 

「は、はい!」

 

 シャキッとした金色の瞳に孕んだのは、畏怖ではなく、紛れもなく勇気の炎だった。また固いが、これから解していけばいいか……女性を扱うときは、焦っちゃ駄目だもんな。

 

「ははは、それにしても流石は時雨大尉ですな、我らが司令官の扱いを熟知しているようで。聞けば、二人は旧知の仲なのだとか。失礼な申し上げようながら、微笑ましく思います」

 

「と、とんでもないです!は、班長からの失礼なんてむしろ望むところです!」

 

「は?そこに反応するの?」

 

 時雨、反応してるのはソコだけじゃないんだぜ?

 

「ではもう一つだけ、失礼をお許し頂けるのならば……肩章が曲がってますよ」

 

「ドキィ!」

 

「「「……?」」」

 

 急接近するダンディー(自身が)スケベオヤジが色男を演出してきて、俺、女の子になっちゃう。そう呆れた顔をするなよ時雨、こんなんどうしようもないじゃん♂。

 

 

 

 廊下。

 

 ダンディー色気男班長と第五艦隊と別れたあと、俺は数十分程度ぼーっとしていたが、時雨の蹴りがケツに炸裂して目を冷ます。

 旗艦である涼月とも相性は悪くはないらしく、カミカゼンジャーは”汎用的に使うことのできる俺の有能なな艦隊”となるだろう。汎用的な運用ができる……なんてのは言い換えれば特徴のない駆逐戦隊なのだが、神風たちの実力は性能じゃない、と神風たち自身で言ってたので、そこの所は実戦で示してもらうことにする。

 

 手元にある端末を片手に、各艦隊への軽い感想文を書き込む。

 

「あぁっ……イッチャイソウダッタ……!」

 

「逝けばよかったのに」

 

 時雨の暴言はとどまるところを知らない。

 

「神風たち驚いてたね。まぁあんなキモチワルイ顔であんな風に言い寄られたら僕も流石に引いちゃうかな」

 

「俺は寛容だからそんなこと言われても黙ってられるんだぞ?ゴミみたいなエリート意識と、士官は貴族!的な排他的伝統を重んじるクソ提督よりかはむしろ、こんなに素敵で話しやすい提督初めてです!て神風たちからも言われただろうが」

 

「素敵な提督は溜まったメールもちゃんと目を通してあげると思うんだけど」

 

 時雨が俺の端末に目を向けて指差すのは、右上に99+と表示されたメールアイコン。これはつまり、メールアイコンを押した瞬間、メールの中にある99通以上の未読メールが表示される事を意味していた。

 

「フン!ほとんど同期とか知り合いからの冷やかしメールが殆どだから放置してんだよ。ほら適当なメール開いても、”今なら30%オフ!あなたの心に愛をお届け!心愛(20)が自宅に訪問ご奉仕サービス!”だってよ?……いや、これはただの仕事のメールだったわ、忘れてくれ」

 

「どんな仕事か分からないけど、とっても心愛がこもってそうなオシゴトだねっ」

 

 最早憐れみの微笑みを差し向けてくる時雨との話題を逸らすためにメールを漁っていたら、一通の見覚えのない送り主からのメールが、ピンポイントというべきか、いま届いた。

 開いてみると、独占取材のための時間をくれて、ありがとう!というメールだった。

 

「あ?」

 

「独占インタビュー……?って、また報道陣?宍戸くんがいなくなった後も要港部に何度か来たことがあって、正直面倒くさいのは少し遠慮したいんだけど……」

 

「インタビューなんて着任式の時にするだろどうせ」

 

 報道陣と、観客として烏合の衆……ではなく、市民が集まる大きなも催し物の一つは、警備府のオープニングセレモニーだ。多種多様な人たちが集まるこのビッグイベントに当然ながらアポイントなんて必要なく、警備府の一部を一般公開して、都市と警備府との大歓迎会を開くのは、当然のことながら報道陣も押し寄せるだろう。これと共に、俺を含めたみんなの着任式をするのだが、それは指して問題にはならない。

 要港部を開いた時は立地的に一般人が立ち入るには難しかったのでやらず、代わりにこちらが出向く形になったが、大都市と……自分で言うのはメッチャ恥ずかしいが”前線の龍”による警備府運営が始まるとなると、大きな賑わいが期待できる。

 

 俺はセレモニーの時に時雨たちを盾にして報道陣から隠れてようかなと密かに思っていたのだが……独占インタビューなんて聞いたことがないッス。

 

「なんだこれ?俺まったく許可なんて出してないんだけど……まさか、俺って実は二重人格で、知らない間にこのクソみたいなドクセンインタビューに応じていたとか?冗談じゃねぇぞおい……美少女だったらまだいいぞ?でもインタビューアーがオッサンとか、拷問ですかっ、ふふっ。しかもGAIJINだし、なんだよアダムって、人類創世記かよ」

 

「美少女でも、少し可愛いからって調子に乗ってる!とか言うくせに……」

 

「HAHAHA、何を言うんだ時雨、俺は紳士だからそんな事言わないって。それはともかくだな、もしコレが本当だと仮定すれば、海軍の上層部から連絡が来ているはずなんだけど」

 

「じゃあズベコべ言わずに開けてみたら?」

 

「うんゴメンね?だからいま仕事用のメールと警備府用のメールを同時に開けてるトコだから黙れよ?」

 

「「グルルルルゥゥぅ!!!」」

 

 廊下を歩きながら額を擦り合う姿は異様に見えたのか、道行く士官や艦娘たちが目から眼球が出そうなぐらい見開いていた。

 

 しかし警備府用のメールにも無かったので、仕事用のメールを見たら、その中には海軍省にいる班長課長からのメールがあり、概要欄にエクスクラメーションマークがびっしりと埋め尽くされていて、最初はウィルスかと思ったが、確かに課長のメールだったので、元上司のメールを開けてみる。

 

 ”宍戸!久しぶりだな。ぁあんっ!俺の方は元気にやってい、るぅんっ!実は、初春以下四隻を異動させた代わりに俺からも頼みが……あぁん!あ、あってだな……お、お、おま○こぉ^~ではなく、お前の所にインタビューをしたいというやつが居てだ……だなあぁぁぁん!応じてやってはくれないか?既に了承を得てしまってからでは遅いとは思うが、彼とは長い友人関係でな。どうしても、お前の取材がしたいと言ってきたんだ。彼とのコネクションを持てば、お前にとっても有益なものとなるだろうから、損をするような話ではないと思う。無理矢理で済まない……いや、俺にとってむしろ無理やりのほうがキモティ感じちゃうぅ……!”

 ……全文を読むほど暇ではなかったので要件としては、友人であるジャーナリストへの独占インタビューに応じてほしいとのことだった。

 

 初霜たちを異動させる手回しをしてくれた彼への後ろめたさもあるが、既に了承しているような状況であれば、それを断るか否かは度量の深さを試される。

 

「……やるしか無いじゃないィィィ!!!なにこれぇ!?なんでメールなのに電話しながらエッチみたいになってんの!?なぁオイシグレェ!?」

 

「ぼ、僕に言われても……」

 

 独占インタビューには警備府の奥内部まで侵入させることとなる。警備府のみんなと触れ合う機会を設けたものの、流石に一日だけでは俺の全貌を把握できまい。

 しかし知り合いが多い中で、要港部にいた時に行われた取材みたいに俺の悪評が出回ったら……警備府生活終わるナリ。情報統制しなきゃ。

 

 


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