整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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何言ってんだコイツ?

 

 数週間程度で収まった台風とその後の地域密着、辺境遠征による支援活動は功を奏したらしく、順調に復興が進んでいる様だが、未だにほとぼりは収まらない。

 酒保の補給もギリギリ、出撃が再開された分、これ以上の支援はできない状況だが、とあるニュースが警備府を騒がせた。

 

 海軍の艦娘、ボランティア活動の際にコンビニ強盗を撃退! どこまでも国民と任務に献身的な我々海軍は素晴らしいッ! カイグンサイコォォォォォ!!!

 

「凄いじゃん! 流石は飛鷹ぉ〜! やっるぅ〜!」

 

「いや、私は本当に何もしていないから。やったのは三日月と時雨と白露でしょ?」

 

「俺も入ってるよっ」

 

 相方と海軍艦娘の活躍に乾杯! と昼間から食堂で一本開けようとする隼鷹だが、飛鷹が止めてくれた。食堂にいる人数は少なく、俺は書類を片手に白露姉妹、飛鷹隼鷹ペア、そしてちょこんと座る、今回の強盗事件の一番の功労者である三日月の道楽に付き合っていた。

 

「わ、私はなにも……」

 

「そうやって謙遜しなくてもいいよ、僕と姉さん、そして三日月の手柄なんだから」

 

「俺も入ってくるよっ」

 

「そうだよ三日月! いつもは私がいっちばーん早く行動するのに、三日月の素早さには敵わなかったなぁ〜」

 

「凄いっぽい! 時雨と白露と三日月凄いっぽい!」

 

「い、いいえそんな!」

 

「俺もいるよっ」

 

「宍戸くんウザい」

 

「うん知ってる。でもたしかにね?  三日月がいたのはすっごく助かったけど、到着まで俺が犯人と会話を伸ばしていた功績も少しは触れていいと思うんだ……なのになんだこの記事はァッ!? 明らかに俺の名前だけハブいて、まるで俺がこの世に存在していないみたいじゃないかァ!? え、もしかして……俺、忘れられてる!? 君と前前前前前……」

 

「分かった、落ち着いて春雨の膝にでもモテない男の人みたいに情けなくすがりってようね〜」

 

「うぅ〜! 春雨ままぁ〜!」

 

「よぉ〜しよしっ!いい子いい子ですよ〜っ、ふふふっ!」

 

「あ、やっぱやめてキモい」

 

 自分からやれと言っておいてキモいとは何事……と思いつつも離れてしまうのは、みんながゴミを見る目で俺を見ていたからに他ならない。

 これぞ同調圧力。ある意味では真の民主主義と言えるかもしれない。夕立ちゃんなどはお得意の”ぽい”を付けず、シンプルに「キモ……」と口ずさんだ事が俺の心臓をエグった。

 しかし一番鋭く突き刺さったのは、眉毛を歪めながら見下ろす村雨ちゃんの眼光である。

 

「……何やってるんですかこんなところでッ?」

 

「む、村雨ちゃん……い、いや、執務しながらでもいいから時雨たちの休憩に付き合ってって言われて……」

 

「え? 宍戸くんがハーレムを味わいたいって自分から入ってきたんじゃないの?」

 

「し、し、ど、さんッ?」

 

「はははっ……俺に罪はないのに……ちゃんと仕事もしてたのに……ひぐっ」

 

「さ、流石に可哀想です! 五月雨たちがここに呼んだんです! 本当です!」

 

「ていとくぅ〜……とりあえず、一杯いっとこ?」

 

「うんありがとう隼鷹……ヴォェッ!! 何だこれ水じゃねェじゃんか!? マッズ!!」

 

「今あたしの酒不味いって言った?」

 

「っ!? いやそんなわけないでしょ? 香ばしい米の甘みと、何より磯の香り漂う一杯……中国の海の守護神、MAZUに敬礼したくなってしまってね」

 

「そ、そうなんだ」

 

 若干引き気味の隼鷹。数秒前に唐突に立ち上がりガチで俺を殺そうとしていた雰囲気を出した人には見えないが、死を逃れられたので良しとしよう。

 ちなみに媽祖(まそ)、あるいはマーズーは漁業の守護神であり海ではないという細かい設定があるらしいのだが、無神論者である俺にとっては海関連の神様は覚えやすいように一つに統合してしまえと思うし、隼鷹を含めた艦娘たちは名前すら知らなかった様子だ。

 

「それより宍戸さん、もう時間ですから、お出かけの支度をお願いしますっ」

 

「あ、もうか……いやぁ、楽しみだなぁ!」

 

「新しい提督に会うのが?」

 

「それはちょっと不謹慎では……」

 

「三日月、この世には不謹慎であっても不謹慎をされるに値する人間がいるって事だ……まどろっこしい言い方をしなければ、どうでもいい! あの提督が出て行ってくれてホントサンクスブルグゥッ!」

 

「よほど嫌いだったんだね、分かるよ〜!」

 

 白露さんがウンウンと頷き、その他の全員が呆れた表情と戸惑いを見せる中、俺は一週間前にもらった朗報と、それに伴って行われ、現在ニュースとして流されている佐世保方面総司令官、及び佐世保第一鎮守府司令長官交代式の映像にニヤケ顔を見せていた。

 

 

 

 

 

 

 提督は停限年齢を越すとともに退官し、誕生日おめでとうと共に士官らに祝われながら鎮守府を離れていく。

 

 理想としては蘇我提督、赤城提督、或いは佐世保鎮守府参謀長辺りを入れてほしかったが、流石に叶わず、交代して来た提督は艦隊指揮の経験がある元横須賀鎮守府参謀長が参られた。

 

 その新・佐世保鎮守府の提督となる蒲生中将は、勇敢で、ナショナリストで、斎藤長官と互角の裁量の持ち主という三拍子揃った提督である。また、現海軍大臣の同期であるとも聞いたので、提督としては申し分ないだろう。

 

 俺が現在佐世保の廊下を村雨ちゃんと共に踏んでいる事実を見れば分かるだろうが、これは作戦会議の為である。

 

「村雨ちゃんの前だから言うけど……これで会議何度目ッ!? ダルすぎィ!」

 

「さっきまでウキウキしてたじゃないですかぁ……」

 

「それでも流石に通い続けた会議には、一定の時期から出席したく無くなるモンなんだ。それによくあるでしょ? 来る前は好調だったのに、目的地に着いた途端ダルくなる現象」

 

「問題nothingよシシード! 私が付いているんだもの!」

 

「アイオワさんは会議に出席できないじゃないですか……あと村雨ちゃんに抱きつきながら歩くのやめてもらえませんかね!? 俺だってそんな羨ましいことした事ないのにィ!!」

 

「あ、あるじゃないですかぁ!」

 

「え、あるの?流石にmeでも引くわ……」

 

 やってる本人のセリフじゃねぇ。

 

 アイオワさんは柱島の所属だと言うことは知っての通りだが、柱島の使者としてここに遣わされたらしい。推測だと柱島泊地が大規模作戦で何らかの役目をするのか、あるいは一部艦隊を引き抜いて戦わせる時の為に調整を行いに来たのか、何れにしても今会議には出席しない。

 

 そのアイオワさんは会議室の前で会った海外士官たちに連れて行かれ、残った海外士官の数人、そして村雨ちゃんと共に会議室の中に入っていく。

 

 これで三度目だが、できれば警備府か佐世保まで来る手間を省かせてもらいたい。ガソリン代だってタダじゃないんだぞ。

 中心となる異様な空気を放つ鎮守府の新しい提督と赤城提督が居座る席から、数席ほど離して座る。特に座る場所が決まってるわけじゃないんだが、事実上は序列によってある程度決まっているという暗黙の了解がある。有り体に言えば、序列順に座っていけば問題ない。

 昔は……いや、今でも統治者によって司令官レベルの人以外は立たないといけないため、秘書艦は長い会議を直立不動の体勢でいなきゃいけなかったが、他の秘書艦達が座ってるのを見る限り、そういう事に厳しい人ではなさそうだ。

 

 数分の内に全員席に座った所を見て口火を切る提督が立ち上がる。

 

「着任式でも見た顔ぶればかりだが、私は佐世保鎮守府を任された以上は最善を尽くすことを期待されている。この佐世保鎮守府を主導とした沖縄奪還作戦を最良の形で終わらせたいと思っている」

 

 面倒くさくて固っ苦しい挨拶だけは前の提督の方が短かくて良かったと思いつつも、協議している内容は既に話し合った作戦計画概要のリフレーンである。

 村雨ちゃんがアクビをかきそうになったり、居眠りしそうになったりする司令官連中や、この後の予定を計画したり、この後の予定としてお茶に連れ出そうとする結城司令官とやんわか断る赤城提督など、前の提督と協議した時よりあまり変わらない様子だが、少なくても提督本人はやる気満タンらしい。

 意外にもあまり時間は経っておらず、ものの30分で話は済んだが、結果として作戦立案までは至らなかった。

 

「大丈夫村雨ちゃん? 疲れてない?」

 

「はいっ、大丈夫ですっ!」

 

「とか言って、こんなに凝ってるじゃん」

 

「にゃぁ……!な、何をするんですかっ!もうっ……」

 

 まんざらでもなさそうな顔で「最近いじわるしすぎですぅ……っ」と頬をふくらませた。

 クソ……!このぉ!クソォッ!この駆逐艦……駆逐艦ッ……のぉ分際でェッ!エロォ!!オカスゥ!!

 

「やっぱり仲がいいですねっ、羨ましいです」

 

「ん? イケメンさんもゴトランドさんとかいう美人と一緒じゃないですかァ……? ナメてんじゃねぇぞべリングハム少佐ァ!!」

 

「は、ハッ! my apologies!」

 

「あはは……」

 

「ん? 呼んだか宍戸!?」

 

「イケメンさんと言ったが貴官ではないぞ結城司令官。というより、イケメンって言って反応するの腹立つな。俺の権限で左遷してやろうか?」

 

「できれば美女が多い所でお願い……プリーズ? ズ? ズゥ!」

 

 ウィンクしながら近づくな男性器。

 

 他の士官たちが立ち上がる中、俺たちも一緒に立ち上がって会議室を去ろうとした時だった。 

 

「あ、今から指定する士官らは少し待ってくれ。少し話がある」

 

「へ?」

 

 俺と同じ擬音を発した者は多く、これから村雨ちゃんと楽しいドライブで警備府に帰るところだったのに、まさかのウェイトアミニット。

 指定されたのは合計で十人に満たないが、高級士官ばかりであり、提督クラスが大きな割合を占めるが、それ以外は一部の司令官という、正に幕僚会議の構成員。

 

 無論、俺も当てられた。

 

「村雨ちゃん、悪いけど待っててくれる?」

 

「はい、待ってますっ!」

 

「この隣にいるイケメンクソチ〇ポダケじゃなくて、他に全身男性器な雄が居ても、絶対に目移りしないでね?俺の方が漢前だし、村雨ちゃんの事をよく知ってるし、どうせイケメン野郎なんて行く手数多過ぎて女の子を食べ物としか思っていないうんちだからね?」

 

「わ、分かってますからぁ!」

 

 独占欲を見せる俺はみんなにどう見えたかなんて言われなくても分かる。だが、たとえ他の秘書艦たちにジト目を向けられたとしても、司令官連中の間で変な噂が立とうとも、村雨ちゃんを守れるのは俺しかいない。

 

 手を小さく振って出ていく村雨ちゃんを目尻に、再び椅子に鎮座する。

 

 が、あの性転換したオイゲン風爽やかGaijinイケメンと、村雨ちゃんとの距離が妙に近かったのが気になって、俺の特技である地獄耳を発動させた。出ていく間はしばらくドアが開いているので、閉じられるまで出来る限り言葉を拾い上げる。

 ここにはイケメンが多く、女性の餌は彼だけではない……海軍イケメン部隊ってのは宣伝になるし、外人もいるともなれば何かと顔を比較して、それからチ○ポの味も比較したがるものだ。

 もちろん村雨がそんなヤリチンにナビくような真似はしないだろうが、それでも心配しちゃうのが漢である。

 

『……私と……しませんか?……』

 

『……はい!……』

 

『……彼に……もちろん内緒……お願いします……』

 

 

 ────。

 

 

 ──俺──立ち直れる強い子だって──知ってるけど──少なくも──この会議中は──死んでると思う。

 

「……貴様らには、あの件について話しておかないとならない。佐世保鎮守府、ひいては佐世保方面を任された身として、そして沖縄奪還作戦の結末を、最善の結果として残すために」

 

「あの件……とは?」

 

「なんだ、貴様らなら既に予測しているとは思っていたのだが……誰も理解していないのか?沖縄奪還作戦における問題を」

 

「「「…………」」」

 

 ……あのべリングハム少佐ァ。

 

「沖縄奪還の戦略的な意図を理解してもらわなければ困るぞ貴様ら?それに、私は最善と言った……佐世保鎮守府や他の警備府にある現状を見れば、分かるのではないか?」

 

「「「…………」」」

 

「赤城提督は?その他の提督は?」

 

「……すいません、分かりません」

 

「「「…………」」」

 

「……まぁ、軍令部海軍省から何がきたというわけではないんだが、将官になった以上はある程度政治、戦略における視野を広めてもらいたいものだ……前線の龍たる宍戸司令官などは、この問題にお気づきかな?」

 

 外人イケメン士官は他にもいるから、あのGAIJINディックヘッドだけじゃない……クソォ。

 

「……あの海外士官共めェッ……」

 

「「「っ!?」」」

 

「ほう……宍戸司令官は、どうやらここの誰よりもこの問題にお気づきだった様子だな。そうだ、海外士官及び外国艦は、現在最も心配するべき問題だ。沖縄にある海軍基地が米国が作ったモノである以上、奪還の前に放棄を宣言させる必要があるのは、政治上の話だ」

 

 今佐世保にいるイケメンチ〇ポGAIJINは合計で20人以上。艦娘はそれ以上に多い……アメリ艦も、海軍士官もほぼアメリカ人が占めているし、性に奔放な奴らはドラッグマーチでしか満足できない(偏見)。

 

 心配心配心配心配心配心中心中心中心中。

 

「だが基地を放棄させ、奪還したからと言って我らの手に安々と収まるわけではない。その状況を作り出しているのが、主にアメリカ人で構成されている海外士官と、外国艦だ。現在、数人の海外士官らは「自分たちなら基地の勝手を知っている」と危険を伴う沖縄での駐屯を志願している状況にあり、柱島の外国艦は積極的な支援を願い出ている上、大々的に米国は海軍基地としての沖縄奪還を公表している……それを達成するためにと送られてきた海外士官やアメリカからの外国艦が、今作戦に参加してしまったら……詰まるところなんだが、宍戸司令官は、もうお分かりかな?」

 

 やるってなに?

 カフェでその小さなお口でコーヒーを啜る村雨ちゃんの前に、三人のイケメン系デカチ〇ポGAIJIN。「そのコーヒー、クリームが足りてないんじゃないですか?僕たちでよければ、極上の一杯を味わわせてあげますよ?」「は、はいっ!」。

 なんてことになったら俺殺人事件起こすかも。

 

 いや、もう起こしそうゥ……ッ!

 

「外人武官は排除しなければ……」

 

「は、排除とまではいかないが、ウム……宍戸司令官の言ったことは大体合っている。今大規模作戦の決行に当たり、我々としては海外士官及び外国艦の参加をご遠慮願う方針で行きたいと思う。アメリカ士官と日本艦隊による合同作戦……最悪、米国の手助けなしでは奪還し得なかった、などとプロパガンダを巻き散らかされたのでは、未だに国勢に弱い風潮のある我が国は押され負けしてしまう」

 

「そ、それは流石に差別に当たるのでは……」

 

「我々は彼らを海軍の一役員として置くに当たり、当然ながら怪我を負わせるわけにはいかない。彼らには安全を期してもらう……増してや国土復興などという民族視点からの、作戦で万が一があればそれこそ国際問題にも成りかねん。その建前がある以上は、無理をしても、辛うじて出しゃばりを抑えられるだろう。理想としては、佐世保方面の海外士官を何処かへと異動させるのがいいんだが、最悪は閑職に付ける必要がある。柱島に至っては、彼ら自体の参加を遠慮願う。元々軍令部からは使ってもいいと言われているが、強要はされていない」

 

「それを彼らに直接言うのは……」

 

「聡明な赤城提督ならばご理解頂けるだろうが、無論これはここにいる士官だけに留め、他言無用に願う……特に宍戸司令官は、参謀長として外国艦を指定している様子だが……ドイツ生まれとはいえ、無用な誤解を招かぬためにも、私の言いたい事は分かるね?」

 

 村雨ちゃんハァ……! 村雨ちゃんはねェ……!? 俺という、日本人おチ〇ポで、貫かれなくちゃいけないんだおォッ!?

 

「日本人のぉ……日本人の手でぇエエエエ!!!」

 

「そうだッ! そのイキだ宍戸司令官!」

 

「え、な、なんスカ……?」

 

 気づけばなんか肩を叩かれてた。

 

「どうやら私は君を誤解していた様だよ! 最初は若さにイキった武辺者かと思っていたが、ちゃんと海軍士官としての素質を持っていると見受けたッ! いやぁ、噂というのは何とも頼りない! その調子で頼むぞ宍戸大佐!」

 

「え、あ、ハッ!提督のご期待に添える様、尽力致します!」

 

「ハハハハハァ!」

 

 何笑ってんだこの提督?

 

 


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