プロローグと一話を間違えて投稿していたみたいです(汗)
なので差し替えを行ってます
終わりと始まり~不安定な神様 ウィツァルネミテア~
終わりと始まり~不安定な神様 ウィツァルネミテア~
気持ちのいい風の吹く草原で一人の男が横になっていた。
その顔には白い仮面をかぶり、白と青の色が目につく着物を着ている特徴的な男だ。顔が半分隠れているため年はわかりにくいが20代と言ったところだろう。
男は人々から“マシロ”と呼ばれていた。が、それは彼の本当の名などではない。
一時期はヤマトの近衛右大将オシュトルの名前を借りて…否、オシュトルとして戦乱の日々を駆け抜けていた時もあったが、今の彼が名乗るならこういうだろう“自分はハク、ただのハクだ”と。
今の彼にはほかにも相応しい呼び名がある“大神ウィツァルネミテア”、ヤマトと海を挟んで東に位置する国トゥスクルで神と崇め立てられる存在。正確にはその依り代。
ある戦乱の際、彼はそれになった。愛する女を救うために、死すらも覆して、彼は彼女の前に立って見せた。
そして彼女を救いだした。その直後には彼は姿を消したのだ。彼に付従う二人の巫女をつれて。
その後は彼の前任と言えるトゥスクル始祖皇ハクオロから大神の力をすべて引き受け、彼の兄に託された目的…タタリとなった人類を解放する、それを叶えるために尽力した。
タタリとなった人類を解放する。それは本当に大変な仕事だった。一度だけ、たった一度だけ愛した……いな今でも愛している彼女に(直接ではないが)会いに行ったりもした。彼に付従っていた巫女たちについては数年の旅路の後、ヤマトの帝-彼の姪っ子のような存在-の助けとなるように言い含めてヒトの世へと返した。
その後も世界中を回り、手に入れた力を使って人類を解放し続けたのだ。彼らの永遠の命を代償に彼らを限られた命である者に変えたり(それでも人類には戻すことはできず動植物がせいぜいだったが)、どうしようもないときには古代の遺産を使い完全に消滅させたりもした。
そしてつい先日それも終わったのだ。
しかしすべてを終わらせるには実に数百年もの月日が必要だった。かつて共に戦場を駆け抜けた戦友たちはその命を全うし逝ってしまっている。それでもあの頃の事はいまでも思い出す事が出来る。それでも――
(でも自分はやり遂げた、それだけは誇っていいよな――クオン)
一番鮮明に思い出せるのはやっぱり彼女の事だ。彼女の名前も、顔も、声も、思い出も、その温もりも……すべて覚えている。
クオン、それが彼が愛した女の名だ。
生涯……それこそ死ぬ間際の本当に動けなくなるまでハクの事を探し続けた女性。彼女はトゥスクルの皇女であり、ウィツァルネミテアの天子、一時期はトゥスクルの女皇として即位し、彼女の父親である始祖皇ハクオロがトゥスクルに帰還した後はその位を返上し世界を周りハクを探し続けた。
ウィツァルネミテアの天子として通常のヒトよりも長い寿命を持っていたが、そんな彼女も数年前には没している。彼女は生涯にわたって独身を貫き通した、すべては彼……ハクへの愛ゆえに。
そんな彼女の事を思い出し、自分にそんな資格はないと思いながらもハクは心の底からの思いを口にする。
「特別労働手当を要求したいところだ。叶うなら、クオンにもう一度、会いたい……なんてな。ふわぁ~、にしても眠い。少し眠るか」
そういうと彼の意識はまどろみに吸い込まれていく、そんな彼の耳にはいつかクオンが歌っていた子守唄が聞こえた気がした。
奇しくもこの時彼が発した言葉それは彼が愛した彼女――クオンの最期の言葉とよく似ていた
『叶うのなら、もう一度あの人に、ハクに会いたいかな……』
ウィツァルネミテア、代償と引き換えにヒトの願いをかなえる大神。時には捻じ曲げて願いを叶える事もある不安定極まりない神様。
かの大神に彼らの願いは長い時をかけて伝わってしまっている。もちろん彼らがウィツァルネミテアに願ったわけでもない。しかし、彼らは大神に限りなく近しい存在だ。大神と繋がっている部分から少しずつ流れて行った願いはとても強く純粋な思いであり、二人の思いが重なり合うことでそれは何倍も強い物へとなってしまっていた。そして長い年月をかけて伝わり続けたその純粋な思いは、かの大神に正確に届いたのだ。
大神の依り代は多くの別れを繰り返してきたのだろう?
大神の天子は多くの別れを繰り返してきたのだろう?
だからそろそろ逆の事があったっていいはずだ。だから……
大神の依り代に再会と出会いを……
大神の天子に再会と出会いを……
大神の精神はヒトと同じ構造はしていない。……していないはずなのだが彼は自分に近しい者の願いを叶えたいと思ってしまった。そう願ったのは彼だ。だから代償は彼が受け持つ。……しかし彼らからも少々代償をもらわなければいけないだろう。かの大神はそう思う。だってこれは彼らの願いなのだから。
ゆえにこれから起こる事は必然だ。
不安定な神様が起こす、別れを繰り返してきた彼らに贈る、再会と出会いの物語。
その幕が……いま上がる。