整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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艦娘が陸で活躍してる……

 

「ふふふ、お兄さんっ、春雨だけを見てくださいね……?」

 

「執務の途中だからちょっと離れててね〜」

 

「ぷくぅ〜!邪魔しませんからぁ〜!」

 

 対面座位で抱きついてる春雨ちゃんは更に力を入れて抱きしめてきた。これで春雨ちゃんの真ん丸なお目々と髪が視界を邪魔することはなくなったが、代わりにむにゅっとする感触が体に押し付けられる。

 

 心頭滅却すれば龍もまた鎮まる。

 治まれぇ……収まれェ……!ハァ……ハァ……!

 

「んっ……!お、お兄さん……息、耳に吹きかけられると……!」

 

「…………」

 

「あぁん!……はぁ……が、がまんできないです……!」

 

「…………」

 

 エロ。

 

「A-admiral,I'm……じゃなかったっ、本日から着任する、Gambier Bayです。よろしくおねが……ッ!?」

 

「ッ!?」

 

 モゾモゾと上下に動く春雨ちゃん、そして向かい合うように座っているこの状況は正に、執務室対面座位〜オラァ提督様にご奉仕しろオラァ〜である。

 当然のごとくドアを閉めようとするガンビアベイを呼びかける。

 

「Gambier Bay!! Come over here!!(ベイ!こっちへ来いッ!!)」

 

「っ!!S,sir-yes-sir!!!」

 

 緊張した顔でこちらの様子を伺いながら敬礼のまま膠着してしまったベイにもういいと命令したあと、春雨ちゃんが膝から降ろし、何事もなかったかのように挨拶する。

 

「きてくれてありがとうな、ベイ。改めて、俺はこの警備府の司令官をしているんだ、よろしく」

 

「T-thank you Admiral……」

 

「宍戸くん!報告書持ってきたよ……って、お客さん!?」

 

 あぁん!?お客さん!?

 

「白露さん、こちらは今日から入ってきたガンビア・ベイです。護衛空母なので、第二艦隊に編成しようかと思っているんですが……」

 

「分かった!う〜ん……米国のベイだから、アメリカの艦娘だよね!」

 

「え?は、はい……」

 

 その間違ってるのに合ってる解釈やめろ。

 

「じゃあ白露についてきてぇ!」

 

「あ、ちょっと!きゃ!」

 

 可愛らしい声を上げて出ていくガンビアベイ。見計らったように時雨と村雨ちゃん、並びにオイゲンさんが書類を持ちながら中に入ってくる。

 

「どうしたのアレ?例の新しい艦娘?」

 

「そう。第二艦隊に編成するけど、ちょっと緊張気味なんだよなぁ……時雨」

 

「分かった」

 

 彼女に付き添ってくれと頼むと言う前に、時雨は了承するように頷いた。村雨ちゃんも同じく、ペンを出して編成表に改変を加える。

 

「オイゲンさんはどうここ?居心地的な意味で」

 

「うん!みんな優しいし、すっごく楽しいよ!」

 

「そりゃ良かったわ。でなければ、なにか催事でもしようかと思ったけど、その必要もなさそうだな」

 

「催事……」

 

「……え、どうしたんだ時雨?ものの数日で司令官にプロレス技をかけまくって、警備府の影の女王とか言われてること気にしてんのか?」

 

「え!?僕、そんな風に思われてたの!?」

 

「半分は嘘だぞ。でも冗談がられていても士官たちの間で話題に上がるのは本当だぞ、時雨はモテモテだなぁ」

 

「そんなにモテたいとは思わないけど……」

 

「は?お前顔が良いからってチョーシこいてんじゃねぇぞオイ!?世の中の女の顔面偏差値がどれだけお前のを下回ってると思ってんだ!?俺の顔を見てぇえぇっ!?」

 

「ち、ちょっと、近いからっ……」

 

 顔を一旦離すが、それでも俺の湧き上がる怒りは収まらない。モテたくないだとォ?それはモテ飽きた女がいうセリフだぞボケェ。

 

「いつも思うけど、相変わらず変わらないねシシードは」

 

「うん、普遍的で不変な漢だからね……」

 

「あ、そういうのいいから。それより書類にハンコ押して」

 

「あ、はい」

 

 プリケツ参謀長め。

 

 書類に印を押す前にチェックを済ませるが、計算や誤字などの間違いは見当たらない。流石はオイゲンさんと村雨ちゃんというべきか……まぁそのための秘書艦や参謀部なのだが、どうにも自分でチェックしないと落ち着かない面がある。

 酒保の書類を漁っていると、計算の間違いはなかったが、明らかに物資の不足を示している数字が表示されていた。付けられたスティッキーノートでも不足!と書いてあったので、数字を見て判断する必要性はない。

 

「予想してたけど、思ったより早く物資が不足状態になってるな……マズイ」

 

「え、でも資材は満タンだって言ってたよ?この間輸送された分があるし」

 

「酒保の物資が不足してるんだ。売店は士気に関わる重大な要素だから、見過ごすわけにはいかないんだけど……いや、今回は最悪空になってもいいか。流石に台風の影響なら仕方がない」

 

 近い頃、長崎警備府にはないが、台風が襲ってきたという自然災害。

 海軍基地の備品が壊されたから金額が大きくなってるが、それでもかなりの被害額が予測される。

 自然災害の副作用で深海棲艦が現れなかったのは資材の備蓄としても良かったが、警備府への輸送が滞ったのもあり、酒保が空になりそうなんだ。

 警備府専用の輸送部隊は存在せず、ルートとしては艦娘たちが佐世保からか持ってくるか、海軍の補給センターから貰うか、陸海空共用の緊急補給所から持ってくるのがセオリーだが……既に被害が甚大な地域へと送られている頃だろう。

 まぁ売店が使えなくなったところで、俺は買うもんないし、被害に遭ってる地域よりも断然優先度は低い。

 

 必要補給物資……食堂に出る夕飯の食材がなくなれば話は別だが。

 そのシチュエーションなら予備の金か、場合によっては幹部クラスの軍人か全員が金を出し合って数人がかりで買いに行かなきゃいけない。

 使いっパシればいいんだが、今の時期は忙しい上休日の時間は限られている。なんで休日出勤!?公僕だからって休日まで尽くさなきゃいけない奴隷になった覚えはねぇぞボケェ!!と文句垂れるやつが多いだろうし、最近は買い物してるだけで炎上するから無闇に行動できないし、心の中でも司令官がいけよみたいな顔されるに決まってる。

 

 酒保はともかく、被害地域と救援をしている陸軍の援助をするために貢献すると周知させた上で、出動隊の支援をするのもいいだろうな。海軍省から密かにそうせよとのお達しが来る可能性が高い。

 先手を打って行動を起こすのは御上への目移りがいいし、なにより人脈の構成をすることができる。

 

 不謹慎かもしれないが、台風のおかげで作戦行動は遅れる。

 遅れる、というのは単純に台風が過ぎ去ってから大規模作戦を実行できるわけじゃない。過ぎ去ってから市民の間でそのダメージからの余熱が覚めるまでの時間を考慮して、大体数カ月から一年ってところか。

 海軍が一時的にブラックと化して民間事業介入により復興の手助けをする、みたいな事になればもっと早く行動できるかも知れないが、できればそれは遠慮してほしい。

 

「できれば警備府での仕事のない日に……って、必然的に休日になっちゃうんだけど。あはっ!また俺休日潰されるわ……自主的だから文句言えないけど、クソォ!!」

 

「明日宍戸くんと休日被るよね?僕も行ってもいいよ」

 

「そりゃ流石に悪いだろ……確かに、かなり買い込む事になるだろう腕力は必要だろうけどさ」

 

「うん、僕の腕力は安くないから当然高く付くことになるだろうけど……パラ?パラ?」

 

 商店街のチラシをヒラヒラさせながら、なにかを要求してくる時雨。腕に抱きついてる春雨ちゃんを離してチラシを覗きに行くと”豪華!旬の八味、一万円ッッッ!!!”と視界がチカチカするほどうるさいフォントで書かれてあった。

 相場が下がって、長崎という海に面した主要都市でもこんなに高いのか。

 

「お前自分だけ一人美味しいもん食べて他のみんなに申し訳ないと思わないのかね?うん?」

 

「宍戸くん、考えてみて?その美味しいもんを警備府全員に配ろうとしたら、個人レベルじゃ落とせないほどの金額になるでしょ?」

 

「おう」

 

「つまり、食べられる人には限度があるわけで、食べられなかった人の分まで美味しく食べるのが、礼儀じゃない?」

 

「うん?」

 

「あ、でもそれってつまり、僕がこの警備府のみんなの分のお金と食べ物をとったら、みんなが幸せになるってことじゃないかな?ふふふっ、僕って善良だねっ」

 

「…………」

 

 独善!

 

 

 

 

 

 

 翌日の街のcos〇co。

 

 冗談だったので俺の財布が死ぬことはなかった。

 

 深海棲艦が来ても大丈夫なように艦隊を配備しているが、勤務中の警備府の士官の約半数を街に出している。主な任務はもちろん非常食と非常用品の買い出しであり、八百屋からローカルにある出店までを物量で押しかけて買い、それを補給センターに集める手筈だ。

 

 階級関係なしに土地勘のある人を班のリーダー或いはサブリーダーにして複数の地域へと買い出しに行かせたので、陸軍の出る幕はあまりないだろう。

 既に援助をすると連絡したので、人員不足の陸軍側の出動人数も使用する車両もかなり浮いたと、ここを取り仕切る連隊長に褒められた。正確には「べ、別に海軍の助けなんて必要なかったんだからな!で、でも一応お礼は言っておくぞ!」と言われた。因みに電話の主はオッサンだった。キモ。

 

 空軍も同じく「ありがとう、天気が悪くて俺マジ元気ィ」と言われた。悪天候だと機嫌が良くなるのか(困惑)。いや、仕事がないから内心はウキウキか……支援要請送って仕事増やしてやる。

 

 迅速な編成で戸惑う士官や水兵たちを束ねる俺は随所指揮を取りながら、自らも買い出しを行う。この大部隊、通称”買い出し総隊”には有能な補佐が必要だが、あいにくだがレギュレーションによってオイゲンさんを警備府に置いておかなきゃいけない。

 元司令官なんだからオイゲンさんでも十分にこなせるだろうけど、艦隊指揮権を持たないオイゲンにやらせるのはダメ、というレギュレーションもある。もし深海棲艦が来たら、俺が指揮してたことにしてもらう予定である。

 

 俺個人は、ひと目をなるべく避けて通りたかったが、それでも混んでる。さすがは大手ホールセール店……いや、大手というより世界レベルだが、それは置いておこう。

 

「これがJapanの……」

 

「そう、コースコだ。日本に来たら大抵は一回り小さくなるが、でかいだろ?日本のウェアハウスはアメリカよりデカイ場合があるからな」

 

「r-really!?」

 

 その分だけ人も多いが。

 

 連れて来たメンバーは俺の両脇を占領している時雨とガンビアベイ、並びに白露さん、涼月、飛鷹、三日月、そして、

 

「よし、張り切って行くぞお前らァ!!!」

 

「「おう!!!」」

 

 陸軍の三人だ。

 昨日は三人だけで街に出る予定だったという、流石に足らなすぎる人事に対して同情したもんだ。小回りの効く輸送トラックではなく、大型店舗に運び込むような大型トラックなどを使える事にも喜んでいたので、ここ数日の彼らの任務がどれだけ過酷かを示すいい材料となった。

 中型免許までなら持ってるけど、大型は乗ったことがないからどちらにしろ陸軍の人に頼むのは必然だったようだ。2台の大型トラックと横にいる陸海軍がそんなに珍しいのか、客がジロジロ見ている。

 

「改めてお礼を言わせてください!ありがとうございます宍戸大佐!俺たちだけじゃやっぱり人手不足で……」

 

「それは仕方がないし、丁度良かったよ。海軍としても、このまま黙って見ているわけにはいかないからな……な?みんな」

 

 頷いたみんなの目は、やる気に満ち溢れていた。艦娘たちの様子を見た将校達が耳打ちしてくる。

 

「……ところでぇ?あの艦娘たちってぇ……彼氏とか?い、居るんっスか?」

 

「あー……少なくてもここにいるのは全員独身だと思うけど」

 

「マジッスか!?あの茶髪ロングの娘とかマジタイプだなんですけど……」

 

「あの人はあぁ見えて強いから、太刀打ちできねぇぞ」

 

 それと、白露さんはテメェに渡さねぇ。

 

「じゃあ、あの黒髪ロングの」

 

「テメェミカァにナニするつもりだこのロリコン野郎殺すぞォ!?」

 

 三日月も渡さねぇ。

 

「あの三つ編みの娘とかどうッスか?」

 

「やってみろ、次の日お前とお前の財布は干し物だ」

 

「聞こえてるよ宍戸くん?誰がディハイドレーターだって?」

 

「っ!?いやぁ〜今日もいい天気だなぁ〜!」

 

「そうだね。雨降ってて干し物になる前に宍戸くんを濡らしてくれるから辛うじて潤いを保たせてくれるいい雨だね。うん、建物の中に入ったらジャーキーみたいにならないように気をつけてねっ」

 

 早くも帰りたくなった。

 

 各艦隊の艦娘の大半も買い出し任務に勤しんでる。俺みたいなダサい漢はともかく、地域宣伝として効果を発揮するのは紛れもなく何時の時代も華であり、艦娘による陸での救助活動は称賛される事になるだろう。

 他の地域でも同様に艦娘を使っているため、美少女たちによるサービスは市民を斡旋している事を願う。

 

 陸軍が救助活動に情熱と気概を見せるのはもちろんいい事だが、海軍としてはやる気で負けるわけにはいかない。

 

「よしお前らパパっと済ませるぞ!できるだけ仕事してる感を演出しながらパパっと商品をカゴに入れ、素早く動いて時間が迫ってるように見せかけろォ!スマホはイジるな、コンビニには入るな、休息を取るなの世間様三条を忘れるなよ!一つでも破ったら仕事していないって叩かれるんだからなァ!?」

 

「そ、それは流石にないと思いますけど……」

 

「ていうか僕たちがここに立ってるのはいいの?」

 

 甘いな三日月、雨の中からでも漂う白露さんのシャンプーの匂いぐらい甘い。公僕として過酷な訓練と任務を遂行して乗り越え、常に命をかけて戦う人たちがあろう事かコンビニに行ったり移動中にスマホ見てたりしただけで冷酷すぎる批判を受けた……という小説を読んでた事があるので、流石にリアルでそんな事は起きようがないだろうが、念には念を入れておく。

 まぁ時雨と白露さんが突っ立っていれば、前線艦隊としての名前が先に来るだろうから、いじましさからは少し開放されるだろう。

 

「しかし、宍戸大佐直々に来られるとは……我々の連隊長とは大違いですね」

 

「お前らの連隊長は指揮と統制を管轄している以上は無闇に外に出れない場合があるから……」

 

「そんなモンじゃないですってェ!!夜中に執務室から、おま○こぉ^〜って聞こえるようなことしてるんッスよ!?これもう職権乱用ですよォ羨ましい!!」

 

「お前ノーマルなのかホモなのかどっちかにしろよ」

 

「え?女性将校と、夜の執務室でヘンタイな事をするのがホモ……?」

 

 やばい、真っ先に浮かんだのがおっさん同士の剣道試合に見立てた衆道試合、先にお尻を貫かれたら負け!なんて想像したのは一生の不覚。

 

「それにバイかも知れないでしょうッ!?」

 

「可能性を追求するのはやめようか陸軍くん、上司が課長になってるなんて知ったら、一生消えない心の傷として残るんだぞ」

 

 現に今でも細心の注意を払ってノックするくせが治らない。マナー上は良いことだが、部屋に入る時に班長が課長になってる現場を二度と目撃したくない俺は、特殊部隊顔負けのクリアリングをしていたと、陸戦訓練を受けた士官に言われた事がある。元上司の業は深い。

 

「まぁウチらの連隊長が竿になってるにしても、おま○こになってるにしても、宍戸大佐はとても頼りがいのある司令官だと言うことですよ」

 

「リーダーってのは陣頭に立って率先するものだからな。そうでなくても、ここで昨日注文したモノは俺が受け取る事となっているから来る必要はあったんだ」

 

「相変わらず仕事がお早い……」

 

「感動した涼月?分かる。でもね、裏の仕事なんてのは誰にでもできて、表に華を咲かせながらする仕事のほうが凄いんだぞ?……涼月の美人さには、助けられちゃうな」

 

「え?あ、あのっ……ありがとうございますっ」

 

『……ね?提督ジゴロ演出しようとしてるけど、慣れない事しようとしてキモくなってるでしょ?モテない男の人ってだいたいこうなるんだよねっ』

 

『確かに不慣れな感じはするわね』

 

『三日月はあんなオトナに引っかかっちゃだめだよっ?白露との、お、や、く、そ、く!』

 

『は、はい!わかりました!』

 

 チッ、どう足掻いても俺にHAREMを作らせないつもりだなコイツら?

 

 


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