もしも第3次聖杯戦争でアインツベルンがこの世の全ての善を呼び出していたら
そして原作通り第4次聖杯戦争で最終決戦まですすんだらどうなるか

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最終決戦までは原作通り進んできてます
阿片を吸いつつお楽しみ下さい


もしもこの世の全ての善が聖杯の中身だったら

珍しくこの男、ギルガメッシュは判断を下せないでいた。

聖杯戦争はとんとんと進んでいき、ついにはライダーを破り残ったのは下で戦っているセイバーとバーサーカーのみである。

つまらない雑種を見限り求道者をマスターに仕立て上げ、この場にて聖杯を孵化させる予定であったのだが、事ここに至って本能が聖杯を顕現させるべきではないと叫ぶのだ。

 

「ふん……理性と本能の乖離とは我らしくもない」

 

理性で考えれば、聖杯に蠢く何かは曰くこの世の全ての善であり――そう呼ばれた何が入っているのかわからないが――所詮は見掛け倒しの愚物だと分析している。

そもそも善などという曖昧な概念が、自身を害せる強度を持つはずがないのだ。

無意味なものに警戒するほど無駄なことはない。

これは傲慢ではなく杞憂にも至らない何かなのだが、ギルガメッシュの思考に棘のように本能の悲鳴が刺さる。

 

「友であればこの様な我をどう見るか、つまらん感傷もわくものだ」

 

苦く笑うとギルガメッシュは立ち上がり、ホールの入り口へと足を向けて行く。

予定通りの勝者を迎えるために。

予定通りの勝利を得るために。

彼は傲慢故に気づかない、自身の状態が変化する筈がないと確信しているから。

本来ではあり得ない感傷をする程の変化が発生した理由を、彼は知ろうとさえ思わない。

既にアインツベルンの聖杯は人型を失い、元の盃へと形を変えている。

そして辺り一面を薄くかすかながらも、ピンクの霞が包んでいることも気づかない。

そんな小さな事から、全てがご破算になる事を彼は知らない。

 

 

冷酷なる魔術師殺し衛宮切嗣は死闘を演じていた。

闘いは既に佳境を迎え、一切の保身を捨てた全力の魔術により衛宮切嗣の身体は自壊しボロボロだった。

それでも理想の為、願いの為だけに両手足を動かして、暴走にも近い魔術行使に蝕まれてなお、言峰の隙を伺い勝利を求め争い続ける。

だからこそ、このままでは冷静な理性が敗北を伝え、それに抗う心が勝利の為だけに自身を魔術回路にくべ続ける。

勝つためには無茶無謀が必要であり、通常の加速では言峰に対して何の意味も無いのは既にここまでで実証済みであり、いま必要なのは相手の予測を上回る事だ。

その為には自身でも不可能に近い領域からの奇襲を考え、想像を絶する七重加速を試みると決めた。

普段であれば危険度故に考慮すら値しないが、だからこそ奇襲足り得る。

失敗の可能性は考えない。

今ならば行けるという不思議な絶対感に後押しされ、禁断の領域へと足を踏み入れる。

 

「固有時制御――七重加速!」

 

未知の領域である七重加速は、精神をそのまま抜き出してミキサーにかけるような苦痛を与えてくるが、それでも平和な世界のために自身を投げ打ってでも聖杯を掴むのだ!

今までにない加速により、目測を見誤った言峰の黒鍵は頭上を抜け、目の前には振り抜いたがために懐を広くあけた言峰の姿がある。

その隙を逃すほど魔術師殺しに甘さはなく、コンテンダーに起源弾を再装填すると、心臓に狙いをつけると引き金を引き絞る。

 

「終わりだ!」

 

至近距離故に外さない。

必中必殺の魔弾は言峰の胸を食い破り、胸に巨大な貫通銃創を作り上げ、さらに起源弾の効力により全身の魔術回路が切ってつながれ、魔術師殺しの代名詞たる威力を発揮する。

既に自らの騎士は狂戦士を討っており、言峰亡き今となれば金色の弓兵も散りゆくだろう。

つまりは、だ――

 

「――僕の、僕達の勝利だ」

 

聖杯戦争の勝者が、ここに決まったと言うことである。

ここまでくればアインツベルンとの約定も関係ない。

目の前に現れたこの金の盃に願いを注ぎ、平和となったこの世界で愛しき妻子とともに生きていくのだ。

 

「貴方が勝てたのね、切嗣」

 

「アイリ……僕達の勝利だ」

 

目の前まで歩いてきたアイリを抱きしめ、腰元に抱きついてきたイリヤの頭を撫でてやる。

撫でられて幸せそうな娘の顔にこちらの顔もつられて笑みを浮かべ、普遍的絶対正義がなされた平和な世界を眺める。

これが僕の望んでいたもの、これこそが僕の幸せなのだから。

 

 

 

言峰綺礼は困惑していた。

今まで闘っていた男が、よくわからない何かになってしまったためだ。

相手は狂気じみた行動を良しとする魔術師殺しであり、想定外の横槍ぐらいであれば即席で用意し、慮外の刃でこちらを討とうと動くはずであり、相手のみならず些細な環境の変化にまで気を尖らせて立ち回りを行なっていた。

故に過剰な配慮によって、何度か必殺のチャンスを逃しているのだが、それでも天秤が衛宮切嗣に倒れる事は未だになかった。

攻撃をいなし払い受け流し、そこで敏感になった言峰の感覚は場にそぐわない芳醇な香りを発見した。

毒ガスの類を考慮し、衛宮切嗣から一足飛びに間合いをはずす。

ここで追撃にくるのか、それとも間合いを嫌い逃亡のような形で追撃戦を仕向け、罠に引きずり込もうとうごくのか。

どちらでもいいように集中したところ、まさしく想定外の事が起きた。

 

「なに?」

 

空気が凍りつき、二人の間に静寂が張り詰める。

身動ぎする音さえもしない空間で、一切の動作をやめた衛宮切嗣を睨みつける。

既に相手の呼吸音は平常時まで下がりきり、魔力の励起すら完全に止まっており、言ってしまえば縁側で日向ぼっこでもする老人ですらもっと警戒感をもっているだろう。

戦闘中に相手がそんな隙を見せれば、好機と飛び込むより困惑が大きくなるのだ。

ただの罠であるならばそれでいいが、何だその幸福そうな顔は?

全てを敵にしてでも願いを掴もうとする信念はどこへ消えた?

あの冷酷な瞳は、殺意に濡れる銃撃は?

いったいどこへ消えたというのだ。

 

「何かはわからないが、ここで仕留める」

 

懐から新たな黒鍵を抜き出し、頭を消しとばすべく振りかぶったとき、ついに衛宮切嗣が動き出した。

いや、正確には衛宮切嗣の腹部が動き出した。

 

「何だと?!」

 

腹部を突き破り顕現したのは太く黒い触手。

代行者として、こう言った何かを防御機構として内臓する者たちを打倒してきたが、衛宮切嗣がそのような類であったとは。

太くうねる触手は本体よりも、もはや質量は多くなっているだろう。

ピンクの霞がかかる空間で、殺気に反応した触手と言峰綺礼の戦いの幕が開くのだった。

 

 

湖の騎士を討ち倒したセイバーは萎えかけた心に鞭を打ち、最終決戦の場へ足を進めていた。

この先にいるであろう金色の弓兵を討ち倒しさえすれば、犠牲のうえに求めた贖罪であるやり直しへの道が拓ける。

最後の一騎がライダーの可能性はない。

あのアーチャーが殊更興味を持っていた点が一つと、あれは相手を待ち受けるタマではない。

勝ったら勝ったで何かしらの挨拶をこちらにぶつけねば気がすまぬ男であろう。

ならば、このホールに立ち止まりこちらを迎え討たんと破壊の音を撒き散らす――これは戦闘音?

急ぎホールへの扉を開くと、そこにはアーチャーがただ一人で自身の蔵から剣と剣を射出して打ち合っていた。

 

「……何を?」

 

既にアーチャー自身へ百以上の剣や槍と言った洋の東西を問わない武具が射出され、それをなんとかいなしているのがアーチャーの現状である。

ただし、アーチャーの射出する剣は見るものを魅了する逸品ばかりだが、アーチャーに向けて射出される剣は何か桃色の霞を携え、黒い触手のような物を生やしているのが見える。

 

「貴様ッ!我が財宝すら痴れさせるか!」

 

怒りの眼差しを壇上の聖杯に向け、盃を破壊せんと飛ばす剣は霞に飲まれ威力を無くし、うねうねと盃から出ている触手にはたき落とされく。

触手にはたき落とされる事がまた怒りを呼ぶのか、アーチャーの顔が悪鬼の如く歪む。

叩き落とされた剣や槍からも触手が生え出し、そろそろホールの壇上は触手で埋まる勢いである。

とにかくこちらに気づいていないアーチャーさえ討ち果たせれば聖杯戦争は終わり、自身の手に聖杯が舞い込むのである。

その聖杯は、あの湖の騎士すら蹴落として手に入れるものなのだ。

 

「むっ!」

 

ただし、アーチャーはこちらに気づいていないが、触手は既にこちらを見ていたようであちこちから鞭のようにしなる一撃が飛んでくる。

それを当然のように躱し――霞みがかった視界の中でこちらに気づかぬアーチャーの背に飛び込み、そのままアサシンが如くエクスカリバーを突き刺してしまう。

 

「なっにっ……ガハッ」

 

まさに驚愕の表情を浮かべるアーチャーだが、確実に霊核を砕いた感触から討ち取ったのは確実である。

 

「おのれ!おのれおのれおのれおのれおのれええええ!」

 

最期の悪あがきで射出され吹き荒れる破壊の嵐は、どのような因果がセイバーには当たらずダメージを与えることはなかった。

ここに黄金の王は慢心を抱えたまま、何もなせずに脱落していったのだ。

 

――ここに聖杯戦争は終了した。

 

最期の英霊が落ちたからか、聖杯は更に黄金色に輝きを増し、もはや視界に入れるだけで目を焼く閃光となっている。

聖杯から与えられた知識によると、これが初めての聖杯完成であり、誰もが望み未だかつてたどり着けなかった領域。

そこに初めてセイバーこと、アーサー王が足を踏み入れたのだ。

 

「これで、聖杯が私の手に……」

 

ふらふらとした足取りで壇上へ向かおうとし、セイバーはその聖剣を両手に持ち上げ、剣を解放していた。

 

「え?何を」

 

自らの意思に反して聖剣は唸りを上げ、魔力をどんどんと汲み上げ剣に光を束ねていく。

なんとか御そうと頭では考えるのだが、体の制御は一切ができずついには口まで意思に反して声を上げる。

視界の端には何故か死んだ筈のアーチャーが立っているが、それは今は気にならない。

 

(やめろ……やめてくれ!)

「約束された――勝利の剣!」

 

振り下ろされた聖剣は、寸分違わず聖杯へと向かい、破壊の奔流は聖杯を蹂躙し尽くした。

分子すら余さず消しとばした聖剣は、聖杯との繋がりを失ったセイバーに引きずられるように虚ろに消えていく。

この霞みがかった桃色の世界と、己の不運を嘆きここにアーサー王は聖杯戦争における敗北をきっしたのだった。

 

時を少し遡ろう。

言峰との決戦のため、マスターである衛宮切嗣の制御を離れたセイバーが、湖の騎士を打ち破り聖杯へと足を向けて居たころ、切嗣はこの世の春を謳歌していた。

 

幸せな日々、幸福な時。

春は雪解けた野山を巡り、アイリやイリヤとともに花咲く野原を楽しんだ。

夏は照りかがやく太陽のもと、白い砂浜と青い海を初めて泳ぐイリヤを連れ家族で楽しんだ。

秋は旬の食材に囲まれ、孫の手料理に舌鼓をうつユーブスタクハイトと共に家族水入らずで楽しんだ。

冬は雪に包まれたアインツベルンの城で、こうして暖炉を囲みアイリは楽しそうに編み物をし、イリヤは僕の膝に座り何が嬉しいのかニコニコと笑みを浮かべていた。

これこそが幸せの形。

世界のどこにも理不尽はなく、絶対的な平和が確立された世界である。

 

「熱っ!」

 

「どうしたの切嗣?」

 

「いや、暖炉から薪が跳ねたのかな?」

 

心配そうなイリヤの頭を撫でつつ、熱の走った手の甲を見ると、いつの間にか特徴的な痣のようなものが浮かんでいた。

見たことがない、知らない傷跡である。

最初ほどではないが、いまもこの傷跡はじんわりと熱を発している。

 

「火傷したのかしら?」

 

「いや……なんだろうか」

 

今の今まで気にならなかった傷跡だが、一度それに目を向けてしまってからは片時も視界から離せなくなる。

この傷跡はいったいなんなのだろうか。

いや、本当に傷跡なんだろうか。

傷跡はしかし脈動するかのように熱を発し、今では手の甲以外にまるで体内の芯に杭か鞘のような発熱もあり、頭がおかしくなりそうだった。

 

「切嗣、それ以上はあなたの為にならないわよ」

 

「ねえねえもっと頭を撫でてよ!」

 

いや、そんな、何かがおかしい。

何がおかしいのかわからないが、とにかく何かがおかしいという強迫観念にも近いものが鎌首をもたげてくる。

どういうことだ?なにがおかしいのだ?

 

「――だってアイリがここに存在して、イリヤもここに居るのはあり得ないというのに」

 

愛娘の頭を撫でつつ、驚愕の表情でアイリに向く。

アイリはいつも通りの穏やかな笑みを浮かべ、こちらに向き直っていた。

 

「ここは貴方の世界、平和な優しい世界。貴方がそう願うのならば、貴方の中ではそうなのだから」

 

まるで子供に諭すよう口を開くアイリ。

 

「ねえキリツグ、ここには悪も理不尽もないの。あるのは理想の世界だけ、求めた分だけキリツグに返ってくる優しい世界」

 

まるで僕に教える事を楽しむようなイリヤの声。

 

「だから、気楽に吸いましょう切嗣」

 

「キリツグの分も沢山用意するからね」

 

桃色の煙に霞む室内で、無邪気に笑う二人に恐怖を覚えた瞬間に、体内のアヴァロンが発動して僕は地獄の世界に引き戻された。

 

「ここは……」

 

視界を奪う桃色の煙は濃度を高め、熱を発している令呪はセイバーの苦境を切嗣に訴えてくる。

そこで自身が戦闘中であることを思い出し、目の前で胸に穴を開けて倒れ臥す言峰綺礼を見つけて困惑した。

少なくとも戦いの途中から記憶がなく、特に取り落としていたコンテンダーを拾い上げると、再装填した弾がそのまま残っており、致命の一撃がこの銃ではないとわかる。

しかし、これ以外でまともに言峰の防御を抜けるはずもなく、いったい何がこの体を射抜いたのかますます不明になった。

それともう一つわからないことは、完全に露出するほどに破れた腹部だ。

破れほつれは戦いの中で当然発生するが、ここまで破れることはそうそうあり得ない。

ここまで破れれば普通はやられた側がもつはずもなく、攻撃をうけた結果破れたなら死んでいるだろう。

それなのに痣一つ傷一つない腹部は謎しかない。

 

「いや、今はそれどころじゃない」

 

とにかく聖杯から漏れた何かを受けて、記憶が途切れた一瞬でその本質を理解できた。

これはダメだ。

世界に出してはいけないものだ。

人間は外に何かを求めるから争うのであって、内にこもるならば過度の干渉もないだろう。

だからと言って、内に内に干渉を無くすことは平和な世界になるとは言えないのだ。

既にこの部屋を飲み込むピンクの霞に背を向け、体内のアヴァロンに魔力を走らせつつセイバーの元へ向かう。

 

そして、そのホールに入り全てを理解した。

ピンクの霞に飲まれて恍惚の表情を浮かべるセイバー。

そして、こちらは自我はあるが自身の武器と戦いを続けるアーチャー。

聖杯からは太い触手が何本も生まれ、地に落ちたアーチャーの武器からも触手は生まれていく。

このピンクの霞は毒なのだ。

こと意志を持ったものならば、者だろうと物だろうと無差別に飲み込む猛毒。

だからこそ切嗣は責務を全うする。

 

「令呪をもって命じる、聖杯を破壊せよ。令呪をもって重ねて命じる、聖杯を破壊せよ」

 

残る令呪を全て注げば、流石のセイバーも正気に戻り聖剣を振り下ろし黄金の斬撃で聖杯を破壊する。

これで本来ならば、被害もなく終わる筈であった。

だが、全ては遅かったのだ。

 

「あれは……」

 

天空に浮かぶのは東洋の魔法陣。

未だ本物には程遠いが、微かに聖杯から溢れてしまったこの世の全ての善の神威の一端。

いや、あくまでも本来の存在からすれば力の一端とも言えぬ、残りカスにも等しい顕現なのだが。

濃霧にも等しい霞が天空より溢れ出し、新都の一部を飲み込んでいく。

飲まれた者たちは、ことごとくが霞の理に飲まれていく。

その理は盲目的なまでの無条件な肯定である。

善意も悪意も関係なく、ただほんの僅かでも良い夢を望んだならば、無限の慈愛をもって霞は彼らを肯定する。

殺したいという憎しみも、愛し合いたいという愛情も、金持ちになりたい欲望も、裁いて欲しいという自傷さえも全てが全て彼によって肯定されるのだ。

 

『おまえがそう思うのならそうなのだろうよ。おまえの中ではな。それが全てだ』

 

肯定された者は、現実を捨てて究極のディストピアである己の望む全てが揃う夢の世界へと誘われる。

現実では人体をすてて触手になってしまっているとも知らずに。

既にアヴァロンにより守りを固めた切嗣に霞は効力を持たないが、霞に堕ちた街のあちこちから触手が昇るのをみて息を飲む。

新都が今、どうなっているのか理解してしまったのだ。

あの触手がどういったものなのか、人々がいったいどうなったのか、それを一度繋がったが故に――正確には衛宮切嗣は未だ繋がっているのだが――わかってしまう。

いや、それでも諦める事はできない衛宮切嗣は、半壊した市民会館を背にして街へと駆け出して行くのだった。

 

 

 

『緊急ニュースをお伝えいたします。昨夜未明、冬木市新都におきまして集団失踪事件が発生致しました。事件事故の両面で調査しておりますが、既に失踪者は100名を超えており、市長より冬木市全体に対しまして外出を控えるよう命令がだされました』

 

今となっては数年の月日が経ったが、それでもこのニュース特集だけは終わる事なく、そして変わることが無い。

聖杯戦争最後の日を乗り越え、テレビはどのチャンネルも集団失踪について持ちきりであった。

行政も民間も混乱の極地に叩き落とされた冬木市集団失踪事件。

もはや隠しようのないレベルでの魔術漏洩だが、市民会館上空の孔から溢れた桃色の霞は新都の一部を飲み込み、そこに住んでいた者も働いていた者も通っていただけの者も余さず触手へと変え、孔の消滅とともに触手も消滅してしまった。

そう、触手は人に戻ったのではなく、まさしく言葉通り消滅したのだ。

そこに触手への進行度による被害差はなく、全てが消滅してしまった。

必死の捜索をした衛宮切嗣は、たまたま進行度が低かった子供を発見し――両親と思わしき触手に絞め殺されそうになった外傷はあるが――

アヴァロンを与える事で触手化から救うことに成功した。

他に進行度の低い人間を他に見つけられなかったことと、進行してしまうと切嗣の魔術程度では如何ともしがたい症状により、他に誰も救う事ができなかった事実が重くのし掛かる。

いや、より正確に言うならば衛宮切嗣の魔術が効果が無かったのではなく、まともな魔術行使は既に不可能となっていたのである。

他の犠牲となった触手で考えると、人間の姿は肉体的に変質し元の質量など無意味とばかりに巨大化した触手や、小さな触手を大量に生やした何かが居た。

衛宮切嗣は言峰綺麗との戦いを詳しく覚えていないが、戦闘中に霞に呑まれて触手に変質しているのである。

見ての通り衛宮切嗣は人の体を取り戻しているが、なんの理由もなく戻れた訳ではない。

セイバーがバーサーカーに苦戦し、令呪に魔力反応が起きて外的魔力が魔術回路を辿り、ついには体内のアヴァロンに至った結果、アヴァロンが励起され外界と遮断し身体が戻ったのだ。

戻った際に肉体に異変があったのか、内臓機能は極端に低下し、魔術回路もほぼ全て断裂してしまっている。

衛宮切嗣の体を医学的見地から見た場合、もはや生きているのが奇跡と言っても過言ではない。

そんな身体に鞭を打ち、アインツベルンの城を探し歩いても辿り着けず、イリヤを救い出せないことが心残りである。

寿命は他でもない自分だからよくわかるが、もう残っていないだろう。

 

「……爺さん?」

 

急にかけられたから声を見れば、あの惨事の中で唯一救うことができた少年――衛宮士郎が不安そうな顔でこちらをみていた。

 

「なんでもないよ」

 

頭を撫でてやれば、不安は消えたが不審そうな表情に変わっていき笑ってしまう。

もう二度とイリヤには会えないかもしれない……でも、だからこそこの子は余生をかけて育てようと決意をかためた。

 

 

 

『緊急ニュースをお伝えいたします。昨夜未明、冬木市新都におきまして集団失踪事件が発生致しました。事件事故の両面で調査しておりますが、既に失踪者は100名を超えており、市長より冬木市全体に対しまして外出を控えるよう命令がだされました』

 

白い煙が漂う部屋で過去の映像がモニターから流れてくる。

あの惨劇から数年の月日が経ったが、未だにこのような特集番組が作られ続け、そしてそれを必ず観ることが聖杯戦争を生き抜いた言峰綺麗の日課だった。

聖杯戦争で生き残ったのは、まさに運が良かっただけだとしか言いようがない。

いや、生き残ったというのも語弊がある。

あの時の言峰綺麗は、触手に貫かれ確実に死んでいたのだ。

それでもこうして動いているのは、自身の身体と聖杯の中身――この世の全ての善だとギルガメッシュは言っていた――と繋がり、何故か生き返ったからである。

より正確に言うならば繋がったと言うよりも、今の言峰綺麗は聖杯の仮初めの眷属なのだ。

 

「この世の全ての善さえ顕現すれば……」

 

咥えていたキセルを離し、体内から阿片の煙を吐き出し聖杯への想いを口にする。

聖杯戦争は言峰綺麗に様々な物を与え、そして奪っていった。

奪われたのは例えば父の死であり、自身の歪みを突きつけたギルガメッシュの敗退が挙げられる。

自身の歪みを決定付けた二人は既に消えてしまった。

しかし、大いに与えられた物もある。

夢現だったのかもしれないし、もしかしたら幻覚や願望の可能性も否定はできないが、息を吹き返してから少しの間、言峰綺麗は言峰綺麗として正しく人間らしい感情を得られたのだ。

父が死んで悲しかった。

ギルガメッシュが消えて悲しかった。

普段美しいと感じた物事が悍ましく感じ、反吐すら出そうになっていたものが美しい輝きを放ったのだ。

つまり、感性が人並みになったと言える。

その感情は聖杯の顕現によって与えられ、聖杯の消滅によって失われてしまった。

しかしそれでも、未だに聖杯との繋がりがある言峰綺麗には次が近いとわかる。

近いのならば準備を始めよう。

必ずやこの世の全ての善を降臨させ、求めた普通の感性を手に入れるのだ。

既に別の番組を始めたモニターを消し、再度煙を吸って席を立つ。

さあ、次の聖杯戦争にむけた準備をしよう。

聖杯戦争に必要なもの、そうそれは――

 

「――あなたが私を呼んだのね?精々私の役に立ちなさい、あなたはその為に生きているのだから」

 

聖杯戦争の開幕は近い。




第3次聖杯戦争の説明無いんだけど?
第3次聖杯戦争はアインツベルンがこの世の全ての善を召喚し黄錦龍とちょっとだけ繋がって敗退
大聖杯にある無色の魔力が阿片漬けになってしまう

何故この世の全ての善が黄錦龍?
正義ではなく善であるのがキモ
正義も悪も罪も何から何まで抱擁し肯定するマンは全ての味方なので善判定です
一応盧生としてもある意味もっとも支持率が高いのも理由

街の触手はどうなったの?
眷属になって触手化しましたが聖杯との繋がりが断たれたことで連座で死にました

じゃあ切嗣と綺麗も士郎も死ぬじゃん!
士郎は鞘パワーですね
切嗣と綺麗は誅仙陣で連座で死ぬ条件は不明的な説明があったので生きてたって設定
あとマスターだったので聖杯との繋がりが完全に切れてないので生きてます
ちなみに切嗣も綺麗も死んでも黄錦龍が甦らそうと思えば盧生パワーで生き返ります

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