整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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(作風)壊れちゃぁ〜う↑


記者さんキシャサン

 

 アダム・ギルバートはドイツ系アメリカ人として生まれ、大学では経済学部に入るも23歳の頃に徴兵され、その後は記者としての人生を歩んでいた。

 自由の国アメリカでの徴兵とは言っても、事実上は深海棲艦からの攻撃にそなえた避難訓練のようなものであり最短一ヶ月程度で終わるが、彼は軍隊に興味を持ち、一年間以上を海軍基地で過ごした経歴を持つ。

 彼の記事は”平均的に比べたら人気”だったが、その秘訣は彼が従軍記者としての性質を兼ね備えていたからだ。

 それも、前線の基地から軍本部までの内部事情を事細かに書く敏腕記者であり、これが成せるのは彼が築く幅広い人脈あってこそである。

 在日記者としてその人脈構成能力は業界内で優れた評価を受けており、数々の記事やスキャンダルを新聞紙に描いてきた彼は、現在長崎警備府の敷地を踏んでいる。

 

 取材したいと要望を出していたのは、新設された長崎警備府と、名誉ある初代司令官として着任した若年の提督へのインタビュー。司令官の顔はアノニマスではなく何度かテレビに出たことがあり、その名前も民間人の口から耳にするほど有名な軍人だが、直接会うとなれば緊張と興奮が高まっていた。

 

「開港セレモニーはどうでしたか?」

 

「Very good!とてもヨカッタよかった!」

 

 警備府側が用意した兵士に案内されていた記者は、先程報道陣として参加していた開港セレモニーの事を思い出していた。

 彼が水兵時代を過ごしたというノーフォーク軍港と比べたら月とスッポンの差があるが、それでもこの警備府は機能するんだろう程度の認識しか持ってはいなかったが、それだけに司令官の力量が試される場でもあった事を、彼は知っていた。

 多くの報道陣が囲っていたのは司令官だけでなく、彼とともに戦った前線艦隊、あるいは”私兵”とも呼ばれている数人の艦娘であったが、流石にガードが固く、威風堂々とした顔立ちでマイクを押し付けられていても釈然とした態度で応対しつつも、謙虚な姿勢を忘れないのは流石だと感じていた。

 警備府司令官は、大佐に昇進した時も列席者は鎮守府内部の人間がほとんどを占めており、家族などの姿は見られなかった所を見ると、彼はこれ以上の栄達を望んでいるのか……?と、昇進式に報道陣の一人として出席した彼の書いた記事は会社側からも好評だった。

 

 周囲にある建物の構図、そして警備府内で起こる人々の日常的な動作を脳裏に焼き付けていた。

 演習場、食堂、会議室、工房、病院……どこを見ても日本海軍は精錬された軍隊であり、これまで彼が立ち寄った国々とは一線を画した艦娘技術の宝庫であると言える。政権交代から、半世紀以上の弱腰外交が行われていた国がいきなりタカ派となるのは各国の目からしても異様な光景であり、国民からすれば、これもある種のパラダイム・シフトであると、後に記者は語る。

 施設や組織構図を包み隠さず紹介されたが、彼が受けた印象は新鮮さに欠けており、辺りを紹介する兵士の言葉をジョークで返し、談笑に浸りながら面白い物がないかを探していた。

 目についたのは前線艦隊としてテレビに出ていた艦娘だが、彼女たちとの接触は「演習中だから」という理由で控えられた。興味は、彼のジャーナリストとしての人生に欠かせないものであった。有名人を今更取材して何の意味があるのかと言われる事もあるが、逆に有名人だからこそ彼らの奥深く知りたい好奇心が蠢き、人の柄を知るところからジャーナリズムの全てが始まるというのが、彼の信念だった。

 

 しかし、士官たちの目を掻い潜る行為は危険であり、八丈島での圧倒的な勝利をもたらした秘訣以外、陰謀的な秘密を抱え込んでいるというわけでもない。

 

 どうせこの執務室にいる司令官から聞くこととなるのだし、部屋には前線艦隊にいたと思われる艦娘がいたので、演習を行っている彼女たちへの突撃取材は保留にすることにした。

 

「はじめまして、私がここの警備府の司令官の宍戸です。以後お見知りおきを」

 

「Hello Mr. Commander! Thank you for your time.」

 

「え」

 

 突然英語を話し始める記者に司令官が驚いたのは、彼は日本語が喋れると事前に知らされていたからだ。

 しかし、それは一瞬のことで、冷静なトーンで「こちらこそ(Thank you, too.)」と英語で返し、数度の相槌で繰り広げられた言語が、この執務室の公用語を英語に変えた。

 

「You have a great pronounciation! I have to assume that you've experienced an ambassador but, is that correct?」

 

「Unfortunately not. All I could say is that my birthland does not belong to this country.」

 

 Interesting!と一言鳴らした彼も、事前に調べていた情報に対して驚くようは素振りは見せなかった。司令官は物腰柔らかく、そして一切嫌がる様子も見せずに、ただ純粋に「やっぱり英語の方がいいんですか?」と聞いてきた。

 彼の答えで納得した表情で「お願いします」と答える。ギルバートが取り出したノートパソコンの中でも小さな形状のものであり、必要最低限の機能が備わったそれはパソコンと言うよりも、電子メモのような役割を果たしている。古い文化であるペンとメモを打倒したキーボードを叩き始めてから5秒ほどで彼へのインタビューを始める。

 世間話から始めるのは彼の流儀であるが、それと同時に、いかに自分のペースに乗せるかを競っている面もある。30分程度しか面会の時間を用意されていない彼は焦る様子もないが、キーボードに文字を打ち込んでいく度に、普段の彼とは違い直球的な質問を投げかけるようになっていた。

 

 最初に小笠原諸島奪還の報告を聞いて受けた印象は、現代に蘇った戦国時代でも希有な武辺者。

 初めて対面した時の印象は若い司令官であり、知性豊かそうな、それでいて温厚な人物である。

 しかし話し始めてから数分間で司令官の印象は、有能だが今なお未知数に溢れる、相当なやり手な軍人、へと変貌してく。

 人間の印象とは出会って5秒で決まると言われているが、それが必ずしも普遍的では無いことを、この若き司令官が証明した。

 

 作戦の成功の秘訣、年上の部下への対応、士官たちからの印象について、前線指揮を取れる勇猛さ、艦娘から信頼を置かれる理由、並びにとなりの村雨、春雨には司令官の印象と作戦行動への思いなどから質問が始まり、率直にどうやって奇跡を起こしたのかと聞いたが、彼が納得し得る答えは帰っては来なかった。

 色々と聞き込んだ司令官の情報は大変貴重であり、これらを一刻も早く明日の記事として仕上げたい気持ちに駆られながら、彼は海軍式の敬礼をして、兵士と共に去っていく。

 民間人が海軍式の敬礼や司令官へ個人的な電話番号を聞くのは不躾で生意気な行為だったが、それを快く受け取る度量の深さもまた、彼なりの対象をためす試験のようなものである。

 

 翌日の米国記事と日本語訳された日本の記事に、長崎警備府の写真と共にこう書かれた。

 

 ”日本、九州の南も北も熱く、こんな時に必要なのはアイスティーだろうが、私はそれに反してコーヒーを飲む。長崎警備府内にある売店でもこれほど美味しいコーヒーが飲めるのだから、カフェインと砂糖とクリームの塊を出すアメリカのポートとは大違いだが、それがたまに恋しくなる辺り、私もまだまだアメリカ人だというところか。

 ここの初代司令官として名前を連ね、歴史の一説に名前を残すであろう若き司令官シシードは、なにを隠そうあの前線の龍として謳われた前線指揮官である。艦娘と一緒に海に出て戦ったからと言って彼が武辺者(ぶへんしゃ)であり、粗暴でイカツさを覚える典型的な猛将をイメージするのは、一旦やめておこう。ホームページに載っている通り、彼は若いがリーダーとしての風格は備わっており、それは誰もが頷くところである。

 紳士的で会話は大変有意義であり、それでいて懐の深い司令官であると私は思った。

 世間で猛将として讃えられるのはむしろヨコスカのヴァイスアドミラル・ソガであり、ヴァイスアドミラルに会った際に見たその豪快な人柄と、我が国でも羨まれるような肉体の持ち主だったのを思えば、直属の上司であった彼の影響が強いと思われる。

 キャプテンシシードをアメリカの有名な現代軍人で例えるならば、イギリス系アメリカ人の紳士的な士官であり、雑誌に載るほどのスイートスマイル、若年海外士官のメイジャー・エイジャックス・スペンサー・ベリングハムに当たる。

 ここ九州には同じような若年の駐在武官が多く、彼らとの接触をした時に、どのような反応をするのかが楽しみで仕方がない。彼らが対談する時に、再び私は取材をさせてもらうつもりだ”

 

 

 

 執務室。

 

 記者のおっさんが出ていった。

 

「うまく行ったか……」

 

「お疲れ様ですお兄さんっ、ぎゅーってしてあげますねっ」

 

「うわぁ!溺れちゃう!溺れちゃう!春雨ちゃんに溺れるゥ!」

 

 ほんわかと当たるささやかなおっぱいが顔に当たる。

 女の子にとってのスイーツはストレス解消と疲労回復、モチベーションを吐き出させる代わりに、贅肉を付けて、ダイエットを謳って将来的に運動をする事となるのでその時間と、最終的には楽にダイエットできる方法や運動方法、更には怪しい商品にまで手を出し、膨大な時間と労力と金を犠牲にする事となるらしい。

 俺はこれさ、ハグされる代わりにハグしかえす……二人は利害の一致した共同生命体だ。

 

 独占インタビューのためにした準備は至って簡単で、今日まで数日間何もしない事である。スケジュール帳にはビッシリと警備府にいる人たちとの触れ合い期間を設けていたが、それは神風たち以降、一旦保留にした。

 過去の経験から、俺はどうにも自分を曝け出すと悪評が広まるらしいので、俺を知らない人たちにはそのままで居てもらって、話しかけられても大丈夫な状態を作り出したんだ。

 自分を曝け出さないようにしながらみんなと仲良くなればいいんじゃないですかねぇ……なんて言われても、仲良くしようとすると自然と本心が出ちゃうんだから仕方がないじゃん。

 訓練や通常任務などを減らしてなるべく悪印象を与えないようにした結果がどう転ぶかは分からないけど、常に気を配って布石を置く事は無駄にはならない。

 

 インタビューなんてもうコリゴリ!

 春雨ちゃんにもっと癒やしてもらおう。

 

「……むぅ」

 

「村雨、どうかしましたか?」

 

「なんでもないわ五月雨っ。さ、資料をまとめましょう」

 

「春雨ちゃん、そろそろ」

 

「離れたくないですっ……」

 

「俺もだけど、出撃はちゃんとしてもらわないと……ね?最初の出撃だし、やっぱり最初は大事にしないと、ね?」

 

「分かりましたぁ……」

 

「では私も行ってきますね!」

 

「頑張れよぉ五月雨ちゃん!作戦行動は常に堅実を心がけてな!」

 

「はい!」

 

 元気のいい返事を悪い返事が執務室を出たあと、早速執務と本出撃……とはあまり聞き慣れない言葉だろうが、動作確認の仮出撃と区分けた言葉を漏らして、執務を処理していく。

 何気に、正式な警備府着任一日目である俺は仕事に励まなくてはいけない。やることが非常に多い分、これから数日間を執務だけでなく、自ら庶務にも費やす。

 何事にも大衆的な好感度稼ぎというのは難しいものだが、有能さ、人柄の良さ、そして平等な気配りが、常に上に立つ者の”柄”を決めてきた。

 

 能力はいつの時代も迅速さという指標がある分マシだが、部下たちに好かれるようにするのは極めて難しい。あまり部下にゴマをすると舐められて、中途半端にうまくいっても人気取りの名人というレッテルを貼られる。

 

 今回の作戦、というよりは演習に近いものだが、沖縄作戦に向けて少し遠回り、それも1キロごとに艦隊を置く陣形でのなんちゃって連合艦隊を敷いている。

 艦娘たちの訓練と練習の一環としても有効だが、俺自身これほどの大艦隊を動かすのは初めてなので、一同に動かした場合どうなるかというテスト的な要素も含んでいる。

 ほとんどの深海棲艦は佐世保が倒してるだろうし、長崎警備府の出番はあまりないだろうけど、それがむしろ遠征を安全に遂行させてくれる。というより、リアルタイムで指示を行わないといけないよう任務でも場面でもないので、存分に執務ができる。

 

 横からお茶が出されたが、出してくれた当の天使は露骨に「ぷくーぅ」と言いながらむくれっ面をしている。

 

「どうしたんだ村雨ちゃん?」

 

「べつに、なんでも」

 

「…………」

 

 生理か。

 

「違いますッッ〜!」

 

 違うと言いながらも頬をぷくっとさせて、豊満な身体を俺に寄せてきた。

 

「私が、最初にこうしたかっただけです……」

 

 驚くのも無理はない。

 俺の顔を胸に引きずり込んだ村雨ちゃんが、春雨ちゃんに嫉妬していた……だと!?驚愕するなんて当然のことだ、俺はこんなにも柔らかい天使に対して、イケメン提督ぶりを発揮して、それが村雨ちゃんに伝わった結果、俺をオスとして見るようになったなんて思うと、興奮してくるじゃないか……!

 

 執務どころじゃねェぞコレ!!

 

「村雨ちゃん!!」

 

「は、はい!!」

 

「村雨ちゃん……俺……オレェ……!」

 

 林檎のように火照り上がった瞳同士はお互いを見つめあい、それはまるで、無駄にロマンチック演出を押し付けてくるゴリ押しハリウッド映画のようだと、後に語られる。

 抱きしめたいほど愛らしく、女性的な身体とギャップを作り出す、あどけなさ溢れる初々しさだったという。名女優のヒロイン役に相対する男優は、AV出身かな?と思うほど不釣り合いであったと、見ていた時雨は語りに付け加えた。

 

「あのさぁ……時雨、着任して一週間も経ってねぇのにノックもなしに無言で入ってきて、俺と村雨ちゃんのイチャイチャを邪魔して、その上に不敬罪を犯すつもりか?君のような艦娘を左遷してサーセンザー○ン地獄に落とすことも可能だということを忘れてもらっては困るねェッ!?」

 

「そんな事言ってていいのかな?参謀長さんが来たのにっ」

 

「参謀長が?」

 

 参謀長……それは、警備府や鎮守府においての副司令官みたいなものである。

 幕僚会議では指名、及び空けてあった参謀長の座について誰も咎められなかったが、その理由も、今きた士官がそれを務めるからに他ならない。

 

 俺と同じ若い人だと聞いているが、迎えに行くはずの村雨ちゃん以外その正体を知らない。

 人物像や名前を聞いたが、村雨曰く「お楽しみですっ」らしい。つまりは俺が知っている人のはずだ。その参謀長というのも、俺と同じく一日前行動をちゃんと理解しているようだ。

 だが、少しだけ礼儀を知っているからと言ってつけあがるようなアンポンタンだった場合、俺が直々に教育、指導してやらないといけない。

 無論男だったらフィストで。

 女でもフィストで。

 美少女だったらフィンガーで。

 

 気配からして時雨が立つ執務室ドアの横に隠れていると推測できる。

 

「オラァ出てこいよ参謀長?隠れてねェでここの支配者に頭を垂れろ」

 

「あ、やっぱり提督って独裁者だったんだ」

 

 善人全開の俺様に向かって抜かしてきた時雨の背中からひょっこりと顔を出した参謀長殿。

 

「あの、わ、私なんだけど……」

 

「コホンッ、いやはや、これは失敬!何分この時雨より参謀長は、礼儀を知らない小生意気な艦娘だと聞いていたので、ついつい」

 

「は?」

 

 


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