整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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一作々日に大麻が合法化され、大麻党が目標を見失い、タバコメンソールを違法化し、エロ漫画の所持で逮捕されるが、LGBTには寛容という創作顔負けの変質国家となってしまったカナダビス。
渡航の際はご注意を。


コンビニ強盗

 

 レジ前で突如、自分の人生を牢屋に置きたがっているお客さんが喉元にディルドを突き立てて店員を脅している。アレが実はナイフなのか、あるいは「早くしないとケツに打ち込むぞ」的な新手すぎる犯行法なのか分からないが、脅されて奥の部屋へと進んでいった。

 コンビニ内に残っているのが俺を含めたここの四人だけで、後は車の中でのほほんと俺の帰りを待っている頃だろう。

 

「随分物騒なお客様だね……でも、丁重におもてなしするなんて流石は日本のサービスだね」

 

「お客さんってのは敵とも捉えられるから、あってるっちゃ合ってるけど」

 

「な、なに冷静になってるんですかぁ!?強盗ですよ強盗!?映画の中でしか見たことないような強盗が目の前にいるんですよォ!?すごいです!」

 

 何故か若干嬉しそうにしている三日月を宥め、店長が猿ぐつわのように口にディルドを咥えさせられ、ビニールロープで縛られながら出てくる。そのスムーズすぎる犯行に、俺も時雨も口を大きく開いている。

 

「宍戸くん! 白露キックお見舞いしようか?」

 

「そんな事したら最善、下半身麻痺になると思うので却下させていただきます」

 

「ん? なんで最善? そこ普通最悪じゃないの?」

 

「姉さんつまりアレだよ、姉さんのキックは良くて下半身麻痺最悪死亡って事……」

 

「コホンッ! まぁ止めたり殴ったりした所で、返って問題になる可能性があるし、ここは警察を呼ぶ程度の協力をしてあげるだけでいいと思う」

 

 我が国の市民は、加害者の守りに入るアンポンタン揃いのクソみたいな国民性だなんて信じるつもりもないが、半ば犯罪者支援団体の如く彼らの人権を訴えてくる可能性は否めない。

 一旦公務を離れれば俺は一般人同然だが、立場が立場である以上は、慎みを持った行動を取らなくちゃいけない……そう、警備府司令官として、な。

 

 金品をポケットにしまう強盗は店員を脅しながら、徐々にコチラへと近づいてきた。

 

「おい、おいお前ェ!! ちょっとこっちに来い!!」

 

「え、俺?」

 

「違うッ!! そこのロングヘアの黒髪のォ!!」

 

「え? 指名されちゃった? 流石あたし!」

 

「お前じゃねぇよタコ!! そっちの小せえ方だよォ!!」

 

「わ、私ですか!?」

 

 どうやらロリコンな強盗さんのご指名は三日月らしい。

 タコと罵倒された白露さんは時雨に抑えられて前のめりになってるので、白露さんが殺人罪を犯す前に俺が弁舌で事を済ませよう。

 

 というより、白露さんって自分の髪の毛を黒髪だと思ってたのか?

 

「おい、三日月は渡さねぇぞ」

 

「し、司令官……!」

 

 ちょ俺かっこよすぎ。

 

「ハァ!?この店員がどうなってもいいのかアァ!?」

 

「おいおい、身内と他人、お前ならどっちを選ぶ?」

 

「ひ、ひどい……っ! ひぐっ……!」

 

 店員さんガタイのイイ身体で乙女みたいな泣き方するのやめろ。

 

「つかそのディルドなんの役に立つの? 絶対に致命傷にはならないでしょ」

 

「フッ! それはどうかなァ!?」

 

 強盗犯が伸ばした腕に掲げられたディルドはその瞬間、ジリリリッ!! と電流音を鳴らし、覆い纏った雷電は、正にスタンガンのソレだった。

 

「な、なにぃ……!? スタンガンのように弾ける電流を放出しながら、ドリルのように高速回転させる事ができるなんて、イキ地獄の極地を感じる事ができるスーパートイじゃないか!! 凄すぎて開いた口が塞がらないッ!」

 

「フフフ、そうだろうそうだろう……これを改造するのに百万かかったんだ……」

 

 その頭脳を強盗より発明に回せと思ったのは俺だけじゃないはず。

 

「さっさとその黒髪ロリこっちに寄こしやがれオラァ! 殺すぞォ!!」

 

「フ、外を見てみろ」

 

「あん? 一体なにを……なニィ!? 」

 

 ……コンビニの外には、三日月が呼んだ援軍の車が立ち並んでいた。俺たち海軍には、有事の際に発せられる暗号のようなコードを渡されている。それを緊急連絡のための番号に掛ければ無条件でスクランブル発進の後に指定された場所に来れる仕組みだ。

 俺が指した方向には、パトカーと警察官がこのコンビニを囲う様子伺える……はずだった。

 

『大丈夫ですか宍戸大佐ァ!?』

 

『輸送部隊だからってナメてんじゃねぇぞオラァ!!』

 

『まさかあの司令官がこんなところに居るなんて……強盗に乗じて彼を軟禁すれば、彼の尻は俺のモノ♂に……うぅ! でも俺にはタケシというコイビトがァ……!』

 

 

「宍戸くん、アレって警察じゃないよね?陸軍さんみたいな服着てるんだけど……」

 

「おー憲兵もいるぞアレ。まぁアイツが一番ヤバそうなんだけど」

 

「え、どうして分かるの?」

 

「え、逆にお前には伝わらないの? あの野獣みたいな眼光。あれ絶対俺のケツ狙ってるよ」

 

「あははっ! そんなことないって! 宍戸くん、そういうのを、妄言、っていうんだよっ。白露お姉さんからの、う、ん、ち、く!」

 

 その妄言が現実のものとなり、白露さんのうんちくの下りが失言になった事は言うまでもない。

 

 外にいる陸軍さん、そして憲兵隊は道路を止めるほど大袈裟な行動には出ていないものの、輸送地へと運ばれるはずの陸軍輸送車と、巡回をしていたのか分からないが俺たちの警備府も見回っている憲兵隊も来ていた。人数にして計6人。

 突然隣に屈強な男共が来たせいか、俺たちの車に閉じこもっているガンビアベイが顔をひょっこりと出している。

 

「……三日月ィ! なんで陸軍を呼んだァ!?少なくても憲兵隊だけで良かったのにィ!?」

 

「し、しかしこの緊急用のコール番号は!」

 

 コールは発信とともに、最初は半径5キロ以内にいる軍関係者を呼び寄せる仕組みになっているんだが、陸軍輸送車までくる必要は無かったと三日月も感じていたようだ。

 来た理由は多分通りがかっていたから、という理由でたまたま無線に届いてしまったんだろう。

 

 と思ったんだが、

 

『こちら十二連隊の第三輸送部隊。例のコンビニで強盗が発生した模様、直ちに応援を呼ばれタシ』

 

『もう到着まで一分ッ! 連隊本部は連隊長、並びに連隊長附以下10名と複数の戦闘部隊が到着予定! 直ちに第二戦闘配置を取れェ!!』

 

『単独犯の様子だが、協力者を予想して道路封鎖をするべきだろうか? 応答を願う』

 

 

「……宍戸くん、僕、久しぶりに身が震えてるんだけど」

 

「ははは、俺もだよっ。抱き合おうか、時雨」

 

「うん」

 

「あ、ズルい! 白露も混ぜて!!」

 

 俺を含めた三人はぎゅっと抱きしめ合う。

 

 三日月はあわあわしながらどうしようかと混乱していて、なぜか抱き合っている俺たちを見てガンビアベイが「What the f○ck?」みたいな顔してるのと、涼月と飛鷹外の様子なんて気にも留めずにスマホをイジっている姿は異様である。

 いや、俺の艦隊はいつも異様か異常かの二択だった。

 

 何はともあれ、なぜ陸軍の連中が警察官が入ってこれないレベルの人員を導入しているのか、理由は2つ考えられる。

 一つはここが陸軍の聖地であるかもしれないという楽観的な可能性。

 もう一つは、三日月がミスって緊急コールではなく、戦闘中に出す援軍要請を送ってしまった可能性。

 

 いずれにしても、俺は始末書を覚悟した。

 

 そして戦意喪失したのか、龍神のような動きをしていたスタンガンバ○ブが地面を着き、魚のようにウネウネ飛び跳ねる。

 

『突入ゥゥゥ!!!』

 

 怒涛の剣幕と、陸軍特有の暑苦しさと、どこかしからか来るチンピラ感と共に強行突入されたコンビニは瞬く間に制圧され、唖然とするコンビニ店員と店長と、そして艦娘たちと俺は身柄を確保された。

 

「おいお前ら海軍だろォ!? ナニしにここに来たァ!?」

 

「ひ、ひぃいいい!!! ご、ごめんなさいごめんなさい!!」

 

「よしなさい、彼女たちはただ偶然通りかかっただけだ……宍戸司令官、部下の非礼、謹んでお詫び申し上げます。それと、我々の活動にご協力頂き、ありがとうございます」

 

「は、はい! 連隊長殿も、相変わらずお元気そうで」

 

「ははは、何時になっても若きを忘れず……我が家の家訓にもなっているほどでして」

 

 何時も若いから、いつも執務室で女をはべらせてたのかこの連隊長さんは……と、輸送を手伝った陸軍さんの言質を心の中で取ったところで、世間話を切り上げて、事務的に事件の概要を説明する。

 時雨たちも安堵の表情と共に俺の言葉一つ一つに頷いて、ようやく事件が起こってる事に気付いたのか、飛鷹と涼月が再度コンビニに入ってくる。

 

 面倒な説明を終えた後に、犯人が連行されるのを見届けてから、俺たちは車に戻って帰る事を許され、

 

「おっと、まだ事情聴取が済んでませんよ?宍戸司令官♂」

 

 俺の肩を掴んできた憲兵。

 

「おい、お前はアッチの店員の方を先にやれ。宍戸大佐は多忙な身でありながら有志により援助をして頂いたんだ。我々としては、これ以上彼に迷惑を掛けたくないのだ」

 

「し、しかし彼の警備府を見回っている身として……!」

 

「これは命令だ、アチラを先にやれ」

 

「チッ……あの店員で我慢しとくか」

 

 憲兵の眼光が俺から店員へと移り変わり、それ以降彼には関わらない事を俺は誓った。

 

「助かります、それと申し訳ありません。このような慌ただしい時にお呼びしてしまって……緊急用のコールナンバーに掛けたと思ったら、まさか連隊長殿が来るとは夢にも……」

 

「ははは、心配ご無用です。我ら連隊本部は偶々通りかかっただけなので、問題ありません……コンビニエンスストアに対してこの人数の軍人が押しかけるのも、少々無粋かと思いますが……」

 

 いや流石に15人は多すぎだろ。

 このとき呟いた心のツッコミは、白露さんと時雨と三日月の全員が合致していたらしい。

 

「通り際であった上、数で犯人を威圧できたということで良しとしましょう。身柄は陸軍の方で保持しても?」

 

「当然です、我々は何もしていないのですから」

 

「助かります、ご協力ありがとうございました」

 

 深々と頭を下げられた事に、時雨や三日月も恐縮していたが、白露さんはいえいえと畏まる素振りも見せなかったので、さっさと引っ張り出して現場から退散した。

 

 


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